homecoming

研究大会終了。
今年で17回。南沙織か森高千里か、というネタ振り (過去ログ参照→http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20100110) が効かないくらい、若い世代の会員が増えた印象。
個人的には強行軍でしたが、得るものの大きい、実りある大会となりました。
午前中のシンポジウムは、今ホットな話題である、”Can-do statement” に関わる講演。
福岡県立香住丘高校の永末温子先生、千代田区立九段中等教育学校の本多敏幸先生、東京外国語大学の長沼君主先生をシンポジストに迎え、吉祥女子中高等学校の清水敬子先生が司会を担当するという感慨深いものとなった。
香住丘のCDSは、2009年の山口県英語教育フォーラムで永末先生をお招きし、熱く語って頂いたときの振り返りを過去ログに記してある。(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20091125)

CEFRを「共通参照『枠』」とは上手く訳したもので、枠とその中身とはイコールではないことに今一度注意しておくことが大切。CDSに落とし込む際に、教室での学習活動や言語活動を踏まえた能力記述になっているところが、日本の中高での運用には欠かせない要素であると思う。セルハイ以降も、英検など学校外でもいろいろなところでCDSが作られてきたが、入学時から卒業時までのサイクルを経て能力記述の妥当性を検証済みであり、より適切なタスクの開発とセットになっているCDSというのはこの香住丘のCDSしかないだろうと思う。
香住丘CDS関連の主な過去ログは→(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20070214http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20070103http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20061016http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060721http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060328)

私が部長を務める「ライティング研究部会」は、マクロレベルのerror-correction に関わるフィードバックに関して、先行研究との関連・実証研究・考察・今後の課題。今年は国体が終わり一段落したので、2年のブランクを挟み、私も部長として参加。研究部員各担当からの発表は、ちょっと駆け足だったので、最後の私のまとめの部分で一呼吸。残り時間も考え、私の話す部分は配布資料なし、パワーポイントなし、私の話しのみ7分でやらせてもらいました。最後に念を押したのは、指導におけるマネジメント。理想と現実、冒険と保険と言い換えても良いかも知れません。

マクロレベル、ディスコースレベルのライティングをやる余裕はない。一文を書かせるのでさえ、いっぱいいっぱいなんだから。という学校の状況はよくわかります。しかし、だからこそ、一度、一段高みへと登らせて「なぜ、一文レベルできちんと書くことが求められるのか」を見せてあげることが大切。マクロレベルのライティングのクオリティは必ずしも上がらないかも知れないけれども、一文を書く活動のレディネスの整備には必ず貢献するので、是非とも、冒険して欲しい。

という思いと、

余裕のない現場だからこそ、タスクを課す際には、マネジメントと表裏一体で指導計画を行わないと破綻、頓挫する。一人に3文書かせるだけなら、discourse completion task での中抜け1文作文から、少しだけ大変になるくらいだから大丈夫、とスタートしたとしても、1学年3クラスを担当していて、一クラス35人いれば、担当数は105人。1文12語として3文で一人36語で計3780語。フィードバックを経ての書き直しを含めれば単純に言ってその倍で、7560語の生徒の英語を読まなければならない。

という思いとの綱引きは大変です。だからこそ、ただ書かせるのではダメ。何をどのように書かせるのか、テーマ設定、プロンプトの与え方、プロダクトのコントロールなど、そのさじ加減を決めるには、一定期間の単一技能指導としてのライティング指導経験が必要になってきます。東京ではライティング研究部会による月例会も行われていますので、興味のある方は是非ともお問い合わせを。
研究部員の皆さん、本当に有り難うございました。

実行委員としての私は、今大会では会場係として誘導などを担当しました。急遽椅子を運んだり、資料配付を手伝ったりと大童。

午後の締めくくりのプログラムは、萩原一郎先生の高校1年生の授業。

  • 基礎力の定着をはかる英語の授業

会場となる教室は2つともほぼ満席。教職を目指す学生を中心として、きめ細かい解説を施す第2会場も熱気に包まれていました。第1会場での解説は吉住香織 & 工藤洋路の両氏、第2会場での解説が三浦幸子 & 伊藤正彦の両氏。工藤先生、伊藤先生に関して言えば、自分の出身大学の大先輩である萩原先生の授業を後輩である自分が解説するというプレッシャーもあったことでしょう。撮影での立ち会い、ビデオ収録の後の検討会、数十回に及ぶメールでのやりとりを経ての今回の公開授業と、本当にお疲れ様でした。
途中、萩原先生が階を移動して、第2会場でも指導の背景などを解説。
・教歴が30年を超えている萩原先生が、英語科の教員4名の中で、最年少。学年でまったく同じ指導法を共有しているわけではない。今回の授業のような指導方法を全ての教員が採用しているわけではない。
・どのレッスンでもstory retellingやsummaryをゴールとしているわけではない。レッスンの内容、題材が抽象的で身近でないものの場合は、内容理解に留める課として位置づけるなど軽重をつけて年間計画を立てている
・ 共通進度共通テスト、という制約の中、習熟度クラス編成に応じて、ワークシートのバージョンを変えるなどの配慮はしつつ、summaryやstory retellingを行う課では各クラス同じ活動を行っている。

復習でのstory retellingでは代表生徒によるデモも行っています。これまではいつもペアで行っていた指名を、今回の授業では初めて一人で行わせていたのですが、その際の指名にも教育者としての心遣いがなされていて、いつも笑顔で、優しい印象の萩原先生の、胸の内にある英語への、そして生徒を育てることへのこだわり、信念の強さをあらためて感じました。

11月19日の第4回山口県英語教育フォーラムでは、萩原一郎先生の講演も予定されています。東京まで行けなかった方も、今回の授業を見た方も、是非是非、山口でのフォーラムにご参加下さい。
http://cho-shu-elt-2011.g.hatena.ne.jp/tmrowing/20110927
まだまだ参加申し込みは受け付けています。

閉会行事に続いては懇親会。例によって、サンドイッチを二切れ、唐揚げを2個食べただけで、後はずっと話しをしていました。二次会を経て、ホテルへ。
翌朝、6時40分羽田発の便で山口に帰り、そのまま学校へ。
ホテルでの熱帯夜騒動の話しなどを交えて、高2、高3、高1と7限まで3コマ。
高2は、課題として与えられた定義の見直し。高3の再入門講座は、復習で「受け身」の例文音読に続いて、The Good Grammar Bookから練習問題を選んで能動・受動、視点の移動、スポットライトの当て方を考える。高1は、助動詞と時制のズレの基本例文徹底。
夕飯は担々麵で汗をかき、グランドフィナーレへと向かう水戸黄門に付き合い、早めの就寝。
新たな一週間の始まりです。

本日のBGM: You can stay the night (Clare Bowditch & The Feeding Set)