「そう 行かなくちゃ」

tmrowing2015-03-09

大学入試の「英語ライティング問題」について取り上げる第二弾。第三弾があるかどうかは現時点では不明。前回も言っていますが、「解法講座」ではないので念にも念を押しておきます。

  • だったら、自分で「解答例」としてふさわしい英文を書いて載せるべきだ!

と言うような人は、ハナから読まないほうがいいと思います。

まず、私立大の雄、「慶應義塾大学・経済学部」。(問題は建前上は新聞社サイトのアーカイブということで、こちらなどで入手して下さい。→ http://mainichi.jp/edu/daigakubetsu/pdf/keio/keizai/english.pdf

難しいですよ。これ。
最後の大問二題が、「書くこと」に関わる出題。当然のことながら、このブログでは、最終の第5問を取り上げます。第4問は、普通に「英語力」を診たいなら、要らないよね。「成育環境などで、英語だけは抜群にできる」という人を弾きたいのでしょうか?奇しくも、今年の「京都大」の出題が、こちらに寄ってきたような気がします。

V. 以下の設問 (A), (B) の中から一つ選んで,問題文 I 〜 III をもとにして,自分の意見を解答用紙Bのv. 欄に英語で書きなさい。注意点をよく読んでから書くこと。

(A) Should the Japanese government introduce quotas for the number of women in government and business? Why, or why not?

(B) Should the Japanese government encourage more foreigners to settle in Japan? Why, or why not?

これだけなら、資料を与えられた「お題作文」としての典型的な出題と言えるのですが、ここで終わらないのがこの大学のこの学部の意地でしょうか。
以下、とっても重要な「注意点」の文言。

注意点:
(1) 箇条書きは不可。
(2) 問題文I, II またはIII で言及されている見解やことがらを最低一つ引用して,自分の意見をまとめること。
(3) 自分の意見と異なる見解にも言及すること。
(4) 引用する際には,下の例を参考にすること。

引用例:
In her 2010 article “Against Zoos”, Malls claims,“Nature is not ours to control." However, I strongly disagree with that statement, because ...

I agree to a certain extent with Devon Suzuki who argues,“Schools do not protect the rights of students enough.” in the essay by Foane (2010).

According to O’Werke (2012, paragraph 7), one option is indirect taxation. Although this argument ...

個人的には、この出題が定着すると、「受験対策」って大きく変わるだろうな、と思うのですが、実際には2012年以降続いているんですよね。その割には…。

大問の I は、

  • “Modern Girls Revisited" by Eve N. Flappers (2014)

で、「女性の高学歴と社会進出の状況」とでもいう1000語程度の英文。ペプシコ、IBM、GMという企業のトップが女性であることを第一段落の「具体例」として出しています。分野が変わっても、同様、という流れで、政治でもドイツのメルケルさんの例とかが出てきます。「進んでいる」とか「遅れている」と言うためには、「比較」ができる「統計数値」が出てくるでしょうし、当然、「こういう分野ではまだ女性の進出が遅れている」というような「コントラスト」「出汁」が必要になるでしょう。なぜ、この英文なのか、といえば、第7段落で、次のような展開・内容となっているからです。

the idea of “womenomics", arguing that equalizing roles in the workforce is a better solution to a shrinking labor force than immigration or campaigns to raise the birth rate. But, by itself, womenomics is unlikely to succeed

この次の大問 II & IIIで取り上げられる、英文の主題・内容とのコントラストを演出し、最後の「お題作文」へのネタ提供というわけです。「経済学志望者」にとって読んでいて面白いかどうかは別として、「今どき」の英文であることは確かです。

大問のIIは

  • “Immigration: Fulfilling Our Global Obligations" by Lemmy Inne (2013)

大問IIIは

  • “Global Charity Begins at Home" by Bette Steyput (2013)

と言う出典で、どちらも、700語くらいの長さの「移民の受け入れに関する世界のトレンド」とでもいうテーマの英文。
II の英文は、「世界の移民の現状認識」から始まり、「議論のための材料」を提供する段落が続きますが、筆者の基本姿勢として「移民受け入れ推進派」というのは、最終段落ではっきりするでしょう。空所の[19]が埋められることが前提ですけど。

How a society treats its immigrants is one way to judge how it will be treated by others in the international arena. A nation which rejects them will be rejected in turn. Nobody can pretend that immigration does not present challenges. It can be neither prevented nor ignored: [1 9]

ここでの「コロン」は、in factとか、on the contrary というような文脈を作るもので、「出来ない:不可能」に対して、「出来る;可能」の例を導くものではないと、どのくらいの高校生が気付けるかなぁ…。じゃあ、どういう意味・内容が続くか?「必然」とか「好むと好まざるとに関わらず」というのが私の予測でした。
ということで、まず、この英文が読めないと、読解の設問にも答えられないし、「お題作文」も書けませんよね。でも、例えば、この II の英文の空所補充で「選択肢の先読み」なんかしますかね?読んでいて、「ここには、こんな意味の語句、こんな論理展開を支える語句が来るはずだよね?」と思って選択肢を見るから、そこに答えがあることに気付くわけで。

大問III では、冒頭段落での「欧州人の心情」の指摘でトピックが導入され、「移民(政策)の現状」が続き、「移民の生まれる背景」、「移民のもたらすプラス面」の記述もありますが、第5段落で、この文章の視座が明確になってきます。最終段落での、Yetの繰り返しは、ライターとしてどうだかなぁ、という印象ですが、「お題作文」の素材提供には成功していると思います。

因に、この大問III の問題講評で、内容理解を問う設問の一部に注意書きとして、「『一致する』『一致しない』『どちらとも言えない』の三種類」だと解釈している予備校がありましたが、乱暴にまとめるにも程があります。勘弁して下さい。出題の大学側は、下線を引いてまで注意を促しています。下線は出せないので、以下、太字&斜字体で。

27, 28, 29, 30. Read the four statements below. Then, based on the article as a whole, under the corresponding number (27), (28), (29), or (30) on the mark sheet, fill in slot 1 if you think the author would agree with the statement, or fill in slot 2 if you think she would disagree with the statement, or fill in slot 3 if you think her opinion is not given.

さて、この3つの英文を踏まえて、自分の意見表明に移ることになります。再掲しておきましょう。

(A) Should the Japanese government introduce quotas for the number of women in government and business? Why, or why not?

(B) Should the Japanese government encourage more foreigners to settle in Japan? Why, or why not?

注意点のこの二つが重要です。引用が「最低一つ」となりましたが、昨年度よりも「縛り」が緩くなったと言えるかは「?」。

(2) 問題文I, II またはIII で言及されている見解やことがらを最低一つ引用して,自分の意見をまとめること。
(3) 自分の意見と異なる見解にも言及すること。

基本構成としては、

  • 自分の意見表明
  • 見解・事例の引用をしての、持論の支持・理由づけ
  • 反対意見の導入とそれに対する再反論
  • 持論の言い換えによる再強調

と考えると、

  • 30語 + 80 〜 100語 + 50 〜 70語 + 30語

で200語を超える位の分量は必要でしょうか。現行の日本の大学入試のライティングでは最高難度と言えるのではないかと思います。
予備校等のサイトでいくつか「解答例」を見ても、「引用は一つ」で攻めている印象。

  • Aを選択し、賛成案、または反対案で、いずれにせよ、大問I の英文から引用して持論の支持
  • Bを選択し、賛成案、または反対案で、いずれにせよ、大問の IIかIIIから引用して持論の支持

という与しやすい対応が殆どのような気がします。

  • Bを選択し、賛成案で、大問II から持論に都合の良い部分を引用、さらに、予想される反論として、大問III から考察の甘いところを引用し、それに対して再反論

というようなものはあまり想定されていないようです。そのような解答例を示していたのは、M塾くらいでしょうか。

組み合わせを考えれば、

  • Aを選択し「反対案」ではあるが、大問II から「移民受け入れによる経済効果」を引用して、持論を支持、さらに予想される反論として、大問I の引用で論拠の薄い事例を取り上げ、再反論

などというのもあり得るのですけれど…。
長々と書いてきましたが、この「経済学部」の選考では、「採点方法」に関しての但し書きがあることを忘れてはいけませんね。

採点方法について
A方式は「外国語」の問題の一部と「数学」の問題の一部の合計点が一定の得点に達した受験生について,「外国語」の残りの問題と「数学」の残りの問題および「小論文」を採点します。
B方式は「外国語」の問題の一部が一定の得点に達した受験生について,「外国語」の残りの問題と「地理歴史」および「小論文」を採点します。
なお,最初に採点される「外国語」および「数学」の一部の問題については,前記各科目の問題冊子の表紙に明示されます。AB両方式とも,最終判定は総合点によって合否を決定します。

これぞまさしく、「日本の大学入試」という感じですね。
「英語教育」プロパーの方々も、「外部試験」を云々する前に、このような「大学入試」そのものについて、きちんと論評しておくべきです。なぜそうはならないか、そんなことを一生懸命やっても儲からないから?どこかの大学に所属している人が、どこかの大学の入試問題を批評する、という文化風土がないから?
2006年の『英語青年』の特集から、何も変わっていないということでしょうか?

拙稿の写しがこちら
英語青年200604松井.pdf 直
冒頭の写真の画像ファイルがこちらからDLできます。
写真 2015-03-09 15 56 49.jpg 直

国公立大学の出題では、九州大学を取り上げます。(問題文はこちらなどから入手して下さい → http://mainichi.jp/edu/daigakubetsu/pdf/kyushu/english.pdf

大問の4がライティング。「絵文字」ネタです。「お題」設定のための英文が与えられています。九州大の英語に関しては、実物のコピーをさる方から送っていただきましたので、以下、英文を示しておきます。

Emoji---pictorial representations of facial expressions and inner emotions---are now an integral part of our daily communication. At first they were available only in Japan, but many emoji characters have been incorporated into Unicode, thus PC and mobile phone users around the world have access to these symbols and many people enjoy adding them to their instant text communications. Some argue that these characters greatly help facilitate electronic communications, in which body language and vocal tones are often absent. On the other hand, others point out that they might spoil our verbal language skills because they allow us to communicate with each other without elaborating on what to say in words. State your opinion about this issue in 100-120 English words.

典型的な「お題作文」「大学入試英語ライティング」の出題です。

出題者は、受験生にどういう解答をして欲しいか、問題文にここまで書くんだな、と再認識しました。

Some argue that 絵文字肯定 (積極・擁護・推進など) の意見.
On the other hand, some point out that 絵文字否定 (消極・反対・非難など) の意見

を踏まえた上で、

State your opinion about this issue

といっているのです。 “this issue” とspecific に書いているわけですから、持論を声高に述べているだけで、「争点」が全く示されない解答は不可、あるいは著しい不備のあるもの、として扱われるのではないか、と危惧します。
いや、本当に、まさかと思うような英文が「解答例」として堂々と載っている予備校もあるのですから。
いくら「自分の意見をはっきりと書け」と言われたからといって、

  • 私は絵文字が嫌いです。

がトピックセンテンスになり得ると思えるのが不思議、というより悲しいです。


与えられた英文の第一文が

  • are now an integral part of our daily communication

と現在時制で、確固たる事実として書かれていたりする訳ですが、その英文をどこまで信頼するか、という部分には敢えて突っ込みません。相手側の土俵で勝負するだけです。

このブログでも再三再四強調している、「賛成反対」のお題に対するアプローチを今日も繰り返しておきます。
この「絵文字に関する争点」に対する意見を求めている「お題」に答えるためには、本当は何を考えなければならないか?それは、その判断の根拠となる「価値観」を自覚する、ということです。

問題文として与えられているキーワードだけでも、「『話し手の顔や声』がコミュニケーションにおいて果たす役割」や「言語そのもののスキルの巧拙、表現内容の精選や洗練」について考えておく必要があります。
その上で、

「現代のテクストコミュニケーション」とでもいうべき意思疎通の媒体を使うに当たって、あなたがそのコミュニケーションに求める最も重要な要素は何なのか?

と言う問いに答えること、もしくは答えようとして考えることが重要だ、というのが私の基本スタンスです。
そこがきちんと捉えられていれば、パラグラフ・ライティングの「型」が多少崩れていようと、内容のつながりとまとまりの面で致命傷になることは少ないと思っています。

何度でも言います。
今日取り上げた、「慶応義塾大学」や「九州大学」を目指す受験生が多くいるような高校や、予備校・塾で英語の指導に当たられる方たちは、こちらの本の内容くらいは早く消化吸収して、超えていって下さい。

大井恭子編著、田畑光義、松井孝志著
『パラグラフ・ライティング指導入門』(大修館書店、2008年)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

普段から、「そよそよ」を説く私ですが、「そのうち」も「そろそろ」だと思うのです。

というわけで、近々の学会の告知です。

2014年度 千葉大学英語教育学会 第10回大会
2015年3月15日(日)13:00-17:25
千葉大学 西千葉キャンパス

大井科研関連の報告・発表に加えて、大井恭子先生の最終ご講義があります!

学会参加のお申し込みは3月13日(金)までとなっております。
詳細は
https://chibaelt2015.wordpress.com/%E3%81%8A%E5%95%8F%E3%81%84%E5%90%88%E3%82%8F%E3%81%9B/
をご参照ください!

本日のBGM: Jubilee (くるりとチオビタ)