英語の文字の話

大学の教科教育法でW教授は「活字体」と「筆記体」という紛らわしい呼称を止め、「楷書体」と「草書体」という比喩を提唱していた。慧眼だと思う。
私が英語の文字についてはっきりと意識し始めたのは、この先生の授業がきっかけである。
以前勤めていた学校では、明治時代に英国から伝えられた独特の書体を採用しており、ペンマンシップ用のドリルブックも独自のものが作られていた。こういう例は希有であろう。
書体(フォント)に関しては、自分なりにいろいろ学んでみて、今授業用のハンドアウトに使用しているのは2種類。ArialとSassoon Infantである。(このブログで正確には出せないのでご容赦を)
Arialは文字のストロークの髭がないので、高校生、リーディング教材など長文読解での視覚認識の負荷を減らすことを意図して用いている。
Sassoon Infant は手書きに近い書体で、ストローク数にも配慮のある書体で、中学生やライティングの授業など書き込みを重視するハンドアウトで用いている。
Sassoon Infant は今年の3月までの『NHKラジオ新・基礎英語1』のテキストの書体をもう少し簡単にしたものと考えてくれればイメージしやすいだろうか?(Sassoonシリーズの中でも、いわゆる小文字の k を1ストロークで書くのでループが出来る)
私にとっては、浅からぬ縁のある『NHKラジオ基礎英語』であるが、現行の『新・基礎英語1』へと続く、Sassoon系フォントの導入は、初学者にとっての文字認識の負荷や習得の困難点、というものを語学番組で本当に正面から扱った日本で初めての試みだったと思っている。(講師の手島良先生の残した功績は極めて大きいと考える)

4月からのNHKの語学プログラムは大改編である。
初学者レベルを見渡しても、今までは『新・基礎英語1,2,3』の3つのレベルに分かれていたものが、新年度は、2つのレベルに統合される。書店でテキストを眺めてみたが、不安が大きい(とりわけ、『2』の方が心配である。杞憂に終わることを願う)
『1』の方は、やはり文字認識の負荷がもう少し考慮されても良かったのではないか。日本語の説明がついているから、初学者のうちからテキストにもどんどん英語を使っていく、というのは、一見もっともに思えるが、日本語を「音声も含めて」一から学び始める人に、「ルビ」を振ってあるから、漢字をどんどん使ったテキストを使っても大丈夫、といっているのとあまり変わらないように思う。文字(character/letter)と文字の間隔、語と語の分かち書き、文と文を構成する要素などなど…。
音声を重視しているからこそ、文字の導入にはより一層の配慮をもって臨むべきである。いわゆるローマ字が読めれば済むという問題ではない。