”I don’t know for sure but I see you’re right”

先週のライティングイベントで、自分で言ったことの中で、すごく重要だな、と感じていたのにもかかわらず、その後きちんと考察をしていなかったことがある。それは、英語教育でよく(=頻繁に)語られる、

  • Input → Intake → Output

という図式である。これはあまりにもナイーブな考え方ではないのか、という問いかけ。日常での英語使用の必然性のほぼ存在しない日本の中高生は教室内の英語学習における英語使用が、「現実の英語の使用場面」の大半を占めることになる。そのなかで、outputを最終段階ととらえていると、いつまで経っても、語彙・文法・構文の積み上げから先にいけないのではないか?
多くの自称進学校で、高1から高3まで、ずっと文法の授業がある、というのはおそらく「ずっと文法が定着しないから、それができるまで先に行けない」という理屈なのだろう。だったらいっそのこと、この図式をシャッフルしてしまったらどうなのだろう。

  • Output を課す→ 悲しくなるくらい何も出来ない → ちょっと仕込む(=Input)→ もう一度Outputを課す → ちょっとだけ出来る(=ちょっとだけIntake)→さらにOutputを課す → しどろもどろ → さらなるInputを課す → Outputしてみる → 少し自信をもってできる(=ちょっとだけIntake)→より大きなOutputの課題を与え、より大きなInputの素材を与え、自分で取り組ませる → 途中で教師が少し手助けをする → Intakeが少し増え、Outputの質と量が向上し、Inputへの更なる意欲が増す

というサイクルだってあるだろうに。
単文・短文レベルの和文英訳をどのようにsentence level accuracyの養成に寄与・貢献させるか?そこが伝統的な「英作文」の指導法に突きつけられた課題だろう。私のライティングのシラバスが「テクストタイプ」による課題の分類に落ち着いたのは、従来から行われている「テーマ・トピックによる短作文指導」では、いつまでたっても、sentence level accuracyが養われないからである。
たとえば、現在higher education → NEET/ “Freeter” → Growth & Independenceというシリーズで、persuasive passageを書かせているが、従来型の「教育」というテーマ割の「英作文」指導がどうなっているかというと、

  • どんなに年をとっていても学問はできる。
  • 人生で成功を収めるため、日本人は教育の価値を重くみる。
  • その奨学金のおかげで彼女の妹はアメリカに留学できた。
  • 近頃はどの親たちも我が子を大都市の大学へ進学させたがる。
  • 教育ほど大切なものはないと思う。どのような教育を受けるかによって人の人生が決定されるといっても決して過言ではない。
  • 「きみは大学で何を専攻するつもりだい。」「それはまだ考えていないんだ。とにかく入学試験に合格することが先決だからね。」(以上太田千義編『トピック別英作文255題』(日栄社)より抜粋)

などの日本語を英訳させるのである。これらの英訳の結果得られる英文を基本例文集として、高校生が「教育」というテーマについて何かを語ろうという参考になるだろうか?
次にあげる基本例文と比較して欲しい。

  • 不況と言われているが、一流大学の出身者の就職状況は良い傾向にある。
  • どのように教育するかが、子どもの将来に影響する。
  • 少子化が教育に及ぼす影響の一つに子どもた同士の競争心低下が挙げられるが、逆に一クラス当たりの人数が減り、先生の目が届きやすいという利点もある。
  • 小学校で、授業中、生徒の立ち歩きや私語によって、授業が出来ない状態を学級崩壊という。
  • 国際比較により日本の教育水準が低下したことを受けて、水準を上げる方法が検討されている。
  • 学習意欲の低下が問題になっている今、教師の指導力も問われている。
  • 教育は知育偏重になりがちだが、個性や創造力を伸ばすことも大切だ。
  • 個性をそだてると言うのは簡単だが、どう育てたらいいか分からない親も多いのではないだろうか。
  • 社会性が身に付いていない若者が増えたのは、核家族と少子化のせいだと言う人も多い。(以上、『留学生のための分野別語彙例文集』凡人社)

もし和文英訳を、英語ライティング力の基礎力と考えるのであれば、そもそも我々には日本語でどのような語彙や文構造を用いて表現するニーズがあるのか、ということも再考する必要があるだろう。大学入試問題の過去問でいくらデータベースを作成したところで、それをライティング力養成に生かすための視点がなければ、その程度の語彙集・例文集は和英辞典に遠く及ばない。肝心なのはライティング教師としての目の付け所なのだ。その点、日本語教育の教材からは、現代の日常言語生活を反映させた語彙・例文・文法を考えるヒントをたくさん得ることが出来る。さらには、L1の作文教育、つまり国語の作文指導のエキスパートは、そのような語彙・表現について多くの知見を持っているはずである。英語教育関係者は、フィンランドに学ぶのも結構だが、生徒が実際に使用する日本語の語彙・表現について、身近な実践者から学ぶ機会を持つべきではないのだろうか?

  • 井上一郎編著『語彙力の発達とその育成―国語科学習基本語彙選定の視座から』(明治図書)

は小学校6年生までに作文で使用された語彙を計量し、発達段階を推測する壮大な試みである。(詳しくは、アマゾンのカスタマーレビューをご覧下さい)
本日のBGM: Blue On Pink ( jENKA)