聞くは一時の恥

明け方から、中間試験のデータ処理。
0限は1年生。オープニングはスモールトークから。

  • ノートのまっさらなページを開いて。

生徒はみな机にノートを開く。そこで「その『まっさらなページ』を英語で何というか?」と問う。辞書はまだ引かせない。あれこれ思案したり、相談したり。その中の1人が、

  • new?

と口に出したので。「英語の発想にぴったり」と誉め、和英辞典・英英辞典で確認。その後、では、「まっさら(漢字で書くと「真っ新」で英語と同じ発想ですね)」を別の言葉で言い換えると?とblankまで繋げる。
1年生は『短単』を使って、半年で1500語程度を学習し直した。中学校の時に成績が3だった生徒が、中間試験での50分でスピーチ原稿を2つ書けるくらいまで成長する。その振り返りを踏まえて、質問。

  • 何も言葉が使えない赤ちゃんが、言葉を覚え、使い始めるのにどのくらい時間がかかっているか?2歳で話し始め、幼稚園に上がる頃には、文で話すことができるようになっているわけだが、それまでにどのくらいの時間、その言葉を使って生活しているのか?

これは結構盛り上がって、実感が持てたようだ。それに続いて、「では、中学校から英語を学び始めて、今までにどのくらいの時間英語を学んできたか?」計算の工夫が生きる課題であった。「では、そのペースで学び続けて、日本語でいう幼稚園レベルになるのにあとどのくらいの時間が必要か?」
という問いからが本題。

  • 圧倒的に使う時間が少ないけれども、日本語を覚えたのと同じようにやっていたら、高校10年生とかになってやっと幼稚園レベルに到達ということなってしまう。それをなんとか、高校卒業までに、「センター試験のリスニングテストが聴いて理解できて、英文を読んで理解できて、文法語法の問題解ける知識を身につける」には、絶対に「語彙を意識的に増やして整理する」ことと「文法の仕組みを理解し、その知識を使えるようにする」ことが不可欠である。
  • 単語集や熟語集など、限られたことばとだけにらめっこして覚えようとすると、学習が閉じてしまう。学習はまず、ひとつターゲットを決めて、そこから拡げていくことが大事。逆に言えば、拡げられる可能性のある「肝」をしっかりとターゲットにすることが必要不可欠。

という話しでこちらの意図・ねらいを説明。
最後は『P単』導入に当たってのガイダンス。『P単』から日本語のコロケーションを抜粋して与えて、コロケーションの二大パターンである、<形容詞+名詞>と<動詞+名詞>に分類させる。その後、英語で何というかを示し、すでに自分の頭の中にある「意味」に英語のコロケーションを宛がうことが、この学習教材での最も重要なアプローチであることを強調。自分が既に持っている母語の力を最大限に活用するのである。来週には購入した実物が届いて配布されるので、

  • 小テストの範囲に関係なく、まずは、日本語のコロケーションだけざーっと最後まで目を通すこと。今までの人生で、一度も自分で使ったことのない日本語のコロケーションは、英語でも言えませんから。

とアドバイス。その後は、「100個一気食い」の活用の仕方を説明。
高2は「基本動詞のコロケーション」第2弾。辞書調べ。最後の5分で、個人課題進捗状況調査票の提出。
高3は、テスト返却と解説と説教。
その後は、ずっと空きコマ。個人個人の日誌をチェックし、「調査票」の吟味。現実味のない、汗も涙も感じられないような空疎な情報の羅列となっているので、根本的にやり直しさせることに。帰りのHRで、「…調査票」再提出の指示。放課後、6時過ぎまで残って再提出を待ったが、クリアしたのは数名。生活習慣、学習習慣、自分の好き嫌いや性格を変えるべく、このチャンスをどう活かすか、一人一人が決断を迫られているのだ、と自覚せよ。
注文していた『週刊東洋経済』のバックイシューが学校に届く。代引きしか選択肢がなかったので、事務室にお金を預けて商品受け取りのお願い。頼んでいたのは、

  • 10月18日号 特集「本当に強い大学2008年」綴じ込み特別付録「大学四季報」
  • 10月25日号 特集「『家族崩壊』考え直しませんか?ニッポンの働き方」

教育関係者必読の特集だとは思いますが、元気が出なくなりますよ、これ読むと。たぶん…。
気を取り直して

  • 内村鑑三『外国語の研究』(講談社学術文庫)

で、「英語の美」と、ホイットマン。ああ、現実逃避よ!

帰宅して、mixiの「英語教育コミュ」であった、トピの「疑問文」について一頻り考えていた。例によって、いつの間にか解決しているらしいので、以下独り言。議論は遠慮しておきます。
Is Mr. Kato your teacher?

  • No. Mr. Kato isn’t my teacher. → No, he isn’t.

Is Ms. Sato your teacher?

  • No. Ms. Sato isn’t my teacher. → No, she isn’t.

Then, who is your teacher?

  • Mr. Eto. Mr. Eto is my teacher. → Mr. Eto is.

という疑問文の理屈は英語教師は押さえておくべきだろうなぁ。(このような応答における照応と省略と音調に関しては、青木常雄氏の著作『英文朗讀法大意』(研究社、昭和8年;復刻版リーベル出版、昭和63年)に詳しい。(→過去ログ参照 http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20061222http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080131
さて、そのトピで色々な人が発言しているのだが、
Who is your teacher? という質問に対して、It’s Mr. Sato. と即答する人の理屈あたりから、私にはよくわからないのだ。SVCのbe動詞で = (等号)のイメージが強すぎると、左辺と右辺を入れ替えても常に等価になると単純に考えがちなので注意が必要かと。
Who is he?
に対して、
He is Mr. Sato.
が成立することと、上記のIt’s Mr. Sato. が非文ではないこととの間に何か関連があるのかな?
He is Mr. Sato. という応答が、どのような疑問文に対するものなのか、を考えれば、
Is he Mr. Kato? という問いに対する否定の回答、あるいは、
Who is he? というwh-疑問文になることが想定できるでしょう。
では、
He is my teacher.
という応答は、何に対するものでしょうか?
Is he your classmate? という問いに対する否定の回答、あるいは、
What is he? というwh-疑問文になるでしょう。
そう考えた上で、
Who is your teacher?
での前提と焦点は何か?という風に考えを巡らせていれば、性別(が既知であるかどうか)の問題ではないことがわかろうというものです。
もう一つおまけに、一番最初に示した疑問文と対比させて、
Who is your teacher, Jane or Cathy?

  • Cathy is.

という対話を考えれば、難しくしているのは、日本語の訳語で考えているからで、英語の文の仕組み、助動詞の機能で考えていないから、ということになるのでは?
このように単純な機能の話をしているのに、文脈をどんどん補い、自然な対話に近づけることで解決しようという人もいるようですが、それは違う、と言っておきます。こういうところこそ、母語を利用しつつ、パタンプラクティスなどの自動化を促進する工夫をすべきところでしょう。単純な形では機能不全であれば、補うことも必要であり、有効であるでしょう。しかしながら、設定された文はそれだけで十分機能しているのですから。

夕飯は栗と鶏の炊き込みご飯、蕪の味噌汁、目刺しに奴。和の食卓。食卓の和み。

本日のBGM: Hello, it’s me. (Todd Rundgren)