no larger than life

春期課外最終日のハンドアウトを作成。
新年度の授業への伏線。

  • 意味を読んだところで安心せず、ことばを読む。

ということを実感できるような実例を求めて書棚の本のあちらこちらと。
『行方本』『河野本』はちょっと難しいので、『ぜったい音読』や『倉谷本』中心に読み返し、「読めたつもりになって素通りしてしまいがちな英文」を一部採録。

過去ログのうち、

あたりは参考になるでしょうか。

他には、昔著者として関わった『ライティング』の検定教科書のモデルパラグラフを抜粋。

週明けは、仮入学の準備などもあり、結果として土・日・月・火と4日間課外講座は空いてしまうので、2日目の内容を少し濃くしておいた。最終日の後、今度は新年度の授業開始まで10日以上空くことになるので、副読本での「多読」と教科書を用いた「精読」、副教材の「音読」とが新たな課題。勢いに乗せつつも、バランス良く取り組めるかどうかが肝要。

今回、あらためて『片岡本・三部作』を読んで、英語の感覚、というものを考えさせられた。

『英語で日本語を考える』 (フリースタイル、2000年) 
片岡「英語で日本語」目次.jpg 直
『英語で日本語を考える・単語篇』 (フリースタイル、2001年)
『英語で言うとはこういうこと』 (角川 one テーマ21、2003年)

ここで片岡が示してくれている、ことばとの関わり方は、『学参』ではなかなか得られないと思う。

小川芳男、前田健三 『語源を中心とした英単語の力の付け方』 (有精堂、1976年)
小川芳男、前田健三 『英単語物語 その誕生と生いたち』 (有精堂、1980年)

など、「はじめに英語ありき」というアプローチなら、良書はたくさんある。
『片岡本』の良さは、

  • 日本語の社会に生き、その社会と一体となった日本語で発想している私たち

からスタートしていることにあるように思う。
古くは、

松本亨 『これを英語で何というか?』 (英友社、1960年初版、1979年改訂) 松本亨「それを英語で」.jpg 直
松本亨 『これをやさしい英語で何というか?』 (英友社、1975年) 松本亨「やさしい」.jpg 直

のように、日本語らしい表現から英語へというアプローチの良書もあった。しかし、これは辞書の「見出し語」のレベルで日→英と、発想と表現を置き換えたものであった。
『辞書』でいうなら、

最所フミ 『日英語表現辞典』 (研究社、1980年、筑摩からの復刻版が2004年)
中村保男 『実用英語サクセス和英表現辞典』 (日本英語教育協会、1985年) 
サクセス和英.jpg 直

などは積極的に、発想の段階にまで降りて行き、対応する英語表現を求めようとしていた。

この、中村保男編著の『サクセス和英』から既に、四半世紀が過ぎている。「英語ネイティブの感覚を身につけよう」と謳う教材は毎年のように世に問われているが、「日本語ネイティブである自分が学ぶ英語」の教材はまだまだ少数派に留まっているように感じる。
「英作文」「和文英訳」と十把一絡げで過去の遺物と見なす前に、日本の英語教育、英語教師がやっておかなければならないことは多い。

『常時英心』で取り上げられていた記事で、名詞の “statement” の語法が気になって自分の手持ちの辞書やデータで用例をチェック。
当該の用例は、

Sen. Cantwell issued a statement saying there needs to be a clearer response and cleanup plan for tsunami debris.
元記事はこちらを→http://www.king5.com/news/quake/Japanese-fishing-boat-lost-at-sea-after-tsunami-nears-Canada-144046636.html

いわゆる「同格のthat節」を取りうる名詞については、金子稔先生が、『現代英語・語法ノート』 (教育出版、1991年、残念ながら絶版) の「名詞と that-clause」 (pp. 178-184) でかなりの頁数を割いて解説をしてくれている。
<a letter saying that節>での letterのように、その名詞に内在する動詞が抽出できないような場合に、<名詞+ saying … >を使って、文字通り「…という名詞」を作る語法はよく知られていると思うのだが、他にはどのような名詞がこの<名詞+ saying …>で使い得るのか、今回調べてみる良い機会となった。COCAのヒット数上位は、

  • statement, letter, report, note, story, law, resolution, message

となっている。最近のCOCAはCOHAで歴史的概観を得ることもでき、ニュース誌TIMEコーパスでの検索やGoogle Booksコーパスでの検索もでき、「教師」が見通しを得る程度であれば、使い勝手の良いオンラインコーパスだとは言えると思う。ただし、そこで得られたデータから「成果」を引き出せるかどうかは、その人の英語力にかかっている、という厳しい現実は忘れてはダメ。私のコーパス利用に関するスタンスは、随分前に「のび太」と「キテレツ君」の比喩で述べたことと基本的に変わってはいない。 (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050708)

コーパス関連で一件、告知を。
langstatさんのブログ『コーパスいぢり』で知ったのだが、来週、名古屋大学で興味深い講演会が開催される模様。(http://d.hatena.ne.jp/langstat/20120319#p1)
私は参加が適いませんが、近郊の方は是非。

下記の通り,公開講演会を開催しますので,ご案内申し上げます。

公開講演会
日 時:3月29日(木) 14:00−17:15(休憩・質疑応答を含む)
場 所:名古屋大学 国際開発研究科 第3講義室 (6階)

第1セッション
講演者:大名力(名古屋大学大学院国際開発研究科准教授)
題 目:“コロケーション”の多義性と“コロケーション性”の指標について
時 間:14:00−15:30(休憩・質疑応答を含む)

第2セッション
講演者:田中省作(立命館大学文学部准教授,名古屋大学大学院国際開発研究科国内研究員)
題 目:コロケーション研究における「相互情報量」
時 間:15:45−17:15(休憩・質疑応答を含む)

一方のみの参加も可能です。準備の都合がありますので,参加される場合は,前日28日の正午までに大名力 (corpus2009アットマークgsid.nagoya-u.ac.jp) まで,お名前と御所属,参加されるセッションをご連絡ください。件名は「講演会参加希望」としてください。
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名   前:
所   属:
セッション:第1・第2(参加しない方を削除)
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◇◇◇◇ プログラム ◇◇◇◇
第1セッション 14:00-15:30 [90分,質疑応答を含む]
大名力「“コロケーション”の多義性と“コロケーション性”の指標について」

コーパスから比較的情報を得やすいこともあり,コーパスを利用した研究では語と語の共起関係に関する研究が盛んですが,詳しく見てみると多種多様なものが一括りに“コロケーション”と呼ばれていることがわかります。本発表では,個々の研究者による定義の内容ではなく,“コロケーション”という語の多義性,共起の要因,概念的定義と操作的定義など,コロケーションに関わる問題をいくつか取り上げ検討する予定です。また,コロケーション研究で用いられるスコアのうち MI-score,t-score を取り上げ,これらの指標について考える時に重要となる項目と,なぜそれらの項目に関し明示的な検討が必要なのかについて説明したいと思います。

<休憩>   15:30-15:45 [15分]

第2セッション 15:45-17:15 [90分,質疑応答を含む]
田中省作 「コロケーション研究における『相互情報量』」

コーパスを活用したコロケーション研究では,共起性尺度の一つとして「(自己)相互情報量」がよく利用されています.もともと相互情報量は,情報を確率的にとらえ情報や通信といった事柄に数学的な基礎を与える情報理論という学問で導入される概念です.コーパス研究といった分野では,それがどのような理論的背景の下で,どのようなことを規定したものだったのか,そして共起性尺度としての相互情報量との違いは案外知られていません.本発表では,コーパス研究などにかかわる方々が,より深い理解をもってこのような尺度を活用できるよう,相互情報量などの諸概念をできるだけ分かりやすく,しかしながらやや厳密に解説してみたいと思います.

本業の世界に目を移せば、この週末は中学の選抜大会と高校の選抜大会が開催されている。
高校男子の中国勢は、3種目とも決勝進出。レベルの高さを見せてくれました。N先生、優勝おめでとう!また勉強させて下さい。来年度はここで戦うチャンスをモノにできるか、それ以前に厳しい戦いを自分に課さないと。

本日のBGM: Be Yourself & Simple Man (Graham Nash)