AAO, again!

地元のフォーラムで一息ついたのも束の間、怒濤の「正業」三昧の週末でした。
土曜日は福岡県私学教育振興会主催の英語教員研修で、90分 (+10分少々) の「ライティング指導の森へようこそ」と題した講座を担当しました。参加者は中高の英語の先生50名ほど。若い方が多かったようにお見受けしました。最後の方は時間がなくなり、まとめきれずに終わってしまい、参加された皆さんに消化不良感を抱かせたことと思います。深くお詫び致します。不明な点は何なりとお尋ね下さい。迅速に対応させて頂きます。資料はA4で36頁分。概要は次の通り。

0. はじめに: 視座の確認 p. 2
I. 書く活動の具体例と発達段階 p. 3.
II. 「大学入試」の捉え方 p. 4
III. 「テクストタイプ」による文章の類型化 pp. 5 - 7
IV. テクストタイプに応じた「アイデアジェネレーション」 の指導 pp. 8 - 9
V. 評価論 vs. マネジメント論 pp. 10 - 11
VI. 「読むこと」と「書くこと」 の橋渡し pp. 12 - 13
VII. 「言いたかったけれど言えなかったことば」との出会わせ方 pp. 14 - 15
VIII. 「自己表現」を離れて何ができるか? pp. 16 - 18
以下「資料編」
IX. 「表現ノート」の実践 pp. 19- 21
X. 「歌」の活用例 pp. 22 – 24
XI. Visual Organizer の活用例 p. 25
XII. 「多読」と良質のinput のバランス p. 26
XIII. 生徒によるQ&As 活用例 pp. 27 - 30
XIV. “Sentence level accuracy” 再考 pp. 31 – 35
参考文献 p. 36

この土曜日の講座が、この2週に渡る4日間の研修シリーズの初日で、私の前の講座、つまり研修全体のトップバッターはS県から招かれたS先生でした。お名前は達セミの講師などで以前から知っていましたが、初対面のご挨拶。無理を言って、私も講座の邪魔にならないように、一番後ろで拝聴。お返しという訳ではありませんが、私の講座もS先生に聞いて頂きました。
今回の参加者で、私のこれまでの研修会や研究会に参加したことのある方はゼロ。このブログを読んだことのある方も1名ということで、久々のアウェイの地での講座で、こちらが勉強になることが多々ありました。事務局のEさん、司会を務められたI先生など、お世話になった皆さんに感謝します。
研修終了後は、「一献!」ということでS先生と市場、屋台を梯子し散会。愉しく熱い話しを有り難うございました。
一泊して、翌日曜日は新幹線で大阪へ大移動。
会員でもある英授研関西支部の秋季大会です。
接続で時間を取られ、午前の発表には間に合わず、午後からの参加となりました。
会場で、松永先生にご挨拶。
昼食を終えて戻られた加藤先生に近況報告。午前中の発表者の松下先生を紹介して頂く。以前、関東支部の発表で授業のビデオを見たことをお伝え。
以前、メールでのやりとりをしていた大学院生が、今年度から関西地区での教員ということでご挨拶。英授研で加藤先生にいろいろ指導して頂いているとか、羨ましい限りです。
午後の「音読指導」のワークショップでは久保野雅史先生とペア。得しました。
なんと太田洋先生がお見えになっていたので、

  • 『レベルアップ英文法』のテキストが出版社で在庫切れのようなので、来年度もテキストに使えるよう、太田先生からも一言お願いします!

と熱いラブコールをしておきました。この講座のダイアローグというかスキットは、登場人物の設定や心理描写など、高校の再入門用教材に最適だと思っています。来年度も使えますように。
午後の分科会は、

  • コミュニケーション活動を支える文法指導

久保野雅史先生、山本良一先生、稲岡章代先生の発表と質疑応答でした。
私の質問は、高校用の文法教材の例文の質に関するもので、概ね次のようなものでした。

『森林本』などでは、メインの総合参考書の例文や解説はそれなりに吟味されていると思うのだが、その『準教科書』のようなものになると、例文は総合本と対応しているからまだしも、練習問題になると、例文の質が明らかに劣化しているのでは?と思うようなものが多々見受けられる。久保野先生、山本先生共に、Murphyの本 (“… in Use” ) などを参考にして授業で良質の英文を提供しているのはよく分かるが、そのような海外のテキストは出版から20年以上経ち、広く流通しているのに、なぜ、日本の高校教室用の教材はこのレベルを脱せないのか?

もう一方質問は、というところで、太田洋先生から、さらに突っ込んだ現実的な問いが投げかけられ、現場の臨床の知が試される一時に。
共通教材・共通進度・共通テストで、どのようにやりくりしているか、高校入試対策問題などなど、やはりベテランならでは、達人ならではの智慧があるのだなぁ、と実感。
個人的には、久保野先生が仰った、

  • 自分の指導が受験で負けないこと。英語科の中で逆風でも、学校の中で追い風になる。

というのが強く印象に残りました。ここだけ切り取られて文脈を離れて取り沙汰されても困りますけれど。

最後の講演は、上智大の吉田研作先生。

  • これからの日本の英語教育---「国際語としての英語力向上のための5つの提言」が目指すもの

今回は、講演が始まる前にご挨拶。
テーマも、先日の山口県の高英研での講演と同じようなものだったのですが、使われるデータ、「英語ができる日本人」の争点への切り込み方、「複言語主義的」アプローチ、吉田先生ご自身の上智、そしてカンボジアでの「実作」の紹介など、明らかに質量共に、今回の英授研の講演の方が充実していました。「このままで良いのか?」私自身本当に考えました。今回のプレゼンだと反論はなかなかに難しい。このクオリティとリアリティで山口でも会場の先生方皆に迫ってくれていたらなぁ。なんか悔しいやね…。
皆さんにお礼を言って、会場を後にして大急ぎで帰路。
新大阪で夕飯代わりの弁当とお土産をそそくさと買って、新幹線に乗り込む。
9時過ぎに帰宅。
穴子セットで腹ごしらえをしながら晩酌。

明けて月曜日は自分の実作。

  • リアルな現実、本気の現実 (inspired by 佐野元春)

高3のライティングは、ノートを返却し、「理由付け」「論理の整合性」についての解説。英語以前の問題があるときに、その問題は「教材の難易度を下げることで解決するのか?」というのが、この授業で今一番の課題ですね。教材の難易度を下げたら、その課題が浮かび上がってこなかったということは考えられないか、とも思うのです。「だから、今目の前に顕わになった真実」とでも言えばいいでしょうか。『パラグラフ・ライティング指導入門』から、自分で担当したセクションの「高校生のargumentationで共通して見られる不備」を抜粋して直接解説。
さらには、

  • 平柳行雄 『論理力を養うためのパラグラフ・ライティング』 (青山社、2004年)

から大前提、小前提に関わる記述を引いて、critical thinkingの肝吸い。
そこを踏まえて、アイデアジェネレーションの段階で、どのように切り口を作るべきだったのか、フィードバック。before / afterがどうなるかは、今週末のブログに乞うご期待。
高1の副詞節シリーズは、whileとwhen。佳境に入ってきました。
whileで抜粋してきた例文は、「時間」で見たパラレルな行為・活動が9割で、「対比による焦点」を引き立たせるものが1割程度だったので、例文を追加するように指示。
英授研で吉田先生の使った、TOEIC® やTOEFL® のスコアを引き合いに出して、

  • 教室の外で今、何が動いているのか?
  • その中で、自分の学びをどのように自分で引き受けるのか?

を考えてもらった。1年生は『ぜったい音読』の『緑本』で、カンボジアについて触れた教材を扱った際に、「知識人」がどうなったか、を補足していたので、突っ込み。(過去ログ参照 http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120613)

高2の英語IIは「漱石」の音読。
私の授業では、最近は「シャドウイング」はほとんどやりません。「速音読」もやりません。
今日は、ひたすら個人読み。

  • チャンクで切るのは簡単。問題は、その間の音調をどうしていますか?

という指示をして、自分なりの読み方をしてもらい、教科書附属のCDのナレーターとの比較。私の読み方との比較。

  • Natsume Soseki went to Britain about 100 years ago as a student sent by the Ministry of Education.

を一カ所だけ区切るとしたらどこで区切るか?そこでの音調は?という問いに、半分以上の生徒は、

  • agoとasの間で切って、そこは「宙ぶらりん」でまだ先があるよ、という合図にする。

という選択肢を選んでいたのですが、CDのナレーターはここで下降調に読んでいます。

  • では、なぜ、ここで下降調で読んでいるのに、聞いている人は、次の ”as a student sent by …” のsentを過去形ではなく、後置修飾だと理解して進めるのか?

ということを考えてもらい、「意味」を音に乗せることを再度徹底。

  • He left Yokohama by ship in September 1900, and reached London two months later.

では、「意味順」で、「どどいつ」が本当に自分のものになっているか?

  • Britain was more developed than other countries in those days. There was already a web of undergrounds in London ― 30 years before the first underground in Tokyo.

では、第一文を切るところは決してthanの後にはならない、比較の対象は?という疑問に答えるためにthanを用いているのだから、thanの /n/ とotherの –o- での母音が繋がって聞こえるのは、ごくごく自然なこと、と解説。
生徒に考えてもらったのは、第2文のダッシュまでの9語のうち、「聞こえ度」の高い語はいくつ?ということ。そして、もしダッシュの後の30years beforeまで聞こえたら、その前の9語のうち、1語なくても大丈夫だね、という問いかけ。CDのナレーターの音声を聞くと、生徒の多くは、”already” の聞こえ度に引きずられますが、ここで本当に重要な語句は、web, undergrounds, London。なぜなら、この段落の “Britain was more developed” をサポートする具体例だから。「銀座線」一本だけでは、webにはならないわけです。縦横に線が走り、”network” になっていることを示すために必要な言葉をしっかりと「音声」で表現することを求めています。もし、これがLondonではなく、 “Hull” だとすると、日本の読者にはほとんど馴染みがないので、その前に、「ハルは、英国では50番目の人口を持つ地方都市・単一自治体域です。日本で言えば、○○にあたるでしょうか。そのハルでさえ、…。」というような補足説明を要するので、主題がぼけてしまいますから、ここでは誰もが知っている都市での比較をしているわけです。
残りの時間で、「四角化ドリル」の復習を。

週末の博多でのS先生の講座では「音読は万能ではない」という問題提起と、どのように「その前、その先」の指導と結びつけるかが印象に残っていて、大阪の英授研では「音読のワークショップ」があり、久保野先生の「教師による音声表現能力」と「解説より、良質のモデル提示」という主張に大きく頷き、今月発売の雑誌、『英語教育』 (大修館書店) の12月号の特集が音読で、その特集に対して、浅野博先生のブログでの厳しい指摘に恐縮し、土屋澄男先生のブログでの高校英語教室の実態に関する記述に耳と心を痛めました。
皆、真理を語っていて、傾聴に値するものでしょう。でも、自分にできることは何か?目の前の生徒の現実の課題は何か?そこを見失わないように、私に「持続可能な頑張り」を続けます。

本日のBGM: サムライソウル (ウルフルズ)