文字指導の明日

大阪での「小学校英語の文字指導セミナー」終了。
偏に私の講演の時間超過で、最後のシンポジウムが不完全燃焼の方が多かったことと思います。深くお詫びします。

新しい出会いもあれば、旧交を温めるシーンもあり、依頼を引き受けて良かったのだろうな、と思いました。一番実感したのは、G大の「血」のようなものですね。若林先生のことばを反芻しています。

英豪の実際の教材も少しだけですがお持ちしました。
私自身そうでしたが、彼我の差を感じて、「じゃあ、この後、自分はどうするか?」というところで、悩み処です。で、やっぱり、悩み処では悩むしかないと思うのです。Instant remedy はないということでしょう。

JACET教育問題研究会主催 
「小学校英語教育における文字指導について」のセミナー
2017年7月1日 於:関西外国語大学

落ちこぼれを無くすための入門期における適切な文字指導として
〜 handwriting指導の基礎基本 〜
松井 孝志(まつい たかし)


当日の投影資料の写しと、レジュメとして配布したものの終わりに付けた「参考資料」をこちらで公開しておきます。くれぐれも二次使用の際は良識に則ってお願いします。(商用での利用はご遠慮下さい。私が引用しているものを再度引用する際など、オリジナルの出典の明記をしていただきたく思います。)

当日投影資料 (一部のスライドはカットしてあります。PDFで4.6MBありますのでご注意。)

20170701 文字指導プレゼン公開版(修正版)
20170701 文字指導プレゼン公開版(修正版).pdf 直
今回の資料作成に当たり、大名力先生(スライド6)、齋藤理一郎先生(スライド31)、手島良先生(公開版ではスライドは割愛)、松浦年男先生(スライド29)より貴重な資料をお借りしました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。

以下、配布資料の見出しを掻い摘んで。

0. (再)入門期に於ける英語の文字指導での基本的な考え方
1. ライティング指導の第一歩は文字指導:Handwriting の基礎 6 段階
2. 文字の「からだ (=elements)」とその名前
3. 文字のプロポーションを考える:四線は必要か?
4. 様々なバリエーションとプロポーション
5. Italic Hand を模した各種書体
6. モデル提示
7. 身体知(筋感覚)を開発する指導の重要性
8. 単独・単一の文字から文字の連続・まとまりへ 〜 何を書かせるか?
9. 「視写」の難しさの要因
10. ドリルでは何回も書かせない
11.「分割&縦書きドリル」とその功罪
12. それでも視写は難しい
13. グリップ(pen hold; grip; grasp)
14. 姿勢と利き手
15. 最後に二人の先人の言葉を
  ローズマリー・サスーン
  Handwriting: the way to teach it (2003) “The priority for handwriting in the curriculum”

As there has been so little guidance on how to teach handwriting for so long, it has now become accepted that it is a problem to teach and to learn. This book suggests that informed and confident teachers should be able to teach the basic movement of letters quite quickly and in such a way that many of the problems that hold children back later on should never occur. This is not a matter of more resources or teaching time, but using them at the right time and in the right way.
Each school will have to decide how to arrange the curriculum to ensure that enough time is allotted for skill training, particularly in the first year of schooling. The more thoroughly handwriting is taught at the beginning the less time will be necessary later on.

参考資料

直ぐに検索・確認が可能な website など

1. 英国 National Handwriting Association のサイト
http://www.nha-handwriting.org.uk/about-nha/about-nha
2. 豪州タスマニアの department of education のhandwritingの手引(pdf資料、2009年版)
https://www.education.tas.gov.au/documentcentre/Documents/Handwriting.pdf
3. Rosemary Sassoon の書籍のサポートサイト (ダウンロード可能な pdf 資料あり)
https://studysites.uk.sagepub.com/sassoon/default.htm
4.「なぜSassoonなのか?」というSassoon フォントのPRブックレット
http://www.sassoonfont.co.uk/fonts/sas/WhySassoon1.3.pdf
5. briem.net 〜 書家、fontのデザイナーである Gunnlaugur SE Briem 氏のサイト
http://briem.net/index.html
6.「英語教育あれこれ:『どれ?』『それ!』」 手島良先生のブログ 
https://blogs.yahoo.co.jp/tokyo_larkhill



概説書・教則本などの書籍

7. Rosemary Sassoon
※ サスーンの代表的著作から、cとdだけでも英語を教える小中学校、高校に1冊揃えて欲しい。
a. The Acquisition of a Second Writing System. 1995. Intellect, London
b. Handwriting of the Twentieth Century. 1999. Routledge
c. Handwriting: the way to teach it (2nd). 2003. Paul Chapman Publishing, London
d. Handwriting Problems in the Secondary School. 2011. Paul Chapman Publishing, London
e. The Power of Letterforms: Handwritten, printed, cut or carved, how they affect us all. 2015. Unicorn Press

8. Penpals for Handwriting のシリーズ
※ NHAによる理論と実践の全面的サポートを得た、Cambridgeと HITACHI のコラボレーション。
DVDを使ったICT教材まで開発&実用済み。日本の学齢で言えば幼稚園段階から小学校卒業くらいまで系統的に教材が開発されている。
http://www.cambridge.org/gb/education/subject/english/literacy/penpals-handwriting-second-edition-series

9. Handwriting Practice のシリーズ
※ シリーズの1 が文字形成 (= letter formation)、2が連結 (= joining) を練習するためのテキスト。
 通称『マチェット本』  
https://www.schofieldandsims.co.uk/product/555/handwriting-practice-1
https://www.schofieldandsims.co.uk/product/556/handwriting-practice-2

10. Nelson Handwriting Developing Skills のシリーズ
※ 歴史と定評のあるネルソンのシリーズ。個人的には80 -- 90年代の指導体系の方が好きでした。
https://oup.com.pk/school-textbooks/english/english-workbooks/nelson-handwriting-developing-skills-book-1.html

11. Targeting Handwriting のシリーズ
※大きく6つの行政区分ごとに指導体系とフォントを開発しているオーストラリアで使われている教則本のシリーズ。
http://www.pascalpress.com.au/targeting-handwriting/



日本の英語教育・語学教育環境に配慮のある概説書や教則本

12. 『新英語教育講座 第三巻』研究社 (1948年) ※絶版
※第二次世界大戦の敗戦後、学制改革に伴い、「新制中学校」での英語指導を担当できる「英語教師」の養成が急務だったため編纂された「講座」のうちの一冊。「英習字」の執筆担当は篠田治夫。その前の「英語の綴字」の担当が松本鐘一、「ローマ字」の担当が星山三郎となっている。

13. 『語学的指導の基礎 (中) 英語科ハンドブックス 第三巻』 (研究社、1959年) ※絶版
※「英習字」の執筆担当者は寿岳文章。能筆家の「お手本」を多数収録。

14. 宮田幸一『教壇の英文法』研究社 (1961年) ※絶版
※ 改訂される前の初版にのみ収録の「第三部 語句・発音・文字」にある幾つかの項目 (247. 文字の画順、248-49. 小文字の発生、251. F、 252. TおよびF、253. 横棒と点、258. Syllabicationの法則、263. つづりを覚えさせる方法、など) での宮田の解説は、今日でも示唆に富む。

15. 宮田幸一『発音・つづり・語形成 教室英文法シリーズ8』研究社 (1969年) ※絶版
※ 第2部の「つづり」(pp.99-138) が、今日でいう「フォニクス」の原理原則を記したもの。受け売りに甘んじることのない著者ならではの、地に足の着いた記述となっている。

16. 『英語教育の歩み 変遷と明日への提言』中教出版 (1980年) ※絶版
※ 第2部の執筆担当者は若林俊輔。第1章 13.活字の字体---どういう字体を選ぶか (pp. 195-200)、
 第2章 3. 発音記号の論理 (pp.212-223) は文字指導と音声指導を再考する確かな足場となる。

17. 竹林 滋『英語のフォニックス 綴り字と発音のルール』ジャパンタイムズ (1981年;改訂版1986年) ※絶版
※ 音声学・音韻論といった学問的裏付けのある phonics の概説書。

18. 若林俊輔『これからの英語教師』大修館書店 (1983年) ※絶版
※ 文字指導に関しては、第10章 ― 第14章までが参考になる。1980年刊の上記 16. では「イタリックハンド」に手書き文字指導の活路を見ていた感のある若林が、ここでは「ローマン体を少々変形した書きやすい字体」を推しているのは興味深い。

19. 手島 良『スラすら・読み書き・英単語』NHK出版 (1997年) ※絶版
※ 「NHKラジオ 基礎英語」の講座からのスピンオフ教材。Sassoonフォントを採用した、読みやすく書きやすいモデル提示にしたがって実際に発音と文字(単語)をつづる練習ができる。

20. 成田圭市『英語の綴りと発音 「渾沌」へのアプローチ』三恵社 (2009年)
※ 文字から音声への類型化だけでなく、音声から文字へ、という類型を把握するのに役立つ。

21. 大名 力『英語の文字・綴り・発音のしくみ』研究社(2014年)
※ 発音と綴り字の関係や「ルール」と称されるものに関して、俗説の誤りを正すのに必読の書。

22. 『日本語学2016年11月特大号』明治書院 (2016年)
※ 特集「手書きの字形を考える」は、日本語の漢字、かな(カナ)をとりあげ、「読むための書体」「書くための書体」を考えるヒントを多数与えてくれる。



タイポグラフィー、文字デザインなど

23. 小林章 『欧文書体』(2005年)、『欧文書体 2』(2008年) ともに美術出版社
※世界的な文字デザイナー小林章氏の仕事。今回の発表スライドでも一部用いた Between 3も彼のデザイン。
ブログ:「小林章のドイツ日記2」
http://dnikki2.exblog.jp/

24. 小泉均 編著『タイポグラフィ・ハンドブック』 研究社 (2012年)
※ 基礎基本、定番、常識を知るための「ハンドブック」。



その他
25. 国際交流基金『文字・語彙を教える 日本語教授法シリーズ3』ひつじ書房 (2011年)
※「国語」としてではなく、「日本語教育」の観点で、「日本語の文字」を見直すための資料。

26. 笹田 哲 『書字指導ワーク 字を書くための見る力・認知能力編』中央法規 (2014年)
※「幼児教材のギザギザや波線をなぞったり書いたりする練習は文字を書くための練習にならない」などと嘯く前に、児童生徒の「認知」「視認」「運動機能」などについて、指導者(教師や親)がきちんと向き合うための本。


ワークシートの四線の写しがこちら。
今はエクセルなどの手軽なアプリでお好みの間隔を設定できるので、ご自分で作られるのが一番かと。

四線ヨコ(文対応)
ワークシート四線ヨコ.png 直

四線タテ(語やフレーズ対応)
ワークシート四線タテ.png 直

※2017年11月16日追記:

四線タテ版(5:9:6)
四線2017 網掛け濃いバージョン596.pdf 直

でも、期末テストの合間を縫っての大阪はちょっと疲れました。

本日のBGM: Throw You Over (Aimee Mann)

※2017年7月3日追記

過去ログのこちらの資料を併せてお読みいただくと、より今回の講演内容が理解できるかと思います。
益々、悩みが深くなるかもしれませんが…。

英語の文字指導
tmrowing.hatenablog.com