敬称より継承

謹賀新年。
2013年が始まりました。
毎年、年賀状は年が明けてから書いているのですが、昨年、母方の祖母が亡くなったことに加え、年明け早々に辛いことがありましたので、「寒中お見舞い」とさせて頂いております。何卒、ご容赦下さい。
今月12日開催の「大津由紀雄先生中締め講義・言語教育編 at 慶應義塾大学」も、キャンセルさせていただこうかとも考えたのですが、討論者に指定された責任を果たすべく、ハンドアウトも送付いたしました。大津先生の講義概要や他の討論者の資料も含めて、大津研ブログで追々アップされることと思いますが、当日の私の話の内容にはこれから若干の修正・変更があるかもしれません。12日までには、心身共に整え、ベストの状態で「出陣」する覚悟です。このブログの更新頻度もしばらくは今まで以上に低くなることをお詫びしておきます。

「呟き」の方に、英作文、英語ライティングに関連する書籍のリストを投稿しておりましたが、思いの外、反響がありましたので、以下に転載します。

高校レベル以上で「パラグラフライティング」を教えている先生、これから教えようという先生に、まず目を通しておいて欲しい和書のリスト:

tmrowing.hatenablog.com

下記アドレスのリンク切れに伴い、時を下ったエントリーにリンクしています。
http://www.amazon.co.jp/lm/R3S7PCH1W5TIGK/ref=cm_lm_pthnk_view?ie=UTF8&lm_bb=

過去ログでも、大学入試の「自由英作文」問題の解答例に対して、疑義や異議を唱えてきましたが、「では、良い英語のパラグラフとは?」、「結束性とは?首尾一貫性とは?」、「テクストタイプとは?」というような、基本の「き」についての理解を深めないことには議論にも至らないと思い、密林にリストを新作しました。私が、「高校レベル以上」というタイトルの用語を敢えて選んだ意図を想像してもらえると嬉しく思います。

高校レベル以上の「ライティング」の指導評価は、第2言語ライティングからだけでなく、L1としての英語ライティング指導評価の理論・実践知や、あまり知られていないL1としての国語教育での作文指導の成果からもっと学ぶべき。そのための和洋書リスト:http://www.amazon.co.jp/lm/1RLKSWSMB5QGE/ref=cm_lm_pthnk_view?ie=UTF8&lm_bb=

英語のライティングが出来る人たち、または英語ライティングがなかなか上手くならない人たちからはよく「そもそも国語教育で、作文教育がなされていない」というような批判をしがちです。自分が受けた授業以外の、国語教育の世界の「作文指導」の成果・資産を知ることから始めて、それとパラレルな、英語圏に於ける母語としての作文教育の伝統や実践知にも学ぶべし、という提言です。

英作文と簡単に云うけれど、奥は深い。英語のパラグラフ、文章の繋がりと纏まりがわかってきたら、そこからは発想と表現の洗練。「英語の神髄を掴んだ」と思った人に、謙虚に読んで欲しい英語本のリスト:
tmrowing.hatenablog.com
下記アドレスリンク切れのため、時を下ったエントリーにリンクしています。
http://www.amazon.co.jp/lm/R11O96WGZWCE66/ref=cm_lm_pthnk_view?ie=UTF8&lm_bb=

「私は英語が出来る」、と思った時点が、英文修業の本当のスタート。エポックな新説とか独自の理論とかを振り回す前に、先哲・先達に謙虚に学びましょう、ということです。

ベストセラーといわれる英語本を見て考えたこと: 90年代後半以降SLAの研究分野での知見は充実していて、世界の常識になっているらしい。その一方で、日本の英語学習教材や指導法で残っているのが、音 読と暗唱、多読とTOEIC対策演習、という状況は、偏に中学校・高校の英語授業の賜なのか?
私の担当クラスの「学級文庫」にある英語本の多くが絶版本。私自身が英語を学ぶ際に参考にした本の多くも絶版。で、反芻する阿部公彦さんの言葉「こんなによくできた解説が書かれロングセラーにもなっているのに、なぜ日本人の英語は一向に上達しないのか。」http://booklog.kinokuniya.co.jp/abe/archives/2010/04/post_60.html

私のクラスで、よく話しているのが次のようなこと。「この学級文庫には、辞書を除いてベストセラーの教材はほとんどない。けれど、売れ線教材を使って首尾良く有名大学に進学した人が、TOEICのスコアアップに汲々としていたりします。あまり売れていない、また既に絶版となっている、この学級文庫の本を使った人は英語ができるようになっている、または、自分の英語力に対してコンプレックスを持たずに英語と付き合っている、という事例をどのように考えるか?」
「書評空間」の阿部先生の書評は、マーク・ピーターセン 『日本人の英語』 (岩波新書) について。多くの人に読んで欲しいです。

英作文でお世話になった本の著者: 大井恭子、金子稔、倉谷直臣、上田明子、天満美智子、杉山忠一、最所フミ、安井稔、秋山敏、長谷川潔、中尾清秋、出来成訓、岩田一男、升川潔、矢吹勝二、 荒牧鉄雄、戸川晴之、松本亨、岡地栄、山田和男、木曽栄作、小沢準作、木村忠雄、岩垣守彦、長崎玄弥。

過去ログでも触れたことがありますが、ここに挙げたお名前から検索して、「地に足の着いた」「骨太の」英作文力を養う教材・概説書を探し当てて欲しいと思います。字数の関係で、書ききれなかった方のお名前をお一人追加させて下さい。

  • 成瀬武史

成瀬氏が、『英語青年』 (研究社) の「和文英訳練習」連載執筆を終えるに当たっての述懐から一節を引いて締めくくりたいと思います。

この仕事を1994年の春に引き受けたとき、秘かに自分と約束を交わしたことがあります。英文を書く修練は長距離走と同じだから自分の力だけでやって行こうと、ちょっと悲壮な覚悟でした。投稿を見るのにも自分の訳例を作るのにも、絶対に誰の助けも受けない。この「掟」を実は一度だけ、原稿の締め切りが心臓バイパス手術のための入院と重なったとき破る誘惑にかられましたが、何とかベッドの上で一人で乗り切ることが出来ました。(中略) 自力を尽くしての練習量が成績を裏切らないと言われるスポーツ界の鉄則が英作文の上達にも当てはまる真理はぐらつきません。この先も向上の道をできるだけ自分自身の足で辿られるよう願ってやみません。(『英語青年』、2008年2月号、p.58)  ※ちなみに、最後の奇数月担当者は、上田明子&Thomas F. Mader両氏

本日のBGM: Lyena (タケカワユキヒデ)