on and off

レッドブルの助けもあり、7種類の作問を何とか終えました。作問天国あれば、採点天国ありですけれど。
未明の激しい雷にもめげず、ライブリスニングに向けて、チャンクの確認とリズムの確認。スピードのコントロール。娘が雷が苦手なので、私の仕事部屋に避難して来て寝てしまいましたので、いったん中断して本を読むことに。
豪雨で溢れんばかりの川を横目に家を出て、学校には無事到着したのはいいのですが、交通機関が麻痺していて、1/3位の生徒が登校できず。テストは来週に順延。私学で全県下から通っているので、こういう時は大変です。

政局は、離党騒ぎ。どこまでついていく覚悟があるのか。
スポーツでは、キム・ヨナ選手が、ソチ五輪まで競技を続行、五輪で引退とのこと。ファンとしては、嬉しいような淋しいような。

充電のために英語関係の本を何冊か読みましたので、少しずつレビューなどを。

  • T.D. ミントン『日本人の英語表現』 (研究社)

はこれまでの氏の著作とは違った切り口で面白く読めました。英語が出来る人にとっては恐らく、頷くだけのことばかりだとは思うのですけれど…。内容は詳しく引きませんが、一番良かったのは、「命令文」を項目として取り上げてくれたこと。これは、授業で再三力点を置いているのですが、なかなか浸透定着しなかったところなので、力強い援軍を得た気持ちです。
私のシラバスでは、高3の1学期中間までに終える「診断テスト」で、

10. その新聞 (newspaper) をもとの場所に戻しておいて下さい。
Put the newspaper back where it was [ where it belongs].
11. その本を読み終えたら私に返して下さい。
Give me back the book once you finish reading it [when you have finished reading it] .
Return the book to me as soon as [when] you are [have] done with it.

と焦点を当てて扱っているところです。
次の例題では、否定の命令文もとりあげています。

49. パーティに来るときには、プレゼントを忘れずに持ってきてね。
Don’t forget to bring a present (with you when you come) to the party.
※ 時の副詞節中の動詞の時制。「来る」は話者と聞き手の意識を中心に考える。
※ bringは takeと、comeはgoとの対比で整理せよ。
cf. Just bring yourself. ←「手ぶらで来て下さい」
 The next time you come to Kyoto, bring your little sister and we will take her to the ancient Imperial Palace.
←「今度京都に来る時は、妹さんを連れてきて下さい、(今度は妹さんの方を) 御所へご案内をしますから」

進学クラスであれば高一の段階で、「助動詞と心的態度」を扱っています。動詞の、

  • appreciate

を重点的に扱ったのは最近では、

の回ですが、受験対策が気になる高3でも、

あたりで繰り返し取り上げて定着を図っています。

入試対策本は2冊。
一つは、自由英作文のパートだけを読んだけれど、タイトルが大仰な割にそこで示された英語は世界の人に理解してもらえるのか自信が持てない、『世界一わかりやすい阪大の英語合格講座』 (藤田健、中経出版)。もう一つは、タイトルが矛盾しているような印象を受けるけど中味を見るとタイトル通りだったと思う『例解和文英訳教本 自由英作文編』 (小倉弘、プレイス) 。

今日は、前者のレビューを。
著者自身が、「はじめに」 (p. 206) の中の、「本書の英作文の解答のスタンス」というところに、

「受験生としてこれだけ書ければ十分」というレベルの解答を載せます。English native speakersから見て多少不自然であっても、入試で減点されない表現であればどんどん使っていきます。

と書いていますから、(私が不思議に思うのは、「なぜ、入試で減点されない」と断言できるのか、という部分なのですが、そこにはこれ以上突っ込みません。) この本では、「英語としては不自然な表現がどんどん出てくる」つもりで読まないとダメでしょう。実際に読んでみると、そのような突っ込み所満載の英語がこれでもか、と出てくるので、正直読むのが辛かったです。
説得力を増そうと思ったのか、

僕の生徒でhad betterとought to doのニュアンスの違いを知っているのに、その否定文が書けない生徒がいて、不合格でした。

という、講師としての経験談が語られています。「不合格の理由が自由英作文での、とある英語表現の出来不出来だと断定できる」のなら凄いことだと思います。最近は情報開示でそんなことまで教えてくれるのでしょうか。

「十分合格レベル」の英語の一例は、東大の過去問 (1989年) の解答例 (pp. 211- 214)です。
気をつけなければいけないのは、これは「解答例」であって、模範解答とか正答例ではないということです。そのまま引用します。

I disagree with this idea for two reasons. First, few young people are interested in politics. Therefore, they won’t vote, even if they have the right. Second, They (ママ) are too young to make any good decision about politics. They need to study about politics more. (45 語)

「お題」がすぐにわかったでしょうか?これは、

  • Young people in Japan should have the right to vote in elections from the age of eighteen.

への賛否を明確にして、40-50語で書く、というものです。
「受験生の意見や内容の是非というよりも、表現面に重点が置かれている」という、阪大の自由英作文の出題意図に関わる公式文書を引き合いに出して、この解答例の妥当性を訴えたいのかもしれません。そもそも、東大の出題文で「内容よりも作文能力を問う問題であることに注意せよ。」という但し書きが、なぜ今の入試では消えているのかをよく考えた方がいいでしょう。
問題のある箇所をあげていきますので、「ぜひ自分が採点官になったつもりで」何がよろしくないのかを考えてみて下さい。

  • few young people
  • Therefore
  • they won’t
  • too young
  • any good decision
  • need to study
  • more

自由英作文であるにもかかわらず、減点法をとるような入試であれば、この段階ですでに「−7点」ですね。もっとも、「ライティング」の採点であれば、そんなことはあまり考えられないことなのですけれど。過去ログの、 

で引いた、テスティングの専門家でもある根岸雅史氏の言葉をよく考えて欲しいと思います。

そうそう、この出題には解答例がもう一つありました。

I agree with this idea for two reasons. First, this will make them interested in politics. It is good for their growth. Second, this will make politicians think not only about old people but also about young people. It will make much better politicians. (44語)

こちらの方が深刻かも知れません。第2文で、もうゲームオーバーになるような気がします。第3文は何をサポートしているのか理解不能です。「内容」はもちろんですが、それ以前に、「英語の表現」になっていないのが残念です。
自由英作文のパートで最初の例題で示される解答例がこの二つですから、後は推してシルベスタ・スタローン…。

最近は、ミントン先生や、ケリー伊藤氏の著作など、ようやく「論理と表現」で優れた参考書が出てきたと思っていたのですが、「入試対策」の自由英作文の教材は、あくまでも問題に答える為のものですから、「英語でのライティング」を身につけるようには作られていないものが多いのですね。ほとんど全てが「出題形式」と「トピック・内容」別に構成されていて、表現と論理の「繋がり」「まとまり」を育て、鍛えるところまでなかなか辿り着きません。「文体論」までは無理としても、「テクストタイプ」はおさえておいて欲しいと思うのですが…。
こういう「批判」を書くと、必ず、「人の悪口を言っていないで、自分でもっと良いものを世に問え!」という諫言をいただきます。有り難いことです。
私自身の実作は、

  • 『パラグラフ・ライティング指導入門』 (大修館書店)

の、「Argumentativeなライティング指導 (対象学年: 高校3年生 タイプ: 論証文)」 (pp. 180-210) で実際の「ライティング」の授業案とその過程で出てきた生徒のプロダクト、フィードバックなどなどをお見せしていますので、是非この機会にお買い求め下さい。共著ですが、私分の印税は全て、東日本大震災の復興支援で寄付させて頂いております。
さて、もう一方の、小倉弘氏の本は、藤田氏の「特定大学対策」とは対照的に、「英語表現」の吟味に時間をかけたことがよくわかる内容で、巻末には索引まであります。私がまず興味を引かれたのは、「序章」でした。

この際に1つ注意しておきたいことは、課題文が英語で与えられているからと言って、単に I agree with this opinion. とだけしか書かない答案を見かけるが、正式な作文の作法から言えば、これでは言葉足らずである。this opinionの内容まで具体的に書くのが礼儀である。確かに、制限字数が少ない作文では、この書き方も許されるだろうが、一般的にはちゃんとテーマを英文で書くべきだ。(p.14)

良い先生ですね。
私がこの2冊の内どちらかを選べ、と問われれば、迷うことなく、小倉氏の本を選ぶでしょう。
こちらのレビューはまた日を改めて。

先週末は学会の話題で私の周辺でも様々な情報が飛び交っていました。
その中で、興味深いものを一つ。
http://watariyoichi.blogspot.jp/#!/2012/06/20120630-0701.html
第42回中部地区英語教育学会岐阜大会での静岡大の亘理陽一先生の発表です。
私が興味を引かれたのが、「進行相」と「動詞の分類」に関するブログでの補足の部分。
亘理先生は『森林本』を取り上げていましたが、やはり森は迷いやすいもので、踏み込むには勇気と良いガイドが必要だと実感しました。
この項目は同じ高校生用の学参でも、

  • 黒川泰男監修 早川勇著 『よくわかる新高校英文法』 (三友社出版、1982年)

では、当時としてはかなり詳しく考察されていました。
早川_progressive1.jpg 直
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20世紀の学参のうち、語学的基盤のしっかりしたものの多くが、R. A. クロース、G.N. リーチや、F.R. パーマーの著作などを参照していたように思うのですが、この『よくわかる…』は、ソ連 (当時) で編まれた “Situational Grammar” なども参照していて、異彩を放っていました。
同じ著者グループによるもので、今でも、古書で比較的入手の容易な、

  • 『英文法の新しい考え方学び方 日英比較を中心に』 (三友社出版、1985年、増補新訂版)

では、pp. 130-148 で詳しく扱われています。とりわけ、p.146の英日での動詞対照表は興味深いので、是非、現在の英語学の知見から遡ってみて欲しいと思います。
動詞の意味特性と時制とを詳しく扱った学習参考書というと、私にとっては、何と言っても、

  • 毛利可信 『ジュニア英文典』 (研究社、1974年)

です。詳しくは、和歌山大学の江利川先生のブログ並びに、そこで紹介されている画像ファイル (「意味による動詞の分類」) をご覧下さい。

私の時制の指導は、このあたりの学参で見て覚えたことに強く影響を受け、その後、専門書で確認していき、現在に至っています。毛利からは、38年、早川からは30年の年月が流れていることの意味を考えています。

本日のBGM: What’s going on? (Marvin Gaye)

追記 (19:36): いわゆる「現在完了進行形」の用法に関しては、過去ログ (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20100107) で引いた、

  • 『生きた英語の上達法』(pp. 12-13、研究社、1974年)

の記述を是非お読み下さい。
昔から、分かっている人はちゃんと教えているのですね。