”Voices beyond the border”

本業は開店休業。再開の目処はいつ立つことだろうか。
こういう時は正業で自分と向き合うしかない。
現任校では、進学クラスも担当している。授業では生徒に「進学校は好きではない」 (見えない主語だ!) と公言しているが、とにかく、私は英語ということばを教えているのであって、合格術を教えているのではないということだ。
ELEC同友会のライティング部会「公開研究会」の席で、「現任校の進学クラスでは、2学期の終わり、12月くらいにようやく『英語 I』の教科書に入る。それまでは、中学校レベルの徹底と多読をしている。」という話しをしたら、「思い切ったことができるんですね」という高校の先生の反応があった。一方で、普段滅多に褒めてくれないT先生までが、「こんど講習会でその話ししてもいい?」と肯定的に捉えてくれたりと、こちらとしては意外な受け止められ方だった。
現任校の進学クラスでも世間並みに「進研模試」を受験する。当然のように、中学校の復習期間に当たる高1の7月の回では高校レベルの語彙と文法・語法で得点できず、総合点も上がらないから、「偏差値」は低空飛行である。しかし、そんな事は気にしないし、気にさせない。着実な取り組みを続ければ、11月には芽が出てくるし、年が明けた頃には、クラスの半分くらいは、私の感触で「行ける」ところに辿り着く。それを「偏差値」という数字で表すか表さないかは私にとっては問題ではない。1年生は未だに発音・アクセントの筆記試験はできないけれど、音読ではちゃんと自分の声に意味がのるようになってきた。リスニングコンプリヘンションのような4択の問題は苦手だけれど、対面リピートやディクテーションやディクトグロスやイカソーメンは出来ているので心配は要らない。文法の穴埋め問題なんかはできないけれど、多読してきた副読本から当該の文法項目を含む用例は抜き出せるし、読解と作文は高校1年生として問題ないレベルにいる。生徒や保護者の中には、中学校の時の同級生で他校に進んだ者と比べて余計な心配をする者も出てくるかもしれないが、教えている私が「行ける」と言うんだから、それを信じてもらうしかないのだ。

  • 大学入試まであと1000日とかいったつまらない煽りに耳を貸すな。
  • 今の学びを全うせよ。

繰り返し言うとしたら、そういうことだけだろう。

  • 「『進学校』のとりくみ」

という幻に縛られている人がもしいるとしたら、早くその呪縛から解き放たれて欲しいと願うばかりである。
先日、りんたろうさんと電話で話していて、「高校3年生の英語の授業」の話しになった。「高校3年生」。流石に、受験を無視する訳にはいかない学年である。
かつて、このブログにownricefieldさんが、秀逸な比喩で語ってくれたことがある。 (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090423 のコメント欄参照のこと)

高3リーディングの授業というのは、毎日牛乳を飲む習慣がなかった生徒に練乳を飲ませるような状況になっています。
音読並みの速度で各文の意味が理解できるようになることが、読解の基礎技能だと思うのですが、これを身につけさせるために掛けられる時間が限られているわけです。
では、なぜ時間が限られるのか?どうも、現場に多読の呪縛があるように思えます。

そんなことばを反芻しながら、これまでに使った読解教材や教材研究のノートなどを引っ張り出していたところに、昔の資料が出てきたので、振り返り。
20世紀の「高3英語」の総括票の写しと、21世紀になってからの「高3英語」の総括票の写しを読み比べていて、懐かしいやらおかしいやら。どちらも進学対応の選択の講座で週2単位。一方は、中堅とも言い難い公立の高校の進学志望者が対象の講座。もう一方は、伝統ある私立の中高一貫の高校で、当然のごとく進学志望者対象。相当に違う学校なのに、やっていることはほとんど同じ。この頃の「発問」の参考資料を追加しておきます。
読解と発問 (Massachusetts).pdf 直
「総括票」として振り返る項目は過去ログで、「出藍の誉れ」 (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060216) に書いたので、その項目に合わせて新たに抜粋。どんな授業で、どんな達成感を生徒に与えたかの参考程度にはなるかと。
人はこの手の「自己評価」で、敢えてマイナス点を付け、自分の努力や、費やした時間を否定しようとはしない生き物なので、「話し半分」どころか、1/3くらいに割り引いた方が健康的だと思うので、微妙に3人分くらいを鏤めておきました。
今年度は「高3の読解」を担当していないのですが、現任校に移ってきてからの授業の様子は、このブログの過去ログを見て頂ければ分かると思いますので、お時間のある方は是非。2009年度の教材研究のノートの写しも貼り付けておきます。

高3読解1-1.jpg 直
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この時の教材は『現代を見る』。今はいいずな書店に版権ごと移ったのだが、そうしたらそうしたで "water for their baths" の訂正が引き継がれていないので困りもの。(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090612, http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090528)

旧態然とした「文法訳読」が諸悪の根元と思っている方達には、どのような授業なのかイメージしにくいかも知れませんが、とことん言葉を読み、自分で考え、筆者と対話しようと志向する授業だと思ってくれると喜びます。

<Reading comprehension(内容の理解)>
1.文の仕組み・構造の読み取りに関して

・1年間近くやったことで、それまでは一度戻ってうんうんと分析してから理解していたものの多くが一回読んだだけで分かるようになった (パターンに慣れたのか)。またそれまでは全く理解できなかった文の目を付ける場所が分かるようになって、うんうんと分析すれば理解できるようになった。
・ これは得意な方だったので、よりスムーズに、より注意深く、より丁寧にやるよう心がけるようになった。対比などには必ずマークを付ける。
・ 英文をただ機械的に読むのではなく、主題は何なのか、筆者の主張、立場はどこなのかを意識的に読むようになった。そのために例と主題文との区別、名詞・名詞句のチェック、関係詞などがたくさん含まれた文での中心となる動詞のチェックを心がけた。あと、完了形などの時制のチェックに厳しくなった。

<指示語の内容把握>

・ それまでの学習でitを「それ」と訳して過ぎていたのが誤読の源であるとしみじみ実感。すべてしつこく明確にしてゆくようにしたら、いろんなものが見えてくるようになって驚いた。そのうち頭で明確にしなくても目の裏側あたりで明確に出来るようになるといいなと思う。精進。
・ まだまだ間違えるけれども、間違えやすいことに気づいたから注意して見られるようになった。
・ itは単に単語や文の一部だけではなく、それまでの内容を指し示す場合があるので、itの内容理解に努めた。単語や部分で指示できる場合は、線で結び合わせた。逆に、それをしないと、まだ次の内容がわからなくなる。

<文の中の並列構造・共通関係・パラレリズム>

・ それまでのほほんと読んでいたけど、こことここがつながって対比されてという分析ができると、文字に頼りすぎず誤読が減った。先生のいう次の推測というのができるようになりつつあって、そうすると具体的にというか、頭の中のまとまりが、とてもよくなる。
・ 素早く気づいて、素早くマークすればよい。頭の中で整理しながら読む。
・ andの持つ意味 (前後は並列か?) などや、both …and …, 比較級 (more, less, much more, no less than) などの確認。asの用法に注意。

<情報構造>

・前提と焦点というのが、これまで雑然としていた文に一つの共通点を与えた。
・主題をつかんで、先を予想しながら読み、要らないものは削除。

2.センテンスの中の語句の意味の理解

・私はボキャブラリィが少ないと痛感した。語句が、5行中に2つくらい分からなくてもどうにかなるかもしれないけれど、3つ分からなくて、しかも大切なところが分からないともうアウトだと思った。そういう訳で精進を続けて (ピー単のお世話になったり) 少しずつそういう悔しさも減ってきた。あとはシリウスもやって、イディオムも見て目の裏側あたりで理解できるよう精進したいです。
・一単語に一つの意味は禁物。先生の繰り広げる1つの単語やその仲間の単語が持つイメージやニュアンスを吸収整理することでうまく読めるようになってくる。
・授業での先生の単語の類語や、単語の英語での説明で、その語句が持つイメージを捉えようとした。

3.語句の表している意味内容そのものの理解

・これが先生に教わって得した点だと思う。分かっているつもりで分かっていないというのが分かっていなかった。つまりそれはどういうことなのか、と言葉を置きかえて、具体例を出して、図にしてみて、そうするうちに、英語と日本語って全く別の言語なんだなと思えてきた。ネイティブの発想という言葉が、とてもあっ!というかお得でした。日本人同士でも言葉に対する価値付けは微妙に違うし、まして英語などは。
・日本語訳してみても全く意味が分からない文はどうすればいいのか?自分で「…ってことは〜ってこと。ってことは…」をすればいい。
・英語というよりも、その英文の内容自体に対する基本知識が必要だった。先生のつっこみが激しかったので、この授業では一番この点で鍛え上げられたと思う。授業後の復習では、この点を重視して読み直したつもり。それでも分からなくなった時には先生に質問した。

4.筆者の意図・焦点

・<文の中の並列構造・共通関係・パラレリズム>ができると分かるようになるのだと思います。
・プラス、マイナスの現れる語句には印をつける。major, main, leadingなど最上級格のことばにも印。
・単語そのものの意味から読み取るプラス、マイナスの評価と、その英文でその単語が持つプラスマイナスには、記号を付けておいた。否定の接頭辞や、should、比較級のチェック。A rather than Bで、Aを選択し、Bを却下していることを初めて知った。

5.主題の発見・把握

・パラグラフリーディングを教わった時に、一文目、二文目に主題がくるとか、最後の段落を読め、とか言われてうまくいかない場面が多々あったけれど、ああ英語ってきちんとしているようで柔らかな部分もあるんだと思う授業でした。何が言いたいのかは、きちんと読んでゆけば分かるんだなと思った。その発見のしかたも知ることができたし、主題が分かっていると誤読が減る。あとは主題の内容を理解できる単語力と…思考力?が不可欠だと思います。
・全部完璧に読まなくても主題の把握が可能な事に気づけば気も楽になった。筆者の意図、焦点の把握で必要なことに注意すれば分かる。
・地の文で疑問文があった場合には、その答えに当たる部分を探すことで主題を発見した。

6.段落構成・ロジックパターン

・これは未だによくわかっていない。パターンがあるのは分かるけど、全部読んでから、これは主題、これは具体化、また主題、まとめと分けたりしている。凄く遅いと思う。
・「次は例!」など、よっぽど簡単なことしかわからない。特に限られた時間内では難しいので、まだ復習の時とかに見ている。
・最初の段落に筆者の主張が明らかになっていれば、その後は例や裏付けかな〜?と思いながら読み、最初に明らかになっていなかったり、問題提起がされていれば、文中の例から筆者の立場をさぐりつつ、最後に主張が書かれているだろうなと期待しながら読んだ。あんまり、そううまくはいかなかったけれど。

7.筆者の心的態度を表す語句

・これがすぐ分かるようになると誤読が減るしスピードも上がる。持ち歩くブリーフケースには絶対入れるべきだと思いました。
・ 面白いように見落としてしまう助動詞表現。分かっているのについ流し読みしてしまう。常に頭の隅に置いて読まなければならない。
・ shouldやmayなどの助動詞から言い切りの形なのか、あいまいなのかを判断。要約の時はその判断が大切だった。また可能性を含んでいるのか、いないのかも重要で、canやno、否定の意味を表す語には敏感になった。

<上記を踏まえた上で、もう一度初めからやり直すとしたらどうするか?改善点・変更や修正の必要な点を述べよ>

・もっと早く先生の言ってたことの重要性が分かっていたらよかったと思う。でもそういうものを理解するにはそれなりに時間がかかるし、結局なるようにしかならないのだと思います。なるようになりました。とりあえず今分かっているぶんに力を注ぐしかないのでしょう。そのうち、あっこんなの知ってればなあというのが出てくるかもしれないけどそれはそこまでの失敗のおかげで整理がついた喜びというのがあるんだろうと思います。今できることをやります。
・ がんがんマークしながら読む。難しいところで足止めを食らっていないで読む。常に主題のことを考えながら、離れないように読む。英語だからってびびらないで、書いている人は人間なんだから、次に何が来るかなど機転を利かせて読む。筆者の意図を暗示している語には要注意。
・ 予習の段階での疑問点を紙に書くかして、授業ではその点を中心に解説を聞くべきだったと今さら思った。もっと名詞の四角化で視覚化や、動詞にはとじかっこをつけたりすることを徹底していれば文の構造理解がもっとできたと思う。
・ 英文を一つの大きな流れとして読み取るのが甘かったと思う。断片的に意味を理解するのではダメ。その内容が英文の中でどのような効果を持っているのかを考えたい。
・ 現在完了形、過去完了形、進行形の表現を未だに読み流してしまっている。

<問題の演習よりも読解そのものに重点を置く方針について>

・ 英語を理解したいという欲求が高まった。そういう気持ちは勉強する時にとても有効に働くし、英語を少し面白いと思うだけでも有益です。それにやっぱり読解ができれば演習もできるはずなんだろうと思うし。逆はどうなのか分からないので、きっと良かったんだと思います。
・ はじめのはじめはパニックを起こしかける生徒も多いと思うけれど、のど元過ぎれば熱さも忘れるし、良薬は口に苦しって感じでとてもいい! ということにだいぶ後になってから気づく。
・ 私はその方が好きだった。英語を読んでいる、というよりも日本語を読んでいる感覚で楽しむことができた。1学期に読解中心の授業を受けたことで、入試の問題を解いた時にそれまでより解けるようになった。演習問題をいかにして解くかではなくて、内容をいかに理解するかが、やっぱり入試でも大切なんだなと思った。

<テキスト・教材の選択 (レベル・内容・構成) について>

・ 比較のしようがないので何も言えません。でもしんどかった。負荷が大きければ大きいほど力がつくと先生が時々言っていましたけど、 (なんか筋肉的勉強法だと思っていました)、多分それは真理なのでしょう。他でいろいろ失敗したらよく分かるのかもしれません。
・ 適当である。レベルは低いのは困るけれど、高い分にはついていけばいいと思った。そう思うことが大事だと思う。内容は様々なジャンルのものが揃っていて飽きが来ない。

<後輩へのアドバイス>

・ 先生の言うことを理解しよっ、と一生懸命になれば、早いうちに、どうやれば英語がぼろぼろほぐれるのか分かるようになると思います。そうしたら後は精進あるのみだと思います。頑張って下さい。
・ この時間は英語オタクになりきって臨みましょう。オタクになってしまえば、なかなか楽しいものです。先生のおっしゃることは、はじめは、その多くが呪文のように聞こえることでしょうが、徐々に、徐々に、呪文は言葉として頭に入ってきて、しばらくすると「もしや、私も使えちゃうかも…?!」なんて思えます。そうしたら、本当に面白くなってくる。そして、そこに行くには、努力、予習、疑問、感動、不屈、授業中起きているための前日の睡眠時間が必須なのでした。
・ とにかく予習は怠らずに!最初はきついかもしれないけれど、人間やってできないことはない。英文を読むぞ!というのではなく、ただ文章を読む気持ちで取り組んだ方がよい。基本的なことに思えるかも知れないが、時制のチェックや関係詞がどこに係っているのか、助動詞・可能性などに敏感になるべし。主題が読み取れるようになると最高。たとえ分からなくて、くじけそうになっても、自分の納得のいくまで追求しましょう。先生がこわくても、バカだと思われても、どんどん質問しましょう。でも、一番大切なのは、この授業、テストに負けない強い精神力を持つことと、楽しむこと。この授業を選択して損はない!

この時はこの時で、決して手を抜かず「ガチ」で授業をしていました。でも、この時よりも今の方が多分、いい授業になっていると思います。一貫して流れているものは確かにあるはずですけれど。

午後になって縁側で読書。

  • リービ英雄 『越境の声』(岩波書店、2007年)

やはり水村美苗との対談に緊張感があっていい。もっと長くても良かった。頁を繰るたびにリービ英雄への声援が大きくなる自分に気がつくのであった。

本日のBGM: Now is better than before (Jonathan Richman)