入り口と出口と

前回告知した、2月の広島大学で行われる「セミナー」ではお題とテクストというライティングの根本に立ち返ることを考えています。「テスト」を離れてライティング課題は成立するか、という問い直しでもあります。大学入試の出題に関しては拙ブログでしつこく取り上げ、指摘、批評、批判してきました。高校入試の出題も幾つかは取り上げています。

  • 「お題とテクスト」ってどういうこと?

と思う方が多いかもしれません。
例えば、こちらの千葉県の公立高校入試の出題。
http://www.tokyo-np.co.jp/k-shiken/15/cba/cba1/cba-en/en_5.html
過去ログでは、ここで取り上げ批判していますので、もしセミナーに参加しようという方は、面倒でも目を通しておいてください。

Is silence golden?
http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20150214

その前年の出題はこちら。
http://www.tokyo-np.co.jp/k-shiken/14/cba/cba1/cba-en/en_5.html
拙ブログでは、 http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20140305 で取り上げています。 このエントリーは、Wait your turn というタイトルの英語表現の適否を気にして検索している人が多かったようですが、今では(でも?)適切な英語表現ですから。本題の方を是非お読みください。


埼玉県の2017年の出題がこちら。嗚呼…。
http://www.tokyo-np.co.jp/k-shiken/17/stm/stm-en/en_14.html
Which do you like to do in your free time, stay at home or go out?
この文が英語の文法語法として自然かどうか今は不問としておくが、free time がいつ、どのくらいあるのかによって、答えは変わるだろうとは思わないらしい。
この前の設問がALTや留学生を交えた「休日の過ごし方の文化間比較」とでもいう対話文や読解問題なら、そことの関連で答えようもあるだろうけれど、「24時間の自由時間があったら?」「48時間では?」「一週間では?」と異なるお題を立てて、自分の最初の問を揺すぶって初めて、落とし所が見えるもの。
埼玉県の2016年はもっと悩ましい。 http://www.tokyo-np.co.jp/k-shiken/16/stm/stm-en/en_12.html
問いは、 Which month do you like the best? しかも、その「理由」を書かなければならないらしい。 何が問題か、なかなか理解してもらえませんが、拙ブログのこのエントリーの最後の方と、「本日のBGM」を是非。

好きこそ、もののあはれ
http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20141030

東京都は近年、高校入試の一連の設問の中で、ライティングをさせる形式。 2015年のこの出題での途中の「地図」の問題は、見ようによっては、神戸大の2016年の出題に似ている。 http://www.tokyo-np.co.jp/k-shiken/15/tokyo/tko/tko-en/en_5.html
拙ブログでは次のエントリーで神戸大の出題を取り上げています(冒頭の写真と最後の本文)。

Scary Monsters (and Super Chickens)
http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20160228

東京都の高校入試問題2015年の地図がこちら。
http://www.tokyo-np.co.jp/k-shiken/15/tokyo/tko/tko-en/en_6.html


大学入試のお題に話を戻すと、一橋大の2017年の3番も悩ましい。

Your friend always stays at home alone, watching television or playing games. She/he never goes outside to do anything or meet anyone, so you are worried about her/him. Write your friend a letter advising her/him about what she/he should do.

このお題を、埼玉県公立高校入試の Which do you like to do in your free time, stay at home or go out? と合わせ鏡で吟味するのも面白いけど、まずは、このような「シナリオベース」のお題の「もっともらしさ設定」の是非、適否を考えましょう。これは、何も日本のライティングテストだけの問題ではないから。
この年の一橋大は恒例の「三題から一題選択」の選択肢でお題設定。ただ、その選択肢で「誰に対して書く手紙なのか?」のバランスには「?」。

選択肢の1は三年おつきあいしている彼氏/彼女。2は自分の利用した航空会社の社長。3は引きこもり(?)の友人。フォーマル/インフォーマルの差がかなりある。
さらに、今問題視している3番の「友人」はいつからの友人で、いつから引きこもっているのか?letter というが、TVとゲームばかりやっている引きこもりの友人に郵便は読んでもらえるのか?e-mail にするのか?ゲームはスマホなのか?ネットには接続しているのか?「いつも家にいてTV見てゲームして、外出して何もせず人とも会わない」という状況を私はいったいどのような手段で把握しているのか?などという疑問が続出する。

昨夏の大阪の英授研だったか、根岸雅史先生にもお尋ねした際に根岸さんは「嫌いじゃないですよ」と回答してくれたのだが、「もっともらしい状況設定を工夫する」ことが「現実に照らして矛盾だらけの状況設定」だったり、「嘘をごまかすためにさらなる嘘をつく」ことになっては本末転倒だろう。

この前年の一橋大の出題は(恐らく一部で話題となったであろう)全て、写真と絵が与えられた三択。しかもお題の指示文 (write ... about) を読む限り、「描写」や「物語」とは限らないので更に悩ましい。 拙ブログではこちらで詳述。

Witness
http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20160305

ところで、この本に目を通したことがある英語教員ってどのくらいいますかね?

Beyond the Five-Paragraph Essay Kimberly Hill Campbell http://www.amazon.co.jp/dp/1571108521/ref=cm_sw_r_tw_dp_288Ctb1DJ51XH

刊行から5年以上経つのですが、大修館の『英語教育』でどなたかが書評で扱ったことがあったでしょうか?

「テクスト」という部分に関しても、相変わらず、5項目構成のテンプレートで「意見文」を書かせる指導が広く見られますが、これって、Five-paragraph essays 指導の歪んだ移入の「成果」だと思いますよ。Five-Paragraph Essay と言えば、聞こえはいいですけれど、巷で目にする中高生向けの指導って、5パラに相当する300語以上の分量を確保してないでしょ?60 語で理由二つ以上じゃ、「理由付け」や「論証」が深まるわけがないもの。
「主体的で深い思考」とかどこの世界の話?ってことですよ。
そう考えたら(限定条件ね)、2017 年の神戸大の最後の「お題」は要再考です。 拙ブログではここで取り上げています。

制服の胸のボタンを、下級生たちに…
http://tmrowing.hatenablog.com/entry/20170302

なぜ、60語程度の英文にそこまで求め(ら)るのかな?
Five-Paragraph Essayに関しては、上述の本に書いてあるこの問いかけが雄弁。

Love it or hate it, the five-paragraph essay is perhaps the most frequently taught form of writing in classrooms of yesterday and today. But have you ever actually seen five-paragraph essays outside of school walls? Have you ever found it in business writing, journalism, nonfiction, or any other genres that exist in the real world?

理由付けを複数想定しておくことは、反論に対応するためには確かに有益ですよ。
でも、字数制限で、60語とか80語とかの制約がある中では、スケルトンみたいに、理由を列挙してその後は何も言わないという無責任なことはしないで、最も強力な理由一つに絞って「言い切る」のが「説得」とか「論証」ということなのでは?
ということで、私は「(受験界隈でよく言われる)自由英作文」にあたっては、60 語〜80語とかまでしか採点する余裕がないなら、 貧弱なお題設定で「意見文」を書かせるのではなく、紋切り型でいいので、たとえば、「賛成」、「反対」、「どちらとも言えない」の3つの和文英訳を用意しておけば十分だと主張し続けているのです。

別に意見文じゃなくてもいいんですよ。英語力にも、ライティング力にもいろいろあるのだから。
予備校が余り重視していない「お茶の水女子大」では十年以上もうずっと日本語の文章を与えて、英語で「説明」を課す出題ですよ。潔し。2017 年は、この新聞の投書をもとにした出題でした。

女の気持ち:バイリンガル 千葉県印西市・川崎ちえ(主婦・66歳) - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20160725/ddm/013/070/053000c

出題に当たって投書の第3段落を一部カットして改変しているけれど、趣旨は伝わるでしょう。設問は次の二つ。

設問1 筆者は初め、孫について何を疑問に思い、どのような心配をしていましたか。英語で説明しなさい。
設問2 筆者がこの先楽しみにしていることは何か、英語で説明しなさい。

これで十分では?技能統合を謳うなら東京外国語大学の英語のレクチャーの聴解を課して、要約と意見論述を求める出題に、主題を踏まえて情報の大きな欠落や不足なく英文が書けるか、を診たいのなら、お茶の水女子大の日本語→英語で説明という出題に学んでは?というのも、近年主張し続けていることです。

高大接続での「外部試験」で「ライティング」が注目されるのは、良いことなのかもしれませんが、今まで以上に、テスト対策の「ギミック」ばかりが蔓延するのは勘弁して欲しいですね。
英語教育は「ことば」の教育のはずですから。大掛かりなテストに依存しなくたって、教室で「学び」は成立するはずなんですよ。

本日のBGM: More Than I Can Say (細野晴臣)