「結論」ではいったい何を結んでいるのか?

昨日のブログでは、三省堂のCROWN Readingを取り上げて自己表現活動を取り入れる際の問題点を指摘した。
教科書批判が目的ではないので誤解のなきよう。三省堂の英語教科書に関連した機関誌に著者代表者のコメントがあるので参照されたい。(http://tb.sanseido.co.jp/english/h-english/pr/04_summer/special_1_1-1.html)
今日は桐原書店のProvision Iを取り上げる。(http://www.kirihara-kyoiku.net/textbook/eigo/eigo_provision.html
新出語の多さと見た目の英文の難しさが幸いしてか、進学校などで採択の順調な教科書の一つである。この英語 Iのレッスンのうち、Lesson 6, Lesson 10,とLesson 11のCommunication Workshopのセクションを主として、「安易な表現活動」がいかにコミュニケーション能力の養成にとって問題であるのか、時として阻害しているかについて考えてみたい。
Lesson 6の題材は「科学・自然環境」。ターゲットとなる表現・機能は「理由・原因を述べる」「示唆する」である。
Communication Workshop(以下CW)では、短いスピーチを作る Save the Giant Panda。指導手順としてQ&Aで理由を述べる短文を作らせ、それをもとに、Introduction/body/conclusionの型に当てはめてパラグラフを完成させ、スピーチさせるというもの。そのWritingとして示されているものを抜粋する。
Introduction:

  • Only a thousand pandas are left in the world. In order to save this endangered species, what can we do? I'd like to suggest two things.

Body:

  • 1. First of all, we should ….
  • 2. Second, we should ….

Conclusion:

  • Whether the pandas will be an extinct species in the near future depends on our efforts. Let's try to save the giant panda together.

ライティングの観点で見た場合には困った活動である。典型的な日本人英語が出来上がることになる。
導入部で can; suggestといっておきながら、本論ではshould, 結論部では let's; try toという具合に、助動詞のレベルが揃っていない。
また主張の型としてみた場合に、序論で主張・意見・主観、本論では例証・論証・事実、結論では主張の言い換えまたは再強調という流れが望ましいのに、序論で示唆、本論で意見、結論で呼びかけというような展開となっている。中学段階、英語Ⅰ段階でこのような表現パターンが身についてしまった場合に、それをパラグラフライティングやアカデミックライティングの型へと移行させるのは骨が折れる。意見や主張をパラグラフで書く活動は高校のライティングできちんとやるから、それまでは無理にパラグラフなど書かせないで欲しいと思うくらいである。
Lesson 10の題材は、「人種差別の問題・公民権を背景とした友情・共生」とでもなるだろうか。ターゲットとなる表現・機能は「補足説明を求める」「同情する」である。
CWでは「台湾にある姉妹校から日本人の友人を求めるe-mailが来た」という設定で、e-mailを書かせるもの。
読んでいた英文の題材そのものはどこに行ってしまったのか?「e-mailを出して友達を作ろう」という動機づけで本文の読みが深化すると本気で考えているわけではあるまい。この活動で題材・主題に対する理解は深まるだろうか?表現技術は向上するだろうか?
Lesson 11は「国境なき医師団」。表現・機能は「嫌悪を表す」「結論づける」。
CWでは「写真を見て感想を述べる」。写真はエチオピアの飢餓で苦しむ少年。タスクの導入部分での質問が4つあるのだが、

  • 4. What do you think of this situation and what could you do to help him if you were there?

ここで生徒は何を答えることを想定されているのだろうか?

  • 「同情する」「励ます」→それで何のhelpになるのか?
  • 「食事を配給する」「水を確保する」→食事も水も足りないから飢餓なのでは?
  • 「内紛を止めるよう政府や軍部に訴える」「平和のための行動を世界に呼びかける」→嘘くさくないですか?

結局の所、自己表現などといいつつ紋切り型から一歩も踏み出さないのである。
こんなタスクを教科書に入れるくらいなら、教科書会社の自社websiteに掲示板を設置し、世界に向けて発信する方が良かろう。心ない利用者による荒らしがいやなら、教科書採択校にはパスワードを発行するとか工夫すればよいのだ。教室の中にもっともらしい外界を取り込んでauthenticな活動をしたつもりになるのは最近の英語教育の悪い癖である。
この課の最大の問題は、「結論づける」という表現機能を練習させる時に、つなぎ語の練習しかさせていないということである。そんなものがなくても、それ以前に明確に展開された論を結んでいれば、それが結論なのである。そこまでに何を述べているのかを全く示さず、つなぎ語とその後の短文をいくら書かせたところで論理的な文章にはなり得ない。
論理展開に関しては桐原書店の同じシリーズProvision English Writingでも首肯できかねる英文を示している。こちらについては明日以降引き続き論じてみたい。本日はこれにて。