大学の国際交流センターなるところ主催で、東大助教授である斉藤兆史(さいとうよしふみ)氏の講演会。同僚のM先生と一緒に見に行く。開演前から、学生で満員。初め正直ビビリました。
英語教育系の講演でこんなに人が集まるか?
でも、なんのことはない、英語の授業でレポート提出などが義務づけられているのですね。少し、安心しました。
「達人」に学ぶ、コミュニケーション能力養成方法、というようなお題目だった。
『英語達人列伝』『英語達人塾』(中公新書)などで示してきた内容とそれ程変わらない「達人」の顔ぶれと学習方法。
- 新渡戸稲造
- 斎藤秀三郎
- 南方熊楠
- 斎藤博
- 白州次郎
- 国弘正雄
- 明石康
途中、NHK『英語でしゃべらナイト』の映像を交えて解説。M先生はこの番組のこの回を見たとのこと。流石だなぁ。
白州次郎を取り上げ、Jeep way letterの説明をしていたのだが、人称代名詞などの用法に習熟する重要性を説くのであれば、白州の用いる their とパラレルな現代の日常表現での正用と日本人的誤用とを比較して、戦前・戦後の時期でもこれだけの英語運用力を示す日本人がいたのです、とでもしてほしかった一白州ファンであった。
あとは、授業を活用せよ、辞書を引け、辞書や書籍の匂いに惚れなさい、英語によるセミナーや講演会を利用してその分野・トピックの事前学習をして参加せよ、視聴覚教材を活用せよ(時々ゆっくり発音を確認せよ、物真似で音読、dictation、反復練習)、日本語を磨け、母語能力を超える外国語能力はないと心得よ、異文化に敬意を、中身のある人間になれ、など。
講演で個人的に一番面白かったのは「カタカナ英語」批判。「ダイエット」は「減量」と同義で用いられているのがけしからん、という切り口。「本来は『食(事・餌)』のはずだから『断食ダイエット』っていうのは、どんな食なんだ?」というのには、かなり大きな声で笑ってしまった。
講演後20分ほど、質疑応答のセッションがあり、「学生はみな早く帰りたがっているんだ、場の空気を読めよ」とM先生とそわそわしていたら、あろうことか大学職員と思しき女性が近づいてきて「どうですか?」と私にマイクを。さっき大声で笑ったことへの報復か?仕方なく、「『音読・素読・暗誦』『文法』の重要性というのはよく分かったが、『語彙』の扱いはどう考えているのか?最近では、コロケーション、チャンクなど語彙への新しいアプローチも取り上げられているが、先生のお考えを。」と質問。「単語帳を作る。トピックごとにネタ帳を作る。個人的経験からもそれが一番。」というお答え。ごもっとも。
講演でもの足りなかったところは、「文法」は大学受験などで使った「英文法」の参考書を引っ張り出して丁寧にやる、というのだが、中学はともかく、高校時代に先生と一緒になって、さらに塾や予備校であれだけやったはずの文法がなぜ身についていないのか?授業で身につかなかったものが、「独習」で身につくとする根拠は?という点。さすがに、その質問をしたら、時間がかかりそうなのでやめておきました。
こんな講演を無料でしてしまう学園の懐の深さに感心しながら家路を急ぎました。