なくて七癖?難癖?

週末は本業の練習。
土曜日の午前モーは12km、午後モーはアップ6km+3分漕x4。ダウンで2km。
日曜日は1モーにして、その分18kmに。正月ぼけも吹っ飛ぶほど疲れたでしょう。
週明けの今日は会議の日。
朝食は七草粥。
職員会議に学年会議。
エルゴの自主練の日だったのだが、昨日の疲れかエース、エースキラーとも休ませて下さいと弱音。なかなか量を確保するのは難しい。
日常会話基本表現集を切り貼りし、B4裏表2枚になんとか納めて印刷完了。これで、センター前特講だけでなく、高1、高2のオーラルでも使える目処が立った。
夕飯は、湯豆腐とアジの干物。美東のメロンの粕漬けと寺田本家の奈良漬けの食べ比べ。
少し、性根を据えて教材批評。
大学入試の英作文・ライティング問題に対応する教材には、当然のことながら「模範解答」がついている。
「模範」ではなく、受験生の解答例として添削・採点しているものは良心的といえるのだが、解答例とだけあって、評価が何も書いていないものはその処置に困る。先日示した、「出直しライティング塾」レベルの、英語の文章になっていない解答例は枚挙に暇がない。
次に示す英文は、いったいどんな課題に対する答えとして書かれたものかおわかりだろうか?

  • I grew up in a big city, but I want to live in the country in the future. Even though it only takes 20 minutes to go to school by train, it is very tiring because the trains are so crowded. I can get to many shops on foot, but the prices of things are higher than those in the country. Also, in my free time I like to go fishing, so I would like to live close to the ocean. As long as I had a car, living in the country would not be inconvenient.(『全解説頻出英作文完全対策』桐原書店、2007年, p.220)

これは、
Which do you prefer --- living in the city or in the country?
に対する解答例なのである。この英文が受験生の再現答案、もしくはこれから受験しようという生徒の解答例で、採点・評価されていく、というのなら、「この程度だとどのくらいの評価なのか?」と納得の機会もあるだろうが、この教材では、何もないのである。英文が示されて終わり。
この著者は、「序章」(pp.186-187)ではこう言っている。

  • 意見型の場合、「意見」→「理由・根拠」→「結論」の流れで「3パラグラフ構成」で書くのが原則。

ここまではいいだろう。ただ次の部分はどうだろう?

  • 最後に「結論」を書く。この部分は「意見」の反復はよくない。「意見」から「理由・根拠」の流れを考慮した上で、「将来への展望・課題」や「個人の感想」などをまとめる。「論理性に欠ける文章」とは「採点者を困らせる文章」であり、結果的に「得点の低い文章」となる。つまり、「意見」→「理由・根拠」→「結論」の流れから逸脱した文章である。

この段階で問題があるのではないだろうか。意見文の結論に、感想を書いて、論理性が満たされるだろうか?
上記解答例を見てみよう。最初の3文が全て、逆接・譲歩の接続詞で2つの節が結ばれているのだが、主題・焦点が何なのかがハッキリしない。Living in the countryを選択したのであれば、そちらを首尾一貫して支持する必要がある。しかも、alsoが何に何を付け加えたものなのかが全くもって分からない。模擬試験であれ、大学入試であれ採点者が困らないのか聞いてみたいものだ。

別な教材も見てみよう。
別なテーマでの課題に対する解答例を次に示す。これまた、どのような課題だったかを考えて見て欲しい。

  • Many people say that English should be taught in elementary schools. However, I do not think this is a good idea. First, before learning a foreign language, we should learn our mother tongue. As is often pointed out, we are now required to think logically, and in order to do so, we have to develop our mother tongue first. Second, it is obvious that studying English in elementary schools will not work, because there are too many students in a class. Students will have little opportunity to speak English in class. For these reasons, I do not think English should be taught in elementary schools. (『自由英作文編 英作文のトレーニング』、Z会出版、2004年、p. 38)

これは、Should English be taught in elementary schools?
がプロンプトである。
この教材の著者は、こう言っている。

  • 「序論」では、「問い」(文章全体のトピック)を設定するとともに、問いに対する自分の「答え」(主張)を述べる。(中略)次に、「本論」は「序論」で示した主張をサポートする根拠(理由、例、説明)を示し、主張を具体的に説明する部分である。最後に、「結論」は「本論」で示した根拠を受けて、「序論」で述べた主張をもう一度繰り返す再主張の部分である。(同書、p.39)

意見文など、persuasive passage / argumentationでは、こちらの構成の方が一般的であると思われる。
では、この解答例は十分な説得力を持つ、論理性を満たした英文となっているだろうか?冒頭での主張に対する根拠として示す情報が別の主張(we should learn our mother tongue.)となっており、お互いの主張が並行線を辿る要因となっている。are required to / have toなどの助動詞的表現、obvious/ too many/ littleなどの主観的形容に支持・説明がないこと、will not workという断定の使い方をチェックしてもらえば、結局、主張が十分にサポートされていないことが分かるだろう。

根拠部分に更なる意見を書いてしまうミスは英語がかなりできる帰国子女でも頻発する。主観的形容の支持欠落もしかり。First / Secondと順序を示すdiscourse markersが用いられているのだが、これは何の順序なのか?「根拠・理由」だというsignpostとして充分だろうか?

次は別な教材からの解答例、

  • I agree with English education in elementary school. First, English is becoming more and more important. English is needed as a tool of communication in business, research, and all kinds of areas. Thus, it is essential that children obtain sufficient English skills. Second, it is very effective to teach English at an early stage of life. It makes it easier for learners to master the language.(『英語合格英作文作成法・改訂版』、学研、2005年、p.125)

ここでも、more and more important / all kinds of areas / essential / sufficient / very effective / easierといった語句の使い方に再考の余地がある。この教材は、アイデアジェネレーションや語彙の扱いが丁寧なだけに、解答例の詰めの甘さが惜しまれる。この英文でも、First / Secondと判を押したように用いられているが、この使い方でちゃんと「効いて」いるのだろうか?
類書の中では私が『大矢本』を薦めている理由は、この手の水掛け論や平行線を防ぐようなプロセスを踏んでいることである。賛成・反対と二つの立場がある出題に対して、一方の立場の解答しか載せていないことが多いので、その部分には大いに不満はあるが、それでも他の「自由英作文」を売りにしている教材よりはかなりマシである。
いつも同じことを言っている様な気もするのだが、英語ライティング教材は解答の英文をよく読んで選ぶことが肝要である。もっとも、高校のライティングの授業をきちんとやりさえすれば、こんなことで悩まなくても済むのだが…。「和文英訳教材批評」はまたの機会に。
これを書いている最中、2月2日(土曜日)に広島大学で行われる「日本言語テスト学会」の研究例会で話をすることが決まりました。広島大の柳瀬先生のブログにも情報が出ているようです。(http://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/01/22.html)私は学会員ではありませんので、未知との遭遇となりますが、詳細は追ってまた告知したいと思います。

本日の晩酌:不老泉・山廃純米吟醸・極寒手造り・中汲み(滋賀県)
本日のBGM: We’ll never argue (Stephen Duffy)