what to hand down from generation to generation

LET61 のワークショップ、無事終了しました。司会の菅井先生、本当にお世話になりました。
参加された皆様、アサイチからお疲れさまでした。ありがとうございます。

ワークショップ開催時刻がちょうど 9:30-11:30でしたので、黙祷の時間はとれそうになかったので、冒頭で長崎の平和祈念像の背面をお見せしました。そのブロンズ碑の背面のさらに下の台座部分には、作者の北村西望氏の直筆メッセージが彫られている、という話しをさせていただきました。

さて、そんな直筆 = handwriting に関わるネタを。

ソーシャルメディアでも話題のグテーレス国連事務総長の広島「直筆」メッセージ。
もう、お「読み」になりましたか?

https://twitter.com/UNIC_Tokyo/status/1555748495029522432
写真だけをとり出しました。

かなり癖の強いhandwritingですが、私は頑張って自力で「解読」して、結構疲れました。
まあ、「偉い人」の字は部下の人に読んでもらえるので、こんなに癖があってもなんとかなるわけで、国連広報センターのサイトには、この直筆メッセージでは何て書いてあるのかが書いてあることに、後で気づきました。

国連広報センターの該当ページがこちら。

www.unic.or.jp

ただ、このメッセージの最後の単語は (nuclear) weapons と複数形だと思うので注意が必要かと思います。handwritingに癖はあっても、語彙選択や構文選択はフォーマルで的確なのが国際的な公人のメッセージですから。

こちらのツイートでは "nuclear weapons" と複数形を2回使っています。もっとも、このツイートがご本人自らの入力かどうかまでは分かりませんが。

直筆メッセージの n の後にやや長めの右肩上がりのストロークが続き、最後に下向きのフックのようなものがあって s になる、と見るべきかな。

lessons
weapons

彼の手書きは、a / h / s / t などが独特なので、一文目の "from this sacred space" の sacred に時間が取られました。
あとは終わりの方の "on behalf of" に続く women and men は and のペアに入りそうな語句を実際に手書きしてみて、動きと長さから割り出しました。

私は sacred とのコロケーションだと迷わず名詞のplaceを使うのですが space だとどのくらいこなれた結びつきか、Ngram viewer で検索し確認しました。思い込みを排して調べてみるものです。あらためて言葉が生き物だと痛感しています。


sで始まる語でまず浮かんだのは serene ですが、それでは tragedy や victims を置き去りにするのと、アセンダーがないので即没。
次にアセンダーが入る subsided を検討しましたが、名詞で場所と結びつくことは稀で却下となりました。

手書きの字形に近いものとして serried も検討しました。形は結構近いのですが、いくら世界各地から参集しているとはいえ「人がぎっしり」では「悼む思い」が全く含まれないのと、二重子音字のr r が見て取れないので、これも却下。

ということで、"sacred" しかないだろうと思い直し、Ngram viewerを検索してみて、ああ、「今ではspaceも普通に使うんだ」ということに目を啓かされた次第。

women and men を割り出すまでに入れてみたペアの候補はこんなところから。
手こずった要因として、men and women の思い込みも多分にあったかと。


私が書き出したメッセージはこちら。

It is an honour to stand with the people of Hiroshima on this important day, from this sacred space. The lessons of Hiroshima and Nagasaki, and the memory of those who lost their lives on that terrible day 77 years ago, will never be forgotten. On behalf of the women and men of the United Nations, I pledge to keep their memory alive, and continue working towards a more peaceful world, free of nuclear weapons.


機会があれば、私の手書きも載せたいと思います。

今回のLETのワークショップでは、普段の「文字指導/handwriting 指導法セミナー」でいえば、初級を中心とした内容を扱い、近年の知見を少し盛り込みました。
※以下のセミナーは開講しないこととなりました。またの機会をご利用下さい。

その先の「中級編」を9月初旬に開講します。今回のワークショップの参加者は「初級編受講済み」に相当しますので、中級編を受講しても大丈夫だと思います。ご都合がつく方は、同僚の方を誘ってお申し込みください。

2022年9月4日(日) 午後 中級編
passmarket.yahoo.co.jp


本日はこの辺で。

本日のBGM: what time won't heal (Bill Lloyd)

2022年9月5日追記:KELESジャーナルの2022年号が公開されています。
昨年(2021年)のKELESのワークショップの振り返りです。
この最後につけた資料解説は、今年のLETのWSのものと概ね共通しています。
学術論文ではありませんが、文字指導/handwriting指導分野の研究に必須の情報は提供できているだろうと思いますのでご活用下さい。

(再)入門期に於ける英語の文字指導での基本的な考え方
www.jstage.jst.go.jp