第5回山口県英語教育フォーラム終了!!

tmrowing2012-11-04

第5回山口県英語教育フォーラムが終了しました。(講師略歴や講演概要など要項はこちらの頁を→http://cho-shu-elt-forum-2012.g.hatena.ne.jp/tmrowing/20120916)
この終了の報告をするのもこれで5回目。
毎回、終わった時には、答えなど何一つ手にしてはいないのに、達成感が充ち満ちています。と同時に、今年が最後かな…、という不安もあります。もともと、講師の方々の人選は、私が挫けそうな時、迷いそうな時に誰の話を聞きたいか、誰に話しを聞いてもらいたいか、という基準しかありませんでしたから、このフォーラムを経験するたびに、自分の視座が揺すぶられ、そして確かめられます。時には、襟を正し、背筋を伸ばし、時には足枷を外し、重荷を下ろすような過去4回でした。昨年の第4回では、初の試みとして、地元山口の英語教育を代表する講演として、佐藤綾子先生の中学校の実践をお届けしました。奇しくも、私よりも下の世代で英語教育現場を支える方がこのフォーラムに登壇する記念すべき第1回ともなりました。
今年は、「英語教育改革、その前に…。」と題し、時流や世論にただ流されるのではなく、立ち止まって考えてみるプラットフォームや自分の立ち位置を確認する見晴台のような回にしたいという思惑もありました。
講演は
・ 長沼君主先生
・ 山岡憲史先生
・ 奥住桂先生
のお三方。本当に有り難うございました。
大学生・院生も含め県内外より80余名の参加者を得まして、盛会のうちに終えることが出来たことを感謝いたします。毎年、充実した講師陣をお招きできるのも、

  • 山口県鴻城高等学校
  • ベネッセコーポレーション

の協賛あればこそです。来年度以降も宜しくお願い致します。

私の中でもまだ、整理のついていない部分が多いのですが、以下、簡単な振り返りを。

長沼君主先生講演

初めての「長沼君主」という方には、あのマシンガンのような喋りで、噛まないのが凄い!と言う印象が強いでしょうが、もうかれこれ15年近く接してきた一人としては、今日はいつもの7〜8割くらいの速度だったのではないかと思いました。
さて、”Can-do” です。
このブログでも随分前から話題にしています。長沼先生に副部長をお願いしている「ELEC同友会ライティング研究部会」では、長らく研究テーマの一つとして扱ってきたものでもあります。
90年代のThreshold Level 以降、世界各地での外国語教育、第二言語教育の成果、自律学習の知見などを盛り込むことで、独自の成果を見せてきたCEFRばかりが注目されますが、こちらは「参照枠」であることに注意が必要です。今回の焦点は、「その前に」ですから、枠の中味、「身」である “Can-do” リストの作成と運用に於ける注意点などを盛り込んで下さるよう、お願いしていました。
盛りだくさんの情報提供でしたが、"can-do" から作っていって、それを綺麗に並べることで参照枠としての「正確さ」、参照枠としての「性格」を求めるのは難しいということを感じた人も多かったのではないでしょうか。
会場との質疑応答のセッションで「"Can-do"作成の理念」で、現場が動くか、というものがありました。
お上から何か言われたから、それに従う、のでは「教師としての自分が動いた」ことにはならないでしょう。見栄えのいい、おしゃれな額をどこかで買ってきて、これまたどこかから手に入れた絵を飾っても目の前の生徒にとって教育的な意味はありません。あくまでも、自分が授業で何をして、どのような力を付けているのか、というところからボトム・アップで組み立てていくものなのだと、改めて実感しました。

  • 一つで良いから作ってみる

という長沼先生の言葉が印象的でした。香住丘での数年に渡る共同研究に裏付けられた強みと言えるでしょう。
これから取り組んでみよう、という教師、学校にとっては、自分の指導を共通の言語で記述することで「可視化」する、授業に関わるメタ認知の力を磨くことが求められるでしょうし、自分のteacher’s beliefsと同僚のそれとの摺り合わせによって、今まで、見て視ぬ振りをしていた「モノ」と対峙する局面が訪れることでしょう。「こうやってうまくいった」「こうすればうまくいくはず」という方法を共有する以外に、「これはやっていないので、わからない」「これはやってこなかったから、まだできていない」というスカスカの「棚」を見せつけられることは、怖くもあり、やる気を駆り立てられるものでもあるでしょう。
公立校の場合は、各地方自治体の指導主事や地域の英語教育の中心となる大学の英語教育担当の先生などが指導的立場となって、「拠点校」「協力校」が先駆けとなって、リストづくりに取り組むのでしょうが、そのような「特別な手当」のない、ごく普通の学校でできる取り組み、まさに「普通の学校で出来る英語教育の"can-do"」を摺り合わせる機会をいろいろなところで作っていければいいなぁ、というのが終わってみての率直な感想です。

山岡憲史先生講演

2005年3月25日のあの感動が甦った瞬間でした。
(過去ログはこちら→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050325)
個人的には、いわゆる「セルハイ」事業の全てに賛成ではないし、それをそもそもセルハイでやる必要があったのだろうかという疑念が浮かぶ取り組みもありましたが、成果と呼べるものがあるとしたら、その一つに確実に「米原実践」があるだろう、と捉えています。
今回の会場には、第2回の講師を務めた永末先生も参加者としていらしたわけですが、なぜ、他のセルハイでは上手く行かなかったことが米原や香住丘では出来たのか、という部分をしっかりと検証せず、常に新たな政策・施策で現場を駆り立てるかのような教育行政には、待ったをかけることも必要でしょう。
講演中に山岡先生が引用言及した、「松本談話」に関しては議論の余地が多々あることでしょう。ただ、中教審の会議録を丁寧に読めば、この発言を山岡氏が全面的に支持している訳ではないことがわかるのではないかと思います。 (過去ログ参照→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090119)
現場教師は自分の立場で、自分の声で反論するべきは反論することが大事です。権威に盲従したり、阿ったりするのは歓迎できません。
私が質問したのは、「英語は英語で」「AAO!」に関して、いつも言っていること。パラフレーズと発達段階・定着に関して、一点、二項目。

  • He must have stayed up late last night.
  • I’m pretty sure that he went to bed late last night.

という二つの文で、前者を後者にパラフレーズする時に、より易しいと考えられる後者の文構造や表現は、いつ学習者に仕込んでおくのか、そして、パラフレーズすることで切り抜けた前者の文構造や表現に学習者がいつ習熟する見通しなのか、ということ。
2005年のセルハイフォーラムで私が最も感銘を受けたのが、生徒の発話を受けての山岡先生のリキャスト、リフォーミュレーションの部分だったのですが、今回のスライドで追加されたある1枚に、私と同じ思いが語られていました。私のメモなので文言が正確ではないことをお断りして、

  • 先生が自分の英語を受け止めて、より良い英語で返してくれる安心感を生徒が持つこと。

これが、生徒の甘えを生むのではなく、comfortという足場として、confidence, competenceの3つの階段を繋げていくところが「山岡実践」「米原実践」が多くの人の共感を得た要因だろう、と思うのです。
その意味では、「英語は英語で」授業をしたから「骨太の英語力」が培われたというのは表面的な見方で、むしろ、「骨太の授業力」「教師と生徒の骨太の信頼感」とでもいうものが、「英語は英語で」という授業を進めたとも言えるのではないでしょうか。
講演の途中で、少しだけ映された「武生東」のビデオが、山岡先生の大きな転換点だとすれば、山岡実践に出会ったことが私自身の大きな転換点とも言えるのです。

奥住桂先生講演

関西以西で、このような発表の機会が作れたことを心から喜びます。
奥住先生ご自身のブログで、当日のスライドがダウンロードできますので、是非ともそちらをご覧下さい。(http://d.hatena.ne.jp/anfieldroad/20121103)
個人的に、今、もっとも期待を寄せる「ライティング」の指導者ですので、当日の資料はメモ書きで真っ赤です。後日、もう少し詳しく考察を加えたいと思いますが、当日司会をしていて私が強く感じたのは、

  • 技能統合、技能連携の前に、各技能の下位技能を括りだし、あぶり出し、下位技能同士を結びつけることによって、下支えされた上位技能が、本当に使える技能となる。

ということ。コスモスから履歴書、ポケモンライティングなど、キャッチーな活動名が貼られた活動の「実態」というか「肝」に触れることができました。
そして、このような現場の臨床の知、そして教師としての「智」が、政策よりも1歩も二歩も先を行っていることを実感。久保野りえ先生などの達人や加藤京子先生のような慈母を真似するのではなく、師匠の受け売りでもなく、自分の中で咀嚼して出てきた地に足のついた実践に、ちょっとウルウル来ました。間違いなく、今の、そしてこれからの英語教育の中心にいる方だと思いますので、山口の先生方とも、これを契機に、交流を深めて頂ければ嬉しいです。

懇親会

30名弱でお座敷は満員御礼。珠玉の日本酒と、ふくに代表される山口の季節の魚で、気がついてみると4時間に及ぶ宴となりました。私のFBに日本酒リストを公開したのですが、そのリストを見て「参加するんだった…」と後悔した人もいたことでしょう。来年は是非、山口においでませ!

私も週が明けて、自分の現実、自分の実作。
そして、再来週末は福岡県で「ライティング指導」に関する90分の講演です。私学協会の研修会にお招き頂きました。九州地方でこういうタイプの講演をするのは6年ぶりでしょうか。 (過去ログはこちら→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060718)
精一杯、お話しさせて頂きますが、「受験対策」の話しでも「新課程・新指導要領対応」の話しでもなく、「ライティング指導」の話しをさせて頂きますので、何卒ご理解を。

本日のBGM: Jingle bells (山田稔明)

コメント欄を「第5回山口県英語教育フォーラム」に関してのみ、期限付きで開放しますので、今回のフォーラムに参加された方も、参加が適わなかった方も、奮ってコメントをお寄せ下さい。懇親会でのオフレコの情報以外は極力、記事に反映したいと思います。長文の場合にはメールでも結構です。
ただし、荒らし、なりすましは何卒ご容赦下さい。