大阪夏のJIN

tmrowing2015-08-17

さあ、お盆も明けて今日から課外講座も後半。
こういう文脈で、なぜ人は「戦」の比喩を使いたがるのでしょうかね?「後半戦」とすぐに口をついて出てきそうです。他にも、「受験は団体戦」とか。
学びって、勝ったり負けたりするもの?その時って、誰に勝つの?ライバル?何に勝つの?大学?じゃ、自分が勝ったら大学の負け?まさかね。結局、自分の中の弱さとかっていうオチ?

ということで、本日のタイトルも「戦」の比喩だと「陣」ですね。他にも、「人」とか「仁」とか、最後までお読みいただいた後、お好きな漢字を思い浮かべて下さい。

ちょっと時間が経ちましたが、今年の英授研(英語授業研究学会)の全国大会 (2015年8月8日、9日開催) の振り返りをしておこうと思います。とーっても長いです。ホントに長いですからね。

第1日、映像での授業研究で発表された、田村岳充先生とは、懇親会でかなり突っ込んだ話もでき、多いに触発されました。「英授研」はやっぱり「授業」が一番ですよ。

一方の分科会は豪華キャストなのに、消化不良感が残りました。
久々に、久保野雅史先生が「戦闘モード」だったので、目が離せませんでしたけれど。どのくらいの人が気づいていたでしょうか?

初日の講演は根岸雅史先生。
タイトルは

  • 「21世紀の日本の英語教育を展望する---Can-Do リストの効果的な活用を目指して」

端的に言えば、「現場は作って安心していないで、Can-do の肝をしっかりと捉まえて使ってよ」ということでしょうか。

根岸先生には、答えにくい質問にも答えていただきました。有り難うございます。
講演の内容とそれに関する私の考えは、最後にまとめて書こうと思います。

懇親会で旧交を温めたり、新たに出会ったりと、大盛り上がりで、深夜に宿舎入り。

英授研第2日は分科会から。
平均値と標準偏差のみを示して、その結果を、「なぜこうなったかというと、おそらく…」などと意味付けしてはまずいのではないか、というのが率直な感想でした。

  • 効果量

という概念(とその運用)を本気で勉強しようと思いました。

この日は、高等学校の授業実践報告を複数見てみました。

  • 竹下厚志先生の「英語教育でどのように汎用能力を育てるか」
  • 伊藤正彦先生の「ICTを活用した受験前のアクティブラーニング実践」

竹下先生の発表では、授業2コマにわたっての内容。以下、私がその時とったメモをそのまま。

「思考力」の構成要素とは?→ 下位分類できるか?思考力向上と英語力向上は両立するか?
要約の質を求める
1分間でまとめる
終了後に教師からの質問→ personal involving;personalizingなもの

高3の11月最後のスピーチ
3日前くらいにアナウンス
standard クラスの上位生徒

今日のDVD
本題→ それぞれが「思考力(の養成)」とどのように関連しているか?
サマリー
QA
プレゼン
グループ討議
教師の説明
速読
仮設設定

サマリー活動
流暢さが高い生徒でも、「タイプ3」の条件節がうまく使えていない。
? If I were hew... I can
? She must feel ...

feedback (recastも含む)を挟まずに、習熟度の異なる生徒の発話を繋いでいくことにより効果

視点・観点を決めることで準備が容易となる

準備ができて、正確性も擬似的に高まった状態でのプレゼン

聞き手の成長に「も」つながる

所有格は難しい
? her these situations

these situations of hers
these situations she was put in

? these her attitudes

グループでの意見交換→代表による発表
グループ内でのオピニオンリーダーと思しき女子生徒(恐らく帰国)の生徒は、発表する自分のグループの生徒ではなく、竹下先生の表情(おそらく反応)を見ていたのが印象的でした。

日を置いて「寝かせる」時間を与えてから「教師による掘り下げ」「切り口」
→内容と自分の意見のreview になるだけでなく、「言えなかったこと」をどう言えば良いかに気づくチャンスが与えられる

既知情報のシェアリング→ What else? の発問で生徒をつなぎ重ね塗りしていく
Ss: gas room(s)
T: gas chamber(s)

5 min. Quick read

“Let go of it.” 手綱を話す勇気=自信=生徒への信頼

Summary 指導の段階→質的発達段階

最初はtrimming でもよしとする
QAをやることでサマリーの見直し
Key wordsを与える
「定型」はない → 生徒の言葉を大事にする

個人がベース→そこで発話が出るようになってから「ペア」→その後は、しばらくずっと「ペア」→そこで生徒の発話を観察する → ここでの「モニター」で、個々の生徒の英語のプロファイリングをしているところが秀逸。(竹下先生曰く「生徒一人ひとりの英語力のデータベースは頭の中に入っている」)

Read & Look up もサマリーにつながるところをさせる
→ 5文でサマリーの場合は、一つできたら教師のところにきてやる
他を犠牲にしても、一人一人見る、モニターする

伊藤先生の実践発表は久々に見ました。
もう少し、長く見ていたかったけれど、別にこのタイトルじゃなくても良かったよね、というよく練られたシラバスと、優れた授業展開、充実の言語活動。
分割での同時並行での授業でも、ALTに丸投げではなく、授業シラバスをよく理解してもらった上で、ALTが貢献してくれているのだろうな、ということが窺えました。

「深刻な現実」(竹下厚志先生の授業)でも「架空の設定」(伊藤正彦先生の授業)でも英語で活発に授業が展開。とかく今風に「アクティブラーニング」とか「きょうどう学習」(漢字が難しいですよね)などと理論のラベルを貼(りたが)って安心してしまう人がいるのですが、「臨床の知」の方が先を歩んでいるもの。ラベルを貼ってまとめて矮小化するのではなく、「実践」そのものを感じたいものです。

伊藤先生は、高校で英語教師になった数少ない大学の同期なので、良い実践を広めていって欲しいと思います。(ELEC同友会の大会での伊藤先生の授業レポートをこちらに少し書いています。http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20071112)

大トリはシンポジウム。
提案者は、

  • 圓入由美(文科省初等中等教育局国際教育課外国語教育推進室)
  • 菅正隆(大阪樟蔭女子大学;前文科省教科調査官)
  • 太田洋(東京家政大学)

コーディネータは樋口忠彦(特別顧問;元近畿大学)

要項の菅氏のレジュメを見る限りでは、刺激的な文言が見え、「今日はのらりくらりじゃなさそうだな」と期待は高まりました。

前調査官レジュメ.jpg 直

流石はホーム、大阪ですかね。
ただ、要項のレジュメにもならない、白紙の方もいらっしゃって、どう展開するのか、予想もつかないままスタート。
一人当たり20分弱でのプレゼンに続いて、質疑。
案の定、時間切れで講師同士の質疑を拾って、フロアからの声を受けて更に深めて、というインタラクションまでは行きませんでした。

前調査官はいつになく生き生きとしていて、時折り、毒を吐くように批判的言説も見られたのですが、レジュメの右側は殆ど手付かず。切り込みは不完全燃焼という感じ。

文科省の「室長」としては、丁寧で誠実に情報を提供していたかな、とは思います。いくつか言及しておきます。

資料(その1)。8月5日と言う日付を見るに、fresh from 文科省ですかね。鶴見俊輔も亡くなったので、「目標は低く」とは誰も言わないだろうから、こんな感じで世間の受けはいいのでしょうかね。

抜本的強化.jpg 直

資料その2。
これは「高等学校」に特化したもの。真ん中の下寄りの私の赤線が見えますかね?CEFRは「世界標準となっている」そうです。

高校英語科目今後の在り方.jpg 直

「指標形式での目標設定」とありますが、「抜本的強化」の計画そもそもが「達成目標」を謳うわけですから、完全にすり替えられていますね。

あ、資料は、提示されたものを逐一ではなく、私が気になったものを掻い摘んで紹介していますので悪しからず。

資料その3。
諸悪の根源?

Too many cooks 直

私の右上のメモに注目。

  • Too many cooks? No! Too many gourmets.

「現場で英語教育を作る人」同士で議論を戦わせるなら意味がありますけどね。

資料その4。
文科省が次期指導要領で示そうという、CEFRもどき。

次期指導要領「指標形式」.jpg 直

なぜ、連続的に、直線的に、右肩上がりで成長していくと思うのか?これを絵に描いた餅にさせない「何か」サポート体制や、仕掛け、秘策があるのか?あるなら知りたい。

資料5。盛んに言われる「連携」。

小中高連携.jpg 直

学校種「上下の接続」の前に、その学校内で中1から中3まで、その年度内で1学期から3学期まで連続的に英語力が伸びるという前提をこそ疑うべきでは?
英語力に限らず、発達段階はリニアじゃないでしょ?

そんな二人に比べて、太田先生の「私、英語をことばとして学んでいなかった!」と題された提言は、ちょっと違う視座、地平からの「ことば」として聞こえてきました。
高校教員を約30年やってきた者として、深く重い「新会長の就任挨拶」として受け止めて帰路についた次第。

駅からの帰りは車なので、アルコールは摂らなかったことも幸いして、太田先生の言う、< use を語る例文集め>と、普段私が意識している<ことばの運動性能><ことばの生息域>の関連性についてあれこれ考えていました。

さて、
先ほど「後でまとめて」と言っていた、初日の根岸講演の振り返り。

「今回の高3英語力調査のライティングはテスト設計の失敗ではないのか?もし次回に出題を改善したら、今年との経年変化が見られないので、feasibility調査にならないのでは?」

と質問したら、「『等化』をするので、異なる技能間、異なる試験間での比較は可能」との回答でした。

確かに、理論上は可能ですよね。でも、ゼロで出てしまった部分には、何を施してもゼロですからね。

過去ログでも書きましたが、昨年の「聞き取り要約」の問題では、英文中の “bottomless” が分からなかったがために、そのレースの何がuniqueなのかが飲み込めず混乱した者が多かったのではないかと思っています。

そのスクリプトをText Inspectorで分析したEnglish Vocabulary Profile でのCEFR対応だと、次のようになっています。

uniqueはB2, bottomlessはランク外 (C1以上) となります。
英文は、著作権もありますので、1次資料へ直接アクセスを。そのくらいあくせくする価値はあると思います。

2014年高3調査聞き取り要約EVP.png 直
2014年高3調査聞き取り要約EVP内訳.png 直

全体の統計では、C1レベルの文章と判定されています。縮約形などは別の形態素として分析するので、総語数は若干増えてカウントされています。

2014年高3調査聞き取り要約統計.png 直
2014年高3調査聞き取り要約readability.png 直

  • この「聞き取り要約」がどの程度難しかったのか?

という評価が難しいのです。

他技能とか単一技能と比較しようと思っても、昨年の調査では、リスニングテストでの「まとまった分量のモノローグ」の出題が、実施当事者以外には明らかではないので、

1. この調査のリスニングセクションでは、最長のモノローグは何語のパッセージ(アナウンスとかインフォメーションとか)を聴かせるのか?ライティングセクションでの「聞き取り要約」で用いたモノローグの英文よりも長いのか、短いのか?
2. リスニングセクションのモノローグで用いた英文の難易度は、「聞き取り要約」の英文より難しいのか、易しいのか?
3. リスニングの際の設問には、日本語による状況説明や、絵などによる内容理解の手がかりとなるような「情報」は与えられているのか、いないのか?
4. その解答に際しては、問題用紙に、内容理解の手がかりとなる語句・表現が問いの英文や選択肢の表現に含まれる形で印刷されていて、それに事前に目を通すことにより、聞き取る英文の内容を推測したり、理解の援助となっていないか?

が分かりません。

「ライティング」のセクションでは技能統合と謳う「聞き取り要約」が大問二つのうちの一つ、しかも最初に課されていて、状況説明やイラストは一切なく、どのくらいの分量かも聴いてみて初めて分かる、という設問です。ここでは、書くことの前に、「聞くこと」がハードル、足かせとなっていて、聞き取りに問題を抱えているが為に、書くことに移れず、難易度が増しているのに対して、「リスニング」では、技能統合をタスクの複雑化として問われることが殆どなく、技能統合というよりも、むしろ、問題を事前・途中で「読む」ことによって、聞き取り、内容理解や保持が容易になっていることに注目すべきでしょう。「ライティング」セクションで課された「聞き取り」の活動、英文を処理・理解・保持するタスクの方が、「リスニング」セクションで課された「聞き取り」での処理・理解・保持よりも難しいのではないか、という疑念が拭えません。

この単一技能と技能統合での「能力指標記述文」、Can-Do descriptors (statements) では、どのように折り合いをつけているのでしょうか?
その核心部分に突っ込んで訊く時間の余裕はありませんでした。

Can-Do statements の導入・開発・活用というのは、自分が以前部長を務めていたELEC 同友会のライティング研究部会で早くから扱ってきたテーマです。当時の中心メンバー長沼君主、工藤洋路というと、外語大の根岸門下とも言える人材ですね。NEW創世記のメンバーでもありました。

海外の事例が必ずしも好ましいわけではないですが、参考までにいくつか。
Proposal for a Common Framework of Reference for Languages for Canada
から、写真をつけた「カナダの文脈でのCEFRの弱点」を。


カナダでのCEFRの受容(需要?)例_弱点.png 直

http://elp.ecml.at/Home/IMPEL/Documents/Canada/ProposalofaCFRforCanada/tabid/122/language/fr-FR/Default.aspx#Chapter10

Canadian Language BenchmarksがCEFRに与えた影響も小さくないはずですが、これを見ると今やカナダがCEFRを受容する需要があるということでしょうか?

同じカナダでも、サシュカチュワン州の事例がまとめられた頁がこちら。

http://www.education.gov.sk.ca/EAL

その中にある、ガイドラインから。CEFR (この人たちはCFRと略していますね) は、何であって何ではないのか?という筋のいい問い。(「チャパティ」とか茶々入れないでね。)


CEFRのカナダでの受容例 「何ではないのか?」.png 直

Cambridgeから出ているMultilingual Frameworks
一部はGoogle Booksで読めるので、こちらをちょっと覗いて下さい。


multilingual framework.png 直
https://books.google.co.jp/books?id=Imc3BAAAQBAJ&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false

ハイライトにしていますけど、"optimistic" って言われてるんですよ。

更には、こんなブログ記事もありますよ、と。

http://www.classroommonitor.co.uk/the-new-curriculum-and-non-linear-progress/

CEFRの前身からの発展に鑑みて、CEFRの強みというのは、A2より上で発揮されるのだろうと思います。裏を返せば、その下のゾーンを適切に評価できているかはまだまだ心許ないわけです。
日本の高3で殆どが「A1の中から上」なのですから、その最も「ふくよかな」ゾーンを拾う手だてを考えないと、企画倒れでしょう。

Can-do descriptors作成でとかく陥りがちな誤りが、

  • 高く(or 深く)x 広く

とやってしまうこと。


Can-do descriptor作成の陥穽.png 直
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130701

読みでも書きでも、語彙が高度になったら、分量は減らすとか、聴くなら、テクストの表現が高度で文章も長くなるなら、パワポのレジュメが手元にある、とか、長い文章だけれど、高度な表現の入っている箇所は、言い直したり、くり返したりする、とかといった上げ下げ出し入れの「融通」が効かないとね。
CEFR-Jには批判も多いとは思いますが、そのゾーンの「英語力」を可視化して拾う、掬う(救う?)試みとしては評価できると思います。

このゾーンを拾うのは、どこでも苦労しているでしょう。

こちらは、エクアドルの例。スペイン語圏。高校以上の教育課程では国際バカロレアを取り入れているのですかね?

http://educacion.gob.ec/wp-content/uploads/downloads/2014/09/01-National-Curriculum-Guidelines-EFL-Agosto-2014.pdf

ちなみに、TOEFL のスコア比較 (2014年最新版)では、日本の方が若干上なんです。ドヤ顔するほどではありませんけど。

エクアドル 15/15/18/17// 65
日本    18/17/17/18// 70

そんなこんなで、二日間の大阪大会の振り返りでした。
講師の方々、久しぶりにお会いした方、またすぐにお会いする方、開催運営に尽力された関西支部役員の方々、お世話になりました。事実誤認などありましたら遠慮なくお知らせ下さい。

英授研で良い授業を複数見て、その一方で研究のための研究に使われているような教室内活動例も見て(しまって)、Can-do 関連と、ライティングテスト、スピーキングテストについてあれこれ考えていて、ここに立ち返って見ました。

「プラマイプラスです!!」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20070306

前任校の最後の生徒の授業評価になりますか。自由記述のアンケートって、誘導も後出しじゃんけんも容易なので注意が必要ですから、生徒の評価は話半分くらいで読んでもらうとして、次の、当時の私からの問いかけを受け止めてくれる人が一人でもいてくれると嬉しいです。

『英語教育』誌で出てくるような今風の授業実践とはかなりずれていると思います。TOEFLもTOEICも英検もGTECも使っていません。その中で、では生徒は何をもって「英語力が伸びた」と実感し、自己評価しているのでしょうか。

今風の英語教育の研修会、発表タイトルで「4技能」「統合」という文言を見ないことがないくらいです。

  • LSRWの4技能でL&S、R&S, L&W, R&Wの二技能での運用場面とは?
  • LRS, LRW, LSW, RWS等々の三技能では?
  • LSRWの全てが統合された日常の言語運用の場面とは?

そういった「教室(という現実)内の言語活動」「教室外(という現実の世界)での言語活動」で、「現実の使用場面」を踏まえた授業設計はどれだけされているでしょう?
「4技能統合型授業」という名詞句に圧縮したが為に見えなくなるものに目を凝らさねば。

若林俊輔先生が「正四面体モデル」を使って説明していた文献は何だったかなぁ…。
G大の先輩同輩後輩のみなさん、ご教示願います。

本日のBGM: 哀しみのボート(小泉今日子)