前回のエントリーでお伝えしたように、ファイル容量が満杯となったため、ブログの更新が滞っておりましたが、見通しがある程度立ったので、新たなエントリーです。
2月のパブリックコメントも殆ど「広く国民の意見を受けて…」という既成事実づくりだったかのような、ろくでなし、なし崩しに近い「次期学習指導要領の告示」が行われました。
私のパブコメはこちらに示してありました
「もっとスローにささやいて」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20170311
で、この意見に対する回答はあったのか、あったとしたらどのようなものだったのか、見に行こうかと思っていたのですが、GWの真っ只中で閲覧は終了なのですね。以下の電子政府のリンクを参考までに。
お寄せいただいた御意見の閲覧について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000157167
もし、どなたか、見に行かれるという方がいましたら、ご連絡いただければ幸いです。
今日から本格的に新年度のスタートで終日会議。
明日が始業式です。
今年度は授業の種類が、「総合的な学習の時間」も含めると8種類という教師生活31年で最多となりました。学年を跨る学校設定科目の各学年の配分が1単位ずつだったりするので、なかなかに大変です。
新入生の英語力はおいおい確かめるとして、上級生、特に2年生は、授業内で「学級文庫」の英語関連書籍を読む時間を設定して、個別化対応を少し進めようかと考えています。
昨年は全英連での発表があり、それまで8年続けていた「山口県英語教育フォーラム」に一応の区切りをつけました。その最終回にあたる一昨年の私の発表が、
「英語力の可視化」かくかくしかじか
というものでした。
過去ログだと、
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20151117
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20151118
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20151130
と、そのリンク先の資料をお読みいただければ、私の意図は理解できるのではないかと思います。
呟きのほうでも「ヨンギノー」と揶揄する発言を多数しておりますが、上述の私の発表でも取り上げた、この資料にも (http://4skills.jp/qualification/comparison_cefr.html) あるように、「対照表」だけが一人歩きするかのような「四技能試験」礼賛には懐疑的であり、各種資格試験・英語運用力試験のそれぞれの特徴・特質を無視し、相互を乱暴に対照表にして、CEFRとの対応付けや意味付けをしていることを憂うものです。
先日、広島大学が平成31年度の「一般入試」で外部試験を用いた(新)センター試験英語での「みなし満点」の制度を公表しました。
英語外部検定試験の一般入試等での活用について
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/38253
ここで示されている、それぞれの外部試験の基準も、上述の対照表・一覧表で示されているものと全く同じものがつかわれています。
3 活用する英語外部検定試験
(1) 種類
活用する英語外部検定試験は平成29年度AO入試(総合評価方式)で本学が指定している英語外部検定試験の一覧(以下の表)と同様とし、適用区分はCEFR(外国語のコミュニケーション能力を6段階(A1~C2)で示す国際標準規格)B2以上のスコア・等級とします。
名称 スコア・等級(適用区分B2以上)
Cambridge English FCE(160~179)以上
そして、次のような但し書きがついています。
(2) 有効期間
平成31年度入試の場合、平成28年4月以降(2年10か月前から)に受験したものを有効とします。
私の疑問は次のようなものでした。
「ケンブリッジ英検」は、世界のどこで何時受験しても、合格した資格は生涯有効、というのが、最大のポイントだと、私は生徒にも伝えているのですが、この広島大学のように、他の資格・技能試験と横並びで「有効期間」を設定している根拠は何なのか?ケンブリッジ英検側に照会したりして、了解をとっているのだろうか?
というのも、外部試験として、わざわざ「ケンブリッジ英検」しかも、PETではなく、FCEを要求するというのは、その試験としての世界的な評価を認めたからこそではないか、と思うのです。
にもかかわらず、「3年経ったら、ケンブリッジ英検で認めた英語力は低下しているかもしれないから、有効な英語力の資格とは認められない」というかのように、他の試験と一律に有効期限を儲ける広島大学の見解は、ケンブリッジ英検の試験としての妥当性や、信頼性を含む、評価そのものを否定するものではないのか、ということです。
今回私は、広島大学の担当部局と、ケンブリッジ英検の担当部局に照会しました。
広島大学の「入学センター」の担当者Sさんに電話でお聞きしたところ、外部試験を利用する趣旨は2点あるというのですが、その回答は私の疑問に答えるものではありませんでした。
1つ目。高校の現役生を想定していて、高校入学前ではなく、高校での学習成果を見る。
2つ目。「各種試験の英語力を認めない」ということではなく、大学入試の一般入試という枠組みで考えている。
一つ目の趣旨は、Sさんによれば「最近ありますよね、小学生で英検準1級合格とか、そういうのではなく、高校での学習の成果を見たい」という回答でした。ということは、この制度で受験生の資質として評価する主眼は英語力ではない、ということなのでしょうか?
「ケンブリッジ英検では生涯有効な英語力のお墨付きを出しているのに、3年以上前の合格だと、広島大学はその英語力を認めない、ということに関して、ケンブリッジ英検には照会などをしているのか?」という質問には、「これは広島大学独自の一般入試での見解であって、先方に問い合わせたり確認したりはしていない」とのお答えでした。
「外部試験」って、何を証明するための資格試験なのか、よくわからなくなりました。英語力があると認める生涯有効な試験の結果を、なぜ大学独自に却下してしまえるのか?
ということで、次は「ケンブリッジ英検」に問い合わせです。
日本国内の統括のオフィスから、英国の本部へと照会していただくという大変なお骨折りを経て、回答を得ました。
機構本部(Cambridge English Language Assessment) のGlobal Recognition Teamよりの私宛の回答ですが、「私信」ではなく、このブログのようなSNSで公開しても構わないという許可を得ています。
当たり前といえば当たり前ですが、流石は英語の試験の「横綱」とでも言えばいいでしょうか、この回答にはケンブリッジ英検としてのスタンス、矜恃がはっきりと現れていると思いました。
一番初めの回答がこちら。
Cambridge English certificates do not expire. They show that on a particular date the holder demonstrated that they had attained the specified level of language skills. Language skills can however diminish over time, if they are not practised, this is often referred to as ‘language attrition’.
Educational institutions and employers need to take into account a number of factors when considering an applicant’s English language skills – most importantly whether the holder has maintained their use of the language and whether the level of the certificate is suitable for the job or course in question. Universities, employers, professional organisations and government bodies can set their own language requirements and may use their own criteria on any exam’s validity on the basis of timeframe, level and subsequent use of the applicant’s English language skills. They may therefore request additional evidence of current language ability.
The decision of whether to accept older certificates is left to individual institutions, depending on their requirements. So, while our exam certificates do not expire, it is important for all language learners to practise their skills after successful completion of an exam.
IELTSとの違いに関して補足があった二回目の回答がこちらになります。最後の段落でIELTSに言及があります。
Shelf life of certificates
We are sometimes asked how long the Cambridge ESOL certificates last, or whether a candidate who took an exam some years ago needs to retake the exam.The simple answer is that the certificates do not expire. They show that on a particular date the holder demonstrated that they had attained the specified level of language skills. For most candidates, the certificate is the result of a specific preparation course and serves as a mark of achievement in completing the course successfully.
It is clear, however, that language skills can diminish over time –a phenomenon often referred to as ‘language attrition’. In deciding whether to rely on a certificate obtained some years ago, educational institutions and employers need to take into account a number of factors, most importantly whether the holder has kept up his or her use of the language and whether the level of the certificate is significantly higher than that required for the job or course in question.
There are therefore no hard-and-fast guidelines for the period since obtaining a Cambridge ESOL certificate after which additional evidence of current language ability may be required by employers or institutions.
The Test Report Form provided by IELTS is not a certificate since it is not focused on a particular level of language ability; for this reason, the normal shelf life for an IELTS Test Report Form is two years (see under Results in the IELTS Handbook).
今回、広島大学とケンブリッジ英検にお尋ねして、そのそれぞれから回答を得たわけですが、あらためて、外部試験のスコアや級の比較対照表のようなものが独り歩きしていることに危惧を感じています。
試験それぞれには、それぞれの特徴・特質があります。それぞれの試験で測定している英語力とはどういうものなのか、対照表を「鵜呑み」にするのではなく、今一度、冷静に考えて見るべきでしょう。
私は「ライティング」が専門と自称していますが、ケンブリッジ英検のFCEでのライティングで要求される技能と、日本の「英検」の準一級のライティングで要求される技能とが横並びになる、とはちょっと思えません。
ともすれば、「四技能」というbuzzwordばかりが飛び交っていて、外部入試で「四技能」試験を採用している大学は、個別試験で従来型の大学入試を課している大学よりも進んでいる、優れている、という評価を煽るかのような英語教育の世界ですが、喧伝する声の大きさに躍らされたり、行列の長さに靡いたりせず、それぞれの「試験」を、当然、センター試験(に代わるといわれる新テスト)や、大学の個別試験も含めて、きちんと評価吟味をした上で活用することが大事だと思うのです。
そして、何よりも地に足を付けて英語教育、特に日々の授業に取り組むことの重要性を、中高現場の教師に伝えたいと思ってブログで情報発信を続けている次第です。
外部試験とCEFRの関連に関しては、validationの問題も含め、今一度、2015年の私の発表「『英語力の可視化』かくかくしかじか」をお読みいただければ幸いです。
フォーラム配布資料
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/files/2.yamaguchi_EngForum_matsui.pdf
最後になりますが、今回、お忙しいところ時間を割いて回答して下さった、広島大学、ケンブリッジ英検の皆様に御礼申し上げます。
本日のBGM: ノビシロマックス (The Collectors)