2015年センター試験(本試験)が、1月17日、18日の日程で終わりました。
そのうちの、外国語(英語)の「筆記」を取り上げて、コメントしたいと思います。
私のこれまでのセンター試験評を読めば、「批判的」な取り上げ方になることは十分予想出来ると思いますので、そのつもりでお読みいただければと。過去ログだと、次のエントリーに過去のセンター試験評へのリンクをまとめてあります。
"Sometimes it’s rough to stay tough."
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20141226
ただ、あと数年で廃止の方向で入試改革が大きく動く中、センター試験の作問に当たっている「チーム」には、本当に頭が下がります。
- 知識偏重、読解力偏重の出題で世界水準で見た時に使えない英語のテスト
などと批判されるテストの作問に当たって、「高いmotivationを保て」というのが無理な注文でしょうから。
では、筆記試験を概観。
第一問
発音・強勢の出題。恐らく、総合点の上位者(80-90%の得点率)であっても他の設問の得点との相関が一番薄く、弁別の機能を果たしていないと思われます。
リスニングテストがあるのですから、即刻廃止すべし、というのが私のかねてよりの主張です。
第二問
A. の問1 錯乱肢にある、know less than はどういう意味?make do with は必修のイディオム?昨夏の私の課外講座で以下の用例は扱っているのですけれど…。
27) Since we don't have a stove, we'll have to make do with cold meat for dinner tonight.
「コンロがないので今晩の夕飯は冷たいお肉で我慢しておくれよ」※『前置詞のハンドブック』with
28) England will probably have to make do with 14 players for the rest of the tournament.
「英国チームはトーナメントの残り試合、不本意ながら14人で戦わざるを得ない」
問9の <so + 形容詞 + 不定冠詞 +単数名詞 + that節>は、英文を完成するレベルを求めるのではなく、意味がわかれば良い表現なのでは?標準的な語法を運用レベルで問うべきというのが私の教師としてのスタンスです。
B. の問3 はChineseの扱いで時間を浪費した人もいたのでは?foodは不可算名詞扱いで、名詞の繰り返しを避ける場合に、その次にoneで受けることができないから、Chinese自体を名詞扱い、またはfoodを省略ということを問うているのでしょうか?頻出過去問演習だと、wineの紅白の選択で扱われる項目でしたかね。milkだと紅白はなくて、hotとcoldくらいでしか区別のしようがないですから。
C. 愚問。単純な組み合わせで選択肢を8つも示しています。英語として明らかにおかしな組み合わせを除いて、文法上正しい組み合わせで文を作り4択で示せば済む問題。英語力以外のところでエネルギーを浪費させないで欲しいです。次の第3問があるのであれば不要でしょう。
第3問
A. ここで対話の流れ・文脈の中での表現選択を問うのであれば、第2問のCは不要。逆もまた真。
B. 昨年度本試験で初お目見えの、「不適切文・不要文排除」の問題。"Odd-Ones Out" ですね。昨年も書きましたが、パラグラフライティングの代替問題と考えれば出題の意図は理解できます。ただし、「結束性」が問われる、適切な設問は、問2のみ。問1と問3は、<段落の基準時制>、というものを考えるだけで、問1では 2、問3では、1が異質だと分かろうもの。高校段階で、「ライティング」をきちんとやっておきましょうよ、ね?
C. 恒例の<ディスカッションもどき>出題。
ずーっと指摘しているのですが、この<もどき>の特徴は、
・議論の参加者(=発言者)が少ない。
・一人のターンが異様に長い。
・司会者は必ず一発で要約・言い換えに成功する。
・その司会者がまとめた内容に対してオリジナルの発言者は訂正も異議申し立てもしない。
・発言者Aに対して、発言者Bのツッコミがない。
という理想的な参加者による理想的な話の展開で進むことです。
「卓袱台返し」になりますが、なぜこの議論・話し合いを「読んで」いるのか、が不思議。この問題こそ、リスニングテストで課すべきでしょう。「難しすぎ」ますか?
だったら、そもそも試験で課すべき設問じゃないということでは?
Summary やparaphrase, restatementの能力を見るなら、主題の設定からもう一工夫必要でしょう。
第4問
A. 所謂「グラフ・図表問題」。必要だと思うのですが、「読解問題」である必然性はないような。非連続テキストであるグラフや表をもとに、英語で事実を描写・説明する力を見ればいいのです。実際書かせるのが一番ですが、それができないから、代替問題、というなら歓迎です。実際に英文を読むと、数量表現、変化、比例、割合、増減、順位などの英語表現は意外に多用されていないことが分かります。
問3で、「この文章の主題は?」と問うているのですが、本当にこのデータをもとに、ある「お題」について議論をするのであれば、この問題こそ、第3問のように、ディスカッションにすると良かったのになぁ、と思います。本気で。問4で、本文の中途半端さ加減を受けて、「この後文章が続くとすれば…」という問いがなされていますが、この設問は直前の段落だけ読めば解答できるので、あまり望ましい設問とは思えません。
B. 近年連続して出題されている「非連続テキスト」の設問。「告知」に書かれている英文を読ませるものでは勿論無く、設問側の英文に「条件・制約」が示されているので、それに合致する情報を検索するというような出題。クイズですよ、クイズ。何をさせたいのか、これで英語力の何を測っているのか、理解に苦しみます。個人的には、センター試験の中でもっともくだらない設問だと思っています。敢えて解説する価値は無いでしょう。予備校などのサイトを見て下さい。
第5問
二つのメールに跨がる情報を的確に読み取る「今風」の出題。TOEICもどきですかね。
状況設定が無茶苦茶でしょ?
そもそも Annaって誰?「アナ雪」?便乗?まさかね。
なぜ、Annaの父親が担任に宛てたメールを、赤の他人が読んでいるの?
更には、その岡本先生からの返信も第三者が読んじゃうって…。
文脈から語義を推測する問題が、この第5問に埋め込まれましたが、これは空所補充で十分。penchantなんて語を見せたって意味がないでしょう?
所詮、この問題には「現実味」は全く無いのだから、文脈から内容を推測させるなら、岡本先生の返信を読んで、Annaのお父さんの元の手紙の空所を復元、というような設問でいいのにね。
岡本メールの冒頭には、
It’s always nice to hear from a parent of one of my students, and I’ll be happy to help you if I can.
always という副詞、a parent (=いろいろいるうちの一人)と名詞の選択が不特定の一般論で、Annaのお父さんに限定した表現となっていないことから、岡本先生はこれ以前に、Annaのお父さんからメールをもらっていないことがわかります。ここだけで、問3の解答は 4 だと分かりますよね。
また、岡本先生のメールの最後の方には次のようにあります。
From my experience, I honestly think you have nothing to worry about and feel confident she will establish friendships sooner or later on her own.
ここを読むと、「お父さんは友達との人間関係を心配しているが、岡本先生は大丈夫だと思っている」ことがわかります。問4に対しては、この部分だけで正解は 4 だとわかるのでは?on her own = without any help or advice from others ということが分かれば、万全。
そして、この問4の答えを踏まえれば、「学校生活での人間関係の構築・改善・修復」というテーマから距離の遠いものを排除すれば、問5の正解になるのではないでしょうか?
1. スポーツか音楽のクラブ活動に加入する
2. Annaの級友をイベントに招待する
3. 英語部の活動に参加させてもらう
4. ニュージーランド旅行に連れて行く
1 〜 3 はAnnaの主体的な行動が促され、しかも「学校で」の「人」とのかかわり合いが求められる活動ですから、異質な選択肢は4となりますよね?
本当に「ダブルパッセージ」にする意味があったのでしょうか?
取り急ぎ、第5問まで、「批判的」にコメントしてきました。それでも、昨年の「英文」に比べればかなり「マシ」な英文ですから、受験生の被害は少なかったと思います。
「センター試験」は本当に、英語力を測る試験なのか?学力要素の何を試す試験なのか?
「テスティング」の観点での吟味と、「英語そのもの」の吟味とがなされるべきだろうと思っています。そこを抜きにして、「外部試験」と置き換えたところで、高校現場にはプラスの波及効果は得られないでしょう。私のような地方の一教師の個人のブログでいくら吠えても余り意味はないので、メディアも、本当の「有識者」「専門家」の声を、取り上げて欲しいものです。
大修館の『英語教育』の特集か、増大号でやればいいのにね。
- 「総力特集:『センター試験』とはいったい何だったのか?」
どうですかね?
本日はこの辺で。
第6問に関しては、思うところが多々あるのでまた日を改めて。
本日のBGM:Soho (Bert Jansch & John Renboum)