論理と表現

前回のエントリーではセンター試験の第3問の「不要文選択」を取り上げていましたが、最近の出題では、まだ解説をしていなかった、現在のセンター試験の筆記では、第3問のCで出題されている「ディスカッションもどき」問題を取り上げておきましょう。

この出題そのものは比較的古くから出題されていますが、この出題に関しては、このブログでも随分しつこく「ダメ出し」をしてきました。

まずは、この出題に初めて言及した11年前。

http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20071121
センター試験の「議論の司会者が要約する」読解問題と同じ視点で分析できるから、そのつもりで。もっとも、センター試験の出題では、なぜディスカッションなのに、リスニングでやらずに読解問題でやっているのか?

そして、6年前。

http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20120116
まず、登場人物は4人だけれど、設問が3カ所しかないので、通常は持論を展開するのは3人。司会者がいた場合に、「議題」を整理し、参加者には何が求められているか、というセッティングをするためには、議論の冒頭で5,6行分くらいの英語をつらつらと喋る必要があるかもしれないので、そこは目をつぶる。
議題が明確になったところで、参加者が意見を述べるとして、通常は、

  • 賛成
  • 反対
  • 条件付きで賛成
  • 条件付きで反対
  • 態度保留

くらいのスタンスが考えられる。最後の態度保留は、まとめたり言い換えたりするのが難しいから、稀。議題の条件設定の根底からひっくり返す「そもそも」論はまずない。とすれば、だいたい、上記の4つ目までがどのように出てくるか注意して読んで行けばよい。
ところが、センター試験ではいきなり、長文で意見をぶち上げる人が出てくるので、心の準備を。
演説じゃないのだから、自分の意見を切り出したり、質問したり、という「自然な」議論のオープニングでは、一人が5,6行分、50語とか80語とかもまくし立てることはまずない。そんなに長いこと喋られても、最初に何を言っていたか忘れてしまうこともあるので、必ず、発言内容の確認で綱引き、キャッチボールが必要になる。発言内容をまとめる際に、

  • こういう理解でOKか?

というやりとりがある。しかも通常は、このやりとり一回でお互いの摺り合わせが終わることは稀。
Aさんの意見に、Bさんが同意したとしても、それ以外の人がどう感じているのかは、聞いてみないとわからない。そこが、司会者の役割。でも、たいていの場合、「言い換え」たり、「要約」したりしたあと、そのオリジナルの発言をした人は、それに「同意する」形で、きわめて都合良く議論は進んでいく。

  • いや、そうは言っていない。私の意図は△△。

という綱引きの末、

  • ああ、なるほどね。私は○○というところだけを考えてしまったわけだ。××という条件を踏まえれば、△△という結論になるね。

などという落ち着き先をみることはセンター試験では稀。
最初に確認した、4つのスタンスは明確だけれど、自分の意見に対するまとめやコメントに対して、反論したり、修正を求めたりはしない。
という、「センターならでは」のお約束に慣れておかないと、英語の運用力があればあるほど、不自然さが鼻について解答に集中できなくなる。

それ以外にも、何回か取り上げていますが、現在のセンター試験では、

  • リスニングでも意見を交わして、議論する出題がなされるようになった。
  • 筆記では、議論の登場人物が倍増した。

という特筆すべき変化が起こりました。歓迎すべきことではあるでしょう。
その登場人物倍増で話題となった、2017年の本試験に続く、2017年追試験では、さらなる形式の変化が見られました。

  • 発言者本人による要約

です。
不要文選択に比べると、全体の英文量が多いので、英文全体に関しては、DNCが提供しているファイルか、私の手書きノートのコピーをご参照下さい。

DNC過去問 (2017年追試・筆記・問題のみ)
https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00009649.pdf&n=%E7%AD%86%E8%A8%98.pdf

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「アメリカの大学の授業でのやりとり」という設定ですが、私はBecker教授のこの発言にまず引っかかりました。この点について、受験界隈での解説ではどのように扱われているのでしょうか?予備校の中の人とか出版社の中の人とか、もっと突っ込んでDNCの中の人、分かる範囲で教えて下さい。

This is our first class since you all finished your eight-week-long farm work experiences throughout Washington State.

「農場での体験実習」の期間が8週間。約2ヶ月です。常識的に考えると、農場での主たる活動は春から秋でしょうから、その間の2ヶ月を大学を離れて過ごしやすい時期となれば、年度 (= school year) の合間である、7月、8月ではないかと思うのです。でも、そうすると、学年が上がるのに、同じ授業が続くことになります。どういう大学、学部、専攻の教授&学生なのでしょうか?

体験報告の口火を切るのは Melanie。

I was interested in traditional farming, and I thought many of the methods might be very useful in modern commercial farming, too. So, I chose a farm that adopted ways of farming once used in the region.

ここでのキーワードは、traditional(昔ながらの)とmodern(今、現代の)、methodsとwaysですが、そこがキーワードだとわかるのは、ここまでが読めているからです。
基準時制は過去形ですが、 and I thought の内容と、tooの意味のつながりを実感するのは結構大変です。

  • 私は昔ながらの農業に興味があり、多くの伝統的手法は現代の商業的農業にも同様に、とても役に立つかも知れないと思っていました。それで、私は、かつてこの地域で用いられていた手法をいろいろ採用しているある農場を選んだのです。

という日本語訳を読んで、何と何がどのように「同様」なのか?が一読了解な高校生は少ないのではないかと思います。
ここで読み取るべきは、「伝統農法と現代農法の二者択一ではない」ということですが、それでも、tooでの論理はどうなっているのか、悩むことでしょう。

何しろ、 “… and I thought … might …, too.” ですから。
せっかく主張、意見を述べるところなのに、その中身で、「そうかもしれないし、そうではないかもしれない」という助動詞の mayやmightを使っている場合には、その話しは、「話半分」で聞いておかないといけません。時制の一致で、that節中の may がスライドしてmight になっている場合でも同じことです。これが、持論の支持、理由付けのところにmay / mightが来ていたりすると、もう目も当てられません。
文法問題や語法問題では、ドヤ顔で助動詞mayの解説をする講師も、読解問題や、ライティングの問題の解説では、あまり的確に捌いてくれないことが多いんですよね。

本題に戻って、ここで並列されるべき内容は、

  • A: 伝統的手法は、伝統農業で役に立つ(立ってきた) (=常識;歴史)
  • B: 伝統的手法は、現代農業で役に立つ(かもしれない) (=仮説;可能性)

ということでしょうが、Aの内容は直接書かれていないのです。

それに続いて、自分の仮説を確かめるべく、実習先を選択したことが述べられます。

  • a farm that adopted ways of farming once used in the region

での、関係代名詞thatでの後置修飾の中の usedという –ed/en形による後置修飾を適切に読めるかどうか。
関係代名詞 that の後の、adopted は過去形ですが、これは「採用していた」という、実習時よりも上流に遡るのではなく、メインの動詞のchoseが過去形であり、それに合わせて過去形を使っていると考えるべきでしょう。「その時点で、伝統的手法を “採用している” 農場を “選んだ“」ということです。
さらには、“ways” の無冠詞複数形と、 in the region の捉え方にも注意が必要です。ここは、具体的に例を挙げてくれると嬉しいところだなぁ、と思ったら、次の文では、現在時制で、この農場のポリシーのようなものが語られます。理解の助けになるといいですね。繰り返しますが、ここから現在時制です。

The workers there don’t use any artificial chemicals. They plant various crops together in a field, rather than planting only one.

「その農場で働く人たちは化学合成肥料などを一切使わない。一つの畑にひとつの穀物だけを植えるのではなく、多様な穀物を同時に植える。」
“any” は「ゼロでなければ何でもアリ」ですから、その否定の “not any” で残るのは「ゼロ」だけ。 A rather than B では、Bは却下でAを選択でした。
この文の基準時制が現在時制ですから、「昔の話ではなくて、今、こういう手法を使っている」という、”ways of farming once used in the region” をリアルに感じさせる効果がありますね。

  • かつてこの地域では使われていたけれども、今ではやらなくなってしまった農法のいくつかを、この農場では今(も)使っている。

という理解が求められるところです。

その農場のポリシーの背景は?と思って先を読んでも、明示はされません。

I didn’t really know planting multiple crops would help prevent plant diseases, decrease the number of harmful insects, and maintain the quality of the soil.

Melanieにはよく分かっていなかった内容として、「同じ畑に複数の穀物を一緒に植える」ことの効果・目論見が述べられています。
know に続く目的語は、本来ことがらを表すワニ (= that節)ですが、ここではthatは使われていません。問題は、ワニの腸内環境の整備です。

  • A would help B 「AはBにきっと役立つだろう」

で、Aに planting multiple crops ということがらのワニ(=動名詞)、Bの help には動詞の原形が続いていますから、「…するのに役立つ」という意味になります。
ここまでをまず確認です。

  • 「複数の穀物を植えることが、きっと…するのに役立つだろう」

では、何をすることに役立つのか?という並列・列挙を一つ一つナンバリングでもしながら確かめます。

  • 1. plant diseases
  • 2. decrease the number of harmful insects

and

  • 3. maintain the quality of the soil

1. でdiseaseは疾病や症状の軽重には差こそあれ、明らかにマイナス評価の名詞です。
2. でinsectsには、善玉もいれば悪玉もいます(し、どちらでもないものもいます)から、この名詞に harmfulとつくことで「害虫」であることが分かります。
3. maintain=維持する、the quality of the soil = その(畑;農場の)土壌の質、ですから「その土壌の質を維持する」という日本語約は容易いでしょうが、では、「土壌(の質)を維持する」とは、どういうことでしょうか?私の授業では、折りに触れ「反意語を援用した語義の理解」を求めていますが、ここでは、「土地の質を維持できないと、どう変化するのか?」という内容を考えてから、それをひっくり返せばいいでしょう。まず、すぐ思いつくのが「劣化」でしょう。では、どのような状態を「劣化」とみなすのか?

  • 土地が痩せて、栄養分が(足り)なくなる。作物が、以前よりも実をつけなくなる。

などということでしょう。ですから、それをひっくり返して、

  • 土地がやせ細らないようにする = 土壌の質を維持する

とメモして、先に進みます。

最初の高いハードルが来ました。

At the same time, I was surprised that workers on this small farm were using very modern technology. For example, …. In short, ….

“at the same time” は「それと同時に;その一方で」という並列や対照を示すときに用いられるつなぎのどどいつ表現です。World Book Dictionaryの定義を引くと、

  • while saying this; however; nevertheless

となっています。

ここでは、“I was surprised ….” と言っているので、これよりも前に、何かに対して “surprised” だったと言えるような内容があったかを確認しておくことが大事でしょう。

「昔ながらの農法に、様々な効果があるとはあまりよくは知らなかった」というところで、少なからず驚いていてくれないと、この “at the same time” が活きてきませんね。ただ、この前までの「農場・農法」の記述はエピソードでありながら、現在時制を用いて書かれていて、この "didn't really know" から、また過去形に移っているので、分かりにくかったのではないかと心配します。

驚いた理由・原因としては、“workers on this small farm were using very modern technology” 「この小さな農場で働く人たちは、すごく今風の技術を使っていました」とあります。
英語の流儀は、generalな情報提示からspecificな例証へですから、このあとに具体的な体験談で詳述されるはずです。

では、For exampleに続く具体例、と最後の自分語りでの要約へ進みましょう。

  • they used computers to decide when to supply water to their fields.

「彼らは、コンピューターを使って、いつ畑に水を与えるのかを決めていた。」

ここでの3つの toの違いは大丈夫ですね?私の手書きノートの記号付けを写真で確認して下さい。

最初の to decideは、どうして?という「どどいつ」で目的を表す to 原形 (= 不定詞)。
二つ目の to supply も不定詞ですが、ここは、wh- + to 原形でワニ(=名詞句)。ワニの腸内環境で、何に、どこにsupplyするのか、を表す前置詞+名詞で to their fields となっています。

ここまでの、Melanieの体験談を before / afterで整理すると、

  • 実習前のMelanie本人の目論見 = 伝統農法を現代農法に活かしてがっちり!
  • 実際の農場体験実習での驚き = 伝統農法だけじゃなく現代のテクノロジーも活用

とでもなるでしょうから、 “In short, these farmers were ….” での要約は、
(they were)

  • 1. integrating older and newer farming techniques

「旧新の技法を統合している;古い手法と新しい技術を一緒に使っていた」

を読んだ瞬間に正解だと判断できると思います。 確認のために、これ以降の選択肢も読んでおきましょう。

  • 2. spraying artificial chemicals according to the schedule

「決められた予定に応じて化学合成物質を散布していた」
体験談冒頭の “they don’t use any …” に矛盾。

  • 3. updating and developing advanced computer software

「先進のコンピューターソフトの更新と開発をしていた」
「コンピュータを活用している」記述はありましたが、このようなコンピュータの開発そのものへの言及はありません。

  • 4. using insects to protect crops from harmful diseases

「害のある病気から穀物を守るために、昆虫を使っていた」
「害虫から穀物を守る」ことへの言及はありましたが、それとて、「効果のほどは知らなかった」という感想でした。さらには、いくらダミーの選択肢を作るとはいえ、 “harmful diseases” って、いう名詞の形容が果てしなくセンスがない。 “disease” とか “damage” というものは、そもそもマイナスの評価を表すことばでしょうに。 “harmful influence” とか “harmful effect” というならまだわかりますよ。「ホントにもう!」って感じです。

ということで、Melanieの発言は終わり。
このようにMelanieの一人がたり&要約による、最初の農場実習体験談発表の締めくくりを受けての、Becker教授の反応があまりにそっけないので、この二人の人間関係がちょっと心配になります。

Thank you, Melanie. That’s interesting. Who’d like to speak next? Eric?

同じような感想がいくつも続いた、とかではないんですよ。
Becker教授が「体験談をいくつか皆でシェアしようね」というから、Melanieが口火を切って発言してくれたというのに、Melanieの体験談を受けて、その体験した内容とか教訓とかの異同を他の誰かに振るとか、司会役としての何の芸も配慮もなく、「では次に喋りたい人?エリックは?」ですからね。

でも、まあ、私が一貫して「もどき」と読んでいるのは、こういう部分があるからこそなのでね。その「もどき」という意味では、クオリティは満たされていますね。


ここまででも、A4で7ページくらい書いていますので、今日はこの辺りで終わりにしようと思います。
もう一度、Melanieの発言に戻って、読み直しをして復習するのもいいでしょう。
助動詞の mightの「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」という可能性の表現を「意見の表明や持論の裏付けに使う危うさ」に関しては、確実に復習しておいて欲しいと思います。

だって、考えても見て下さい(= after all)、

  • このディスカッションもどきの解説の続きは、日を改めて書くかも知れないし、書かないかも知れません

とあったときに、読み手はその続きを期待して待ち続けますか?

ということで、この続きは書くかも知れないし書かないかも知れませんので、冒頭に貼った画像ファイルだけでもご確認下さいますようお願いします。

高校の新学習指導要領では、「論理・表現」などという科目が新設されるそうですが、今日のエントリーで私が述べたようなことは、どの程度扱われるんでしょうか?

本日のBGM: 誰も気にしちゃいない(佐野元春)