大名 力先生と新著『英語の文字・綴り・発音のしくみ』を読む会

tmrowing2014-12-16

「来年のことを口にすると鬼が笑う」などという諺は今の時代の高校生にも広く使われているのでしょうか?
2015年1月のイベントのお知らせです。
私自身は語研(語学教育研究所)の会員ではないのですが、G大出身で、若林俊輔先生に教えを受けた者として、常にその取り組みには注目してきましたし、中高教員対象の春期講習会の講師を務めたこともあります。その「語研」から、読書会のお知らせが来ましたので、このブログでも告知させていただきます。
まずは、概要から。

1月 語研読書会のお知らせ (http://www.irlt.or.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=111
語学教育研究所では、毎月1回土曜日、英語や英語教育に関する本の読書会を行っています。
 1月31日(土)の語研読書会は
大名 力『英語の文字・綴り・発音のしくみ』(研究社,2014)です。
 この日は、なんと著者の大名先生ご自身が読書会にご参加くださることになり、直接お話を伺うことができます。本を読了されていなくても参加できます。
 日時:1月31日(土)16:30〜18:30
 場所:筑波大学附属中学校
       東京都文京区大塚1−9−1
      (最寄り駅:有楽町線護国寺駅 丸の内線茗荷谷駅)
 参加費:会員無料、非会員500円
  「この発音で、どうしてこのつづりなの?」という生徒や自分自身の疑問に答えたい英語教師の方々に、一人でも多く聞いていただきたい内容です。文字そのものや綴りについて、あらためてしっかり勉強することができます。
 お知り合い、同僚の方々ともお誘い合わせの上ご参加ください。
 参加される場合、久保野 rkubonoアットマークjs8.so-net.ne.jp に一度ご連絡ください。

大名 力(おおな つとむ)先生は現在、名古屋大学大学院で教授をされています。
私は、文字指導、発音とつづり字の指導の先行研究、参考文献をあたっている中で、偶然にというか必然的にというか、大名先生に行き着きました。奇しくも、若林俊輔先生に師事されたということで、個人的には「兄弟子」にあたる存在です。
公式のHPはこちら。

名古屋大学名古屋大学大学院 国際開発研究科
http://www2.gsid.nagoya-u.ac.jp/blog/dicom/?faculty=ohna_tsutomu
教員詳細
http://profs.provost.nagoya-u.ac.jp/view/html/100000202_ja.html

2012年の夏期講座では、「文字とつづり」を扱われていました。

英語の書記体系─文字と綴りについて─
http://www.gsid.nagoya-u.ac.jp/ohna/koukaikouza2012/

私のこのブログでも、大名先生が講師を務める研修会の告知をしたことがあります。(過去ログ参照)

こちらは「コーパス研究」の分野で「コロケーション」について扱ったものです。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120325

今年度の公開講座(英語の書記体系─文字と綴りについて─)の概要はこちらに。

http://www.gsid.nagoya-u.ac.jp/ohna/koukaikouza2014/

大名先生のご専門が、「英語学・生成文法・英語語法文法」だからこそ、幅広く、深い見識で「英語」ということばの「成り立ち」や「運動性能」を捉え、私たち中高の英語教員や研究者を志す者に示すことが可能なのだと思います。
今回の「読書会」は、新著の刊行を記念して行われるとも言えるものですから、「文字の成り立ち・発音・綴り・正書法」が中心となり、2012年の公開講座を発展させたものになるのかな、と推測してはいます。

※このエントリーを読まれた大名先生から「内容」に関して連絡がありました。

時間の関係ですべては扱えないので,2・3章 (現在の書記体系) と6・7章 (歴史的な成立過程) を取り上げて説明する予定です。
可能なら,英語の書記体系に関することで疑問に思っていることを(参加者に)事前に送ってもらい,それに答えるようにできればと思っています。

とのことです。

私も高校を中心として29年、「現場」で教えてきた身としては、発音と綴り字の指導が「フォニクス」頼みになってしまうことに、もどかしさを感じていました。
やはり、文字を書く指導の前段階として、「文字そのもの」に対する指導が必要であり、そのためには教える教師自身が「文字」について熟知している必要があります。これは、教師が「能筆家」であることを義務付けるものではありません。
文法指導において英語学・言語学の知識が役に立つように、音声指導において音声学の知見が役に立つように、英語の文字とつづり字、つづり字と発音の指導に関しても、何か体系だった「学」と呼べるような、依拠に値するものがあるといいな、とずっと思ってきました。
今使われている文字の成り立ち、ストロークの特性による文字の分類、個々の音声と文字との関係・表音と表記などに関して、体系だった「背景」や「土台」となるものを、大名先生の新著は示してくれていると思います。
これまでにも、文字の成り立ちであれば名著がありました。

田中美輝夫 『英語アルファベット発達史―文字と音価―』(開文社出版、1970年)

これは、アルファベットの歴史を概観する基本書と言ってよいでしょう。絶版だと思っていましたが、今でも購入可能とのことです。こちらの開文社出版のサイトを参照されたし。(大名先生から教えていただきました)

手書き文字の歴史にも、「文字そのものの特性・特徴」が現れます。

Alfred Fairbank. 1970. The Story of Handwriting, origins and Development, Faber & Faber

などの書からも、「文字」に対する洞察は深めることが出来ます。

つづり字と発音、しかも音から綴つづり字へのアプローチも開かれている好著としては、

成田圭市 『英語の綴りと発音 「混沌」へのアプローチ』 (三恵社、2009年)

があります。この書は現役で流通しています。
コンパクトな辞書の中に発音に関する多くの情報を詰め込んだものとして、

『表音小英和』(三省堂、1980年)

が、分綴に関するコンパクトな一覧表とも言える辞書に、

竹中治郎『英語分節辞典』(愛育出版、1958年)

がありますが、絶版の上に、初学者レベルではちょっと使いこなせそうにない凡例、内容となっています。
日本人学習者の現実を踏まえて書かれた、「発音・つづり字」の本としては、

竹林滋『英語のフォニックス 綴り字と発音のルール』(ジャパンタイムズ、1981年)
竹林滋『英語発音に強くなる』(岩波ジュニア新書、1991年)

がありますが、どちらも絶版です。
専門用語を極力排して、教室での、教師・生徒の現実に身を寄せて書かれたものでは、

宮田幸一『発音・つづり・語形成』 (研究社、1969年)

がありました。
これらの本は絶版であっても、歴史の古い学校の英語科研究室・準備室には備わっているかもしれません。(冒頭の写真にこれらの本の多くが写っています。こちらからDL出来ます。写真 2014-12-16 13 11 53.jpg 直)しかしながら、随分前に世に出て、本来多くの人の手元に届くべきものが、その遙か手前で滞っていること、そしてそれゆえに現場の指導の成果が上がらず、外からの批判に晒される現状は歯がゆく思ってきました。
そこに満を持して登場したのが、この大名先生の新著といえるでしょう。
文字の歴史という英語史から、正書法と音韻論・音声学までの諸領域を横断して「学際的」ともいえる一冊を書き上げるのは並大抵のことではなかっただろうと推察します。
新著の『…しくみ』の、「はじめに」にはこんな大名先生の「ことば」があります。

現代では、日本語を読み書きする場合でもアルファベット(ローマ字、ラテン文字)が重要な働きをしています。雑誌でも新聞でも身の回りにあるものを見てみると、アルファベットが多く使われており、アルファベット抜きで現代の日本語を考えることができないくらいです。これだけ広く使われているアルファベットですが、漢字や仮名に比べ、その文字の特徴や歴史についてはあまりよく知られていません。」漢字や仮名については国語や社会の授業でその構造や歴史について学んだことはあっても、授業でアルファベットについて学んだ経験のある人は少ないでしょう。それもそのはず、そもそもアルファベットについて深く学んだことがある英語の先生が多くありません。英語教育では文字はあまり関心を持たれていない分野のようで、教員養成系の大学でも英語の書記体系を扱う授業はほとんどないのが現状です。英語教師になろうという学生にさえ教えられていないのですから、日本人の多くがアルファベットに関する知識をほとんどもたないのも当然です。

私もまだ、この本を読み始めたばかりで、「?」が浮かぶところがいくつもあります。
今回の「読書会」は、著者である大名先生ご自身から、そんな「?」に対する回答(に至るヒント)がもたらされるかもしれない、絶好の機会だと思います。
首都圏近郊の方は日帰りで参加できることを羨ましく思います。
私は先週の時点で、東京の宿泊先と航空券の手配を済ませました。今から楽しみでなりません。
英語教育に携わる方、文字指導、音声指導の確かな足場を求める方、更には、研究者とその卵の方々、またとない機会です。同僚の方もお誘い合わせの上、ご参加をご検討していただければと思います。

本日のBGM: Blank Space (Taylor Swift)