「必要なものって彼を傷つけないものばかり」

そろそろ梅雨明けか、と思いきや、本降り。上下ともゴアテックスで自転車通勤。今日はエルゴ測定。まだまだ女子選手並みの出力。
英語科の先生たちは夏期課外講習でみな出勤していた。頭が下がる。高3のリーディングでは、私の提案した手法を試してみることにしたとのこと。多謝。是非とも生徒の反応・首尾を聞かせて欲しい。

かねてより、「英文法の『体系的』指導」が少なからぬ高校英語教室で機能していないことを指摘・批判してきたが、少し詳しく考えたことを記しておきたい。過去ログでは、http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060327の最後の方で指摘している、

  • その文構造・文型・表現を使わざるを得ないオープン・エンドな課題

というものを高校教師は、まず「日本語で」でもいいのでイメージできるかを問うことから始めてみてはどうだろうか。
たとえば、次の練習問題で、生徒はどんな文法項目を身につけることを期待されているだろうか。(Pro-vision I, Lesson 4; 桐原書店、より抜粋)

  1. 昨日1年ぶりで友だちに会った。
  2. 彼は5歳まで九州に住んでいた。
  3. 大学に入るまで、私は一度もアメリカ人と話したことがなかった。

「過去完了」ということは容易に理解できよう。では、このような練習を経た後で、次の練習は成功するだろうか?

  • 斜字体の語句を自分の言葉に置きかえて対話文を作りなさい。
  • A: Did you see your favorite TV program last night?
  • B: No. When I came home, it had already ended.

「自己表現を焦るがために失敗する言語活動」の典型例ではないのか、と心配になる。なぜ対話文である必要があるのか?文脈が必要だから?では、そうまでして作る文脈とは?
この問題を飛ばしてしまう英語教師が多くないことを祈るばかりである。
英語の過去完了にあたる文法事項を使わなければ表現できない、事実/出来事/行動/考え/気持ちをまずは日本語で想定してみてはどうなのだろう?こんな時に電子辞書の用例検索は便利である。生徒が電子辞書を持っていないような時は、教師が書画カメラなどでモニターに映したり、予めハンドアウトを作っておいたりすることもできよう。
SR-E10000にてで検索。和文のみを示す。

  • 学校へ走って行ったがベルはとっくに鳴っていた。
  • 彼に電話したとき彼はすでに寝てしまっていた。
  • 私が生まれた時には、父はもう死亡していました。
  • 私が事務室に来た時には、既にこのタイプライターは壊れていました。
  • 私が来た時、ネルソンさんは既にワシントンD.C.へ経たれていました。(以上『G大』大修館)
  • 私がアッシュさんに会いに行ったとき、彼はすでに去っていた。(『リーダーズ』研究社)
  • 私が家に戻ると悪友が勝手に上がり込んで酒盛りをしていた。
  • 私が生まれた時、祖父はもういなかった。
  • 私が出ると電話は切れていた。

<従属節+主節>の揃った適切・妥当な用例が見つからないような時でも、主節を与えることで従属節を考えさせることはできる。

  • 火はすでに居間に回っていた。(以上『和英大』研究社)

では、「どういう時?」と問うて、「目を覚ました時には」「火事に気がついた時には」などの従属節に当たる内容を引き出すことができよう。
このような和文の例を示すだけでも、従来からのありきたりな文法事項ごとの必修・暗誦例文を活かすことはできる。以下、思いつくままにprocedureを。

  • 「Aしたときには、すでにBしてしまっていた。」のA/Bに当たる身近で具体的な内容を「日本語で」2つ以上ペアやグループで考えさせて紙に書かせる。
  • その内容を隣のペア、グループに回して、それぞれのグループはその回ってきた内容を英語に直す。
  • その英語を隣のペア、グループに回して、英文のチェックをさせる。必要に応じて修正させる。
  • チェック、修正を経た英文を最初のグループに返却し、納得のいく英語になっているか確認させる。
  • 教師はそれぞれのペア、グループを回って、必要があればさらに訂正し、正しい英文を音読、群読復唱させる。
  • 新しい紙を人数分配り、各人が自分のペア、グループで最終的に得られた英文を紙の上半分に正確に、丁寧に写す。
  • 違うペア、グループの生徒と組み、自分の紙を相手に持たせて対面リピートで、相手が自分の英文を復唱できるよう練習。できたら入れ替え。この作業を時間制限で3ペア目標で行う。
  • 自分の席に戻り、紙の裏に、今行った対面リピートの英文で覚えているもの、面白かったものを1つだけ書き出す。
  • 正しく書き出せたか、再度、その人のところに行き確認するが、今度は紙も筆記用具も持っていかないで覚えてくる。自分の席に戻って朱ペン(色ペン)で修正/訂正。
  • 正しい英文が確認できたら、read and look upの要領で、英文を読み、裏返して表の下半分のスペースに英文を書く。最終的に3文以上、身近で具体的なイメージの持てる英文が練習済みとなる。
  • AとBの組み合わせを適当にシャッフルして組み合わせて、英文で提示し、ナンセンスなもので笑いが出れば、理解したとみなすことも出来るだろう。

「教師にとってよく馴染んでいて、居心地のいい活動」と「生徒にとって居心地のよい活動」とがイコールでない時こそ、教材研究・授業研究のチャンスなのだと思う。
この教科書、次のページではまるまる1ページを使って基本動詞のコアミーニングを扱っているのだが…。


本日のBGM: Stereo Cue Box (大江千里)