お読みなさい

週末で文化祭も終わり、担任としての次の大きな行事は「修学旅行」。
海外などではなく、新幹線で東京方面です。なぜ、よりによって大学で4年、教員で21年いた東京へ…。
個人的には、引率より期末試験の方が大変です。高2の修学旅行のために、2学期の期末試験が早まり、高1、高3は授業をしつつ、高2のテスト問題を作り、高2が修学旅行にいっている間に、高1、高3は期末試験なので、結局、修学旅行に行く前に、高1、高3ともに試験は作っておかなければならないというスケジュールですから。どの科目も一人で担当しているため、毎回、3学年で6種類作っているので。同業の方の苦労がよく分かります。

先週も行事前とは言え、授業はあったので、その高1の授業で驚いたことをば。
「まさか?」というよりは、「またか!」とか「まだか…」というのが正直な感想でした。

高1の2学期の授業では、近年「全国縦断公立高校入試リスニング問題制覇の旅!」という企画を続けていて、その一コマです。
入試オリジナル問題の素材文を使った「導入」のあと、素材文では、「スカスカ」でつながりやまとまりが希薄な部分を私が加筆修正した英文を聞かせたり、読ませたりしています。
で、その際に、「ここは比較級の出番」「効かせどころ」と、比較級のポイントを話した際の一部生徒の反応が気になりました。
そこで、ちょっと時間をとって、

  • 中学校の時に、学校の授業や、高校入試前とかに通った塾の先生に、こういうような図で、tall < taller < tallest と教わってきた人?


home_homer_homest.jpeg 直

と訊いたら、4分の1くらいの生徒が手を挙げたのです。これが私の「またか&まだか」。

分母(母集団)がこの三人と決まっているのなら、Aは shortestで、 C はtallest になる。
AとBの比較では比較級 taller が表すのは網かけ部分だけであって、taller自体に『背が高い』というプラスの評価の意味合いがあるのではない。
この場合はただ、『背の高さで勝っている』ことを表すだけ。

と念を押し、「入院患者が、ICUから一般病棟へ移されただけでも、比較したらよくなっているので、betterな状態への変化、意識不明だった状態から意識が戻った程度の回復でも、The patient got better. と言うところが、比較級のポイント」という、私の授業の定番でしめくくり。

「比較」という概念と英語での表現形式は、「入試」が絡むととかく「解法のテクニック」と一緒に語られることが多いのが不幸だなぁ、と常々思っていますが、過去ログのこのあたりをしっかりと読んでおいて欲しいと切に願います。
http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20121028
で示したリンク先の、
http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20080529
にはこんなにコンパクトに書いています。

総じて比較という「概念」は、数量に置き換えて考えれば
• i. ある数量よりも多い・大きい
• ii. ある数量と全く同じ
• iii. ある数量よりも少ない・小さい
の3通りに分類することと言えるだろう。そして、英語の「比較級」というものは、i. かiii.を論じるために存在する形式と言ってよかろう。そうであるならば、「比較級の概念」を否定するということは、i.でもiii.でもなく、ii.が残る、と考えるのが原理原則を単純に考えるということになりはしないか。

これが私の考える「適度な一般化」ということです。

この比較級の扱い(というか取扱のミス)は過去ログでも、とある教師向けの概説書を取り上げて指摘していましたが、その後、この過去ログで取り上げた書籍では修正されたのでしょうか?

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http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20140714


さて、
呟きのtime line で四軒家忍先生が、「英語のo を下から書く人」に対する違和感を述べていたのですが、これ、教師でもやっている人いらっしゃいますね。何年か前に、地元の中学校の研究授業を見た際に、教師の板書でこれを見て、「ドキドキ」しました。

はじめにお断りしておきますが、欧文書体の手書きには唯一絶対の「筆順」「書き順」はないと考えて良いでしょう。ただ、個々の文字を書きやすい運筆は存在しますし、次の文字への連結 (= joins; joining) を考えた際により好ましい運筆は存在します。その意味では、「原理原則」はあると考えてもらった方がいいのです。

いつもいつもいつも、この方の引用ばかりで申し訳ないとは思いますが、日本ではこれほど英語教育に熱心なくせに、この方の本が殆ど読まれていないのですから、仕方ありません。

Rosemary Sassoon. 2006. Handwriting Problems in the Secondary School. Paul Chapman Publishing, London

Handwriting Problems in the Secondary School

Handwriting Problems in the Secondary School

ここでは、教育現場での長年の経験と、彼女の慧眼とに基づいた「問題」の認識とその分析、対処法がまとめられています。

Sassoon HP1.jpeg 直
Sassoon HP2.jpeg 直
Sassoon PW1.jpeg 直
Sassoon PW2.jpeg 直

四つ目のファイルだけ、写真も見えるようにしておきましたが、未読の方は、どのページにも、「知っておくべきこと」が見つかることでしょう。
「(小文字の) d」の指摘などは私でも「目から鱗」でしたから。
文字の「類型」に関しては、日本の小学校英語関連では、いまだに「大文字」から教えて、「小文字」へと移行し、「なぜ小文字のほうが上手く書けないのか?」なんてことをぼやいていたりしますけど、もっと「真面目」に、英語L1の文字指導の知見(の蓄積)から学ぶべきだと思いますよ。

大御所のAlfred Fairbankしかり。A Handwriting Manual (1975年版) では、次のように類型化しています。

Straight downstrokes (hill)
Upstrokes and diagonal joins (nun)
Horizontal strokes and joins (ton)
Clockwise curves (bhkmnpr)
Counter-clockwise curves (acdeglqtu)
Ellipses (o)
Angles (vow)
Pushed strokes (adf のentryや fgjs のexit)
Serifs (inu のexit)

ここで、o の類型が、円ではなく、楕円になっているところがミソ。

もう少し近年では、Nelsonのシリーズを支えてきた、Peter Smithしかり。
Peter Smith. 1993. New Nelson Cursive Copymasters Teacher’s manual, Nelson では、

Family 1: a c d e g o p are based on the oval, starting at ‘1 o’clock’ and moving anticlockwise.
Family 2: b h k m n p r are based on the bridge pattern, which should not be too wide.
Family 3: f I j l t z are based on vertical and/or horizontal straight lines.
Family 4: u and y are based on diagonals, while s is a special case with reverse direction curves.

という類型です。Family 1 で、o だけではなく、acdegp のボディ部分(カウンターなどと呼ばれることもあります)が circle ではなくovalであることに注目してほしいと思います。
この教師用指導書には、教室内評価の項目として、Construction of letters に次の観点が明示されています。(p.17)

a) Are the letters made with the correct movements?
b) Are all the letters except f I j t x made without lifting pencil from paper?
c) Are downsrokes vertical and parallel or sloping slightly to the right?
d) Do a b c d e g o p q have oval rather than rounded bodies?
e) Are the letters correct in shape and proportion?

d)の項目は「評価」の対象でもあります。
e) が最後に来ていることは、日本の指導者・研究者にもう少し注目されてしかるべきでは?

ということで、「目利き」の目にもいろいろあるわけですが、上述のSassoon本に関しては、書名の Secondary School という用語がミスリーディングかと思えるほどに、handwritingの指導に関わる、全ての教師が読むべき価値のある本だと思います。

できれば、本日の表題を、以下のセリフに置き換え、更に、『銀河鉄道999』のメーテルや女優のオードリー・ヘップバーンさんの吹き替えで有名な声優の池田昌子さんの声に脳内変換してお読み下さい。

  • ていうか、読めよ!

本日のBGM: The Audrey Hepburn Complex (PIZZICATO V)