「本当に欲しいもの」

某局の語学番組の「基礎英語 1」は、新年度も田中敦英先生が続投です。

一昨年は、四線の間隔が真ん中が広いもの(私は「ファットミドル」と読んでいますが)になり、昨年は、手書きに近いSassoon系のフォントを採用し、新年度はBetween 3フォントの採用が決まりました。
こうして、年々「文字」の扱いが改善されているのは、とっても喜ばしいことです。
田中先生の英断に拍手!

それに対して、残念というか、私が危惧した通りになっているのは、新講座「基礎英語 0」での文字の扱い。「基礎英語 1」より下位のレベルを扱う、小学校英語の教科化とその先取り実施を見越したプログラムのはずなのですが、せっかく手書きに近いフォントをテキストの本文で使っているのに、ドリル練習になった途端に、均等四線でBall&Stick体とは…。

ということで、これまで何度も何度も何度も、このブログで示してきましたし、昨年の7月の大阪、11月の広島、と公開の場での発表、セミナーもしてきましたが、最近の知見も含めて、少し文字・フォントに関する情報を提供しますので、まずは「知ること」から始めてみて下さい。

補助線のある有料フォントセットの例

私は手島良先生に影響され、かれこれ20年近く、Sassoon系のフォントを使ってきていますが、文字の手書き (handwriting) 指導をする際に、補助線を一緒に出すことがままあります。

上から順に、

  • Sassoon Infant Line Regular
  • Sassoon Infant Standard
  • Sassoon Infant Tracker B
  • Sassoon Infant Dotted B
  • Sassoon Write Line ENG

となっています。
・フリーでダウンロードできる手書きに近いregular/standardフォントもありますが、補助線付きとなると有料です。
・fonts.comなど大手のフォント販売サイトで現在も販売しているかは各自でご確認下さいますようお願いします。

・サスーン系でつけられるのは「基線のみ」です。サスーン系は基線での落ち着き先が決まれば個々の文字のバランス、プロポーションが整いやすいデザインになっています。
・Infant 以外にもWrite やSans USなど教育的フォントで補助線がつけられるものがあります。(個人的には Sans USという妥協の産物を余り評価していませんので、私はline版のフォントは購入していません。)
・Writeは同じポイント数で入力しても、かなり小さめに表示されるので、和文との混交文書だと注意が必要かもしれません。特に、「行間のオプション」で「固定値」を設定する場合、ディセンダー(お猿さんの垂れ下がった尻尾の様な部分)が消えていないか必ず確認してください。


アイスランドでは、かれこれ四半世紀以上の歴史を持つ、Briem Script のシリーズでは、このHandwriting Italicで四線が一緒に出ます。

・最大の問題は「今、どこで入手できるのか?」です。私は恐らく十数年前に購入したものを使っているのだと思いますが、そのサイトでは既に扱っていませんでした。
・Briem はItalic が基本で、Capital line を設定してデザインされているフォントですので、大文字の頭の高さよりも、小文字のアセンダーの先端の方が高いバランス、プロポーションになっています。だから、大文字の I がセリフじゃなくても視認性が保たれているわけです。
・ジグザグの形状をもとにデザインされ、「慣れて後にそこから巣立つ」練習用/矯正用のフォントです。習熟してもなお、この形にこだわって書き続けるものではありません。欧文フォントに慣れ親しんだ文化圏でも好みが分かれるであろうフォントですが、とりわけ日本では好意的に受け入れられているという印象がないのがとても残念です。もっと活用・普及していいだろうに、というのが正直な感想です。
・表示にはItalicとありますが、BriemのもともとがItalicの手書き練習用フォントなので、一般のフォントをイタリックにしたほどには傾かないので安心してください。一般のフォントで、イタリックにするとどのくらい傾くかは、豪州のタスマニア学校区のフォントでのレギュラー対イタリック、Sassoonが入手できない場合の候補として考えられるフリーフォント、Imprimaでのレギュラー対イタリックでご確認下さい。


Ball & Stick体との訣別を!

私が使っている、手書きに近いフォントのサンプルを示しておきます。
(有料のものもあれば、無料のものもあります)

1. Sassoon Primary (regular/standard)
2. Sassoon Infant
3. Sassoon Sans US
4. Ruluko
5. Imprima
6. Andika New Basic
7. Between 3
8. Flora ICG
9. Segoe UI (Italic)
10. Tasmania Tight Text GT
11. Sassoon Write Line Eng Regular
12. Briem Handwriting (Italic)

比較の観点

どこに着目してフォントを比較するか?選択の際の優先順位は人夫々でしょうが、私は、おおまかな目安として

□ アセンダー、xハイト、ディセンダーの比率
□ nmhruy の来た道を戻る際の分岐点(branching point)
□ adgqとbpのカウンターの形状と分岐点(adのexitストロークの有無&形状)
□ 小文字のijlと大文字のIの高さとexitストロークの有無&形状
□ fとtのダウンストローク〔長さと形状)
□ 小文字のyとv
□ 小文字のyとgのダウンストロークの長さと形状
□ 小文字のkと大文字のK
□ MNWの平行線と山と谷
□ BRPEFHの一階と二階の高さ
□ RKの肩幅と歩幅
□ OとQとSの身幅
□ 算用数字と混交になった場合の識別の容易さ

を考えています。


3 or 1?
「基礎英語」で注目を浴びることとなった、Between 3 ですが、小林章さんのBetweenファミリーには1-3まであり、3が一番手書き風です。
「基礎英語 I」のフォントは日本の学習環境に配慮したのか大文字の I にはセリフ(上と下の短い横棒つき)で、小文字のyはディセンダーが直線のまま終わるものにしているようです。こちらのフォント見本と比較してみて下さい。

2018/03/18追記


たかがフォント、されどフォント。
ホントに大事なんですよ。

本日のBGM: 99 blues (佐野元春)
2018/03/18 追記:
既に書店では、新年度号が並んでいるかとは思いますが、

『実践障害児教育』2018年3月号(学研プラス)
連載【英語のつまずきポイントと子どもにつまずかせないユニバーサル指導】
しっかり取り組もう! アルファベット(2) 
村上加代子/松井孝志

で、村上先生の連載に寄稿しました。
見開き2ページですが、入門期、再入門期の指導に関わる多くの「必須」の知識を整理して盛り込みました。特別支援関係だけでなく、小学校の先生だけでなく、中学校や高校の英語の先生、そして教員養成に関わっている大学人にも読んで頂きご意見をお聞きしたいです。
オンライン書店での取り寄せ、電子書籍版での購入など、入手は可能だと思いますので、よろしくご検討下さい。

実践障害児教育 2018年3月号 [雑誌]

実践障害児教育 2018年3月号 [雑誌]