Here they ”GO” again!

tmrowing2015-06-02

本日の高2の授業は「読み比べ多読」。
情景描写の表現に言及し、「オノマトペ」の話をしている時に、私の

  • 「『擬音語』って言っても京都のことばじゃないぞ」

というフリに約半数が無反応で凹みました。
今思えば、1限の授業だったから、

  • 「流石は祇園。一見さんお断りってことかい?!」

っていう切り返しを出来なかった自分のお粗末さに更に凹んでいます。

さてさて、しつこく「高3英語力フィージビリティ調査」ネタ。

関連する過去ログはこちら。併せてお読み下さい。

「明日の風で桶屋は儲かる?」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150326

"The bottom line is ...."
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150528

速報値の後だけでなく、正式な報告書が出た、その後でもいくつかのメディアが取り上げています。
ところが、私が目を通した全てのニュース、記事が、一次資料の精査を全くしておらず、「数値」のみを拡散しているだけです。

例えば、こちら。
『朝日ウイークリー』の5月31日号で、「入試に民間試験を」という話題が出ていました。

嫌な予感がしたのでよく読んでみると、「高3英語力調査」の結果が早速使われていました。皆さんも是非お読み下さい。
本当にこの「結果」だけを使って、語りたい「物語」を作るメディアはどうにかならないもんですかね?


他には、こちら。
「毎日エデュケーション」の記事です。

文科省―「平成26年度英語教育改善のための英語力調査事業報告」を公表
http://professional.myedu.co.jp/topics/1221

ここではどう書いてあるかというと、

調査は全国無作為抽出で行う大規模な4技能型試験として、初めてのフィージビリティ調査(予備調査)になります。英語力を幅広く測定するため、世界基準のヨーロッパ言語共通参照枠「CEFR(Common European Framework of Reference)」のA1〜B2までのレベルを測定できるように作成してあり、A1は英検の3級、B2は英検準1級程度となっています。調査の結果、「読むこと」「聞くこと」のスコアは、CEFRのA1上位からA2下位レベルに集中しましたが、「書くこと」の得点者は全体の7割(無回答および0点は29.2%)、「話すこと」は全体の約9割(無回答および0点は13.3%)で、課題が大きいことが分りました。

ここだけを読むと、本当に「高校生の英語力はひどい状況にあるのだな」という印象を受けるでしょう。
でも、いくら一般の方がCEFRについて知らないからといって、「英検」にスライドさせるのはいかがなものか?という気がします。だって、A1からB2のレベル分けを「英検」にスライドさせて当てはめることが可能で、妥当なら、英検を受けていればCEFRのレベル分けができることになりませんか?だったら、英検でいいじゃないですか?

技能については、こんなことを指摘されています。

「書くこと」では与えられたテーマについて自分の意見や理由を適切に書くことに、「話すこと」では様々な表現方法を使いながら適切な英語を用いて応答することに課題がありました。

本当にそんな結果と結果分析だったのでしょうか?

今回の「高3英語力調査」の技能別度数分布と採点基準を示します。


「ライティング」では、受験者の約30%が「得点が0」なのです。0点の受験者は、A1レベルの力があったかどうかを判断する材料さえないわけです。
これで、「ライティング」のテストデザインが失敗じゃなかったと言える「学術的根拠」は?

注意して欲しいのは、4技能のそれぞれで、到達指標とされるA1〜B2のランクで、「◯◯の設問ができたからA1」「△△の設問まではできたけど、◎◎の設問ではダメだったからB1」というように、難易度の異なる設問ごとに通過率を出して得点化しているわけではなく、スピーキングやライティングのように「直接反応をする」テスト項目では、その反応のパフォーマンス、出来を「診る」ことによって、「今の反応はA2レベルの要件をことごとく満たしていたのでA2」、「全体のまとまりはB2レベルでよかったけれど、要所要所でキーワードが抜けていて、つながりが途切れる箇所が散見されたのでB1」などといった「評価」に基づいて得点化しているわけでもない、ということです。

では、どうやって、A1〜B2までのレベルに当てはめているのでしょうか?
今回の調査では、「項目応答理論に基づいて…」などという文言もチラホラ聞かれましたが、実際には、得点の総合計で分布を取り、その得点のどこかから、どこかまでをB2,どこかからどこかまでをB1…、というようにレベルを割り当てているに過ぎません。いえ、これは私がそう決めつけて批判しているのではなく、実際に、報告書にそう書いてありますから。よく読んでください。

本調査では、便宜上A1〜B2レベルまでを得点帯刻みに設定し分布を把握。(別紙参照)

「便宜上」ですって。
先程の「書くこと」での得点分布&レベル分けと照らし合わせて考えてください。

例えば、

クラスからA1の受験者を3人連れてきました。総得点が65点の者もA1、5点の者もA1、0点の者もA1のレベルと判定されています。この3人それぞれの課題を分析して、次にどのような学習やトレーニングが望まれるか処方してください。

と頼まれて、どのように対応が可能ですか?私にはちょっと無理です。だったら、自分のクラスでもっと発達段階に配慮した授業内課題を与え、定期試験でももっと適切な設問を課して評価します。

もう一つ気になるのは、このブログの前回のエントリーの最後にも書いたけれど、ほとんど誰も気にしていない「テストで測定する英語力の構成概念妥当性」。


上が、3月17日の「速報値」と共に公表されたもの。
下が、今回の「報告書」で書き換えられたものです。
最初はA2〜B2と言っていたのに、結果が出たら下方修正してA1からと言い出す始末です。メディアでも誰も何も言わないのですよ。「後出しジャンケンにも程がある」と思うのが本当に私だけ、ということなのでしょうか。


最後に、今回の「調査」に実際にかかった費用はいくら?

この事業レビューが文科省サイト内に見当たりません。概算要求では「約2億4千万円」。実際に「GOサイン」が出て、ついた予算はいくらだったのでしょうか?例によって、財務省に削られまくったのでしょうか?半額でも1億2千万円です。これだけのお金をかけて実施したテストで、結果が出てみたら受験者のうちの30%が「書くこと」で「0点」だったとなれば、「いや、テスト自体はムダじゃなかったんですよ」という言い訳を探すのが人間の「性」ですよね。

この調査は、新旧課程での比較をしたいようで、27年度では、約1億1千600万円をかけて、今度は中学生にまでターゲットを広げて実施する予定らしいです。

中学生にはどのような「ライティング」をさせるのでしょうか?「技能統合」? 現在の英語教育は「技能統合での指導評価」に「大きな課題がある」ことを広く強くアピールしたいのですから、当然ですよね?
では、「ライティング」の「技能統合」は、懲りもせず、また「リスニング」でいくのでしょうか?それとも、今回の「大きな課題」を受けて、「リーディング」との技能統合に変えるのでしょうか?

前回のエントリーで私の書いた「試案」にもう少し、思案を重ねてみました。
こんな「ライティング」のテストは如何?

1. 絵や写真、4コマ漫画などを見て英語で物語る、または描写する(10分)
2. パワーポイントのスライドにキーワードだけが印刷されているものを見て、50語程度の英文を聞いて15語程度の英語で要約(10分)
3. 100語程度の英文を読んで30語程度の英文で要約(15分)
4. お題を受けて80語〜150語での意見陳述(25分)

もしこのような多角的・多層的な試験で、本当にA1の受検者層の英語力を「診る」ことのできるテストに変更するのだとすれば、26年度の、この悲惨な結果を世に広く知らしめることで酷評された「高校3年生の英語力」とは一体何だったと考えているのでしょうか?

私には、「眩いばかり」の言葉を並べて「グローバル」と連呼する、この国の英語教育行政は、これまでの歴史や伝統など自らの歩みを捨てて、どこか遠くへ行ってしまったかのように感じられます。もともと「外国語」教育だったのですから、見慣れないモノに対する違和感はあって当然でしょう。でも、今の「英語教育改革」の「喧騒」「狂騒曲」からは、「ドキドキ」とか「ワクワク」など、今後の展開を予感・期待させるようなものは一向にもたらされず、「ざわざわ」「ぞわぞわ」といった不快感だけが募っていきます。
恐らく、私の「在り方」が、この国の英語教育の中心からは遠くはなれてしまったということなのでしょう。

手元の辞書には、こうありました。

Something that is exotic is unusual and interesting, usually because it comes from or is related to a distant country. (『COBUILD 英英和』)


本日のBGM: 2億4千万の瞳(郷ひろみ)