めっきり寒くなってきました。
11月も残すところ今週いっぱい。いよいよ「師走」です。
12月1日 (日) に上智大で開催されるシンポジウムに参加するため上京します。
上智大学・ベネッセ応用言語学シンポジウム2013
これからの中学校・高校での英語の指導と学びを考える -全国の高校入試分析と中高生の英語学習実態をもとに-
開催日時 : 2013年12月1日(日) 10:30〜17:00
開催場所 : 上智大学 四谷キャンパス 中央図書館9階(L-911・921)
フライヤー (PDF)はこちらhttp://www.arcle.jp/event/pdf/symposium2013.pdf
私のお目当ては、「高校入試」の分析。
10年というスパンで、サンプルを集めデータを分析することで、「時代」とか「不易流行」が浮かび上がってくるのかな、という期待も膨らみます。
大量のデータを分析することで、個々の出題の批判、非難、揚げ足取りから、一つ高い次元で「中学校卒業段階で求められる英語力」を考えることが可能になるのだと思いますし、その意義は大いに認めます。
ただ、主として高校現場にいて、自校の入試問題を作成し、またその問題を通過してくる新入生の面倒を見る立場から言わせてもらえば、公立高校入試、各都道府県の出題で、英語力の何を見ているのか、がよく分からない「出題」に遭遇することもなくはないのです。データ分析と並行しての、「個々の出題の適否・是非」を議論することも必要なのではないかと思っています。
現任校のシラバスでは、進学クラスの高1は2学期まで中学校で「既習」と見なされている、語彙・構文・表現・音声などの復習に徹します。ちょうどこの2学期末が「高校入試」の問題で使われている言語材料を身につけているかが問われる時期になるのです。
高1で「高校入試」の設問に正当を得ること自体はそれほど難しくはありません。ただ、正当を得られなかった場合に、何がわかっていないから、どのような頭の働かせ方をしたから、その設問に正当を得られなかったのかと確かめるには、設問で触れられていない個所も含めて「本当に読めていますか?」、「本当に聞けていますか?」という広さと深さを探ることも必要になってきます。
ということで、2学期からは設問を取っ払って、素材文を「きちんと聞く」、「きちんと読む」という活動を続けています。リスニングは、全国の公立高校入試問題から、「長めのモノローグ」を選び、読解系の問題ではできるだけ「空所」や「下線」の少ないものを選んで取り組ませています。
鹿児島県・2011年のリスニングのスクリプトを使い、
Hello, everyone. Have you ever been to a foreign country? I went to Canada last year. I stayed with a big family for three weeks. There were five children. In the first week, it was hard for me to live in Canada because I couldn’t speak English well. But ….
ここまでを印刷して配布し、私の範読。それを聞いた後、生徒には、このButの後に続く内容を考えてもらい、その後、続きの部分の聞き取りへ。 私のいつもの授業のように、
- ペンを置き、文章の最後まで通して聞いてから、ペンを取り、キーワードの書き出し。これを2回。
- ペンを置き、「一対多対面リピート」よろしく、私が英文を一文読み上げたら、それを聞き終えてから、リピートをして、加筆修正。消しゴムは使わない。(長さや複雑さ、生徒の出来具合などを観察して、チャンクでの切り出しを変えることもある。)
- 答え合わせはせず、この段階で、オリジナルの問題が「真っ当な設問」であれば、まず自分の解答を選ぶ。
- 紙ホチキスで留めた内側の面に、スクリプトが天地逆さまに印刷されているので。スクリプト面でRead & Look up をしてから、表面の自分の書き取りをチェック。
- 自分の解答の見直し。この時、どこが聞けていなかったか、どこを間違って聞いていたか、を確認する。
- 訂正で朱の入った英文を放置せず、音読の後、ワークシートの右側のスペースに視写。
というように進んでいきます。
今回の鹿児島の出題で、続きは、
(But) the children helped me and taught me a lot. They were very kind to me. Sometimes they asked me about Japanese culture. I taught them how to make origami birds. But when I was asked about other Japanese things, for example, kabuki or rakugo, I couldn’t talk about them. I found that I knew only a little about the culture of my own country. Now I would like to learn more about it.
となっていました。
語彙や統語、表現上でコントロールされた英文であっても、このように「まとまり」と「つながり」が備わっている英文であればいいのですが、必ずしもそうはなっていないものもあるのです。そして、その「問題点」は、素材文の長文化にも一因があるように感じます。
石川県の2011年の出題は、高校入試としては、かなり「長い」文章を聞かせています。その英文は次のように始まります。
- Good afternoon, everyone. Today, we’ll tell you about the high school students from Japan.
この英文は出題の指示を読む限りでは、「アメリカのある町のラジオ局が、その町に滞在中の高校生について取り上げたニュースの一部」を流したものとのことです。なぜ米国のローカルラジオ局のニュースを日本の受験生が聞いているのか?という疑問は脇に置いて、英文の構成と内容、表現を見ていきたいと思います。
A teacher and thirteen students are visiting our town. This is their first visit to America. The students are staying with the families of some Blue Lake High School students. At Blue Lake, they study English in the morning. In the afternoon, they play sports or talk about Japanese culture with the people in our town.
Now, we’ll tell you about one of the Japanese students, Mayumi. She is staying with Sally Baker and her parents. Yesterday, we visited Mayumi to ask her about life in our town. She said, “When I came here, my life was not easy, but now it’s wonderful! Everything in this town is so exciting to me! All the people here are very nice to me. When they see me, they always smile and say, “Hi!” or “Hello!” It makes me very happy. So, I smile back and say, “Hi!” too. I love this town.
Tomorrow, Blue Lake High School will have a class. The Japanese students will join the class and talk about their school life in Japan. If you want to join the class, please call Blue Lake High and ask.
Next spring, the Japanese students’ host brothers and sisters will go to Japan to stay with Japanese families.
ラジオ局が取材したMayumi のコメントの部分が彼女の声で流れていたのかどうか、私の持っている資料からではわからないので、石川県の先生方でご存じの方がいましたら教えていただきたく思います。私の印象では、かなり長い話しを「直接話法」で引っ張っている部分に少し無理があるような気がします。
石川県のこの出題に限らず、高校入試レベルで、伝達文を用いる際には、その多くが、発話を引用符で囲み、sayやtellなどの動詞を用いる傾向にあります。思考や認識、記憶に関わる動詞 (think, know, rememberなど) においても、また、依頼や助言、激励などの対人機能を司る動詞 (ask, advise, encourageなど) においても、目的語には人称代名詞のみ、または、指示代名詞のthis, thatやit で「まとめ」られていることが多いようです。その結果、that節や、wh-節などの「名詞節」がほとんど用いられずに、かなり長い、内容も複雑な伝達を「引用符」で括り、しかも、その内容を、this, thatやitで引っ張っていくことになっています。
中学段階では、「話法の転換」に習熟していないから、と言う理由で、このような「名詞節」を避けているのでしょうか?あくまで印象の段階ですが、結果的に、高校に入り、教材に「説明文」「論説文」が増えてくると、名詞節の処理で相当に苦労することになっているように思います。私が高校入試の素材文を選ぶ際は、この「名詞節」、私の指導では、
- 「ワニの口」で、ワニのお腹の中に「とじかっこ」があるヤツ
と呼んでいる文法項目の使い所、効き目を確かめられるものが多くなっています。そこで確かめるのは、名詞節の固まりだけではなく、その「ワニ」を引き連れる、ワニ使いたる「動詞」の用法でもあります。
「名詞節」などの文法項目に加えて、「表現」や「論理」の不自然な英文も散見されます。それによって、受験生の読解に、更には「合否」に影響がなかったのかも気になるところです。
同年の兵庫県での読解系の出題を見てみます。少々長いのですがお付き合い下さい。
Do you know what the most popular tree is in Japan? It is the cherry tree because people like cherry blossoms. Cherry blossoms have been important in Japanese culture for a long time. Many songs about cherry blossoms are popular even among young people. People in America also like cherry blossoms. Japan gave cherry trees to America about one hundred years ago. Many American people have enjoyed cherry blossoms since then. Cherry trees are loved by a lot of people.
One sunny day in April, I went to see cherry blossoms with my family. I saw a very large cherry tree with a lot of beautiful blossoms. It was a very famous cherry tree and a treasure for people living near the tree. When I saw it, I couldn’t say anything because the cherry blossoms were so beautiful. When I was looking at the tree, my father asked me, “Do you know how old this tree is?” I had no idea. He said, “People say this tree is about one thousand years old. People living here have watched over the tree for a long time.” I was so surprised to hear that and said, “Wonderful! This old tree has been beautiful for one thousand years.” “Yes, but three years ago it became sick and didn’t have blossoms,” he said to me. I asked him, “[How did this old tree get well again?]” “People living near the tree took care of it together with a tree doctor,” he answered.
Then my father told me important things about cherry trees. They live for many years and have problems during that time. Sometimes they are damaged by bad weather, by animals, or by people. For example, people often walk under trees. That is also a problem for the trees because the ground under the trees gets harder. When the ground gets harder, it is difficult for air and water to go into the ground. I didn’t know that.
まだまだ続くのですが、もう勘弁してもらっていいでしょうか?
冒頭のpopularでちょっとクラクラしました。LDOCEの定義では、popularは
- liked by a lot of people
となっています。
マクミランの米語版では、
- a popular activity, place, thing, etc. is one that many people like
となっています。
どこがおかしいのか、日本語で考えてもわかりますよね?「多くの人に好かれているのは、好きな人が多いから」では同じことを裏返しただけです。
「なぜ大元の木が多くの人に好かれているのか、それは部分である花を好きな人がたくさんいるから」という理由付けは、まだ「全体と部分」での連想があるから、完全な「同語反復」とは言いませんが、かなり怪しい論理で結びつけられています。
「なぜ桜の木が最も人気があるのか、それは桜の花が好きな人がたくさんいるから」という理由付けでは、「なぜ最も人気があるのか?」という「最上級」の部分に対する支持がありません。しかも、冒頭の文での主題は「木」なのですから、ここまでの理由付けでは不十分でしょう。
さらに、「花」の方の歴史的、文化的な背景を述べた、
- Cherry blossoms have been ….
の後に続く、
- Many songs about cherry blossoms are popular even among young people.
の “even” が木になります、いや「気」になります。evenでどのような話し手と聞き手の間にあるギャップ、予想・前提と実態・焦点とのコントラストを生んでいるのでしょうか?桜以外の花が歌われている曲は若い世代には人気がないとでもいうのでしょうか?でも、そんなことはどこにも書いてありません。私が大嫌いな『世界にひとつだけの花』という曲は、若者も含め巷では高い評価を受けているようですが…。
「?」が浮かんだまま、次の文を見ると、
- People in America also like cherry blossoms.
となっています。アメリカの話題を添加したのはいいのですが、では、この “also” では、何と何のレベルが揃って、「添加」されたのでしょうか?主題はもう、「木」ではなく「花」なのでしょうか?
段落のまとめに向けて、更に、こう続きます。
- Japan gave cherry trees to America about one hundred years ago. Many American people have enjoyed cherry blossoms since then. Cherry trees are loved by a lot of people.
冒頭の最上級での論理のズレが、ここで再度裏返しにされています。「アメリカ人の多くが、桜の『花』を愛でてきた」ということと、「多くの人に桜の『木』が愛されてきた」ということとが無理やり結びつけられてしまっています。
第2段落では、過去のエピソードに移り、個人的なナラティブへと変わります。家族と一緒に花見に行ったようなのですが、どこに行ったのかが書かれていません。そのため、
- people living near the tree
という非常にイメージしにくい名詞句の限定表現が用いられています。まず、地名をあげ、その地域に住む「地域住民 (people in this neighborhood; the local people)」とでもいうような括りが望ましいと思いました。
また、家族と一緒のお花見なのですが、家族の中で、父としか対話が行われていないことも気になりました。
そして、対話の内容は、例によって引用符で括られ、卓球やテニスのラリーのように続いたあと、
- I was so surprised to hear that and ….
というまとめがなされますが、この “that” での「ことがら」が表す内容は何なのでしょうか?その前には、
- People say this tree is about one thousand years old. People living here have watched over the tree for a long time.
という2文があるので、その内容をまとめればいいことは容易に分かりますが、それを英語でどうまとめればいいでしょうか?ここは結構大事なところです。同じ木が樹齢1000年、というのは稀とはいえ分かりやすいのですが、長老とはいえ、約千歳の人間は流石にいないでしょう。「何世紀も生き抜いてきた木を、何世代もの地域住民が支えてきた」という、local communityの文化や伝統に言及されているところなのですから。
第3段落では、
- Then my father told me important things about cherry trees. They live for many years and have problems during that time.
と桜の木に関わる一般的な記述にまた戻っています。気になったのは、次の文です。
- Sometimes they are damaged by bad weather, by animals, or by people.
ここまでは、sometimesと頻度の制約こそあれ、無冠詞で一般論で述べられています。では、これに続くspecificな記述の、「例えば…」で述べられる内容に、読み手は何を期待するでしょうか?
- For example, people often walk under trees.
これは何の例なのでしょうか? “a case of the damage caused by people” とでもいうべき例なのでしょうか?だとすれば、その前の一般論での併記された3つ目の例にこそ、”even” などのマーカーを使うところなのでは?
更に、これに続く、
- That is also a problem for the trees ….
の “also” は何と何のレベルが揃っているのでしょうか?「悪天候」がもたらす被害、「動物」がもたらす被害の例は詳述されていないのですから、alsoの効き目が薄いように感じます。
ちょっと、疲れました。
ここに書いたことは、私の「書き手としての視点」で読んだ感想・評価ですから、的はずれなことを言っているかもしれません。ただ、「つながり」や「まとまり」の観点で、違和感を覚える部分があり、そのことが「読みとり」や「聞き取り」を淀ませることになっているように感じるのです。このような英文を各都道府県分、さらに何年分、といった具合に、十把一絡げで、データとして集計した結果出てくる「分析」には慎重に対応したいと思うわけです。
石川県、兵庫県の英語教育関係者からの情報をお待ちしております。
18歳人口の半分に満たない受験者数となる大学入試とは異なり、推薦入試を除くとはいえ、中学を卒業するかなり多くの生徒が受験する「高校入試」ですから、「教室」だけでなく、「市民」レベルでも理解可能な、分析・考察を、今回のシンポジウムでは期待しています。
そうそう、もちろん前夜祭も楽しみにしていますので、よろしくお願い致します。
本日のBGM: メッセージソング (野宮真貴)