the art of articulation

進学クラス高1の土曜日課外講座。
朝から昼まで90分2コマの英語です。
前日までに終えていた、「to原形の識別」と「-ingの識別」から例文の音読でreview。
名詞句の限定表現、とりわけ後置修飾を集中的に扱った後なので、いわゆる文型の中で生じる<名詞に続くto原形>や<名詞に続く-ing>を、名詞句の固まりとは区別して即反応できるか、または「あれ?」っと思った時に仕切り直しできるか、という段階です。
中学段階でto+原形が名詞の後に生じるのは、

  • tell
  • ask
  • want

の後に代表される動詞型でしょう。askやwantを第何文型に入れるか、というようなことには一切踏み込みません。ひたすら実例を元に、英文を生き直す音読の作業です。後置修飾で名詞句の限定表現となる場合との識別では、これらの動詞を見た時・聞いた時、またその動詞を自分の頭に思い浮かべた時に「その匂い」を感じ取れるか、にかかっています。とはいえ、まだ高校の英語Iの教科書に入っていないくらいですから、難しいことはやっていません。

I asked the teacher to read the sentence aloud again.
A very little girl asked the policeman to help her.
The doctor told the student to stay away from school.
Did you tell the listeners not to believe me?
Parents want their children to be honest all the time.
I wanted my father to be more fashionable.
We all wanted the rain to stop.
I expect the bus to be late.
The accident taught the driver to be more careful in the future.
The manager warned the campers not to swim in the river.
Do you trust your neighbors to look after the baby while you are out?
Allow me to introduce Mr. Smith to you.
In those days the Japanese government did not allow people to leave Japan.

というような例を一つひとつ見ていきます。誰がどんな場面で口にする文なのかを考え、それぞれの文で時制を持っているメインの動詞にとじカッコをつけさせて、動詞の持つ意味と働きの共通点などを想起させます。to原形に先立つ名詞がto原形の意味上の主語になっていることを実感させ、同じ、意味上の主語とはいっても、

I am lucky I have a lot of friends to help me in times of trouble.

などの後置修飾との違いを確認し、名詞は四角化で視覚化、の「まとまり・固まり」を整理します。
さらに、

This child has nobody to play with.
I don’t have enough money to buy him a present.
We must find a house pleasant to live in.

などの後置修飾と再度比較して一段落。
また多読教材で既に自分が読んだものから、類例を探す旅に出ます。
to原形の後置修飾で「同格」の扱いを再考している、という話しを以前のエントリーで書きましたが、中学で既習の建前とはいえ、この<不定詞の形容詞的用法>といわれる項は整理するのが意外に難しいと感じています。大津先生は、「深追いは禁物」というかも知れませんが。
中高での指導で参考になるものとしては、

  • 小寺茂明 『日英語の対比で教える英作文』 (大修館書店、1989年)

の不定詞の項での「形容詞的用法」での用例と考察 (pp.144-145)。
さらには、

  • 小寺茂明、森永正治、太田垣正義 『英語教師の文法指導研究』 (三省堂、1992年)

があげられるでしょうか。詳しくは同書の、

「3.2 形容詞的用法」 (pp.134-136)
「3.3 S+askなど+O+to 不定詞構文における不定詞の主語」 (pp.136-137)
「2. 同格の不定詞」 (pp.188-189)

を参照されたし。
動詞型との関連で音声面での指導も含めたかなり突っ込んだ議論が、

  • 五島忠久、織田稔 『英語科教育 基礎と臨床』 (研究社出版、1977年)

にあったように記憶しているので、少し調べて整理できたらまた書き加えたいと思います。

課外講座では、続いて、前日までに学習済みの<-ingの識別>ということで、いわゆる「知覚動詞」をおさらいしました。これも難しいことはやっていません。

I saw an old woman crossing the street at the red light.
I saw the old woman standing at the front door of my house.
I watched the train leaving the station.
I watched the sun rising above the horizon.
I heard someone calling my name in the hallway.
I heard dogs barking all night.
Can you hear the birds singing out there?
We listened to a little girl playing the piano.
She could feel her heart beating fast.
Can you feel the building shaking now?
I found a stranger sleeping in my bed.
You will find a lot of students learning Japanese all over the world.

ここで徹底するのは、1つの文の中に、もう1つ文が入っているように感じても、とじカッコは1つしかつかないので、-ingの前にとじカッコをつけてはダメ、という所。高校生は、とかくbe動詞を忘れて、-ingだけで述語動詞であるかのような表現をしがちです。番付表を徹底する意味もそこにあります。
今日の講座では、

  • 音読で、声に意味を乗せなさい。

ということを徹底。チャンクごとにまとまりを崩さないのはもちろん、個々の音とリズムを徹底。
女子で、文頭のピッチが高すぎる生徒にはその部分を低く抑えて始められるよう指導。
文中で、高低が大きく動きすぎる生徒には、強弱のリズムで苦手なところは高低でカバー、次は長短でカバー、そして強弱、と3段階で指導。
自然な音読では決して早口で読まないことを徹底。音連結や音変化も、正確な調音と豊かな声量・音量があって初めて意味を持つことを1年生のうちに徹底しておきたいと思ってやっています。
個人練習、範読に続いての斉唱を繰り返したところで、「対面リピート」へ移行。本格的な練習はこの学年では初となるでしょうか。
最近、斎藤栄二先生の書かれた『インテイクリーディング』で、音声のみによるリピーティングの効能が説かれていたようなのですが、私のやっている「対面リピート」は、文字通りペアで向かい合って行うもの。目標言語での保持・リテンションを鍛えることが目的です。
長い文になると、リピートできずに崩れてしまうところでは、チャンクの切り出しだけをリピートさせてから、通してリピートというやり方を教えています。まとまりはまとまり、英語の音で、というのを徹底させます。後置修飾のある長い名詞句が主語で用いられている場合などは、核になる名詞だけを取り出して文を読み上げてリピートさせ、その後で、後置修飾を含む名詞句のみをリピートさせ、最後に通しで、というようなバリエーションも許しています。これは、授業中のコーラスリピートで私が使っている方法を、対面リピートの中で生徒に真似させているわけです。
今回は、導入的な練習だったので、その後、範読と復唱で再確認。
休憩を挟んで、こちらもこのクラス初となる「全国公立高校入試リスニング問題縦断の旅」。
北海道と青森県の出題からモノローグの文章を使って。
普通に解答をさせますが、1回しか聞かせません。モノローグ素材を使っているのは、その後の活動で使いやすいこともありますが、私一人で読んでコントロールができるからでもあります。解答をさせた後、私が1文ずつ読み上げる音声を聞いて、そのままリピート。できないところは口頭で意味の確認をしながらあくまでも音声のみでリピート。最後まで行ったら、自分の解答を修正。

  • 指示語や代名詞の受け継ぎの確認は日本語に置き換えて誤魔化さずに名詞の固まりで先へと引っ張っていくこと。
  • 名詞は四角化で視覚化は紙に書くだけじゃなくて、そのひとかたまりの<人・もの>の「イメージ」をしっかり持つこと。
  • 文章、段落の基本時制とその変化に瞬時に反応できるよう、日々の音読でいつのことかを確認しておくこと。
  • 「どどいつ」は副詞、副詞句であることを徹底すること。there「そこで」ってどこで?と聞かれて、New Yorkと答えているようではダメ、in New Yorkという<前置詞+名詞>で副詞の働きをしていることを日々の音読で徹底すること。そのために、前置詞には波線、名詞は四角化しているのです。
  • 文頭の「どどいつ」は、どこかに切れ目があって、メインの主語+動詞 (四角+とじカッコ) が来るのだから、それを待ち受ける。文頭の接続詞も同じこと。書き言葉では、”,” があるかも知れないけれど、話し言葉では、音の調子だけでそれについていかないとダメ。

というようなことを音声だけでリピートさせながら確認します。
一通り内容と語句・構文・表現・頭の働かせ方が確認できたら、スクリプトを見て、解答のチェック。高校入試レベルとはいえ、理解が不十分だったところがないように万全を期します。
最後は正確な調音での音声化と、その声に意味を乗せる練習です。先ほど、斉唱ではあっても一通りリピートしていますが、自分一人で音声化するとなるとまた別問題。
スクリプトを見ながらまず清聴・精聴。聴くだけ。範読はこれでもか、というくらい正確に読みます。
次にリピート。絶対に早口はダメ。口先だけもダメ。この段階では、暗唱などはさせていません。あくまでも、意味を音に乗せていく練習です。とにかく、ダメ出しをし続けることになります。生徒にしてみれば、叩かれ続け、凹まされ続けで、プレッシャーをかけまくられます。特定のターゲット音だけをクリアーすればOKというものではなく、とにかく英文を読んでいく中でダメな音にはダメ出し、という練習です。ですから、公立高校入試のしかもリスニングの素材を使っています。公立高校のリスニング問題を作ったことのある方なら実感できると思うのですが、難しい語句だからといって注を付けることは普通ありません。語彙も構文も高校を受験する平均的な中学3年生が分かる既習の範囲で書かれた英文で、かなりコントロールされていますから、その分、音声化の要求水準を高めることが可能となります。

  • しっかりした姿勢・床に足をつける→たっぷりとした呼吸・アコーディオンのような体の使い方→唇の形→顎の開きの大きさ→舌先の強さ

という5つの要素を常に思い出させます。10分ほど、個人練習をさせてから、一人ずつ全文の音読。ダメ出しされたらやり直しで、直らない音は、同じ音を含む例を板書し、次回までに練習してきて再度チャレンジという流れです。
今日扱った北海道の出題が、次の英文。

Hello, everyone. This summer I went to New York with my family. We stayed there for six days, and I really enjoyed the trip.

On the second day of my stay, I went to a beautiful park, and took some pictures. In the park I saw a high school student from Japan. Her name was Haruka. She came to New York with her parents one year ago. I talked with her about her school life in New York. Haruka had many friends, and was enjoying her school life there. She joined the science club at her school. She was interested in becoming a scientist.

I thought about my own dream after hearing about her dream. When I was a child, I wanted to be a soccer player. But now I hope I’ll be a teacher of English because I like English very much. I’ll visit America again to study English. Thank you for listening.

さて、どこでのダメ出しが多いと予想されますか?
一番多かったのは、/v/ と/ f/ の音です。

  • everyone / family / for / from / life /

と立て続けにダメ出しをくらいながら、強い足取りで進んだものの、

  • friends

でロープダウンを取られピンチに。窮地を脱して来た生徒も、

  • because I like English very much

のveryで撃沈。
そこから不屈の闘志で這い上がって来たのに、直後の、

  • visit America again

でまたダウン。やれやれ開放された、終われるぞ、と油断してしまえば、

  • for listening

の最後の最後でダメだし。
その他多かったところでは、

  • park / pictures / parents

の破裂と帯気音。用紙を持って、その角に向かって速射砲のように、/p/ 音を出させ続けます。生徒に言っているのは、最初は筋肉の使い方が上手くできないのだから、孫悟空が放つ「かーめーはーめー『波っ!!』」のように、しっかりと圧縮と破裂・解放の準備をして、/p/音を出す段階が必要、できるようになったら、ベジータが指先を「ピッ!!」と動かしただけで、ビームが出るように、/p/音もターゲットに届くようになります、ということ。

  • trip / dream

の子音連続。「子音字プラスrはシャキッと速く」と繰り返し説いています。

  • player

の側面開放。これは、/l/の音を出そうと焦ると泥沼にはまりますね。天井をしっかり支えてゆっくり降ろす、くらいの気持ちでほっぺたの内側と舌の両サイドで「ふるふる」とした音を感じるのがコツです。
意外と言ってはいけませんが、

  • pictures / teacher

の発音がカタカナになってしまう生徒もいました。カタカナで定着している語は適切な練習が必要ですね。

音の連続・連結では、「舌先の音の連続では、天井を支え続けるエネルギーが必要」と繰り返し言っています。

  • went to / stayed there / enjoyed the / on the / second day / in the / joined the / wanted to

が「ウェントゥー」「スティゼア」などといい加減にならないよう調音点での保持を徹底させると、今度は呼気が足りなくて「声」が出ていないことに気がつきます。振り出しに戻って、姿勢と呼吸と調音と、です。
ただ、意味を音に乗せなさい、とスローガンを掲げるだけでは不十分なのは勿論です。第4文にあたる部分で、my stay という名詞が出てきますが、その前のwe stayed there for six days がそこに集約しているのだという理解が伴わなければ、stayを適切に音声化できたことにはならないでしょう。
<前置詞+名詞>が副詞句として使われているのか、それともその前の名詞とひとかたまりになるのか、というのも、文脈が決めるので、ひとつひとつ確認し、音声化の練習です。たとえば、

  • I talked with her about her school life in New York.

は、決して、

  • ?In new York, I talked with her about her school life.

ではないことは生徒にもわかります。「もう既に、New York滞在中の話しをしているのに、どれだけ、『ニューヨークで』を強調したいんだよ!!」と思われるのがオチでしょう。では、her school life in New Yorkがひとかたまりの名詞句であることをきちんと音声で表せているか、練習が必要です。新年度初期に名詞句の限定表現から、どどいつを経て、「名詞は四角化で視覚化ドリル」を構成しているのは、このような時のための保険でもあります。
英語らしいリズムを作るのは正しいアクセントの位置なのですが、意味の対比などがあると、原則通りの強勢からズレが生じます。所有格の、my / herが適切に読まれているか、という点では相当ダメ出しを受けた生徒がいました。冒頭の with my familyでmyを高いピッチで卓立させてしまうと、「他の家族」との対比とか、「実の家族」以外に家族がいるのか、などのこの文脈では不必要な対比を聞き手に予測・推測させることになります。この後に出てくる、

  • my stay / her name / her parents / her school life

などを適切なピッチで読めるか、普段からきちんと指導しておかなければならないと思っています。今回の英文では、

  • I talked with her about her school life in New York.

の二つのherを適切な高さで読めている生徒が少なかったです。
そういう下地がきちんとできている生徒は、意外にも最終段落の冒頭文で不自然なリズムになりがちでした。ここは、英文そのものが、

  • After hearing about her dream, I thought about my own dream.

という情報の提示となっていた方が、「彼女の将来の希望」と「私自身の夢」との対比を理解も表現もさせやすいのではないかと感じました。
少々時間を延長して課外終了。
週明けは、青森県の出題の英文で音読三昧の予定です。文字指導、綴り字の指導、フォニクスに神経を配ることと、音声指導で個々の「音」に神経を配ることは同じ源から来ているはずです。文字指導で、中学既習語を綴らせる際に、「あなたはまだ、bが上手く書けないから、今は、bでもdでもpでもqでも間違っていいんですよ」とだけ教えてスルーしてしまう教師はいないのではないでしょうか。少なくとも、aboutならaboutの、becauseならbecauseの「音」はきちんと出させて、生徒の耳と頭と身体に残しておいて、その音と綴り字を結びつける「手」を根気強く指導しているのではないかと思います。

午後からは、オールソールの張り替えで修理に出していたコードバンのバンプローファーを受け取りに。機械縫いのチャネルソールとはいえ、丁寧な仕上がりで納得。コードバンにも使えるローションと防水スプレーを買って帰宅。早速、受け取った靴の手入れ。ついでに自分のブーツ2足と、妻のHIROFUのサンダルも磨いておいた。靴磨きとか、アイロン掛けって、部屋の掃除と違って集中してできるのになぁ…。
フィギュアはGPシリーズ、ロシア大会。
女子シングルは浅田真央選手の優勝。フリーではミスが出で本人は納得していないのだろうが、精神的に余裕を持って演技を終えていたように見えた。滑らかで柔らかく、そして美しいポーズの数々に、魅了され癒されるプログラムだったと思う。完成形を早く目にしたいものだ。
男子のSPも本当に「ダイジェスト」のように放送されていた。羽生選手は冒頭のミスを引きずらずにフリーへと希望を繋いだ。アボット選手の演技を見て、変な話しだが「やはり滑る競技なのだな」と実感した。スケーティングそのものが確立、成熟しないとその上に積み上げるテクニックは脆いのだと思う。
浅田選手の練習が短時間放送されていたのだが、佐藤信夫コーチが「圧して、圧して」と言い続けていたことが分かるような気がした。スケートを滑らせ続けるには漕いではダメなのだ。

本日のBGM: Your sweet voice (Matthew Sweet)