何の説明もなかった?

金曜日は進学クラスで、高1、高2のみ、4コマ。
高1は、「フォニクス」と『エースクラウン英和』の学習ページのマトリクスを使って、「規則変化動詞の過去形の発音と綴り字」。
本当に、「過去形」の綴り字と発音は、入門期でしっかりと練習しておきましょうね。
高2は、「リーディング」。
「英語は英語で」の出来るところ、それでは上手くいかないところを行ったり来たり。
今使っている教科書『Element』(啓林館) には、第一課に「フレーズ読み」として、練習問題の英文があります。(p. 7)

1. Today, dangerous sports are becoming popular. Some of these sports, such as surfing and mountain climbing, have been around for a long time. Skydiving is considered to be one of the most famous dangerous sports. It makes us feel free like a bird. Bungee jumping, though it may not be a sport, is certainly one of the most thrilling activities if you have courage to try it

第2文の述部、 “have been around” の意味は文字通りに解してもピンと来ないのが一般的な高校生でしょう。では、英語でパラフレーズされた時に、「なぜ、そういう意味になるの?」という疑問にはどのようにフォローをいれるのでしょうか?そして、「長い間存在する危険なスポーツ」「昨日今日生まれたわけではない危険なスポーツ」という具体例は、何のために必要なのか?ここでは、「新旧」の対比を意図しているのか、「馴染み度の差」を強調することで、"popularity" を感じさせようというのか?などを説明するのは骨が折れます。
授業では、「具体例が具体例として利く条件」のようなものをそれまでの実体験や学習で知っていることが大切ということで、

  • surfing は海
  • mountain climbingは山
  • skydiving は空

というのは誰でも分かるけれど、それぞれ、dangerousなスポーツの例なのだから、「危険性」はどこに潜んでいるのか、「生から死へと近づく」要素がどこに含まれているかを、「読んでいる」のだ、ということを説明しておきました。
海の「深さ」とか「波」で「溺れる」、山の「高さ」故に「転落」するとか「落石」に遭う、山の「天気は変わりやすい」が故に「遭難」する、空の「高さ」故に「墜落」する、などということが分かっていることがそれぞれの具体例理解の前提。
では、「英語で英語」、AAO派はどうしますか?
「意味を読む」だけならいいのですが、「ことばを読む」ところまで行かないと、次に「自分で言う・書く」ときに悩むことになります。
なぜ、海陸空の順番で具体例を出したのか?身近さから言っても、道具の発達からいっても、「陸海空」が自然のような気がします。いや、「生命は海から」ということで、人類の進化を辿っているのか?など、自分で実際に文章として「表現」しようとするならば、本当に考えておくべきこともたくさんあるのです。

2. Though Australia is a very large country, 88 percent of Australians live in a few cities, mainly Sydney and Melbourne. Almost everyone lives within a few kilometers of the sea. Sydney, for example, has many large ocean beaches. People use these areas in the same way as people in other cities use parks: for picnicking, playing volleyball, swimming or just walking. “Life is a beach” means that everything is great.

チャンクごとに読み取っていくのは良いのですが、最後の1文で、

  • なぜ、「人生」がbeachだと、”everything is great” という意味になるのか?

は分からず終いです。
私自身、この文を読んだ時に、

  • でっかいどう、北海道!
  • 海はひろいなおおきいな

のようなイメージを思い浮かべました。私の "great" の理解が、第1文、第3文の largeのイメージに影響されていることは明らかです。
では、ここでの "great" がもし、TMの日本語訳にあるように「すばらしい」という意味となるのであれば、その前の具体例である "something people do in parks" には、「すばらしい」というような、高いプラスの評価が与えられていて然るべきだと思うのです。
この部分の「隔靴掻痒」は英語で読んだからといって解決はしません。
このような、当たり前の疑問と向き合って、悩み所で悩み、迷い所で迷う、良い授業でした。
さて、
「英語表現」についてあれこれ書いてきましたが、今日は「文字指導」。
これまでいろいろな機会を捉えては、「ライティング指導の第一歩は文字指導から」と言い続けてきました。
主として高校で教えてきましたが、小学校にも「外国語活動」という名の「英語の授業」が取り入れられている今、小学校から高校まで、「文字指導」でいったい何が行われているのか、という実体の解明が必要だと感じています。(筑波大附属中での1年生の文字指導を参観した時の過去ログはこちら→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060526)

児童英語指導で急速に普及した「フォニクス」も含めて、文字の読み方、綴り字の読み方や、カードやブロックを用いた「文字並べ」での単語の綴り字完成など、「文字に慣れる」指導はバラエティーも増えてきたように思いますし、一定の成果が得られているように思います。
が、その一方で、「文字を書くこと」自体の指導はほとんどされていないのではないか、という「印象」を持っています。あくまでも印象なので、解明したいと思う訳です。
市販の教材を見る限りでは、入門期の文字指導で、実際に書く段階では、それぞれの文字に含まれるというか、それぞれも文字を形作っているストロークの種類による文字の分類はあまり省みられず、a to zまでを発音と共に、順番に書かせる指導がまだまだ多いようです。
なぞり書きをさせている教材もありますが、これも、線やループをなぞるのではなく、初めから文字を見て文字を書く「視写」教材がほとんどです。
長短の縦横ストロークを等間隔で書くなどの「漢字」に含まれているような運筆上の、手の動きの調整 (= モーション・コントロール) は上手くいっても、カーブやループを含む運筆は、「既に出来るようになった人」が思う以上に習得が難しいのです。
ひらがなの「し」や「つ」と、 Uや Dのストロークは同じではありません。
ひらがなでは、「す」「な」「ね」「は」「ほ」「ま」「み」「む」「よ」「る」など、文字そのものに占めるループの割合が著しく小さい文字しか書いていないわけですが、英語では、多くの文字で、四線でいえば、基線と二線というのでしょうか、baselineとmean-lineのラインの間、いわゆるx-heightで大きな曲線を描く運筆を求められます。
入門期には「四線」を用いた指導がなされることも多いのですが、この「四線」で十分な指導を経たとしても、そこから通常の罫線のノートに移る指導もほとんどありません。罫線と罫線の間のどこに、「基線」を見いだし文字を落ち着かせるかは本当は大問題なはずなのです。
中1の段階で毎行に書かせている中学校の先生はいないと信じたいのですが、実情は把握できていません。私は高校生にも、方眼のノートを薦めていますが、罫線の場合はできるだけ広い罫線、あるいは1行おきに書く事を薦めています。
b, d, hで上に「出る」、 ascenderの割合、g, j, p, y など下に「出る」 descenderの割合、iとjの点の位置、tとfのバランスなどなど、「四線」では、その補助線である程度出来ていた運筆が、通常の罫線では、とたんに崩れがちになります。高校に入って、一からやり直しが必要という生徒も多数います。癖が強い場合には、矯正もまた難しいのです。教科書が進めば、新出語句のオンパレードですから、一定速度で書ききれない生徒は、書くことが面倒、億劫になりがちです。
さらにはテストの解答用紙のどこに文字を落ち着かせるか、中一の二学期以降も、解答用紙が全て四線という中学校はないと思います。下線を基線に見立てて、という場合に、スペースは十分確保されているのか、解答欄が枠になっている場合には、どのようなバランスで書くのかのお手本を示しているケースも稀です。この「解答を枠の中に書かせる」ことは、高校で試験を課す私もいつも心苦しく思うところです。
一定のスピードで、安定した運筆を実現するためには、単語を書く前、または単語を書く指導と並行して、頻度の高い文字と文字のjoiningの指導が必要です。
「フォニクス」指導では、例えば、sun, run, funなどの原理原則を当たり前のように読ませて、読めるようになったら、もう習得済み、と思いがちですが、sの出口、rの出口、fの出口はみな違うのですから、当然、uへの移行には手間取る訳です。それに比べて、uとnの結びつきの頻度は高く、しかも、この「音と綴り字の関係」では必須の結びつきですから、joiningの練習をするなら まずは、un, un, un, un を安定した形とスペースで、しかも一定の速度で書けるように指導すべきなのです。「フォニクス」では -ate, -ite, -ute, -ote などの「マジックe」は教えているはずですから、このjoiningを取り出して丁寧に練習させる、など、単語を既に知っている生徒でも、その語が含む一定のjoiningのパターンを敢えて練習させることが、運筆の習得には欠かせません。
「フォニクス」に言及したので、少し指摘しておきます。
「文字から音」では類型化が上手くいくことの多い「フォニクス」指導ですが、「音から文字」というのは、やはりかなりの習熟を求められるものです。

  • face, pace, race

が発音できて、

  • base, case, chase

が発音できるからといって、この6語を耳で聴いて、正しい綴り字が書ける訳ではありません。
faceでは「綴り字は -c- だけれども、/s/ の音」で、baseでは「綴り字も -s- で、音も /s/ 」、というのは「なぜ?」と言っても詮無いことで、結局は「個別に覚えなければならない」のですから、根気よく、同じグループはまとめて練習させる中で、「仲間意識」を育むしかないように思います。
同じ「マジックe」が利いている綴り字の、

  • place, plane

では、 - a – は「名前読み」だというルールを覚えているからと言って、

  • rain, pain, main

を聴いて正しく綴れるわけではありません。発音と意味を覚えていても、やはり、

  • plaice, plain

という綴り字を書く可能性はあり、その場合は別な語になってしまうわけです。
ただし、「ローマ字読み」からの類推で、 -ei- という綴り字が、この「音」を表すことは英語では極めて稀で、

  • rein, eight, neighbor

などが代表例です。
このように、「実際に文字を書く前、最中」に段階的な指導をほとんど受けず、困難点を抱えたまま、学年が進行してしまうと、一つの単語を書くのに、書いたり消したりとものすごい時間とエネルギーを必要とするために、「10回書いてきなさい」という指導でますます疲弊します。自分の書いた字が、自分でも上手く読めないことが多いので、さらに書くことが億劫に、嫌いになっているかのようです。
これらは、全て、私が高校への新入生を見て感じてきたことです。これまでに、公立・私立、首都圏・地方、と5校経験してきましたが、どの学校にも一定数は必ず、困難を抱えている生徒がいます。ですから、高校入学以前の「文字指導」、とりわけ、「実際に書く指導」で何が行われているのか、または、行われていないのか、を詳しく知りたいと思います。
その上で、文字指導で「実際に書く指導」に関しては、私が現役の間に何とか「教材化」したいと思っています。暫し、コメント欄を開放しますので情報をお寄せ頂ければ幸いです。

私の書いた、「フォニクス」というカタカナ表記は、英語教育の分野では一般的ではありませんが、phonicsを英語の音で読むと、第一音節に第一強勢がくることが多いのです。「フォニックス」と「促音表記」をすることで「ピクニック」のように第二音節の聞こえ度が高くなるのを避けるために、ここ数年ずっとあえて、「フォニクス」という片仮名書きを使っています。

文字指導関連の過去ログはこちらを参照されたし。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060816 (とりわけコメント欄を!)
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080416
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20081009
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20081012
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20081019 (私が「フォニックス」という表記を使わない理由)
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20100906

本日のBGM: 取扱いには注意! (コモンビル)