No pain, no gain.

tmrowing2016-01-30

更新間隔が空きましたが、40年ぶりの寒波にも負けず、大雪にも負けず、その後の大雨にも負けず、無事に生きています。

担任業務としては、センター試験のデータリサーチをもとにした出願校最終決定の三者懇談がありました。
それと並行して、高1、高2の授業では、今年のセンター試験の「リスニング問題のスクリプトをしっかりと読んでみる」という課題に取り組んでいます。設問の答えを選ぶだけでなく、対話なら対話のつながりとまとまり、二人の対話の前提とゴールは?といった観点で時に辞書を引き、時に類似の、また関連する表現や語句を示したり、と(少なくとも私自身は)楽しくやっています。

こちらにメディア対応用の問題、スクリプト、音源等がありますので、リンク先からDLして下さい。これが本当に正しいものであるかは私には分かりません。大学入試センターのサイトでは正解しか公表されておりませんので悪しからず

https://www.dnc.ac.jp/center/kako_shiken_jouhou/h28/jisshikekka/H28honshi_mondai.html

※2018/12/22追記:メディアのリンクは既に切れているようなので、DNCの当該頁にリンクし直しています。

相変わらず、第一問は、「他人の会話を盗み聞きした上で内容に合うものを選ぶ」という下世話というか、お行儀の悪い設問ですね。

・ 誰が誰に対して、どのような場面で、何のためにその文(ターン)を言っているのか?
・ 生徒同士、親と子、先生と生徒、などの他に、考えられる人間関係は?

などというところにツッコミを入れつつ進んでいきます。


こんな具合です。
問1

W: Have you seen the new school flag?
M: The one with the name around the logo?
W: Yes, but the name is under it instead of above it.
M: Yeah, it’s great!

女性の2ターン目の “but” は何と何を対比しているのか?Aを踏まえて、Bに焦点を当てる、とすると、A, B はそれぞれどういう内容?受験生が正答を選ぶ際には、この流れとか、butの対比はあまり気にしていないでしょう。「前の旗」が想起できたら、なぜinstead of で上下の位置関係に言及しているのかも、もう大丈夫ですね。

問3

M: How are your classes going?
W: Well, I love math, and music is also fun.
M: What about science?
W: I don’t care for biology, but physics is great.

最初の疑問文は「誰が誰に対して尋ねているのか?」を考えてもらっています。「高校生同士」だと、同じクラスの生徒ではないでしょう。中学校が同じで、別の高校に通っている生徒同士の対話ならアリでしょう。もし同じクラスであれば、入院とか、何らかの理由で今は授業に出ていない生徒から、他の生徒に対して、ということがあるかもしれません。「生徒同士でなければ、あなたの授業の様子を気にするのは誰?」と問うて英語が苦手な生徒から、「親」という答えが返ってきたのは嬉しかったですね。
もし、

  • あなたもあなたよ。もう少し父親らしいことをタカシにしてあげて下さいよ。
  • ああ、そうだな。悪かった。

… 場面転換 …

  • (コンコン) タカシ、ちょっといいか?How are your classes going?

なんていう流れだと、普段息子と話をしていない父親が息子に話しかける場面、という感じになりますよね。

「もうかりまっか?」「ぼちぼちでんな」というような、ベタなsmall talk を切り出す定型表現も、表現をただ列挙して覚えてもお互いの前提や了解事項が解らないと意味不明、ということも多いので、時間をとって解説しています。
例えば、

How’s everything going?
How’s business?

あたりは慣用ですよということで覚えられても、

How’s your wife?
How’s your cold?
How’s your knee?

となると、実感が持てない者も結構います。殆どの高校生ってまだ結婚してないから。対話の当事者では前提となる知識も問題の解答者には知らされていないので、その部分を「惹起」しておくことは大事だろうと思います。How’s your wife? であれば、「最近奥さんにはお目にかかっていないけれど」という部分が前提知識でしょう。How’s your cold? であれば、風邪を引いていたか、引きそうだった人に対してかけることばでしょうし、How’s your knee? であれば、「膝に不安を訴えるお年寄り」とか「手術後の高橋大輔選手」とか前提があるでしょう。授業では、某CMを真似て「グルグルグルグル、グルコサミン」とやっておきました。
一方、

How do you like your life in Yamaguchi?
How would you like your eggs [steak]?

での how で尋ねられた(求められた)内容の差異を、do とwould の違いだけに求めるのは結構酷です。
他には、and, also, but によるペアの処理の基本も確認しています。andであれば、「ペア」「順序・列挙」「因果関係」、alsoであれば、「何に何を追加、添加したのか?」「何のレベルがその2つで揃っているのか?」ということを確認します。だって、普段からそうしておかないと、身につかないし、書いたものが英文にならないから。

面白いのは問4。

M: Hurry up! The report is due soon.
W: I thought you said we still had 50 minutes left.
M: That was half an hour ago!
W: I didn’t realize it’d been that long.

設問は単純な計算ですが、Wの最初のターンで、入れ子になっている名詞節の処理が適切にできるかを重視しています。
形容詞のdue は英語の実態から言えばCEFR-J のように「語」一括、全ての語義を引っくるめての表示だと、A1レベルの必修語であり基本語ということなのですが、運用レベルでは身についていない生徒が多いようです。

パラフレーズとしては、

  • You are supposed to give the completed report to your teacher soon.

を示しておきました。ここで気になるのは、この due と<be supposed to 原形>とでは、どちらが発達段階では初期なのか?ということ。

例によって、Text Inspectorで調べてみました。

due

語義詳細を一寸だけ拡大。

同じ語でも、語義・用法によって当然のことながらランクが違います。

(be) supposed to

こちらも一寸拡大。

こちらも語義・用法ごとに表示をしてくれています。

どちらも、この語義では、B1表示で、私の実感とも近い感じ。やはり、Cambridge English Lexicon時代からの伝統があるせいか、ケンブリッジ系の語義のCEFR表示を気にしていた方がいいような気がします。

しかしながら、この第一問のハイライトはなんといっても、問5。

W: Excuse me. What are you doing?
M: I’m checking my email.
W: Students are supposed to leave their phones in the lockers.
M: Oh, sorry. Where are they?

この女性の最初の質問は、「誰が誰に対してどこでいつ何のために聞いているのか?」を確認する格好のテストですね。私の生徒も当然、「目の前の人に対してdo という漠然とした動詞で質問はしないだろう」ということくらいはわかっています。せいぜいが、 目に見えないことを問う、 “What are you thinking about?” とか、「読んでいることはわかるけど、何を読んでいるのか?」ということで、 “What are you reading?” というような質問が普通でしょう。では、なぜ、ここでは目の前の相手にこの質問をしているのか?「ちょっといい? あなたは今何をしているのかしら?」と、携帯かスマホをいじっているのをわかっていての「遠回しの注意」ですね。ここで「上から目線」のようなギャップを感じられることを重視しています。この「上から」注意しているのは、「教員」ということで間違いないでしょう。その遠回しの注意に対する返答が、「メールのチェックですけど、何か?」のように、注意されたとは思っておらず、あまりにも悪びれていないようですから、きっと教員の方はアドレナリンが出てくることでしょう。普通は語気が荒くなりますよね。でも、見た目冷静に、「生徒は、自分の携帯をロッカーに入れることになっていますよね」と、無冠詞複数現在形での一般論で “Students are supposed to ….” の語彙選択が秀逸です。ここで、言われた生徒は不貞腐れて応答している様子が目に浮かびます。「すぅぃませぇんでしたぁ」というような声が聞こえそうです。「で、ロッカーってどこにあるんですか?」という聞き返しに、先生がブチ切れていないことを祈ります。この対話は、音源を聞いてみると、明らかに最後のターンで声のピッチが変わっていて、吹き込み者の演技力が発揮されているように思いました。音源をまだ聞いていない人も、既に聞いた人も、この観点で、聞いてみてください。
今年の対話は傑作が多いかも。

この週末には、自校入試の「受験生対象解答解説会」が行われています、英語は先程終わりました。
進学クラス用の選択問題は主として私が作成していますが、今年のグラフ融合読解問題では、

  • 寺沢拓敬 『「日本人と英語」の社会学』(研究社、2015年)

から資料を転載して、英文で書き起こしました。英文も内容理解の設問も簡単ですが、他の高校入試ではあまり経験できないような内容の読解問題だと思います。それに続いて、英文の主題に関連して、グラフの説明で用いた表現から、自分のことに当て嵌まるものをコピペすれば書くことが可能な、「お題作文」が出るというお決まりのパターンです。

  • そこにもう、書いてあるんだから、それをちょっと加工すれば書けるのに…。

と思わなくもないのですが、語句や構文の選択、意味順での並べ方、活用や形合わせでミスをするのが中学生ですので、その点へのフィードバックも与えて、「こういうところはしっかり確認して、これから受ける県立高校の入試に備えて下さいよ」という親切(おせっかい?)なアドバイスもしています。

太田洋・日臺滋之 『新しい語彙指導のカタチ 学習者コーパスを活用して』(明治図書、2006年)

丹藤永也 『エラー95選 間違いから学ぶ中学英語の基礎・基本』(学校図書、2012年)

金谷憲監修、小林美音他著『中学英語いつ卒業? 中学生の主語把握プロセス』(三省堂、2015年)

辺りを踏まえて作問し、採点・分析した上で、解説しています。
規則動詞の活用での発音と綴り字のマトリクスをお土産に持って帰ってもらい、Read and look up と Backward building は、読解問題の英文を使って実演し、受験生にも実際にやってもらいましたが、今日の参加者は、普段の英語の授業で Read and look up も Backward building もやったことがないと言っていて、そんなものかな、という感想を持ちました。学校の状況に差はあったとしても、英語の授業であれば、もう少し普及、定着していてもいいだろうというのが正直な実感です。

さて、
先週末は全米選手権と全加選手権、今週末は、日本では国体、スロバキアではユーロ選手権とフィギュアスケートのシーズンもいよいよ佳境を迎えます。
全米選手権はどの種目も胸が熱くなるような熱戦でした。アイスダンスでは、シブズの初戴冠。女子シングルではGGの奇跡の逆転劇。そして男子シングルでは、アダム・リッポン (Adam Rippon) 選手悲願の初優勝。試合だけを見ていても、ドキドキ、ワクワク、ウルウルの連続でした。

その全米選手権、男子シングルで、前人未到のフリーでの4回転ジャンプ4発を成功させた、ネイサン・チェン (Nathan Chen) 選手が、競技後のエキシビション (exhibition) で負傷。車椅子でリンクから運び出され、病院へ。その後の情報では、手術は成功で、8週間から10週間 でリハビリに入るようです。速報では、

  • avulsion in hip

ということでしたが、いくつか記事を読むと、前から不調を訴えてはいたようで、 hip (pelvic) avulsion fracture なのだろうと思います。

Nathan Chen to miss worlds after injuring hip in exhibition
http://sports.yahoo.com/news/nathan-chen-miss-worlds-injuring-hip-exhibition-171705477--spt.html?soc_src=mediacontentstory&soc_trk=tw

Chen injures hip in gala exhibition, status uncertain
Newly crowned U.S. bronze medalist was to undergo tests Sunday night
http://web.icenetwork.com/news/2016/01/25/162778818/chen-injures-hip-in-gala-exhibition-status-uncertain

Injured Chen ruled out for remainder of season
U.S. bronze medalist undergoes surgery on left hip following gala mishap
http://web.icenetwork.com/news/2016/01/28/163055214/injured-chen-ruled-out-for-remainder-of-season

どのような部位でfracture とかavulsion が生じたのか、という正確な情報は入っていません(トップアスリートですから普通は伏せるでしょう)が、一般的な負傷部位は次の資料がわかりやすいでしょう。

Hip Avulsion Fracture
http://www.cc4pm.com/pdfs/files/Hip%20Avulsion%20Fracture.pdf
(Comprehensive center for pain and management http://www.cc4pm.com/index.html)

診断やケアの難しさは、次の資料を見るとよくわかります。選手やコーチも、こういったことは十分にわかったうえで試合に臨んでいるのだと思います。

Hip Injuries in Young Athletes - Rady Children's Hospital
http://www.rchsd.org/documents/2014/02/hip-injuries-in-young-athletes.pdf

コーチのラファエル・アルトゥニアンさんは浅田真央選手も指導したことのある、世界有数の名コーチで、超がつくくらいのベテランです。今大会でも、女子銅メダルのアシュリー・ワグナー選手、男子金メダルのリッポン選手を指導しています。
アルトゥニアンさんも言っているように「どこからがやり過ぎなのかは誰にもわからない」というのは確かだと思います。でも、成長期の骨は、常にハードトレーニングのリスクと背中合わせなんですね。世界ジュニアの金メダルも確実と言われていて、シニアでも十分に戦えることを証明した今大会でしたが、今回の負傷でどちらも見送りとなり、全米選手権銅メダルの代償というには余りにも「痛い」結果となりました。
チェン選手も、コーチも、急がず、焦らず、じっくり、しっかり治して、競技に復帰してくれることを望みます。
Nathan Chen、あなたは男子フィギュアスケートの未来なのですから。

PIWの振り返りなどはまた日を改めて。

本日のBGM: Sense of Purpose (The Pretenders)