この木何の木? 気になる、気になる、木…

今日は、日本語に関連した話を。日本語では、数えられそうだけど英語では数えられない名詞としてよく引き合いに出されるのが『お金』と『紙』。
「moneyは数えられません。ですから「多くのお金」というときは、(X)many moneyではなく、(○)much moneyといいます。同様にpaperも日本語では数えられそうですが、英語では a piece [sheet] of paperなどとpiece [sheet]という単位をつけて、そちらを数えます」などと書いてある教科書・参考書はないだろうか。
「ズバリ言うわよ。そんな文法の参考書は今すぐ捨ててしまいなさい。使い続けているとあなた、バカになるわよ!!」
よく考えて欲しい。日本語には英語の論理でいう「可算名詞」はない。したがって「複数形」もないのである
日本語で「金(かね)」「紙(かみ)」が数えられるだろうか。金が複数あると(X)「金金(かねかね)」とか(X)「がね」、紙が複数あると(X)「紙紙(かみかみ)」とか(X)「がみ」」などと名詞が変化するだろうか。決してそうではない。日本語の場合でも英語の場合でも数えているのは「金額」「枚数」の方であって、英語だけでなく日本語でも「お金」や「紙」は数えられない名詞なのである。そして、さらに日本語では「単位」を表す名詞自体も複数形になることはない。
そう考えると、英語で一般に「不可算名詞」と呼ばれている、「a(n)がつくことは稀で、数える際には、名詞自体は複数形にせず単位の方を複数形にして数える名詞」の方が、日本語の名詞の基本的な性質に近く、「複数形になる名詞」の方が、よほど特殊なものだと考えられないだろうか。
「人々(ひとびと)」「家々(いえいえ)」「木々(きぎ)」「日々(ひび)」「個々(ここ)」などの名詞を重ねることで示される数は「漠然とした多数;不特定多数」であり、厳密な意味での複数形とはいえないだろう。名詞ならなんでも重ねられるわけではないことは、(X)「柵柵(なみなみ)」、(X)「波波(なみなみ)」などの例を見ればすぎにわかる。「家並(み)「町並(み)」では連なるものの後に「並」をつけることで複数の含意があるが、「木」の場合は(?X)「木並(きなみ;こなみ)」は不自然で、普通は「並木(なみき)」といっているだろう。
日本語母語話者は、どこかでこのようなルールを習得している。決して、文法を知らないわけではないし、気にしていないのでもない。文法を習得しているからこそ、気にならないのである。