卓見、定見、達観、諦観

週明けの0限は高2。
土日にそれぞれの部活の県予選などが行われているので、そのスモールトークから、「あと3日でゴールデン・ウィークです」の英訳へ。『グラセン和英』の用例を手がかりに、“Three weeks later the Golden Week will come.” と板書した生徒の英語をたたき台にして、時制の確認から、「これからの経過時間を表す」前置詞のinと、three days to goなどの<時間+to go> の語法を解説。板書は以下の通り。

  • The Golden Week will come in three weeks.
  • We have three days to go before the Golden Week.

ここから、「中間試験は3週間後です。」の英訳。「中間試験ってなんて言うんだっけ…」と尻込みする生徒に、

  • まずは、”We have three weeks to go before the 中間テスト.” と言い切れる回路を作りなさい。最後の中間テストの部分はそれこそ、「大佛次郎」的知識なのだから、どうにでもなるもの。それよりも、既知を応用できることが大切。

とアドバイス。
読解テキストの第二課までは、後置修飾がポイントなので、最終段落の語からmerchantを選んで、英語の定義。まずは日本語を使って。
「売り」「買い」「管理」というキーワードは出るものの、順序立てが曖昧。で、英語の定義文を辞書から読み上げて書き取り。味も素っ気もないLDCEからでも学ぶものはあるのだ。

  • someone who buys and sells goods in large quantities

と、「買い付けて、売る」という順序が守られている。数種類の英英辞典を比較。
ISDEでは、

  • a person who buys and sells goods for profit, especially who does this on a large scale and whose business is chiefly with foreign countries

MEDでは、

  • a person or business that buys and sells goods, especially one that trades with other countries

CSDAEでは、

  • a person who buys and sells goods in large quantities

  • a person who owns or runs a store or shop

というシンプルかつ重要な語義の区分け。
おまけで、shopとstoreの使い分けを英和辞典で確認。一段落。
ちなみにOALDの現行版の定義を、ISDEと比べてみるのも面白い。いや、私にとって、ね。

  • a person who buys and sells goods in large quantities, especially one who imports and exports goods

それぞれの英英辞典の特色、持ち味を解説。僅か数人で執筆編纂したISDEがALDさらにはOALDへと受け継がれて全世界へ広まっていった話、MEDがいかに強い信念のもとに生まれた優れた辞書であるかという話などなど。
残りの時間で、今月の歌の聴き取り・書き取り。簡単と思われた、別れの言葉での“So long.” が生徒からは全然出てこなかった。現在の中学での既習事項には全く入っていない模様。私が不勉強でした。

空き時間に、巷で高い評判の某私立大学のエンロールメント・マネジャーが来校されたので応対。推薦入試やAO入試など、いつお世話になるやも知れぬので丁寧にご挨拶。ひとしきり説明を受ける。

高1はそろそろ学校生活への慣れや疲れが出てくる頃なので、喝。授業での集中力や心構えに関して、

  • 授業の50分で自分の100%を出すこと。
  • 自分が一生懸命にやったことに自信を持つこと。考えは未熟であろうとも、自分の作ってきた事実は誰にも否定できない。
  • スポーツの一流選手でもベストを出せないことの不安と戦ったり、自分の努力は本当にベストといえるのかに悩んだりするものだが、上手くいかない選手の多くは、ベストを尽くしてダメだったら自分の存在そのものも否定されるような気がして、ハナから最大の力を発揮しない言い訳を用意してしまう。

まあ、こんな説教ばかり聞いていても英語ができるようにはならないので、

  • 中1の振り出しに戻ること自体には意味はない。なぜならそこはできて当然だから。問題は、そこからどうやって本来いるべき高1なら高1の場所へと助走スピードを上げ続け、学習を加速させられるかだ。

と喝破し、『高校入試スーパーゼミ』 (文英堂) の一節を示して解答させ、過去問演習で終わるのではなく、英語ができるように学ぶ方法を説く。次回以降の集中した取り組みに期待。
このブログも紹介し、「君たちの英語への取り組みは、全国の見知らぬ誰かが知っている」「テスト前にアクセスが増えるのは賢い使い方をしている証」と付け加えておいた。

先日のエントリーで指摘した『蛍雪時代』 (旺文社) 4月号の付録連載、「鉄人の解法」での誤りが、5月号で「お詫び」とともに載っていた。案の定「編集上のミス」で済ませている。あれほど編集部に言ったのに。結局、講師本人が連載で取り上げる入試素材を吟味して執筆していないということがバレバレでしょ。今時、『蛍雪時代』の連載を高校生がどれだけ有り難がるかは疑問なのだが、痩せても枯れても由緒正しい全国誌ですから。手元にある人は、4月号の連載の記述と5月号のお詫びコメントを照らし合わせていただきたいと思います。(過去ログはこちら→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090330)
「和文は与えられず、空所で与えられた英語の語句を適切に並べ換えることで英文を完成する整序作文」という形式で、2008年のセンター試験をそのまま持ってきたのだから、編集上のミスで本来空所のかっこの外にあるべき “I” が原稿を組む段階で抜けていたというのであれば、解説の和訳部分では「私が買った(自転車)」という接触節内での主語は明示されてしかるべきだろう。それさえも抜けているということは、この講師は誤植に気づかず、“the bicycle bought at the sale” のままで理解し、ここでの後置修飾は接触節ではなく、buyの過去分詞boughtの形容詞的用法とでも解釈したとでも言うのだろうか?まさかね。訳を書くときに「おかしい」と気づかなければ、それこそおかしいのだ。4月号で、この講師は「この程度の問題は30秒でできる」というような口ぶりだったのだけれども…。

授業を全て終え、「英語の教師にとって最も必要な要素・資質・能力は何か?」と自問。
夢を語ること?話術?謙虚さ?感謝のこころ?協調性?ポジティブ思考?北風ではなく太陽のような優しさ?熱意?学習者としてのモデル?生徒への愛情?入試問題の解法に精通していること?はったり?いえいえ、やっぱり、

  • 英語ができること

でしょう?
mixi経由で、次のコラムを知る。(→ http://www.excite.co.jp/News/bit/E1239953758916.html)
英語教育の専門家がきちんとモノを言わないから、言ってこなかったから、こういう戯言を活字に載せることになるのです。文字の一つ一つを構成するストロークの練習、文字と文字が繋がる代表的な組み合わせと繋げ方 (=joining) の指導などといった文字指導の原理原則をそろそろ真剣に打ち出しておかないと。『文字指導教則本 & ノート』の作成を本気で始めましょう。現場に対する十分な支援のないままスタートする小学校英語が、身振り手振りや、笑顔や歌声だけで支えきれずに、文字に助け船を求め出してからでは手遅れになるかも知れないのだから…。

  • 橋本治『橋本治という考え方』 (朝日新聞出版、2009年)

を入手。過日読了の内田樹との対談と併せて読み直したいと思う。

本日のBGM: What kind of fool am I? (Rick Springfield)