The rest is history. と言えるように、今、何を?

11月1日、文部科学大臣から、2020年度での所謂「民間英語試験」の共通テスト枠導入が見送られることが発表されました。
この前後、国会での野党合同ヒアリングへの出席、東大シンポジウム、延期法案提出後の報告会、そして延期発表後の文部科学委員会参考人招致の傍聴、と慌ただしい日々が続きましたが、最悪の事態だけは免れたと言うだけで、今後も政策の課題、受験者側、選抜側も含め、当事者の実務レベルでの課題は山積です。

当該学年と言われる現高2生、制度変更を跨がって受験に望む可能性がないわけではない現高3生や既卒生、そして、既存の学校学年に属していない「高認」での受験者など、大人の都合で振り回された、弄ばれたという思いを持つであろう方たちには本当に申し訳なく思います。

私個人として、この「民間試験の共通テスト枠利用」の問題は、その政策を推し進める根拠として悪用された「高校3年生英語力調査」の段階から、執拗とも言えるほどにこのブログなどのSNSで取り上げ、2015年の「山口県英語教育フォーラム」でも指摘し、2018年8月のLET大阪パネルディスカッションでも議論しました。今年になってからも、2019年2月の高大接続に関わる東大シンポジウムの登壇者として、警鐘を鳴らせる限り鳴らしてきたつもりでした。

この2月のシンポジウムに参加していた、この方の呟きを、私は公教育現場を離れた後も、ずっと重く受け止めていました。

目の前の生徒が制度の犠牲になろうとしている。自分がその片棒を担ごうとしているという加害者意識がシンポジウムではあまり感じられなかった。むしろ、被害者あるいは評論家のような意見が多いと私は感じた。
https://twitter.com/KITspeakee/status/1095110905283706880?s=20

その羽藤先生が先日の文部科学委員会参考人招致で意見を述べるというので、いろいろな方の伝手を頼って、傍聴券の発行をお願いし、傍聴することができました。参考人が一人ずつ最初の意見陳述をする順番の最後が羽藤先生。およそ10分。その最後で私は落涙しました。政策上の問題はまだまだもっと根が深く、泣いている場合ではないのですが、英語教育に携わる者必聴・必見のスピーチだと思います。
私があれこれ論評するよりも、こちらの動画を見ていただくのが一番いいと思います。


[英語民間試験] 羽藤由美 参考人・意見陳述 11/5衆院・文科

2月の東大シンポのあと、私はツイッターでこう呟き、このブログでも再録していました。

私は所属する組織から発言に何か制約を受けたりということはありませんので、忖度も損得勘定もありません。これまでも批判すべきものは批判してきましたから。「加害者意識」に関して言えば、私の発表の冒頭で自己紹介した際に発した「ことば」に、私なりの思いとその重さは込めたつもりです。

今回の依頼を受けたときから、「反対派・慎重派」の総決起集会のようなものにはしたくないと思っていました。というのも、高大接続改革、英語教育改革に関して、現在、慎重派、反対派の論に、ことごとく「理」があると私は思って、SNSや学会で発言してきましたが、政策の推進派、賛成派は、疑問点や懸念に対してほぼ無回答で時が過ぎ、政策実施期限が迫っている今、「理」を説くだけでは世の中は動かないように感じているからです。「NPO法人・森は海の恋人」の畠山重篤氏の「世の中を変えるには詩人が必要だ」という一節を反芻していました。詩人も叫べ、という批判は甘受します。

http://tmrowing.hatenablog.com/entry/2019/02/16/163810

甘いですね。
青いですね。
でも、これが私の現実です。

当の責任者たる文科相の「失言」と二週連続の閣僚辞任という「政局」で最終判断があったような報道も見られますが、理を説くだけでは動かなかった世の中が少し動いたのは、ベルトを引きちぎられることになる大学生(ひっきたいさん)の勇気ある行動であり、合同ヒアリングに声を届けた地方の高校生であり、顔を出してまでも理知的な批判を続けた高校生(こばるとさんやクリスさん)であり、そういった動きに道を付けた田中先生ら「予備校講師」の方たちであり、SNSで問題意識と情報を共有し、積極的にデモで声を上げつづけた真美さんなど一人ひとりの市民の連なりであり、それを支えてきた羽藤先生や阿部先生の並々ならぬ熱量の賜物であっただろうと思います。
この場を借りてあらためて感謝いたします。

一英語講師となった今の私にできることはタカが知れていますが、できることをできる範囲で続けていければと思っています。


本日のBGM: Roman Holiday (The National)