Give credit where credit is due.

「もしも」の話、ではなく、模試、模擬試験の話です。

学校によっては1週遅れで実施するところもあるかもしれませんので、閉じられたSNSでだけ、反応を伺い、拡散やシェアはせずにいましたが、この度、回答が寄せられ、さらに、ブログでの公開も了承いただきましたので、こちらで公開します。

ベネッセコーポレーションの「進研模試」、高1の1月実施回での、いわゆる「長文読解」の素材文で「?」となったので、解説冊子にあった出典を調べて比べてみました。

で、原文を一読して愕然。
私の頭の中に浮かんだのは、以下のようなもの。

原文は1300語以上ある文章で、語彙も表現・修辞も、高1では歯が立たないものが多いかと思います。

取り上げられる探検家など、日本人に馴染みのない人物をカットするのは、ありかもしれません。

主題をきちんと追えるようにと、長さを縮めるために、カットしたり、難しい表現を優しい語句で言い換えるとか、そういうのは教育的配慮でわからなくもないですが、原文にないSteve Jobsなどの内容を書き加えていいものなのでしょうか?

模試出題

模試出典情報

オリジナル雑誌we版

オリジナルテキスト変換版

pdfにまとめたもの。ダウンロード可。
Failure Is an Option.pdf 直

ベネッセへは次のように、お問い合わせページから書き込み送信し、併せて電話をかけました。

2016年度進研模試高1の1月実施分、英語での出題に関するお尋ねです。
第6問は所謂長文読解なのですが、素材文の出典には、Hannah Bloch という米国のベテランジャーナリストが2013年9月のNational Geographic Magazineに寄せた記事、Famous Failures とありますが、こちらのサイトを見ますと、タイトルは、Failure is an option: Where would we be without it? とあり、その記事全体の見出しに Famous Failures が使われているようでした。

http://ngm.nationalgeographic.com/2013/09/famous-failures/bloch-text

お尋ねしたいことはここから後です。
このサイトの原文には第6問の素材文の第5段落で用いられているエピソードのSteve Jobs も Apple Newton も一切出て来ません。

質問1:これは、出典にない内容を問題作成者が書き加えたということでしょうか、それとも、web版ではなく、Hannah Bloch が雑誌として発表された版には、その件が書かれているのでしょうか?
質問2:質問1で、出典にない内容を書き加えたものであるならば、それは、著者のHannah Bloch に改編の許諾を得ているのでしょうか?
質問3:もし、質問2の解答がNo だとするならば、著作者人格権のうち、同一性保持権の著しい侵害ではないかと思われますが、いかがでしょうか?

以上、それぞれの質問に対しての、「進研模試」としての責任ある回答をお願い致します。

その後、編集部から電話があり、ことの経緯をお知らせいただきました。
なんと、ナショナル・ジオグラフィック・マガジンの記事を、進研模試出題者(問題作成者、ライター)が書き換えたのではなく、センゲージラーニングがナショナル・ジオグラフィック社とコラボして出している「英語教材」の英文素材をまるごと使って、その語彙を高1向けに易しく書き換えて使っていたのだそうです。市販教材からの使用許諾を得ていて、その際は著作権者側から指示されるクレジットを表記すればいい、ということで著作権上は問題はないとのこと。

Reading Explorer 3
http://ngl.cengage.com/search/productOverview.do?N=4294918503+200+4294891625&Ntk=P_EPI&Ntt=143914416812210029957443461732120208358&Ntx=mode%2Bmatchallpartial

ということで、Steve Jobs の件も、模試作成の段階ではなく、その前のセンゲージの教材作成の際に加筆され、全体もかなり平易に書き換えられていると推察されます。
ただ、著作者人格権と同一性保持権の問題意識は進研模試の編集部にも再度喚起しておきました。

その翌日、ベネッセの編集部より寄せられた回答メールを、許可を得て、そのまま転載します。
英語の編集長という肩書の方からです。
以下、転載。

時下,益々ご健勝のことと存じます。平素より弊社教材には格別のご高配を賜りまして,厚く御礼申し上げます。
先日お問い合わせいただきました進研模試1年1月の長文読解の英文素材の件につきましては
ご指導いただきまして誠にありがとうございます。
Reading Explorer3(2015)における英文の添付とともに
昨日,口頭でお伝えしたことをメールにてお送りいたします。

■英文素材について,許諾の経緯
進研模試(1年1月)第6問の英文に関してはNational Geographic LearningとCengage Learningが共同で出版しているReading Explorer3(2015)の英文を基にしております。著作物の利用に関しては,まず,本書籍の著作物に関する問い合わせ先として指定されていたCengage Learningに照会をしております。その際に,該当の記事に関する権利はNational Geographic Magazineにあるという連絡がきたため,著作物の利用に関してはNational Geographic Magazineに許諾を取っております。さらに,出典表記(クレジット)に関しては,National Geographic Magazineが指定したものを,進研模試(1年1月)第6問の解説に記載しております。
※なお,Reading Explorer3に掲載されている記事はNational Geographic Magazine, September 2013に掲載された記事に追記・改編された形となっていますが,National Geographic側が追記・改編をしたのか,Cengage Learningが追記・改編し,それをNational Geographic Magazineが認めているのか,については定かではございません。

■ベネッセとして
出典表記(クレジット)に関しては,権利者が指定してきた場合はそれを掲載することが義務づけられておりますが,今回のケースでは,進研模試で参照した英文はReading Explorer3のものであると補足が必要であったと考えております。さらに,先生からご指摘がございました通り, Reading Explorer3の英文で加えられている具体例が唐突に付け加えられている印象があるにも関わらず,模試の素材選定の際にそれを見抜けておりませんでした。今回の事例を社内外のスタッフと共有し,素材選定にはより一層の配慮をしてまいりたいと思います。
改めまして,この度は進研模試の出題に関しまして
ご指導いただき,誠にありがとうございました。
今後とも何卒宜しくお願いいたします。

という次第です。
英語教育の現場を預かる身としては、「読む甲斐のある英文」で、英語力、英語の学力の有無、多寡を問うてほしいと願うばかりです。
もう一つは、かねてより力説していますが、教材であれ、テストであれ、「優秀なライター」を確保して、きちんとした対価を払って、英文を書いてもらう、という商習慣をこの英語教育の業界に定着させて欲しいということです。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Landslide (Musument w/野見山睦未)