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tmrowing2012-07-17

今日は代休。
休みを取ったのに、教科書の精査をしています。

この冒頭の写真は、教科書とは直接関係ありませんが、気にしておいて下さい。渡辺由佳里さんに教えて頂いた絵本の表紙です。最後まで読んでから戻って来て、再度みてもらえると幸せます。

今日取り上げるのは、

  • 『Vivid English Communication I』 (第一学習社)

Lesson 6 の“Take a chance on you”を取り上げます。

今日は、批評だけでなく、授業での扱いに関しても少し触れてみたいと思います。
この出版社のこの課でもアンジェラ・アキさんを取り上げています。現行版のセヴァン・スズキに負けないくらいの大人気ですね。
『Compass』 (大修館書店) では、第一課、しかも「やさしめ」の教科書でのオープニングということで、使える語彙、構文も制限された中で、苦労して本文を作っていたように思いました。

  • あの日、15歳の私が書いた手紙
  • あの時、私が感じていた苦悩
  • 私が思い描いていた夢
  • 再会した15年前の私
  • そして、今の私

など、本来は名詞句の限定表現で、「関係詞や後置修飾」が使いこなせると、表現したい内容が的確に表せるのですが、それは無い物ねだり。

  • 自分への手紙を書いた
  • 15年後にその手紙を読んで、歌を作った

というのはどちらも既に過去の出来事ですから、時系列に沿って述べるだけなら、単純な過去形だけで済みますが、この曲が生まれた背景を考えると、「拝啓」と呼びかけてくる、昔の自分を思い起こす、回想モードでの「過去完了」と、昔の自分が未来の自分へと語りかける、問いかける「過去から見た未来」「伝達動詞」などの文法項目への習熟ができてくれば、もう一段階上のレベルでの英語表現が可能になると思いました。
さて、この『Vivid』の第6課は?
例によって、レッスンの扉から「写真」。1頁が3枚の写真で埋め尽くされています。(p. 72)
この教科書では、本文は全て左頁に収めて、右頁は語句、文法、ドリルが課されていますので、左側の英文を読み進めていきます。 (p. 74)
まず、

Don’t give up! Don’t cry!
When you feel discouraged, you should
believe in yourself and keep on walking.

と恐らく歌詞だろうと思われる一節が斜字体で引かれたあと、本文が始まります。

This is a part of the famous song which Angela Aki wrote: “The Letter.” It encourages many teenagers who are in troubles.
Angela doesn’t just sing to the listeners; she wants more than that. She sings about young people’s challenges to their dreams, and tries to have some ties with the people who listen to her songs.

そして、また歌詞の引用へ。

Everything in your life has a meaning.
Don’t be afraid to have your dream.
Keep on believing.

で、決めの1文。

Why do Angela’s messages in her songs appeal to young people?

ここまで読んできた生徒は、当然、次に This is why …. に相当する内容が続くと予想するでしょう。でも、次からは新しいパートが始まり、Angelaの生い立ちと苦悩の日々が語られるのでした。そして、singer-songwriterとして成功を収める件のパート3が終わったところで、見開き2頁で彼女が歌う写真を贅沢に使い、その右頁で、オリジナルの歌詞を掲載 (p. 81)。その後、パート4で、今回取り上げた “The Letter” という曲が生まれた背景説明。このパート4の内容は、昨日引いた『Compass』 (大修館書店) と重なる部分も多いでしょう。
構成としては、サビメロから始まるポップソングといった印象でしょうか。その時にはすぐにテーマが理解できなくとも、2回目のサビに来た時に気がつく、みたいな。
便宜上、引用された歌詞の部分をつなぎ合わせたものがこれ、

Don’t give up! Don’t cry!
When you feel discouraged, you should
believe in yourself and keep on walking.
Everything in your life has a meaning.
Don’t be afraid to have your dream.
Keep on believing.

でも、この歌詞が、彼女の歌のどの部分なのかは、実際にこの楽曲を聴いていない人にはわからないし、初見というか初めて聴いてその歌詞の意味が理解できる、ということはそれほど多くないと思うのです。なぜなら、オリジナルは日本語詞だから。
さて、このパート1の「主題」は何でしょうか?そして、もし歌詞の引用がないとしたら文章として機能するでしょうか?普通なら、引用は主題を支えるためのサポート役なのでしょうが、この課では、あくまでも「歌」と「その歌の持つメッセージ」が主役なのですね。であれば、歌詞の中で、Angelaのことばそのものに言及する箇所とか、彼女のメッセージを端的に、または象徴的に示している部分を、わかりやすく言い換える、というような記述が望ましいのではないかと思いました。その観点で、このパート1の内容理解を問う次の3つの質問を見てみると、

1. Who does the song “The Letter” encourage?
2. What does Angela sing about?
3. What does Angela try to do?

1では ”many teenagers who are in troubles” という名詞句、2 では “young people’s challenges to their dreams” という名詞句を抜き出せば終了です。3. でも、 “(She) tries to have some ties with the people who listen to her songs.” と主語を補えばすぐに終わります。3つとも、local で literal な質問となっています。明らかに、「授業は英語で」ができるレベルのQ&Asということでしょうか。
たとえば、もし、英語のレベルをいったん脇に置いて、質問をこのようにしてみるとどうなるでしょうか?

1. Would like to listen to music when you are feeling down? If so, what kind of music would be your favorite?
2. How many words of encouragement can you find in the song?
3. When do you feel a kind of tie between a singer you listen to and you?

このように問いかけてもう一度本文と歌詞を読み直すと、
1. テーマをpersonalizeしつつ本文を読み直すための質問
2. literalでありながらもlocalの足し算としての擬似的なglobalな質問
3. personalizeした上で、テーマについて、本文のliteralな文言を越えたところに踏み込むことを求める質問
というようなバラエティも出てきます。そのそれぞれで、当然想定される、問われていることの理解が不十分な生徒、本文のliteralな読みが不十分な生徒が出てくるでしょうから、そこを足場として、前後に、localな質問を小出しにしては拡げていくことが可能となるでしょう。
この課での「文法」のターゲットは、

  • 関係代名詞 (目的格)
  • It is … (for A) to 〜
  • 過去完了形
  • 関係代名詞 what

となっています。今日の記事の冒頭部分で、『Compass』での無いものねだりを書きましたが、この『Vivid』では、「やさしめ」の教科書でも、第6課に配置することで使える語彙・構文が増え、本文の記述や活動内容にも幅・奥行き・深みが出ています。この課が終わったところで、分詞と関係詞の復習の頁が設けられています。私が冒頭で示した「名詞句の限定表現」の、日本語用例を英語で言えるようになるでしょうか?だとしたら嬉しいですね。

  • 歌詞に使われているいい表現をおぼえさせたい。
  • 曲のテーマをしっかりと受け止めさせたい。

という「歌」を題材とする教師側の思惑も、生徒の「英語力」が充ち満ちてこなければ、実現には至りません。「ことば」について「ことば」で語る、というのはなかなかに難しいことなのです。

  • 「感想」「コメント」を、一言、片言でもいいので…。

と4月から求め続け、応え続けて、ようやく2学期の終わりくらいで、その回路が出来てくる位ではないでしょうか。私の実作で歌の「歌詞」や「テーマ」について、高校生に英語で語らせる試みは、過去ログの

をご覧下さい。「名詞句の限定表現」、ということであれば、Marvin Gayeの “Mercy, mercy me” を扱った回の過去ログ、

が参考になるかも知れません。ただし、高2の「英語 II」の3学期での実践例だということを忘れてはいけません。
「テーマ」や「メッセージ」は共感を呼びます。これは確か。でも、それを共有するためには、それを語るための「ことば」が必要だと思うのです。高1で、しかも「やさしめ」教科書だから、「歌」という安易な題材選びではなく、周到にシラバスを積み上げて、伏線を辿って行きつ戻りつしながら足場を確かめて、という指導がなされることを願っています。
ちなみに、この教科書のLesson 1のPart 1では、

I love Japanese pop music. I am a big fan of Angela Aki. Her songs are great and her story is impressive. I will write touching songs for our generation, just like Angela.

という、横浜在住という設定のMasaharu君の強い意志が語られていて、伏線にもなっていました。

夕方になって、著者分の献本が到着。
ついに来ました。

  • 大津由紀雄 編著 『学習英文法を見直したい』 (研究社、2012年)

私が担当したのは、

  • II 方法論 7 新しい学習英文法の検討から見えてくる学習英文法の条件 (pp. 87-103)

です。忌憚のないご意見・ご批判をお待ちしております。
書店では、23日発売ですので、詳しくは来週になってから。
書店から在庫がなくならないうちに、是非お買い求め下さい。

本日のBGM: 14 (綿内克幸)