より良い英語で、より良い教材

本業は低調。
高校総体は福岡県開催ですが、近くて遠いですね。
今週末は中国大会。山口県開催なので、私は役員で参加の予定。
看護科高1は、「四角化ドリル・その4」の対面リピートでの復習。
そこから、自信を持ってスラスラ言えるものを5つ抜き出し、Read & Look up から、Flip & Writeへ。
目安として、タイマーで時間設定はしていますが、どれを選んで、どの程度時間がかかっているかは観察です。復習方法まで授業中に徹底するとかなり手間暇がかかりますが、ここを求め続けないとダメですから。その後、縦書きドリルの必要性を説いて、「四角化ドリル・その5」で、<名詞の臭い>のまとめ。限定詞の椅子取りゲームを実感できるまでにはもう少し手間暇がかかりますね。ドリルですから、精度を高めることが大切。そして、そのドリルでも「適切な英語の音声で」行うことが前提です。ドリルその4であれば、

  • 壁のあのポスター that poster on the wall

での、/p/ の破裂と帯気や /w/ の円唇 (「プラス強い絞り込み」は、デモ授業での私の範読を評した田邉祐司先生から指摘をうけた項目でもあります)。

  • 青空にかかった美しい虹 a beautiful rainbow in the blue sky

での /b/ での閉鎖と破裂。

  • 黒ずくめの男たち men in black

での、/m/ や –bl-での側面開放。
などなど、英語音声の「基礎基本」が入っています。「初歩」と違って、中級へ、そして上級へとこれから先も常にその精度が求められるのが「基礎基本」です。ドリルの時に、「のぺ〜っ」としたカタカナのリズムや音声で繰り返してしまうと、ペアや個人で反復を繰り返せば繰り返すほど、英語から離れていってしまうことになります。教室での私の「範読」を聞き逃さないこと、ペアで「対面リピート」を行う時も、個人で「Read & Look up」をやるときも、常に、自分で英語の音を作る、という意識を徹底させたいものです。

進学クラス高1は、いわゆる「目的語」の扱いから、「自動詞・他動詞」へ。定義よりも、実例です。ただ、自分に観察力がないことを、誤魔化してはダメ。それは単なる「面倒くさがり屋」というだけのことです。全員が持っている英和辞典は『エースクラウン』 (三省堂) です。以前は、「語法に強い」とか「用例が自然で豊富」などといった観点で選んでいましたが、今は「学級文庫」で、十数冊英和から英英まで豊富に辞書があるので、進学クラスでも、この『A王冠』です。基本語の「イメージ」も優れたものが使われていますが、網羅的ではないので、折に触れ、学級文庫の辞書を取り上げ、そこを全員で確認します。これは、極少人数のクラスだからこそできる利点なので、有り難いことだと思っています。今日確認したのは、

  • 『新アンカー英和』 (学研)

学級文庫には、『スーパー』とかになる前の、旧版のアンカーを2冊入れています。
今日取り上げたのは80年代終わりの版、柴田徹士時代の『アンカー』ですね。巻末附録の、「日英語の比較」で、日常的な動詞と目的語の結びつきでの日英比較、「ひげ」のような身体部位の日英比較の項目から抜粋で解説。重要度に応じて、「白板」に書き出したりするわけです。この特集記事の執筆は伊村元道先生なのかな。単に古い辞書だからという理由だけで集めたりはしませんし、逆に、古い辞書だからという理由だけで捨てたりもしません。「辞書は意味の記述が肝。機能の記述に感動する人は稀。」というのは田島伸悟先生の言葉だったでしょうか。
高2は、「ライティング」で、人物の説明クイズから。
First Dictionary of Cultural Literacy からの抜粋で、基本表現に習熟することが狙い。今日の観察眼は、

  • 生年から没年までを記述することの意味

時代を明記したところで、それがどのような時代だったのか、という理解・知識・実感が無い者にとってはあまり意味がありませんよ、という話し。Wikiをただ引っ張ってきてもダメなんですよ。ヒントとしては、

  • 同級生繋がり

高1の学級文庫には和書が沢山ありますが、その中の一冊、
・楠木誠一郎 著『「同級生」で読む、日本史・世界史』(光文社新書、2007年)
を指摘。読んだことがある生徒が1人だけいたのが救いでした。先日も、高1の自分のクラスの「学級通信」に書いたばかりなので、引用しておきます。

印象派を代表する仏の画家、ルノアールと、山口出身の伊藤博文が同じ1841年生まれ、仏の王妃マリー・アントワネットと、『四谷怪談』の作者鶴屋南北が、同級生にあたる、などという「事実」は、ただ、「へえ〜っ」と反応して終わりではなく、それぞれの時代の世界と日本がどのように動いていたかを掴む手がかりにもなるわけです。好奇心のアンテナを敏感にしておくことが大切です。

その後、今私が英文を精査している『文単・3級』 (旺文社) から2011年の英検で実際に使われた英文を使って、久しぶりの「イカソーメン」です。「伝記」「人物」のパートから、

  • Roald Dahl

を選びました。このようにして、descriptiveな英語表現を扱ったら、narrativeな表現へと揺すぶりをかけ、「言葉の運動性能」 (inspired by 阿部公彦) を掴むトレーニングをしています。
流石に、英検で実際に使われていた英文は、3級レベルと言えども学ぶべきものが多々あります。
今回は、「イカソーメン」での文整序・段落完成から、担当者による一文の暗唱と他の生徒によるディクテーション、その後に担当者が巡回しての添削、音読からFlip & Writeでの清書まで、私の授業の基本形がスムーズに進められました。「たかが英検3級レベル」というのは簡単ですが、この英文を「大まかに読んで」「大まかに聴いて」、多肢選択の設問に答えられたからと言って、「中学レベル」の英語を使いこなしていることにはならないでしょう。その意味では、現高2は、このレベルの英語は盤石と言えるので、私が一番安堵しました。
この『文単』は、『ぜったい音読』が絶版になった時の代替教材を探す旅の途中で選んできたものです。「英検」の過去問を実際に使っていますから、その資産活用には成功している、しかもかなりの成功だと思います。ところが、形式や分量、テーマ設定で「本番」を模した「オリジナル英文」の方はいただけません。英文の繋がりとまとまりという観点で、読むに堪えない、聴くに堪えないものが見られます。生徒には、「まずい例」を実際に見せて、こういう英語ではダメなんですよ、ということを徹底しました。
旺文社さん、「英検3級」、中学レベルだからこそ、英文ライターはしっかりと選んで下さい。別に英語ネイティブじゃなくてもいいんです。きちんとした英文が書けるのであれば。

高3は「リーディング」。
旧課程と呼ぶのは抵抗がありますが、高3「リーディング」の検定教科書は、昨年度の2年次から継続で、ELEMENT English Reading: Reading Skills Based (啓林館) を使ってきました。高2の2学期から、この教科書に入ったので、今週でやっと「第12課」へ、というような進度です。この英文が「?」。私が第10課くらいまでしか読んでいなかったのに、この教科書を選んだのがいけなかったのですが、原典の書き直しとタイトルの差し替えが、ちょっと酷いです。第一段落が「?」の連続。いや、本文に疑問文が多いということではなく、読んでいて疑問に思うことが多いということです。生徒には、3人一組のグループで、「つながりとまとまり」が崩れているところ、欠落している、飛躍しているところはどこか、そしてそこには本来、どのような内容の表現・文がくるべきか、ということを「日本語」で話し合ってもらいました。
教科書の英文の最初の3段落を以下に示しておきます。
教科書 第12課 タイトル: Bathing(P.70)

Bathing has had a long history with mixed reviews. Sometimes it’s popular; sometimes it’s not. Throughout the ages, personal bathing has been greatly influenced by religion, culture, and technology. Moreover, bathing has served many functions in addition to hygiene. Baths are also places for social gathering, mental and physical relaxation, and medical treatment.
Archaeological evidence suggests that bathing is as old as the first civilizations. Soaplike material has been found in clay jars of Babylonian origin, dating back to about 2800 B.C. The ancient Egyptians are known to have had a positive attitude toward hygiene. They washed with soapy material made of animal and vegetable oils and salts, and sat in a shallow kind of bath while attendants poured water over them.
The Greeks prized cleanliness, although they didn’t use soap. Instead they rubbed oil and ashes on their bodies, and scrubbed with blocks of rock or sand. A dip in the water and a rub with olive oil followed. They were no doubt clean, but how would they smell if we followed them down the street today?

まず気になったのは、冒頭の "mixed reviews" の説明責任が、第2文の「ポピュラリティ」で済まされている部分。
第3文の "personal bathing" の唐突さ。public とかsocialとの対比のためには、先行文脈がなければならないのでは?そして、"greatly influenced by ..." と「影響を受けて変わる」「個人の入浴(方法・習慣)」とはいったいどのようなものか?少なくとも、それ以前に、「入浴方法・習慣」の記述があってしかるべきではないのか?そして、第4文、

  • Moreover, bathing has served many functions in addition to hygiene.

で、"moreover" は何を添加・発展させた標識として使われたものなのか? "in addition to hygiene" というのだが、これ以前に、"hygiene" の記述があったのだろうか?さらに、たたみかけるように、第5文、

  • Baths are also places for social gathering, mental and physical relaxation, and medical treatment.

ここでの、"also" は何に何を付け加えて、何と何のレベルが揃っているのか、がわからない。
で、次段落からは、古代からの "bathing" の歴史の記述になっている。

普段、教師用指導書を開くことはほとんどないのですが、流石に、これは「原典」があるだろうと、手にとって見ました。そこには、次のようにコメントがついています。(指導書、p. 102 より抜粋)

Weaving It Together: Connecting Reading and Writing, Book 4/Second Edition (Thomson Heinle, 2004) に掲載されている "Cleanliness" を原典とした。具体的な史実を積み上げた明快な英文である。清潔さと入浴の歴史が年代順に紹介されている。本文をまとめるにあたりいくつかの箇所を割愛し、若干の語句を書き換えた。また、タイトルを内容に即してわかりやすくBathingと改めた。

原典・原文はかなり長い英文ですが、比較検討のために、指導書についていたCD-ROMから、第1から第3段落のみを引いておきます。
原典 タイトル: Cleanliness

Cleanliness is considered a virtue, but just what does it mean to be clean? As most of us have had the unpleasant occasion to discover, one person’s definition can be quite different from another’s. From Istanbul to Indianapolis, people have their own ways of keeping clean and their own reasons for doing so.
Cleanliness has had a long and varied history with mixed reviews. Sometimes it’s popular; sometimes it’s not. Throughout the ages, personal cleanliness has been greatly influenced by religion, culture, and technology. Moreover, bathing has served many functions in addition to hygiene. Baths are also places for social gathering, mental and physical relaxation, and medicinal treatment. Archaeological evidence suggests that bathing is as old as the first civilizations. Soaplike material has been found in clay jars of Babylonian origin, dating back to about 2800 B.C.E. One of the first known bathtubs came from Minoan Crete, and a pretty sophisticated plumbing system of clay pipes is known to have existed in the great palace of King Minos, built in 1700 B.C.E. The ancient Egyptians didn’t have such plumbing expertise but are known to have had a positive attitude toward hygiene. They washed with soapy material made of animal and vegetable oils and salts and sat in a shallow kind of bath while attendants poured water over them.
The Greeks prized cleanliness, although they didn’t use soap. Instead, they rubbed oil and ashes on their bodies, scrubbed with blocks of rocks or sand, and scraped themselves clean with a curved metal instrument. A dip in the water and anointment with olive oil followed. They were no doubt clean, but how would they smell if we followed them down the street today?

なんと、教科書の第一段落は、原典では第二段落ではありませんか‼そして、原文では、最初から、「清潔さ」「衛生」の話をしているのです。そしてその individual/personal な差異に言及し、一般的に、「清潔さ」「衛生」に寄与すると思われる "bathing" には、「清潔さ」「衛生」以外の役割が担わされてきた、という記述がなされています。
なぜ、原典・原文のタイトルが、"Cleanliness" だったのかがよくわかりました。
そして、その「よく分かる」英文を都合よく書き換えたばかりか、主題への収束、文と文の繋がり、というものを軽視、あるいは無視したがために、タイトルも変えて(代えて)しまった結果、よくわからない文章になってしまっていることもわかりました。
これでは、「リーディングスキル」を養成したり、発揮したり、ということは難しいのではないかと思います。
結論として、この教科書を今年度継続して使用することは「控えて」おいて、別の読解教材を活用することになりました。reading skillsを前面に出した構成は、なかなか良かったのではないかとは思うのですが、「英語」になっていないのでは困りますから。私がきちんと精査していなかったせいで、このような事態となり、生徒には本当に申し訳なく思っています。次年度の教科書選定では、最後までちゃんと読んで決めたいと決意を新たにしました。
今年も各教科書会社の営業の方が、学校に足を運んで下さっていますから、そのうち、お見えになるのかもしれません。今年は、お話ししたいことが一杯ありすぎて困りますね。

本日のBGM: 願い (ハンバート ハンバート)