Dead Poets Society

本業大忙し。現実逃避というか、内田樹的に言えば『解離傾向による問題回避』か、こういうときは本を読む。
以下、今読んでいるものを紹介。

  • Heaven On Earth: 101 Happy Poems

edited by Wendy Cope
Faber and Faber, 2001
「明るい」詩を集めたもの。「女性の視点で」というのは語弊があるやも知れぬが、いいアンソロジーとなっているのではないだろうか?知らない詩人も多く、楽しめて勉強になる。本のタイトルは、おそらく、収録されている Craig Raineの詩のタイトルから取られたのだと思う。自分で詩を書くときにはとかく自虐的になりがちなので、このようなアンソロジーは大歓迎である。いつか自分でも気になる詩、詩人を集めてアンソロジーを編みたいものだ。

  • Letters To A Teacher

Sam Pickering
Grove press, 2004
『今を生きる』という映画は、ロビン・ウィリアムスの主演で日本でも評判になった(と思う)。個人的には、監督ピーター・ウィアー三部作とよんでいるうちの一つの作品だが、この作品の脚本家である、Tommy Schulmanに影響を与えた大学教師、Sam Pickeringの綴る教育エッセイ。まだ全てを読み終えていないので即断は禁物だし、読んだ範囲でも至極真っ当なことしか書いてはいない本ではあるが、どの世代であれ教師は感じるところが多いのではないだろうか。落ち着いた、それでいて明るい気持にさせてくれる本。 A timeless quality.

  • I Am A Pencil, A Teacher, His Kids, and Their World of Stories

Sam Swope
Owl books, 2005
アジア系移民を含む様々な文化的バックグラウンドを持つ小学校の子供たちに、詩(文学といってもよいだろう)、作文を教える教師の実践記録。フィクションをめぐる内省の記録とも読める。子どもたちが自分たちの作品を語る「声」も興味深いが、それにもまして面白いのが、教育の光と陰、喜びと苦悩、成果と限界が正直に綴られているところだろう。私自身は作文の教師だと思っているので、ところどころはっとするような記述に出くわす。
なかなか詩を書こうとしない男の子が書いた詩を誉めたそのすぐあと。
But it's hard to know what I responded to --- the poem itself, or the boy behind it; my student as he was, or as I wanted him to be.
という一節に、しばし立ち止まってしまった。

ベストセラーであり、翻訳も出ているが、「書くこと」の指導に興味関心のある方は、原文で読む方がいいでしょう。


今回紹介した3冊に共通する要素は「詩」だったとあらためて気づく。20代の頃、文学に反発し、言語学に傾倒した時期があったが、「詩」だけは続けてきた。ただ詩という形式を必要としていたわけではないと思う。言語学や言語獲得研究は純粋に面白かったのだが、そのおもしろさよりも、最新の理論、学問の裏付けがないと自分で自信を持って教壇に立てなかったのだろうと思う。今思えば不幸な時代だった。私にとってよりも、私の教室で学ぶものにとって。
その自分の弱さ、失われてしまいそうな自らの個性や人間性を「詩」がつなぎ止めていたのかも知れない。
それもまた一種の「解離傾向」か。
経験を積み40代に入り、螺旋階段を上ってきたような気がする。俯瞰できることの強みが心のゆとりにつながることを願うばかりである。