the first day of winter

本業での大きな山脈の最初の峰を越えたところ。
全国選抜大会の中国地区予選会。
公式配艇練習のある土曜日の朝は7時出発で湖に向かい、9時から練習。「冬か?!」と思う位の冷え込みで心配だったが、日中は大汗をかくほど。開会式、代表者会議を終えて宿へ。
明けて日曜日は、霧雨の朝。レースが始まる頃には晴天に。
中国5県各県代表の対抗戦なので、全て一発決勝。これが九州だったら、一発というわけにはいかないので、まあ、いろんな巡り合わせなのですね。自チーム1Xは絶好調で大会を迎え、秘かに優勝候補との競り合いを思い描いてレースプランを立てていたのだが、調子に乗って色気を出すと裏目に出るもの。スタートで大失敗。大きく出遅れて、キレのない漕ぎで中盤へ。湖のレース会場なので、展開に沿って岸から指示を送るなどということはできないため、スタートしてしまえば、あとは選手の力のみが頼り。自滅することなくスピードを取り戻し、しっかりと3位でゴールしたのは成長したと言うことでしょう。選手にも、今日だけは、よくやったと褒めておきます。薄氷の思いの選抜への出場権獲得。インターハイに続き、創部4年での初出場になります。選抜のある3月までは、冬を越え、まだ4ヵ月あります。この4ヵ月はどの選手にも平等に与えられているのですから、一から出直すつもりで、気持ちも身体もリセットです。
今回も、他県の指導者の方たちとの交流で気づかされることが多々ありましたが、選手からも多くを学びました。私は配艇受付だったのですが、レーンプレートや配艇カードの配布、返却の際に、他県の選手と交わすちょっとしたことばと彼ら、彼女らの表情から、それぞれの選手のこの競技への思いとか、自信とか、悔しさとか、達成感を共有することが出来て、嬉しく思いました。来年はこの会場で中国大会と国体です。今回、惜しくも選抜出場権を逃した人たちも、いい「面構え」でまた会えるのを楽しみにしています。
後かたづけでさらに大汗をかいてから撤収。
日が落ちる前に帰宅。娘に凱旋報告。

神奈川では全英連が終了。
大津先生の講演の情報などもチラホラ。公開授業の批評も聞こえてきました。外を見て、自分の立脚点、視点を揺すぶってから、また現実の自分の立ち位置に戻って、日々の実作です。

最近、生徒への指導以上に、自分の英語力の維持、伸長に悩みます。
先月の山口県英語教育フォーラムで加藤京子先生の投げかけた「私たちはEFLを指導するプロ」として通用するか、という「?」の持つ意味は大きい。まず、英語が分かっていること、そして英語が使えること。
教材にも音源にも事欠かない現代では、リスニングで苦労することは以前に比べて余りなくなりました。英語ネイティブ間の音のバラエティも、PodcastやTEDなど「旬」なサイトを活用することでかなりの程度対応できます。問題は、やはり喋ることと書くことです。自分が話す、自分の口をついて出てくる英語を自己訂正できるようなら、たどたどしくても自分の英語を育てていくことが可能かもしれませんが、多くの場合、一定の守備範囲以上のことは話さないので、結局話せないままで終わってしまいがちです。ライティングの場合は、自分の英語をモニターしつつも、より良い英語へと突き抜けるための弾みというか、守備範囲をさらに拡げるための、糊代というか、「何かそういうもの」があって、話すことでは上手くいかないものを補って余りあるように感じています。
公立校での駆け出し時代、同僚となったY先生はよく、

  • 中間テストや期末テストに、英語の綴り字のミスや英語としての誤りがあっては、その教師の授業には説得力がなくなると思います。

とおっしゃって、ご自分の試験問題を遙かに若い私に見せ、お手本となってくれていました。お互いの書いた英語も臆せず見せられる人間関係があったとも言えます。(Y先生と言えば、昼休みには食事をしながらThe Japan Timesを読み、耳ではFENを聞いていたような記憶があります。私の記憶が間違っているかも知れません。)
その後、G大での私の恩師のさらに先輩であるH先生からは、私が一つ質問する毎に、「達意の英文」が返ってきて、まさに、湯水のようにあふれ出てくるフレーズの数々に学ばせて頂きました。
一方で、共通問題の試験問題で綴り字のミスを見つけるたびに、Y先生とは全く違い、鬼の首でも取ったかのように嬉々として作問担当者に指摘する同僚に辟易することもありました。それでも、そんな職場に、若手が鍛えられる「道場」のような空間が確かに存在した時代だったと言えます。

昨今、中高の英語教師の英語力がより一層求められるような「空気」を感じます。「教えている当の教師の英語が拙いから、教わる生徒の英語力が伸びないのだ。」というのはよく分かります。しかしながら、ただお粗末な英語にダメ出しするだけでなく、若手であれ、ベテランであれ、英語教師が英語力を高める「道場」を建設する「余地」を教育現場に取り戻す必要もあるのではないかとも感じています。そして、その道場での修練になるのは、TOEIC対策などではないだろうとも。

高校現場で英語を教えている人で、自分の英語力を伸ばしたいという人の参考になるかどうか分かりませんが、自分がこれまでにやってきたことで、今もやっていることを記しておこうと思います。

その一つは、ライティングの教材の英文を精査すること。
入試問題の模範解答例から始めました。意地悪く、重箱の隅を突くような「あら探し」から始めたわけですが、それで良いのです。その対象を貶めることが目的ではなく、自分の英語力の向上を求めているのですから。昔の『英語青年』や『現代英語教育』のバックナンバーを繙いて、英作文・和文英訳・ライティングでの「添削」「フィードバック」を辿り直すということも続けています。自分の英語との余りのギャップに落ち込みますが、摺り足でも良いので、よりよい英語へと自分の立ち位置を進めていくことから。

夏のELECの講座では、そんな思いで私が持参した書籍の貸出をしたのですが、そのうちの一冊をこう評してくれた方がいました。

  • 解答例が一つしかなく、どうしてその英文が正しいのか、他の表現では本当にいけないのかという解説がない、昨今の英作文の問題集と比べて、フレーズレベルで、文法面・語法面から適否を解説している『ハイベーシック英作文』は、学習者の側 (そば) でしっかりコーチしていこうという姿勢が見られて好感が持てました。

かなり昔の『英語青年』を読まれた方からは、このような反応が返ってきました。

  • 学習者本人のレベルに合わせて文章を簡略化し、問題を平易にするというのが最近の教育教材でも傾向としてありますが、いずれの書籍からは全く逆のメッセージを受けました。乗り越えるべき素質があると信じて、次のステージに向かいなさいという成長を促す指導・メッセージが文章や問題の難易度の高さから垣間みられ、今のままではいられないという気にさせる「見えざる後押し(励まし)」を感じる内容でした。1970年5月号にある「増田綱氏を偲ぶ」の中で氏の英語教育に対する姿勢を剣聖に例える記事がありましたが、既存の教材や与えられた教科書のみで終わってしまうのではなく、五文型を学び始めた生徒と同じように悩み、学び続けるという氏の姿勢を賛美する内容でした。ここまで惚れ込むのか!という驚きもありましたが、そうさせる氏の存在感を記事を通して感じました。
  • できる人間が噛み砕いて伝え教える。というのは動物で言えば自ら咀嚼できないひな鳥に噛み砕いた虫を与える親鳥の行為に似ていますね。いつか巣立つ日のための備えをするという事が使命である事が現在の教育教材、一般英語書籍のメッセージには少し弱くなっているのかなと感じました。見た目重視、第一印象重視の芸能型に偏って子どもの側に立ち過ぎている世の中を一人の人間や一冊の本だけでは変えられない現実です。生徒達、読者達の成長を思うのであれば1冊に込める情熱と情報をいかに発信する側が意識して、その熱を維持していけるかが大事であるとあらためて思いました。昨今の流行書籍ばかりで学習していた自分としてはこれらの書籍との出会いは目から鱗が落ちた体験でした。ありがとうございます。また、研修会などの際にお会いする事ができれば幸いです。

ライティング教材の精査以外で、自分で役に立っているなと思えるのが、「リライト」「リテル」。公立高校入試問題のリスニングのスクリプトをもとに、高1レベルから高3レベルまで英語で書き直してみます。学習指導要領がとてつもなく拘束力があるのか、それとも、作問者側の自主規制なのか、全国の公立高校のリスニング問題のスクリプトはだいたいある守備範囲内の英語で書かれているわけです。そこから、最初は分量を増やす方向でのチャレンジ。次は質。語彙選択、構文の密度、論理展開まで。もとの英文が100語程度だったとして、これを300語へと肉付けして分厚くしたり、引き延ばしたりという「量的変化」は比較的容易。慣れてきたら、逆に、80語とか、60語で、密度の濃い英文へ圧縮というか凝縮というか、書き直していく「質的変化」を試みるだけで随分多くのことが学べたように思います。オーラルイントロダクションで、教科書の英文を易しく書き換えるのはいつもやっているはずですから、その力を伸ばすのと並行して、易から難へという書き直しを取り入れてみる、という思いつきから始めましたが、これは自分に合っていました。
そんなに、同じネタで何本も書き直しをしている時間は無いという人には、「レンジでチン」、ではないですが、出来合いの物語・小説の比較検討をしてみるのも多少の効果はあるかもしれません。その一例はすでに過去のエントリーで紹介しています。(DL可能なファイルはこちらから→三賢者、プラス1.pdf 直Boy Detective.pdf 直)

本業が佳境となり、さらに時間がとれなくなるであろうこれからの1年間で試してみようかな、と思うのは、初見の英文でのFlip & Write。完コピモードと、要約モードの二種類でやっていけば、自分の産出する英文の質を高めていく良い練習ができるのではないかと思っています。
でも、やっぱり、その自分が産出した英文を誰かに見てもらわないとダメなんだろうなぁ…。
定年まで英語教師でいるかどうか分かりませんが、5年後、10年後、さらにはその先の自分と英語との関わり合いをイメージして、まずは自分と付き会い続けていこうと思います。これからもお付き合い頂けるという奇特な方は、よろしくお願い致します。

グランプリシリーズの方の中国大会では、抜群の冴えを見せた小塚選手と、いくらジャッジが点を出したくないと思ったとしても、他の競技者とのレベルの差が歴然としているので、点を出さざるを得ない安藤選手のアベック優勝で幕を閉じた。良い選手が、良いパフォーマンスを魅せてくれる間に、しっかりと目を肥やしておきたいと思う。

本日のBGM: 扉の冬 (Couch with Beautiful Hummingbird & Saho Terao)