「数々の弱さを引き受けて」

第4回山口県英語教育フォーラム終了!

おかげさまで、雨も上がり、盛会裡に終了致しました。
3名の講師の方、運営委員の皆様、協賛のベネッセコーポレーション、山口県鴻城高等学校にあらためて御礼を申し上げると共に、休日に集ってくれた参加者の皆さん全てに感謝致します。

今回のフォーラムの「テーマ」の振り返りは頭が整理できたら少し詳しく書いてきますが、まず、それぞれの先生の講演の印象が新鮮なうちに、気がついたことを備忘録代わりに。

組田幸一郎先生の講演は、「大学合格者数」や「英検合格者数」などの数値を目標に学校は1つになれるか、生徒の成長を願うという教育の本質と、スキル重視の昨今の時流とは相容れないのではないか、という問いかけを含むものでした。
「不安 (を煽ること) で生徒をコントロールしようとしていませんか?」という問いかけは、英語習得・英語運用のリアリティをどのように授業の中に組み込むか、という問いかけとも重なり、「借りもののリアリティ」を教室に取り込んで、学習者のドライブとして使っていないか、考えさせられました。
本フォーラムの協賛であり、私も勤務する私立学校としては耳の痛い、また、GTEC for Studentsで英語力の数値化を図り、全国高校生ディベートの支援をしているベネッセコーポレーションとしては、その提供する商品価値に対する疑義とも取れるものですから、あまり快いものではなかったかもしれません。しかしながら、そこに、現代の英語教育を考える上での重要な課題があるのだと思います。
以下、アンケートにお答え頂いた中学校・中等教育学校関係の参加者の声から。

  • 学力を高めたり大学合格者数を増やしたりすることはもちろん大切ですが、教育の目的を見失わないようにすることが大切であるということを教えていただきました。教育者は生徒の成長を思う気持ちをもつ存在である限り、生徒の努力の結果だけではなく、その過程を大切にすること、つまり数字にとらわれすぎてしまわないことが大切であるということは、進学校や私立校でも意識されるべきだと思いました。
  • 生徒が活き活きと活発に活動する授業作りに悩んでいる時には、著名な先生方の表面的な活動例 (技術) に飛びついていました。基本を振り返るよい機会となりました。
  • 何のために英語の授業を行うのか、生徒にどのような力をつけさせたいと願って授業をしているのか、が本当に大切だと思いました。授業をするとき、その授業が本当に生徒の成長につながることなのか、という質問を自分自身に課しながら今後の授業を行っていきたいと思います。

佐藤綾子先生の講演では、冒頭で「教師年表」でこれまでの歩みを簡単に紹介されていました。平坦ではないその歩みがあればこその、佐藤先生の教師としてのスタンスがあり、佐藤先生だからこそ見えるものがあるのだと実感しました。「発問」は今風の英語教育の流行言葉になった感がありますが、佐藤先生の卓越した言語感覚に裏打ちされた目の付け所は多くの参加者にとって新鮮なものと映ったのではないでしょうか。
中学校1年生の教材で、「折り紙」で作られた「ウサギ」に関するやりとりが取り上げられていましたが、語彙も構文も制限された中で用いられる、Really? 一語の扱いを参加者に投げかけていました。
内面にある豊かな思いを、英語の語彙構文ではうまく表現できない中1の生徒だからこそ、実際の授業でもまず生徒に発話させた後で、それを引き取って本文の読みに戻るということに意味を持たせているのだと思います。
この部分に関して、私が最後に質問させていただきました。中1では上手く言語化して表現できない思いを音声での工夫で伝えていたものを、中3までの授業を経ての卒業時には、同じ箇所に戻って再読した際に、

  • 今の私なら、こんな風に言えるよ。

というような機会を作ることはできないか、というのが私の意図でした。
私は主として高校生を教えていますから、その観点から見ると、高校の2,3年生になれば、

  • Can you really fold a sheet of paper into the figure of some animal, such as a crane or a rabbit?

などという英語を使えるようになっているかも知れないわけです。
とかく、教科書の英語を、簡単な英語に書き直してオーラルイントロダクションで用いたり、ストーリーリテリングで用いさせたりするのが、高校英語の流れですので、中学レベルの教材で出てきた英語を、高校の2年、3年レベルの英語に肉付けして発展させるような工夫をもっとできないかと考えています。
参加者の声から。

  • 折に触れて、ご自分の授業を振り返り、省みられている点、素晴らしいなと感じました。生徒に「読み返す、読み込ませる」ことを仕掛ける発問が中1の初期であれだけあることは、私自身、今日改めて気づかされました。英語を通じて、気持ちや状況をしっかりじっくり想像する、伝えることの大切さから、日本と外国の文化の違い、イメージや先入観など、自分たちを立ち止まって見つめることまで、幅広く子ども達が考える要素が詰まっているのだと、とても勉強になりました。発問づくりは難しそうですが、少しずつ私の授業でも実践していきたいと思います。
  • 目の前の生徒達やご自分の授業としっかりと向き合ってこられた先生なのだなぁ、としみじみ感じました。「読む」ことも大切な要素なので、生徒達から出てくる言葉を大事に扱いながら、私も続けていきたいです。
  • 読みを深めるための発問の在り方について考えるよい機会となった。発問の在り方については日常の生徒の姿を見ていることが大切であると思いました。

萩原先生の講演は、10月のELECの大会でのビデオによる授業実演とはまた異なり、授業の背景にある萩原先生の哲学と生徒と授業を組み立てていくプロセスとをバランスよく盛り込んだものでした。今回のフォーラムでの組田先生、佐藤先生の講演概要を受けて、これまでの30年以上の指導経験の中から引き出し、その切り口を考えて下さったのだと思います。どの言葉も、萩原先生が自分の生徒達と作り上げてきた実践の中から生まれたものだからこその説得力がありました。
新英研の伝統でもある「自己表現」、「クリエイティブライティング」は萩原先生の実践の中核を占めていると思うのですが、現在の勤務校では英語Iではなく、オーラルコミュニケーションのコマで展開しているとのことでした。私が質問させて頂いたのは、

  • 読みがデフォルトであり、言語材料が準備されている英語Iと比べると、オーラルの教科書では、インプットで与えることのできる英語が質・量ともに低下することになるが、それを補ってアウトプットまで持って行く工夫はどのようにしているか?

という点でした。英語Iでのオーラルイントロダクションなどで充分な英語のインプットを与え、リテリングやサマリーをすることで英語を残す工夫をしている、という以外に、まだまだ何かがうまく機能しているのではないかと思いました。次回お会いした時にでも萩原先生の引き出しの奥を覗いてみたいと思います。
参加者の声より。

  • ペアワークやさまざまなリーディング活動を実践しながら、とてもわかりやすいお話でした。特にDVDで見たオーラルイントロダクションは視覚的にも内容的にもとても興味深く、惹き付けられました。Retellingについても、初めての挑戦でしたが、イメージが湧きやすく、本文を理解しようと読み返すきっかけにもなり、とても楽しかったです。声を出す中で、少しでもいいから耳に英語が残っていくとよい、というスタンスは共感しました。12か条を参考に、改めて来週から頑張ります。
  • 今日、一番楽しみにしていました。困難を抱える学校でも「できないからやらない」というネガティブな姿勢ではなく、生徒が取り組めるような活動に工夫していくことが大切なのかなと思いました。
  • 先生のダンディーな笑顔と流暢な英語で、きっと生徒も知らぬ間に英語ワールドに引き込まれているのではないかと思います。笑顔と英語力、大切ですね。音読のマンネリ化を感じていたので、いろいろなバリエーションが参考になりました。最後の12か条は、先生のように力のおありの先生でさえ、「全員の生徒に完璧を求めない」「アナログ的教具が大切」とあり、ほっとしました。有り難うございました。

遠方よりお越しいただいた方、繰り返し参加して下さっている方も多数おられました。本当に有り難うございました。個人的には、萩原先生をお招きした今回のフォーラムに、大分大の御手洗先生に来ていただけたことが嬉しかったです。「群れない」ながらも、そこに流れる血の重さは充分感じております。

懇親会は昨年同様、和気藹々と行われました。
厳選した日本酒は

  • 黒牛・純米吟醸・槽口直詰・生原酒・山田錦 50% (和歌山県)
  • 正雪・純米大吟醸・生・備前雄町45% (静岡県)

どちらも好評のうちに杯が進みました。

明日の授業で直ぐに使えるtipsなどを提供するセミナーは今では、いろいろなところで提供されていますので、このフォーラムでは、英語教育、英語教師、英語教室、英語学習者の根幹を揺すぶるようなテーマ設定で準備にあたって来ました。参加者を揺すぶるだけでなく、講座・講演を担当する、講師の方達にも、刺激を与え、揺すぶることのできるような場を作りたいと常々考えています。
来年以降も引き続きこのフォーラムを進めていきますが、流行に迎合するのではなく、懐古に耽るのでもなく、視点を確かに、自らの寄って立つ立脚点を忘れずに、一人一人の先生方が「英語教育」を作っていく一助になればと思います。

私は事務方仕事だけで、特に何かしたわけではないのですが、国体から1ヵ月ちょっと、本当の意味での一段落、という感じでしょうか。翌日は、ずっと寝ていました。
さあ、週も新たに、気持ちも新たに自分の実作です。

本日のBGM: A Song for 4 Beats (The Beatniks)