still in transition

先日、倫太郎さんと久々に電話で話をした。
ある勉強会で話をした進学校の先生方との間に覚える違和感のようなものについて。
自分の知っている情報、身につけた知識、獲得した体系がいかに価値の高いものであるかを説くのは構わない。しかしながら、その情報や知識が体系となったと自覚できた時はいったいいつなのか?まさか、高校1年生の英文法の時間に、その体系が見えていたわけではあるまい。自分にとっては、できあがって初めて見えたものを、これから始めるものに見ろ、といってもそれは無理な話。
少子化傾向の曲線にしたがって高校生が減っていって100万人になり、センター受験者が50万人とすると、高校生のうち約半数は、センター試験にリスニングが入ろうが、TOEIC型の情報処理を要求する問題が入ろうが、何の影響もないことになる。私立大の半数が定員割れとも言われる。その一方でAOや自己推薦入試などを採用する大学も存在する。早期に定員を確保したい大学、学力での選抜をしないことによる入学者の学力水準低下を憂える大学、レメディアル教育で高校の検定教科書より遙かに易しい教科書を自主編集して用いている大学などなど、「大学入試では…」などと軽々しく一般化することには慎重でなければならない。
大学や短大への進学率の推移、選抜の際に英語を要求されない者の割合の推移、4大・短大での入学者の英語力の差異の推移など、基礎統計がほとんど何もないところで、英語力が上がっただの、下がっただのと議論をしても意味がないだろう。
『英語教育』(大修館書店)などの伝統ある全国規模の商用誌で展開されるtop downの「お説ごもっとも」な特集記事と、『新英語教育』(三友社出版)のような現場教師を中心に作られた雑誌で紹介される実践との間に、本当に共有するべき「学び」や「気づき」があるのかもしれない。「英語教育」と十把一絡げに論ずることがそもそも無理な状況だけがどんどん拡がり悪化していくような気がしてならない。

0限は高2。英語学習進捗表が未提出の者に再提出を求めたが、週末を使って練ったとは思えないあまりのお粗末さに、キレました。いつまで先送りすれば気が済むのか。自分が出来るレベルまで戻って、助走し直し、その代わりに学習を加速させることしかないのだよ。2コマ目は、基本動詞のコロケーション解説。「カタカナ語は動詞では定着しにくいが名詞・形容詞では定着しやすいから、辞書でも新聞でも片っ端から日常眼にする、耳にする英語 ”由来” のカタカナ語を抜き出し、その動詞を辞書で確認する」ことで動詞の語彙が飛躍的に向上する、という話し。実例は「コンサルタント」「コンベヤー」「デリバリー」などなど。consult, convey, deliver などが守備範囲の中に入っている高校生はどのくらいいるか。

高3は英作文の心得。巷でよく聞かれる、

  • 字面に引きずられずに、日本文が伝えたい内容をかみ砕いて和文和訳する。
  • 格好いい表現を使おうとせず、自分が自信を持って使いこなせる手持ちの英語表現に限って、誤りのない英文を書く。

という心構えが如何に高校生の現実とも、英語のライティングのあるべき姿ともかけ離れているか。
「内容をかみ砕いて和文和訳した後の日本文」が英語で表現できない場合に、「自信を持って使いこなせる手持ちの英語表現」がどのように有効なのか?そもそも、「自信を持って使いこなせる手持ちの英語表現」はいつ、どのように育っていくのか?という点が全く明らかではない。「英作文眼」を持ちながらインプットに励む授業、パラフレーズ、言い換え、反意語を援用した語義の核心へのアクセス、私の用意できるのはそのくらいのものだ。
高1オーラルは、テスト返却。
この学年はGradingのしくみもきちんと説明した。なぜ、採点前の答案をコピーしておくのか、そして採点後の答案もコピーするのか、グレードをつけた後、どのようにそれぞれの評価に逆転や食い違いがないか確かめるのか、などなど。それを踏まえて、中間考査での出題にあったスピーチ原稿の自己訂正・リバイズの作業に。
パラグラフオーガニゼーションなどという用語は示さないが、話題繋がりだけで、あれもこれも頭に浮かんだものを羅列してはいけない、常に「主題」を支える、裏付けるために、説明をしたり、具体例をあげたりするのだ、という基本を再確認。「英作文」の授業だけがライティング力養成の時間ではないということだ。
放課後は寮の当番。
仕事を早々に片づけ、GP観戦。終わってみれば、キム・ヨナの圧勝。(得点詳細はこちら→ http://www.isufs.org/results/gpusa08/gpusa08_Ladies_FS_Scores.pdf
日本のメディアは、さまざまな人間ドラマを演出し、安藤の復活を印象づけようと頑張っているが、今回の安藤の3位(フリーでの順位降格)は、最初のコンボでの2つ目、3Lo(トリプル・ループ)が回転不足のジャンプとして、減点されたことにあるのではない。Program components の採点に注目すべきだろう。ジャッジパネルは10人、そのうち、1人がtransitionで5.0、1人はなんと4.0をつけているのである。昨年の世界女王が、4.0ですよ。演技を終えた11選手中、4.0をもらったのは安藤選手の他には、カナダのミラ・リャン選手(カナダ)ただ一人。ランキングで遙かに下位に位置している選手よりも、低いスコアを与えているジャッジがいるのである。ジャンプ、スピン、スパイラル、ステップといった要素でのskating skillsとの差が、あまりにも大きい。ジュニアからシニアに上がったばかりの選手にありがちなバランスの悪さを、未だに持っていると見られているわけではあるまいに。得点詳細で、各選手のこの2つの項目の差を見てもらうと、自分の見た目と、スコアとの間の違和感が少しは意味づけられるのではないかと思う。今シーズンから、スパイラルでの6秒保持など新たな制約が課せられたが、キム・ヨナのエキシビション演技を見ていれば、観衆が惹きつけられ魅せられるのに6秒など必要ないことがわかろうというものだ。
滑走スピードの高さでは近いものを持っている、キム・ヨナと長洲選手との差、ジュニアから上がってきたばかりのフラット選手の健闘、そして「丁寧に」滑り続ける中野選手の安定したパフォーマンスなどなど、いろいろなことに気づいた大会であった。

本日のBGM: Yuna-Kim (2008 Skate America Exhibition)