付加疑問

このブログをお読みになって慶應のシンポジウムに参加された方、あらためて御礼申し上げます。
「小学校英語導入に反対する総決起集会」という捉え方は超えてもらえたなら少しは安心。でも、ここからの現場教師の道のりは今まで以上に険しい気がする。「女教師ブログ」でterracaoさんが指摘していたように、教育政策を論ずることの出来る「教育学者」、「社会学者」、はたまた「政治学者」を巻き込むことが必須となろう。この学問領域・分野で英語教育界との接点を持っている、または深くコミットしているめぼしい人が今現在、いないのである。だったら養成しないと。そういう意味では、東大など官僚や政治家を多く輩出する大学へ進む生徒に、英語教育のあるべき姿を見せ、体験させることのできる「進学校」の教師の役割は今まで以上に重要になるだろう。
明けて、本日は1,4,7時限という飛び石の授業。
高1は先にオーラルのスピーチで一定の所まで見せておきたかったので、2時間を費やす。
一気に駆け抜けようと思っていたのだが、教卓に二連の折り鶴が。
良い機会なので、この折り鶴からスモールトークでインタラクション。私が英語でしゃべって、英語で質問して、生徒は単語、または日本語で答えていくというようなムード。まあ、英語を使わないよりはましですか。
雛形、頭出しチャンク、内容のキーワードのために、と浦島&ダブンポート三部作をクラスに(今日のエントリー最後の写真を参照)。高1にも学級文庫か。そうなるといいなあ。
生徒の選んだトピックと関連する部分を例文、モデルパラグラフを読み上げる。わかりにくいところは、簡単な英問を通して補足。
たとえば、「社交的」という英語がすぐに出てこない時に、すぐに辞書に頼るのではなく、It is easy for me to make friends. とか、I like meeting new people. などと言い換えてとにかく、止まらないで、英語を発することを促す。
15分で下準備、10分でペアワーク。1人1分、攻守交代して、10分で4セット。2セット終わったところで仕切直しで、自分のノートを修正・補足。
2コマ目は、リスナーに課題。内容の上で、重要な情報を繰り返しできるよう集中して聞き、敢えて、付加疑問で相づちを打つ練習。
I have a dog. であれば、 You have a dog , don’t you? と楽勝ですね。
I am fond of singing and dancing. なら、You are fond of singing and dancing, aren’t you?
Ichiro is one of the best Japanese baseball players. とくれば、 He is one of the best Japanese baseball players, isn’t he?
Tomoyo and I have known each other for three years. の時は、Tomoyo and you have known each other for three years, haven’t you?
としっかり聞いて、じっくり反応。
この段階を経て、なれてきたら、内容を聞きとり、
Oh, do you. / Are you. / Is he. / Have you. という相づちへと移行する目論見。すぐには出来ないでしょうから、時々、ビデオに撮っておいてあげようかな。
昼休みにノート見開きのマップに朱を入れて返却したので、生徒のそのフィードバックのprocessingに時間を使う。重要な項目は全体に投げかけ、コーラス。次回は、前に出て来て、今回のトピックで話すことを予告。
このクラスも教えている数学の先生が、「確率で用いる記号のCは何の略か?」と聞いて、今年の生徒は答えが返ってくると喜んでいた。1人が、Choice. と言ったら、すぐに他の生徒が Combinationと答えたとか。高1のこの時期なら、良いセンスです。
高2は、P単100個一気喰いから。
1-777の音読も、各自の山と谷を把握して、例えば、300番台が出来の悪い人は、300から始めて最後まで行ったら1に戻って299まで行く、など淀ませない工夫をするようにアドバイス。そろそろ、最低線の60%はクリアーしたはず。「英語が苦手で苦手で…」という者は、文法を固めるドリル自体が苦手だからその段階から抜け出せていないのだから、NHKの基礎英語の講座から生まれたCDブック(『コースケの冒険』『カリフォルニア留学物語』『レベルアップ英文法』など)で、まずはストーリーの力でごまかされてあげることで、多読をこなしてしまうことが突破口を開く鍵となるかも知れない。語彙は先行逃げ切り、精読の前に(あるいは並行して)、それよりも2段階くらい下の素材で多読、音読筆写、その後を文法で固めていくというのが高校再入門での成果の上がる手順ということかな。
和→英ノーヒントで80%の正解率まで来れば、『ぜったい音読・挑戦編』『藤本・宝島ムック本(60日編)』『ケネスシリーズ(いろいろ)』でのスラスラ感養成に移れるし、ようやく、受験レベルの文法でもターゲットに焦点をあてて分析が可能となる。高2としては、ほぼやりたいことができるのではないだろうか。
表現系のセレクションで、『コーパス口頭英作文』を二冊追加。読解系はまだまだ焦らず、今あるものを使いこなすことをしつこく要求。本当に、ようやく、二学期で教科書が読める喜びを味わうことが出来そうだ。ここから伸びるから、その気でいて下さいな。
同僚から、「英語の熟語、イディオムで良い教材はないか?」と質問を受ける。受験生でもあるお子さんの使う教材のアドバイスということらしい。アルクの『キクジュク』は持っているとのことだが、「私は熟語集で覚えるのはどうも。イディオムは文脈が命なので…。」ということで、信頼の置ける辞書を買ってはどうか、と助言。

  • 岩垣守彦&J.マケーレブの『英和イディオム完全対訳辞典』(朝日出版社)
  • 安田一郎&J.マケーレブの『日米口語辞典』(朝日出版社)

は持っていて損はないということを伝える。教材や模試、さらには英字新聞などで出てきたら、これを繙く、という地味な学習が一番である。
TOEIC関連の教材は職場には置いていないので、自宅で確認することに。
開拓社の『活用イディオム800』は既に絶版なので、使われる状況が明確か、そのイディオムの意味・由来などが明確に説明されているものとして、

  • 『TOEICテスト 新・必修イディオム』(ジャパンタイムズ)

あたりを薦めてみようかと。これは、ナラボープレスの赤井田氏の編集。収録イディオムの由来や使い方も「ひと言コメント」があるので、ギリギリ許容範囲。英文執筆は、私のかつての同僚(私とTTで高3ライティングを指導していた。過去ログ→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060924)で、実際にTOEICのアイテムライターをしていた米国人。個人的にお手本としていた英語母語話者でもあるので、まあ信頼できる部類に入る教材ではないでしょうか。

昨日ようやく入荷となった『英語教育』(大修館書店)10月号を今日になって入手。

  • 久保野雅史先生の「音読指導のバリエーション」(pp.19-21)
  • 「アノ先生・ヒロ先生の日々授業にひと工夫」(pp.50-52)

は比較しつつ、中高での差を思い浮かべながら読んでも面白いでしょう。
今月もっとも興味を惹かれたのは、

  • 「Iの横棒」に関する小調査

と題された、金枝岳晴氏の投稿 (pp.60-61)。
セリフ体とサンセリフ体の混同による違和感はもっともではある。しかしながら、指導過程において、大文字にはセリフを用いるとか、文字によってはセリフを用いて誤解を避ける、という入門期指導上の工夫は英国の母語教育でも行われているのである。問題は、その工夫をルールとしてしまうことで不要な「誤り」を生み出す愚であって、セリフそのものの是非や可否ではないだろう。(私の参考にしているのは、Sassoonの他には、田中美輝夫『英語アルファベット発達史 文字と音価』(開文社、1970年)です。)

本日のBGM: It’s Hard To Be A Saint In The City (Bruce Springsteen)