「もどき」のススメ

文化祭の後、連休は本業。雨にたたられるかと思いきや、それほど濡れずに済む。秋田では国体。山口県は13位。健闘と言えるだろう。自分のチームは、といえば、焦らず諦めず鍛えるのみ。週明け、他の運動部をやめて入部したいという生徒がいるので、見学につれてくる予定。運動能力は高いので、起爆剤になってくれれば…。
今日は午前の練習で大学生の1Xと4+にアドバイス。細かいところばかりに気をとられて、スピードの追求を忘れないように、「加速を継ぎ足す」という原理原則を説明。「艇速と同じスピードでハンズ」を求めるだけでリリースは改善される。問題は、その加速を維持するだけの強度・負荷に身体が悲鳴を上げてしまい、続けなくなること。カタマランに同乗していた学生に、

  • リリースが改善されたこの加速を維持して、16km位漕ぎ続ければ、充分戦えるね。

と伝えたのだが、真意として受け取ってもらえたろうか?
明日は、連休明け最初の授業。放課後は某社の「ライティング」に関わる取材の予定。A4で10ページ分の資料を用意。その中でdictoglossに言及してみた。dictoglossを中高生の英語の授業にそのまま取り入れて、失敗している人は多い(はず)。まず、dictoglossの本来の用いられ方をRuth Wajnryb (1990) Grammar Dictation, OUP から引用する。

The procedure may be summarized as follows:
a. A short, dense text is read (twice) to the learners at normal speed
b. As it is being read, the learners jot down familiar words and phrases
c. Working in small groups, the learners pool their battered texts and strive to reconstruct a version of the text from their shared resources
d. Each group of students produces its own reconstructed version, aiming at grammatical accuracy and textual cohesion but not at replicating the original text
e. The various versions are analyzed and compared and the students refine their own texts in the light of the shared scrutiny and discussion

素晴らしい手法だと思うだろう。私も教師になりたての頃はそう思って自分の授業にどんどん取り入れていた。FENのスポットアナウンスを録音しスクリプトを起こして作ってみたり、英検準一級の2次試験描写問題の模範解答を流用したり、などなど。しかしながらどうも上手くいかなかった。
考えられる原因は、
・ 英文の難度→固有名詞、語彙が未習、トピックが不慣れ、S+Vの距離が長い、V+X+Xの部分で構文が複雑
・ 音声が速い→ 単に早口、旧情報で加速
・ 音の識別→米音(加音)・英音(豪音)など音そのものへの対応不足
・ 音変化→音連結、弾音・無声子音化など口語特有の変化への対応不足
など、「文法力を駆使して、聞き取れていない細部を埋め合わせて英文を作る」前の段階で止まってしまうのである。中高生が検定教科書で触れる語彙サイズの小ささも原因であろうが、悩みながら改善策を模索。授業中の活動としてはイマイチ感を持ちながら続けていた。
転機は、旧課程の最終学年での英語IIC。進度が遅れていて、和文英訳の問題を速攻で終わらせなければならなかった時のことである。模範解答の英文をdictationさせて済ませようとした。当然、生徒は予習で英文を用意して来る過程で、さまざまな英語表現の候補を想起し、一定の英文にたどり着いたはずなのだが、授業の流れやターゲットとしている文法項目や機能表現を含む英文を書き取れないのだ。さらには、自分で用意してきた表現とほとんど同じ英文でもきちんと書き取れていない生徒もいる。
「同じ意味を表す多様な表現」を求める前に、「自分で意味の分かった英文をきちんと聴き取り、書き取りできるように」することが必要だったのだ。
そこからは、原文の復元を主眼としたdictoglossに路線変更した。そして、初見(初聞)の英文に含まれる語彙を新出語句として予め提示する代わりとして、英問英答を行うことにした。
まずは、1回目のリスニングで、タイトル選び。与えられた3つの選択肢の中から、一つを選ぶ。続いて、内容を問う英問英答。時にはT/Fの問題も使った。その答えを概観すると、全体の流れ、主題がはっきりとイメージできるようになり、全文のディクテーションでも、キーワードを踏まえて全体の内容から推測して、「英語の表現」を補うことが可能となった。ここまできて初めて、文法を援用できる下地作りができたわけである。T/Fを使う際には、FのstatementsをTに直すために再度聞きとらせる方法をとった。
その後、英語Iや英語IIなどの授業でスピーチを課す際に、プリライティング活動で作成したmindmapをスキャナでファイルしておき、次年度の導入時にdictogloss用の課題として使い回すようになった。昨年の高2が6月に行った活動から一例を示す。

  • “Don’t quit before you start!” This is a phrase which everybody should always have in mind. You can never know what will happen until you start. Don’t panic! The first thing you should do when you stand on the start line is to have a confidence in yourself. Have you ever heard of this phrase, “The sky is the limit”? It means there is no limit to your excellence, and there is nothing to keep you from being successful. Challenge yourself, and don’t give up! It is not a mistake unless you admit it. You can never reach your goal if you don’t start. The people who start can only have the chance to reach the goal. You don’t want to regret before you even start. Don’t take your mistakes as failure. The mistakes you have made will be a helpful lesson. What are you waiting for? It is time to start. (152 words)

この生徒のスピーチ英文は前年度の2年生の作品。これをもとに、概要から詳細へと問うように以下の設問を作成。
1. What is the best possible title of this passage?

  • a. Don’t regret what you have done.
  • b. Don’t quit before you start.
  • c. Everybody can reach their goals.

2.What should you do when you stand on the start line?
3. What does the phrase “the sky is the limit” mean?

  • a. The price of your goal is quite high.
  • b. Your hope is as clear as the blue sky.
  • c. There is no limit to your possibility.

4. Who has the chance to reach the goal?
5. Do the mistakes you have made only mean that you are a failure?

1. で今ひとつ分からなくても、5.までいくうちに細部の理解が全体像を修正して2回目には正答にたどり着く。
ここで、マップを見せ、同様に聴き取り。時間に余裕があれば、ここでmapだけを見て、先ほどの英問英答を行うことができる。ここまでお膳立てをした上で、全文のディクテーション。不明なところは、その前のmap、または英問英問に戻ればキーワードは既に提示されていることがわかる。全文の書き取りが済んだら、前後左右の席で漏れがないか確認させ、音読。Read & look up さらにはwrite on the other side(裏面または隣のページに天地逆で清書用の原稿用紙を印刷しておく。)
概要から詳細へという理解の流れを自明のものとしてとり組むのではなく、部分の正確な理解が全体・主題の理解を支えているということをこそ、答えの確認で行うのが効果的である。
そのためには、素材文は授業で扱ったトピック、テーマと関連していると取り組み易い。1〜2学年下くらいの(他社本の)教科書や、旧課程の教科書を丁寧に読めば面白い素材はゴロゴロしている。それを教師自らが、生徒の顔を思い浮かべて要約したり、より冗長に書き換えたりすることが格好の教材研究となる。長さの調節が大変、という多忙な教師は旧課程の文法シラバスの「ライティング」、さらに旧課程の「英語IIC」の教科書からモデルパラグラフを抜き出せば簡単である。
このような手法を現在は「dictoglossもどき」と呼んで活用している。守・破・離の「離」までは達していないだろうが、効能は多々感じられる。精聴の課題として行う場合は、英問英等を行う前に、ヒント無しで各自の限界まで書き取らせてから、英問英答のヒントを与えることもある。
(詳しくは過去ログ「dictoglossもどき」で検索、または左のアンテナから『松井先生の英語教室・第4回』を参照のこと。)

時期が時期なので、取材は大変なのだが、時々こうして自分の考えが整理されることはいいことだと実感。どうなりますやら…。

本日のBGM: So Am I (Kama Aina)

追記: 現在、上記『…英語教室・第4回』へのリンクが切れていますので、http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120412 に再録しています。ご笑覧下さい。