ライティング指導に関する発表をすると、決まって「評価方法」と「添削」について質問を受ける。とりわけ「添削」の方に関しては、私の意図はなかなか伝わらないようだ。どうやったところで、「添削」が大変なことに変わりはないのだから、嫌なら添削はしない、するならちゃんとやる。これだけだ。もっとも、英語教師養成の過程で、correctionやerror treatmentに関してはほとんど指導を受けてきていないだろうから、こればっかりは現場での経験を積む中でさじ加減を覚えるしかないのだろうと思う。
今日は、手始めに、3つの提言です。
私がよく力説するのは、読んでいて、まずいと思ったら直しましょう、ということです。そのためには、まず
- Global errorsとかlocal errorsといった区分は忘れましょう。
ESLでは、まことしやかに、この区別をして、global errorsには訂正やフィードバックを与えるように薦めています。私はこの考え方には全く反対です。なぜなら、特定の文法項目がglobalかlocalかが予め決まっているわけではないからです。
たとえば、最も導入しやすいと思われているNarrative passageを書くのであっても、新情報・旧情報の区別、指示語・代名詞の視点の統一、時制の統一は生命線になります。ということは、冠詞・限定詞の用法 (a,an,the, φ, my, this )、 動詞の活用、名詞の数と代名詞という文法項目でのミスは致命的になる可能性があるわけです。
このように、どのような文章を書くのか?何の目的で書くのか?といった要因で、同じ文法項目がmajorな誤りにもなれば、minorな誤りにもなるのです。
次に、
- 誤りを直したから次から生徒が間違えないと思うのはやめましょう。
上で言ったことと矛盾するようですが、日本人の犯す典型的なミスを取りあげて、Common Errorsのリストを作っても、それがもし、本当に日本人が典型的に犯す間違いなのであったら、ほとんどの生徒はそこで間違えます。日本人であれば、その克服には尋常ではない時間と努力が必要です。視点を変えて、日本人のCommon Errorsではない、日本人でも、あまり間違えないミスは、気をつければ防げるわけですから、まずはそこが修正されているか、習得されているかをこそ確認すべきでしょう。その上で、典型的なミスに関しても、しつこく要求し続けることが望ましいと言えます。
もうひとつ、
- 添削例を、書き直す作業(活動)を練習させておきましょう。
自分が書いた作品である必要はありません。他の人が書いたものであっても構わないので、教師からのフィードバック、訂正・修正・言い換え候補などが示されたら、それをもとに新たに、実際に手を使って全文を書く活動をさせる必要があります。初期の段階では、教師からの赤ペンの英語を、一字一句全くのcopyingで書くことになってもいいのです。必ず、「全文を書き直す(写し直す)」ことが肝要です。音読と併せてcopyingの作業ができればなお一層効果的でしょう。この作業をやっておかないと、生徒の作品にいくら赤ペン添削を入れたところで、そのフィードバックは活かされないことになります。この段階が定着してくれば、誤りの部分だけを取り出して、mistake logを作成するなどの発展的な活動につなげることができます。
具体的な添削・correction・error treatment・feedback・responseの与え方は、市販の語学教材も参考になります。
白井恭弘『きょうから始める英語3文日記』(コスモピア、2004年)
David Barker『あなたの英語ビフォー → アフター』(アルク、2005年)
などをみてみてはいかがでしょうか?
私の授業での、ハンドアウトを次に示しておきます。(高校3年生、ライティングの授業。生徒の1/3程度がいわゆる帰国子女のクラス)
「日本のことわざを説明しよう」フィードバック
Sample A
The literal meaning of "Ame Futte Ji Katamaru" is that it rains, and the ground gets harder. 1. This proverb is used when I made up a quarrel with a person or when I wanted to cheer a person up without being discouraged at any kind of hardship. Thus, the lesson that this proverb teaches us is 2. that after an unpleasant event occur, we are in a better condition than before. 3. This proverb is derived from the meaning that after it rained, the ground become rather hard.
- 1. is whenと具体的使用事例の説明をする部分で、 いきなり "I"と自分のことで、過去形での記述になっている。"is used"であれば一般論として述べる部分であるから、"you"とか"they", "we"などの人称代名詞、またはsomeoneなど不特定を表す名詞を用いて、現在時制で記述するのが望ましい。「ケンカの後の仲直り」という意味合いで用いるのであれば、 make [patch] up a quarrel with someone; make up with someone after a quarrelなど。問題は、 orのあとの without being discouraged で「落胆する」意味上の主語が曖昧な部分。 「落胆しないように」と考えれば、 so that they won't be discouraged など。
- 2. 単に、「不都合なことが起きた後」ではなく、「その不都合を解決したあとに、よりよくなる」とか「不都合なことをマイナスで終わらせないように、一致団結しよう」という意味合いで用いられているはず。
- 3. ここは冒頭の文が適切なら不要。
Sample B
"Ame futte ji katamaru" 1. originally means whenever trouble happens, there are ways to solve by having arguments. 2. Arguments give us an opportunity to understand each other's mind more than before. 3.Therefore, having arguments all the better lead to a good result. This proverb makes me recall ....
- 1. これは文字通りの意味ではなく、英語による状況説明。「雨が降る」「地が固まる」の文字通りの意味を英語でいうこと。
- 2. 第一文で英語による状況説明をしてしまったので、この第二文が、文字通りの意味をうけての具体的事例なのかが曖昧。
- 3. というわけで、thereforeの効き目がうすい。
Sample C
"Mi kara deta sabi" 1. in direct translation means "rust coming out of body." This saying is usually said to a person whose fault has caused him or her a misfortune. This proverb 2. is usually translated as "You asked for it." This proverb 3.is used in a situation like, "This has happened because you asked for it." It means that misfortune has happened to you because of your bad actions. 4.The meaning of this saying is that you will be misfortuned from what you have done wrong.
- 1. と 2. の違いは何か? 1 で文字通りの意味を示したのなら、そのあとは具体的な事例を述べるべき。中途半端に英語での対応することわざを述べても、その英語のことわざはどう言うときに使うのかが一致していることを同時に示さなければならない。ここでは、 第二文ですでに、誰に向かっていうことわざか書いてある。
- 2. 2.でこの部分をどうしてもいいたいのであれば、 In such a situation, they usually say ノ in English.などとでもする。
- 3.& 4. ここではより具体的な事例を述べるはずなのに、説明のレベルが一般論のまま深まっていかない。 Faultがどんなことで、misfortuneがどんなことなのか、が支持されないまま終わってしまうので、同じことを具象抽象のレベルが同じまま説明しているのでくどく感じるだけでなく、説明されていないと感じることになる。また、 sayingとproverbは違うものなので、どちらかに統一すること。
Sample D
Nasake wa hito no tame narazu. This proverb literally means that compassion is not for a person. 1. This mean tends to be confused to be that you should have compassion for someone n trouble and shouldn't help him. 2. But this isn't. This proverb truly means that ....
- 1. meanとmeaningは区別せよ、と一番最初に相当強調したはず。授業を休んだら、そのキャッチアップは自己責任で行うこと。こういう部分がまったく活かされないのは基本姿勢の問題。課題を提出すればいいというわけではないということを肝に銘じよ。まだ、ことわざの意味・定義の説明を始める前に、誤解の話をしてどうするのか?
- 2. this が何をさしているのか? Confusionとかmisconception; misunderstandingを指していると考えるなら、それは trueなのではないのか?
Sample E
The original meaning of "Nakitsura-ni-hachi" is "a bee stings someone's crying face" 1. in English. This proverb is a popular one in Japan and describes that the scene that 2. unlucky persons are struck by different unhappy, so we use this proverb when we see a person who was struck by 3. successive unhappy. The lesson that this proverb teaches us is that 4. unhappy or unlucky strike us successively. In other words, 5. if we don't change our mind after misfortunes happened, another will strike us.
- 1. もう既に英語で書いているのだから不要。
- 2. lucky; unluckyは形容詞。luckが名詞。misfortuneの意味では、bad luckとかhard luck; ill luckなどという。
- 3. unhappyは形容詞。名詞は unhappiness。不可算名詞なので、successiveとは共起しにくい。ここではmisfortunes。
- 4. 2.3.4.と具象・抽象のレベル、一般・特殊のレベルが変わらないので、説明が深まった感じがしないまま終わっている。
- 5. このことわざは、不幸を笑うことで楽観的にその後の行動に移れるようにする時に用いられるのではないのか?「そんなことをしていると、泣きっ面に蜂になるぞ!!気をつけろ」というような文脈では用いないだろう。
Sample F
The literal meaning of "nodomoto-sugireba-atsusa-wasuru" is 1. "after something very hot to drink or eat pasts through our gullet, we forget how that is hot." 2. It is an allegory that we are likely to forget any suffering right away after that suffering go by. We use this proverb 3. , for example, we can't remember....
- 1. ここでは、after よりも 接続詞のonceがより適切。「ひとたび〜すれば」「〜するとすぐに」のイメージ。「通過する」意味での動詞はpass (through)。pastは副詞。類例:cross vs. across
- 2. 可算名詞で an allegoryとして使う場合は「たとえ話;寓話」となる。この文型では普通用いられない。頭出しチャンクで示した他の表現を用いるべし。
- 3. 挿入句の for exampleを使ったために、接続詞の whenが抜けてしまった例。このように使うべきところに抜けてしまうと、peer responseでも指摘できない。
Sample G
"Makeru ga kachi" 1. is one of the most popular proverb in Japan. The literal meaning of it is a defeat is a victory. We generally use it when we describe 2. a situation that someone is losed by another who is more excellent than he or makes a mistake. 3. Which this proverb teaches us is that you don't have to be ....
- 1. one of ときたら後は複数。基本中の基本。ドラフトの段階でまったく書いていない表現を字数を増やすためなどの理由で気軽に使うからミスする典型例。
- 2. a situationのあとは thatをルーズに用いず、in whichで説明する。Loseの活用。基本中の基本。接続詞 orの並列のレベルがまったく揃っていない。ここも、ドラフトの段階でまったく触れていない部分。
- 3. whichは選択肢のある場合に用いる。このパターンでは、what。授業中に頭出しチャンクでわざわざ表現を例示しているのだからそれを用いること。 Us とyouで表現のレベルが揃っていない。