Look who’s talking!

tmrowing2015-04-07

新年度になりました。
このところずっと、「高校3年生の英語力調査」に関して、事業のレビューや報告書がどこかにこっそり出されていないか文科省のサイトをあちこち探していたのですが、そんなことをしていたら、驚愕のページに遭遇しました。






小学校の新たな外国語教育における補助教材の作成について http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1355637.htm

私は、「ライティング指導の第一歩は文字指導から」とずっと言い続けてきました。

先達、先哲である、手島良先生や大名力先生らが、あれだけ優れた実践や研究の成果を残してくれているのに、なぜ文科省はこんな杜撰な指導法を広めようというのでしょうか?

こちらから一連のワークシートがダウンロードできます。

ワークシート (pdf版)
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1356182.htm

とりわけ、「文字の書き方」のワークシートが酷すぎます。


http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1356182.htm

少なくとも、過去ログで私が書いている程度のことはクリアーしておいて欲しいと切に願います。

こちらのワークシートも酷い。

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/04/02/1356176_09.pdf

単語の中での文字認識を問うているのでしょうか?boxという語がきちんと聞けた児童は、bを書くのでしょうか?それともxを書くのでしょうか?fox という語がきちんと聞けた児童は、f を書くのでしょうか?それともxを書くのでしょうか?では、tenという語がきちんと聞けた児童は、何を書くのでしょうか?出鱈目、行き当たりばったり、ご都合主義、適切なコトバが思いつきませんが、そのくらい酷い。

お手本のなぞり書きの後は、段階的な視写となるべきでは?だからこそ、手書き文字と印刷の文字での「書体」のギャップを減ずることが大事なのに。
フォントの話だけに、ホントに本当ですよ。

一事が万事この調子です。ワークシートの中で示される文字のフォントには何の配慮もされていないでしょう。全く統一されていないのですから。
3種類くらいの異なるフォントで示された文字を見て、「見た目は違うけれども同じ文字なんですよ」などという配慮があるならまだいいですよ。でも、そんなことはどこにも書いていません。
お題目に「文字認識」などというコトバは使っていますが、お手本を見て、実際に手書きするというプロセスを理解しているとはとても思えません。

英語の「文字指導」に関して、ちょっと手を伸ばせば届く確かな知見を、こちらにまとめていますので、top-downでデタラメが蔓延る前に、この位は現場でやっておきましょうよ。

なくてななくせ
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120213

英語の「文字指導」に関連しては、このエントリーも是非。
文科省の「学力テスト」にコメントしています。文科省はお金と労力をかけて、この調査から一体何を学んだのでしょうか?

Do I have to draw you a diagram?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120211

もう一つこの辺りも。

何の説明もなかった?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120525

今日取り上げた、小学校段階での「読むこと書くこと」に関する無定見な指導法の「上意下達」は、もう始まっているんですよ!

http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1355637.htm

私は、このような「出鱈目」ならやらないほうがマシだと思います。

  • 「子どもたちは書きたがっているんです!」

などという声も耳にしますが、だったら「適切な指導法」で教えるべきです。

昨夏、徳島で開かれた全国英語教育学会の大会で、文字指導に「も」関わる実践と研究発表の問題点を痛切に感じ質問しました。発表されていた小学校の英語指導、英語教育に直接関わっている人たちの「問題意識」との接点は殆どありませんでした。そのセッション終了後に、私の前方に立っていた方から不意に質問されました。その方が何と伊東治己先生でした。その後、伊東先生のお弟子さんたちにも、私の問題意識は伝わったでしょうか?

本日のエントリーの冒頭の写真で示した、手島良先生の『スラすら・読み書き・…』は、残念ながら絶版になっていますが、手島先生は、ブログで詳細に指導手順を示してくれています。入門期の指導者は必見です。しかも無料です。

英語教育あれこれ:「どれ?」「それ!」
http://blogs.yahoo.co.jp/tokyo_larkhill
『スラすら・読み書き・英単語』
http://www.amazon.co.jp/dp/4140392908/ref=cm_sw_r_tw_dp_Cekivb0S3JN09

大名力先生の『英語の文字・綴り・発音のしくみ』(研究社) は、全ての英語教育関係者が読むべきであり、次世代へと読み継ぐべき本でしょう。

『英語の文字・綴り・発音のしくみ』
http://www.amazon.co.jp/dp/4327401641/ref=cm_sw_r_tw_dp_Ngkivb0TFS0JK

今回発表された「百害あって一利なし」どころか「どこにも理のない」施策にも、当然立案者がいて、教材を作成する「英語教育関係者」が存在するはずです。
何を考えているのでしょう?
「道理よりも利益」ですか?
でも、この一連のワークシートを用いて、本当に音声と文字とを関連づけた指導ができると思っているのだとしたら、その人は「よほどおめでたい」か、「加害者としての罪深さに対して鈍感過ぎる」人でしょう。そういう人たちが「利」を求めて群れてくるのが「小学校英語市場」なのでしょうか?
勘弁して欲しいです。

本日のBGM: Poison Arrow (ABC)