『草枕』

ようやく新年度の学校カレンダーと時間割が届いたのだが、肝心の講師の委嘱状が入っていなかった。大丈夫なのだろうか?今年は、週5日出校。朝一で入っている日が多いので専任時代と変わらない印象。さっと来て、さっと帰れればいいのだがそういうわけにも行くまい。そう思いながら、時間割をよくよく見ると、3月にもらっていた時間割と違っている箇所が…。まいったなぁ。主任に問い合わせをして教務係に確認してもらっているが、時期が時期だけに厳しそうだ。
最近、「教えて! Goo」の英語質問コーナーをよく見ている。『英語教育』(大修館書店)の「クエスチョンボックス」のような洗練された問いは少なく、質問のもとになっている英語自体が間違って転記されていることも多い。ただ、「体系的」に文法を教えているつもりの英語教師は、こういう「体系を未だ持っていない学習者」の視点からものを考える訓練を意図的にしなければならないのではないか?と思い、時々、回答も寄せている。
最近、こんな内容の質問があった。英文は以下のもの。
Those of us with daily occupations have, on the whole, far more free hours than had previous generations.
これに対して、「than以下がよくわからない。」とのこと。この人の疑問は次の通り。

  • 関係代名詞thatが省略されていると考えるのか?
  • previous generations hadではなく倒置になっているのはなぜ?

いろいろな回答が寄せられているのだが、ネット環境ではどの板にも「常連さん」がいるので、深入りは慎重な判断のもとにされたし。さて、この質問例のようなthanの後の倒置は、結構一般的なものと言えるのではないだろうか。以下、特に出典は明記しません。

  • We feared the heavy snow and so we set our start one month later than the previous expedition. But this year in Nepal the weather was unstable and we met a greater a mount of snow than had the previous expedition.
  • Although Clinton discussed AIDS more often than had his predecessors, he failed to propose the kind of comprehensive plan that activists had expected.

このような例では、主節は過去形なので、than以下のhadは過去完了形の助動詞と考えられる。
ただ、倒置で前置されるのは助動詞だけなのかどうかが気になるのでググッてみると以下のような例が出てきます。

  • Modern mums have machines to do the dishes, while another machine washes the clothes and yet another dries them. They have machines to clean the floor, fridges to keep the food cold, which leaves them with a sight more time on their hands than had previous generations.
  • WE HAVE MORE IN COMMON WITH EACH OTHER THAN HAD PREVIOUS GENERATIONS.
  • Parents have greater career aspirations for their kids now than had past generations.

では「このhadは過去形でいいのだな」、と断定する前に、<現在時制+than+過去完了>というパターンは英語で許されないのか?という問いを立てて検証してみることが可能だろう。

  • "Today women are more likely to reflect upon their inner selves and behavior and think about how to accomplish their goals than had women of previous generations," said Barrios.

この例では、主節は現在時制。ただし、「所有」のhaveではなく、助動詞的な表現でしかも reflect uponという動詞句です。こうして比較すると、than以下のhadを「所有」の過去と見るのはどうなのか?また、この英文を書いた人の文法力はどうなのか?という疑問が生じてくる。
現在完了形というのは時制としては限りなく現在形。そういう目で次のような例を見るとどうだろうか?

  • We women now entering our forties, fifties, have had the benefit of better medical care, better physical fitness and diet advice, to keep us physically and mentally fit, than had women of past generations.

こうなるとhadは本当に過去形なのか、それとも過去完了形の助動詞なのか、というのは、学習者には簡単に見極められないということがわかるのではないか?私も、どちらかと言えば文法語法オタクなので、こういうことを調べたり考えたりするのは大好きなのだが、これを学習者にそのままぶつけても消化吸収は難しいだろう。体系的、と思っていくら整備しても漏れる部分、またそもそも体系が見えていない学習者にはひっかからない部分は多い。授業のいいところは、行きつ戻りつ、こういう部分と付き合っていけるところだ。なんでも教師が準備して、完成品をデリバリーするのでは学習者はいつまでも自立できないだろう。「学習者中心」というと、とかく生徒の「心情」や「動機付け」にスポットライトを当てがちである。それも大事だが、分からないことへの不安や自己変革を要求されることへの不満などといったことを全て飲み込んだ上で、英語という言葉の仕組みや働きに関して、cognition「認知」の部分で何がわかりにくいのか、では、とりあえずどう対処すればいいのか、という学習者の「知」の部分へのアクセスにもっとエネルギーを投入することが、とりわけ高校段階では重要度を増すのだと思う。