第2回山口県英語教育フォーラムを終えて (その4)

朝は7時に家を出て、夕方というか、夜の7時に帰宅。
終日、模試監督。合間に仕事ができるかと思いきや、遅刻者の対応や、ICプレーヤーの不具合など、いろいろなことが起こるもので、思うようには捗らず。これも仕事ですな。
途中、やけどの箇所のガーゼ、包帯を自分で換え、薬を塗って様子を見る。足首だけに、意外にガーゼを貼るのが難しい。テーピングのように固定するわけにもいかないし、表面を圧迫できないので、特に左の踝の外側がうまく手が届かずに不細工な仕上がり。自業自得です。

浅野博先生がブログで紹介してくれていた、斎藤美津子 『話しことばの科学 コミュニケーションの理論』 (サイマル出版会、1972年普及版) をようやく読了。選書版だが、2段組なので、情報量は私にとって頗る多い。「司会者の役割」 (pp.167-172)、「ことばの七つ道具」 (pp.218-221) は自分できちんと噛みしめようと思う。その他、印象深かったところを引いてみる。

  • 私どもはとかく、自分の意見や思想やアイディアなどを発表したがって、人の意見、思想、アイディアなどに耳をかたむける努力を怠りがちです。なにしろ小さいときから、自分を発表することだけを学んできたのです。現在でも「話し方教室」などでは話すことだけを教えて、「積極的なきき方」は強調していないようです。これでは戦前からの話術、雄弁術の延長で、新しい話しことばを教えていることにはなりません。新しい話し方の勉強は、まず自分を主張するまえに、相手の話をきくことからはじまるのです。 (p.12)
  • 聴衆を笑わせれば、それで話しは成功だと思い込んでいる人で、相手を笑わせるような機知にとんだ話しをたくさん用意しておいて次から次へとみんなを笑わせます。しかし、その笑い話は一つ一つなんの関連もなく、一貫したテーマもなく、聴衆を考えさせるものもないとなると、同じ笑い話をまえにきいたことのある聴衆にとっては、もはやおかしくもなんともありません。自分ではみんなが笑うので得意になっていますが、まったく愚かなことで、聞き手の頭にはなにも残らず、結局なんだったのかしら、ということになります。はじめから寄席にでもいったほうがよほど気がきいているでしょう。(p.57)
  • むだを捨てて、よいものだけを適当に配列する作業はばかにはできません。頭の混乱した人、考える力のない人、面倒くさがり屋、いい加減な仕事を平気でする人にはちょっと無理です。いわゆる口達者な人ほど、口先によって、頭の整理をせず、話しを前もって組み立てておかないものです。 (中略) いい材料でも盛りだくさんになると、むだに早変わりしてじゃまをする結果になります。ごちゃごちゃした整理されない話は思いつきが多く、誤解も受けやすく、時間もかかり「沈黙は金、雄弁は銀」といわれてもしかたがありません。 (pp.107-108)

コミュニケーションとは何か?借り物ではなく、自分の頭で、自分のことばで、地に足のついた考察を進めていこうと思う。
職場に、『結城信一評論・随筆集成』 (未知谷、2002年) が届いた。解説は荒川洋治。古本だが、コンディションは良好。大事に読ませてもらおう。

ブログ『英語授業工房』の授業日誌で、国内の授業視察のレポートが書かれていた。そこに描き出された授業の様子、学校の取り組みから、3校のイメージが浮かんだので、問い合わせのメールを出したら、案の定、そのうちの1校というお答え。納得。でも、どうせ抜かれるなら「度肝」がいいよね!(inspired by Tony)

さて、
山口県英語教育フォーラムの総括の続き。
今井康人先生の講演。
青灯社から出ている、『英語力が飛躍するレッスン』の影響で、音読・暗写・多読の提唱者という側面ばかりが英語教育の世界でクローズアップされてしまう様な気がする今井先生だが、まず、今井先生個人が卓越した英語運用力の持ち主であるという点と、今井先生一人ではなく函館中部の英語科として、「システム」を作り上げているという点を忘れてはならない。

  • なぜ英語科はまとまらないのか?

という問いかけに、私は正直笑えなかった。
学校規模の大きい伝統的な高等学校では、一人のスーパーティーチャーよりも、複数教員でのチーム作りが不可欠となる。中学校との最も大きな違いといっても良いだろう。たとえ、いわゆる進学校のように、習熟度が比較的高い生徒を抱えていたとしても、生徒の資質におんぶにだっこでは、成果は上げられないということでもある。北海道の高校では、ここ数年全道を上げた研究大会・フォーラムを立ち上げ、優れた実践を共有し始めているが、それを支えている教員の一人が今井先生であることは間違いない。身体だけでなく、器がとにかく大きいのである。
今回のフォーラムに参加していた、九州のとある公立進学校の先生 (仮にA先生としておく) が、メールで次のように言っていたのが印象的であった。

  • 授業がうまいか下手かの一つの要件は,生徒を惹きつける,あるいは引き込めるだけの人間的な魅力があるか否かだと思いますが,今回の講師の方々は間違いなくその人間的な魅力がありますね。とりわけ,今井先生の授業方針,授業内容,ワークシートなどには本校と共通する部分があまりにも多く,参加した本校チームの面々も驚いていました。どちらかが「ぱくった」のではないかと思うほどでした。11月初旬に九州のトップ校の英語研究会があり,そこで愛知県の高校の事例も紹介されましたが,これまたワークシートまで同じ,という驚きがありました。結局,行き着くところはどこも同じなのかなあと。そして本校での取り組みが間違いではないという確信を得ました。本校は英語科が非常に仲がよくまとまりがあります。週1回の教科会議では物足りず,思いついたらすぐに飲み会をします。授業もお互いの授業をよく見ますし,同じワークシートを使い,学年が共通した方法で授業を行います。違うのはそれぞれの先生のギャグくらいです(この点では私は負けないのですが)。ほんとうに素晴らしい会でした。ぜひまた次回,第3回も期待しています。よろしくお願いいたします。

(こういってくれた、A先生自身が校内、そして県内で教員同士を結びつける要となっているだけではなく、卓越した英語力の持ち主であり、またアカデミックな研究にも精力的に取り組んでいる人でもある。)

このような背景を理解することなく、指導法を真似しても、自分の置かれた環境で効果が現れるとは限らない。まずは、自分の授業で取り入れ、それを同僚に見てもらい、シェアできるような土壌、風土を作っていくことから、となるだろう。今回のフォーラムに今井先生をお呼びした最大のねらいは、このような「組織論」を考える機会を県内の先生方と持ちたかったことにある。

講演では、「和訳」に終始してしまう英語の授業からどう抜け出すか、という部分がかなり強調されていたが、ワークシートを見ればわかるように、チャンク毎に「サイトトランスレーション」もやっているわけで、日本語訳を頑なに排除しているわけではない。ただ、「英語ができるようになる」というプロセスを考えたときに日本語訳に依存していてはいけないというメッセージをどう受け止めるかで、いわゆる進学校に勤務している先生などは、自分の授業・指導に、HCのシステムをどの程度取り入れられるかが変わってくるだろう。もっとも、中原先生の『基礎英文問題精講』 (旺文社) の暗唱ができる高校生なら、京大・阪大を除けば、現行の大学入試の和訳問題に手こずるとは想像しにくいのだが…。
受験の指導もきちんとやっているという点は、香住丘の永末先生の指導でも言えることで、copyglossやdictoglossで扱う英文のレベルが着実に上がってくるだけの長期間にわたる緻密なトレーニングがあるから、センターからの1ヶ月あまりの「受験指導」でさらなる飛躍を見せるのだと思う。
多読の指導に関して、「うまくいく多読指導」と「失敗する多読指導」という今井先生の指摘に、はっとした人も多かったのではないだろうか。 (今回の参加者で多読本のリストやレベルに関して不明な点がある人は、今井先生に直接メールをして、情報交換をされてはどうだろう。)
フォーラム前日に今井先生、久保野先生と夕食をご一緒させてもらった時に、私の副読本選択の視点・プランとして、背景知識・内容スキーマに頼ることのできない読解力を養う、「短編、もしくは超短編のミステリー」、できれば「星新一のショート・ショートを英訳で読む」という構想を話したのだが、手始めとして二人で協力して「高校生レベルで読める星新一の英訳」に挑戦することが決まった。非常に楽しみである。(出版の見込みは全く立っておりません。)
チーム今井の現在のシラバス、カリキュラムで更なる改善の余地があるとすれば、「ライティング」に関わる指導法となるだろうか。しかし、現行のシステムを活かしながら改善策を取り入れることを考えれば、単一技能指導よろしく「パラグラフライティング講座」などで強化したり、指導・添削はALTに任せて、日本人教員はこれまで通りの指導に専念するというよりは、技能連携・技能統合の中で日本人教員主導で「ライティング力」を伸ばしていく方向が現実的だと思う。その改善策を考えるなら、今回の、香住丘と函館中部の出会いで、大きな共鳴があったといえるだろうし、その出会い、響き合いを、ここ山口の地で演出できたことを素直に喜びたい。

今回の講演資料(一部です。著作権は全て先生個人にありますのでご注意下さい。)
今井先生→
山口県英語教育フォーラムppt版.ppt 直
永末先生→
永末発表改訂版.ppt 直
久保野先生レジュメ→
09.11 山口県レジメ.jtd 直


明日は、早朝の生徒指導に続いて、0限の高2から。
お休みなさい。
本日のBGM: Echoes (Benzo)