次の主張に対して反対の立場から意見を述べなさい。

今日は、休暇を取って、朝から広島大学附属福山中・高等学校の研究大会へ。お城の見える福山駅で降りる。乗り換えて東福山経由で徒歩で行くか、そのままバスで行くか迷ったのだが、時間に余裕があったので、バス停へ。案内にあったバス停に、それらしいバスがいたので、乗車。
失敗!
行けども行けどもそれらしい学校はなし。いよいよ乗客は私しかいなくなったので恐る恐る運転手に聞くと、まったく違う便。怒られてしまいました。急いで降車,Uターン。次に来たバスの運転手さんがとても優しい方で、降車の案内もしてくれたので、事なきを得る。学校に着いたのは授業開始5分前。
今回のお目当ては、山岡大基先生の高2ライティングの授業。週1時間の割り当てしかないとは思えない充実したシラバスです。山岡先生は国語教育の作文指導からもしっかりと学んでいるところが最近の若手(と言っては失礼か)の英語教師の中では異彩を放っている。
本時の主題は「反論を先取りして自分の意見論述に取り込むpersuasive writing」とでも言えばいいだろうか。教科書は桐原書店のPro-visionを使っているので、

  • 主張→根拠1→根拠2→根拠3→予想される反論→反論への回答→主張の再提示

という文章構成をとっている。典型的な「パラグラフライティング」「プロセスライティング」のアプローチをとる教科書である。先日のブログでの用語では「タテ糸」重視型に分類されようか。
前々時の活動で用いたトピックでstatementの並べ替え文章完成のタスク。この活動は見た目は復習なのだが、実質は、意見文・説得文にとって効果的な構成を学ぶという重要な位置づけである。
グループワークと個人作業とをうまく設定して、グループ同士でお互いの意見に反論を書く。意見論述の草稿は前時までに書いているので、グループで集めたら、隣のグループと交換。

  • 違う立場で書かれた左ページの意見の根拠をそれぞれ読み、その意見の根拠に対しての反論を右ページに書く。
  • 前の人が書いた反論も読んで、自分の反論を書く。
  • 根拠が3つあるので、反論の書きにくい根拠は保留しておき、自分の反論が書けるものから片づける。

という誠実で潔いpeer responseである。このあたりの匙加減はベテランの域。
反論を書き終えたら、作者に戻して、オリジナルのグループでシェアリングのチャンス。意見交換を経て、予想される反論を先取りして、論述のリバイズ。ワークシート(原稿用紙)の裏面に天地逆で書き直しの原稿用紙が印刷されているので、大半の生徒は、ペナペナ、パラパラ、ぴらぴらと裏返し、表返しを繰り返しながら書き直しをしていました。(私はいつもこの形式なので、我が意を得たり、という感じだったのだが、参観者はどう感じていたのだろう。誰も質問しませんでしたね…。)
最後は、相互評価。フォーマットは決まっているので、その項目に○をつけていく。途中までしか終えられない生徒もいたが、相互評価をさせたところで本時は終了。
今回の研究授業では、生徒に話しかけさえしなければ、生徒が書く活動にとり組んでいるところをフロアで見学しても良い、ということだったので、大いに参考になりました。どの語を辞書で引くのか、どのくらいのスピードで意見を書くのか、などなど。
午後になって、研究協議があったのだが、もう少し山岡先生の授業の質疑応答に時間を割くべきだろう。ただでさえ、ライティングの授業は見ていて判りにくいのだから。広島大学の深沢教授による講評があり、綺麗にまとめていただいたのだが、参観時のメモから私なりの感想と評価を。
まず、座席。グループごと。会場を見た瞬間に、「これはtentativeかpermanentか?」というメモをしてある。分科会での山岡先生の話では、研究授業用とのこと。
Reviewでのstatementsの並べ替え完成課題。「正答は5/10なので情報処理の負荷はかなり高い。それぞれのstatementは前々時ドラフトから抜き出しているようだが、correctedか否か?」「一人指名で解答。他の一人に確認。この段階の『目的』は?答えを確認した後の活動、音読など、は不要か?」とメモ。
前時に使用したワークシートで構成の確認をしていたのだが、「structure/ organization を答えさせるときに、並べ替えタスクの言語材料から、キーワードを引き出すtechniqueは?」と感じた。
反論を書く作業。まずは、意見とその根拠を読むことから。「生徒は電子辞書と英和辞書の両方を持っているが、この活動では主として電子辞書を活用。ただ、英和を使っている場合に、argumentの理解で困っているのか、自分で反論を書く際にaccuracyに対する意識の高さなのかは不明」というメモ。和英を引いている生徒で、「予想する」「可能性」などを引いていたのだが、調べたらすぐに消してしまうのがもったいないと感じた。電子辞書は履歴が残せるので、今日の活動で調べた語彙をすぐに一覧にできるのだ、単語登録の活用と併せて今後の飛躍へのヒントがある。
「draftで生徒が書いたstatementを訂正して一覧にする→For or againstに分類するtaskをpost-writing activityとして活用すれば、その活動が次の段階のtaskにとり組むための表現集・ツールボックスとして機能するようなpre-writing activityとしての性格も併せ持つはず」という改善案のメモ。
「技能統合とは、何も四六時中integratedな活動をせよということではない」というメモは我ながら良いことを書いた。
Formatを固定した相互評価に関しては、「どこまでこの時間中に評価させるのか?その狙いは?」という疑義。
質問は4点。

  1. reviewのtopicは本時で扱うtopicとは繋がらない。ここでのreviewの最大の狙いは?
  2. 再反論までを含まない、プロトタイプとも言える<主張→支持→再主張>というpersuasive writingの型はシラバスの中ではどう位置づけられているのか?
  3. draftの段階での誤りへの対処は?この段階では誤りを多く含む英文が多いと思うが、その誤りを含む英文をもとに反論をさせることの難しさ、まず根拠を読み取る際に時間を取られてしまうデメリットをどう扱うか?
  4. 「ヨコ糸」への対応。

こんなところでしょうか?質問というには、押しつけがましい物言いがあったかも知れません。ご容赦を。授業後に少しお話をさせてもらえたので、授業の意図などが良く理解できました。
高2のライティングの授業として「目指しているもの」は間違いなく、国内でも最高の水準。またひとつ、ライティング指導の新たな可能性を見た。テーマ、トピックの扱いにしても、教科書で与えられる「いかにも社会的な」題材に深入りせず、目の前の生徒の目線で主題を設定する点は全国のライティング担当の教師に見習って欲しいと思う。

一点、気になったのは、この教科書(Pro-vision)の英文のクオリティについて。山岡先生の目指す授業を積み重ねるには、この教科書で示される英文にはあまりに問題が多い。一例を挙げる。Death penaltyに関して論じるもの。ここでは便宜上、スラッシュは段落が変わることを示す。

  • I think the death penalty is necessary. / For one thing, brutal criminals such as murders and terrorists deserve the death penalty. Imprisonment is not enough. / In addition, the government should not spend precious taxes on trying to rehabilitate brutal criminals. It is just a waste of money. / What is more, the death penalty is effective in preventing violent crimes. Without death penalty, there would be many more violent crimes. If the death penalty is used more often, there will be fewer violent crimes. (p. 123)

この英文を読んで、少なくとも指導者側は「困ったものだ」、と思えないと、いくらパラグラフライティングを謳ったところで上滑りに終わってしまうだろう。
意見文・説得文のライティングに於いては、意見と根拠の混在は厳に戒めなければならない。
もし、この英文の作者の意図・アイデアを活かすとすれば、

  • I think the death penalty is necessary. If the death penalty is used more often, there will be fewer violent crimes.

という意見を述べておいて、「なぜ抑止力となるのか?」の根拠として、いくつかの事例・研究成果の報告などを述べることが望ましい。教科書の英文のままでは、第2段落で一つ目の根拠を述べる部分に、 “Brutal crimes deserve the death penalty.”という主観・意見を混在させている。第3段落では”should not spend,” “just a waste of money”という主観が、第4段落では、 “effective”という主観的形容詞の説明責任を果たさないまま、”there will be many more violent crimes”という予測が何の裏付けもなく述べられ、結論へとなだれ込んでいる。文法的な誤りはなく、ディスコースマーカーの使用も適切で、言いたいことは確かに言っているのだが、説得力のまるでない文章である。生徒の作文をタスクに使って、親近感を演出するのであれば、必ずモデルにふさわしいものを用意するべきだ。(Heinle & Heinleから出ている、Tapestryシリーズの Reference Grammarでは学習者のエッセイを練習問題にふんだんに使用しているが、全て巻末にcorrected versionを収録している。教科書会社は、こういうものを見習って欲しい。)
この教科書は文科省の検定を通っていて、しかも、かなりの高校で採択されているのだ。事態は深刻である。
公立中学校の広域採択制と違って、高校の教材は教師が自由に選べるのだから、よくよく吟味されたし。
午後の講演は広島大の松浦教授。大変刺激的な内容だった。このネタは初お披露目とのことなので、今は書かずにおきます。
山岡先生の高2ライティングの授業は、来月発売の『英語教育』(11月号)の連載、「授業のここにフォーカス」でも取り上げられます。Descriptionを扱った授業となります。今回、研究授業をご覧になった方は併せてお読み頂けると、descriptionからpersuasionへという高校のライティングシラバス構築のヒント、指導のヒント、指導上の留意点など知見が深まることと思います。是非ご購読を!
山岡先生、本日はお疲れさまでした。
私も移動で疲れました。本日はこの辺にしとうございます。
本日のBGM: 朝にスクールバスで(各駅停車)