Starting Over

今日は、高校の卒業式でした。まだ進路の確定していない人も多いのですが、ひとまずおめでとう。
今日までの3年間よりも、これからの1日、1日が輝かしいものでありますように。

帰宅後は、作問。
一段落したので、同僚に録画してもらっていたビートニクスのライブを観る。感激。慶一さんのcharmingな声も戻っている感じがした。白根さんのドラムは足腰がしっかりしていると実感。ギタリスト高野さんをこんな贅沢な使い方をするバンドが良くないわけがない。

さて、
anfieldroadさんの「みんなで書けば怖くない」企画に参加します。( http://d.hatena.ne.jp/anfieldroad/20120301/p1

  • 「中学校卒業までに身に付けて欲しい英語力」

いよいよ、入門期が中学校1年次と言えなくなってしまいましたが、中学校卒業までに身につけて欲しい、技能・知識・意識・姿勢ということを考えてみました。で、いくつか書き記してみます。当然、これから書く内容の多くは、高校入学以前の英語学習を支える「教師」への注文という意味を持つということは分かっております。
過去ログでも随所で「中学校レベル」の言語材料に言及していますので、例えば、http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20111126 などをお読み頂ければ、私が高校段階でどのように「再入門」に取り組み「定着」を図っているか、イメージしてもらえるかも知れません。

中学校段階では、「フォニクス」の知見がかなり活かされてきていると思いますが、
・ 音声の保持とコピー
が難しいので、やはり、
・ 綴り字の音声化
という部分と、タマゴとニワトリのように行ったり来たりが必要だと感じています。行ったり来たりできる「足場」「階段の踊り場」「ベースキャンプ」のような、自分の得意技となる語をしっかりと持って中学校を卒業して欲しいと思います。
その観点で言うと、「規則変化する動詞」の原形と過去形の発音と綴り字を身につけることは「ベースキャンプ」として必要だと考えています。『エースクラウン英和』 (三省堂) の学習頁にわざわざ「規則変化動詞」のマトリクスを書いたのはそのためです。(過去ログだと、http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20080602http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110207 に高1での指導事例があります。)
さらには、
・発音できるようになった語を綴る
のは難しいのが普通で、
・ ある音として聞こえた語を、適切な綴り字で書き表す
のは覚えている語が増えればその分難しくなる、ということは学習者として覚えておいて欲しいと思います。綴り字の指導、文字指導に関しては、市販の国産教材に良いものがほとんどないのが現状なので、過去ログhttp://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120213を参考にして頂ければと思います。

音声に関しての要望は、

  • 絶対に早口はダメ。
  • 口先だけもダメ。

ということです。
あくまでも、自分の頭に意味が浮かんでいて、それが音に乗っているか、が大切です。意味が乗るためには、正確な調音が必要。中学校段階で身につけておいて欲しい音はいくつかありますが、

  • beganとbegun
  • swamとswum
  • sangとsung

での母音の違いをしっかりと発音し分けられること、を強調しておきます。
ポイントは、英語ネイティブのような音を出すことではなく、「発音し分ける」ということ。どの語を発音する時も同じ調音で区別できればひとまずはOK。

  • catとcut

の違いができるなら、どれもできるはず、と教師は思いがちですが、catの母音をきちんと調音せず、日本語の「拗音」でごまかしたままだと、自分の中で一貫した 「仕分け」ができないので注意深く練習とフィードバックが必要です。ただ、こちらの音は練習すれば力を使って調音できるのでまだ身につけやすいのです。むしろ、顎や唇に力の入らない、cut の母音が前後の環境で安定しない生徒の方が多いと思います。
「音連結」を無理に身につけようと思わないこと、も心得ておいて欲しいことです。自分の身体に共鳴しない、口先だけの声を出しておいて音の連結だけ英語ネイティブを真似したところで、英語の音になりません。「よくできる」生徒、特に女子は注意が必要だと感じています。これは別に性差別でいうのではなく、私がこれまで教えてきた生徒、今教えているクラスの実例での傾向です。

しっかりした姿勢・床に足をつける→たっぷりとした呼吸・アコーディオンのような体の使い方→唇の形→顎の開きの大きさ→舌先の強さ

という指導は高校でもしっかりとやらせていますが、「早口」と「口先」が身についてしまっている生徒の習慣を崩すのは大変です。

次は、「文法」の領域に入るのでしょうが、

  • 語順・意味順とチャンキング

に関して。
このブログを読んでいる方の多くは「名詞は四角化で視覚化」という私の指導手順をご存じだと思うのですが、名詞句の把握は意識的・意図的に「学ぶ」必要があると思っています。その上で、

  • 名詞句と副詞句が実感として身についていること。

が中学卒業までにクリアーすべきハードルでしょう。
todayとかtonight は名詞と副詞で形が変わらないので、そこが逆に難しさの要因だけれども、
at school やin Japan といった<前置詞+名詞>が副詞句として使われていることを文脈で示すために、 at school以外の文の要素を置き換えて大量に練習するのはかなり大変で、このような副詞句はある程度仕込んでおかなければならないと思います。Where did you stay? に対して、hotelとか a hotelとか New York という名詞で答えるだけではなく、 at a hotel とか in New York と答えられるか、という下地が、高校段階で、関係副詞を扱う際に問われてくると感じています。当然、再入門講座では、高校3年生で、ここまで降りていくわけです。
ここがクリアーできると、次のハードルが待っているように思います。過去ログの繰り返しですが、

<前置詞+名詞>が副詞句として使われているのか、それともその前の名詞とひとかたまりになるのか、というのも、文脈が決めるので、ひとつひとつ確認し、音声化の練習です。たとえば、
• I talked with her about her school life in New York.
は、決して、
• ?In new York, I talked with her about her school life.
ではないことは生徒にもわかります。「もう既に、New York滞在中の話しをしているのに、どれだけ、『ニューヨークで』を強調したいんだよ!!」と思われるのがオチでしょう。では、her school life in New Yorkがひとかたまりの名詞句であることをきちんと音声で表せているか、練習が必要です。

英文にスラッシュを入れるなどして、チャンクに分け、順送りで理解することは中学校段階でも指導されていると思います。田尻悟郎先生の語順下敷きや、田地野彰先生の意味順英作文など、優れた実践が教材にもなっています。そのような指導の後で、複数の情報をひとつのスロットのような形にまとめておき、その一つひとつのスロットから、意味を自分の頭の中で思い浮かべながら、

  • free substitution drills

をすることが、「句」の定着には必要だと思っています。今ではあまり省みられることのない指導ですが、 “communicative” な練習に移る前に、やっておくべきトレーニングだと思います。(古典的なsubstitutionの指導例はこちら。substitution.pdf 直 生徒の習熟度に合わせて、もう一手間加えれば充分活用できます。)

最後に、「できる」生徒には、「テスト」や「問題演習」の虜になったり、「先取り」を急ぐな、ということを伝えたいと思います。
先日、ある出版社の方との話しで、

高校に入ってきて、伸びる生徒と、それほど伸びない生徒というか、逆に、どんどん下降していってしまう生徒がいると思うのですが、その分岐点は何でしょうか?

という究極とも言える質問を受けたときのことをブログに書きました (http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20120206) が、再録して、今回の企画への参加記事を終えたいと思います。

中学校で、成績が上位の生徒だけでなく、中位も、下位も、皆、塾に行っていたりします。そこで、いい先生に当たって本質的な「学び」が身についていれば良いのですが、ただ単に「先取り」とか「過去問演習」「予想問題演習」での「解法」の虜になっていると、「その問題はやったことがあるからできる」だけで、積み重なったり、連なったりして「伸びる」チャンスを逸するように思います。本校では、高1の2学期の、それも終わりの方でようやく「英語 I」の教科書に入ります。それまでは、中学レベルの言語材料と英語のスキルの養成を徹底します。「自分が楽に呼吸できる水の深さ、波の高さのレベルの教材で大量に泳ぐ練習」でなければ、本当の力は身につかない。でも、自分の今の力よりも上の教材も扱わないと、自分の力は伸びない。で、どうするか?語彙力養成を常に先行するということと、日本語訳や解説という「浮き輪」を利用した多読多聴と精読精聴の行ったり来たりです。

本日のBGM: Total Recall (The Beatniks Live at Nakano Sunplaza)