”A Bond Born of Brotherhood”

tmrowing2017-01-02

2017年のスタートです。

年末は京都で旧交を温めて、心身共にリラックスできました。

2016年は、「全英連・山口大会」という、私としては極めて稀な、公的性格の強い催し物での分科会企画を引き受けたことで、体調も含め様々なところに歪みが出た一年でした。
肝心の「全英連」も、それに費やした時間やコストを考えると割に合わないものではありましたが、新たな出会いや収穫もあり、後悔はしていません。

ただ、「呟き」の方でもリアルタイムで連投していたように、二日間のプログラムでは、とてもプラスに評価できないものも幾つかありました。
初日の「祝辞」での、自説・持論の開陳でビデオを上映してしまう全能感溢れる文科省の方には呆れましたし、何の論理的整合性もないエピソードや比喩を映像と音楽でパッチワークよろしく繋いで、「感動するでしょ?」とでも言いたげな内容と構成の「基調講演」は正直、いたたまれませんでした。

でも、まあ、このような方々が「英語教育改革」の中心にいるのだなぁ、という「現実」を再認識出来たという意味では有難い機会だったのでしょう。

来年の新潟大会でも茶番が繰り広げられないことを祈っております。

今年は、自由に動き回りたいと思いますので、「研修会の講師」など、このブログの内容を読んだ上で、お役に立てることがあるようであれば、宜しくご検討下さい。私が話すこと、話せることの殆どは、既にこのブログに書いていますので、まずは過去ログをお読みになってからの話しです。

2016年最後のエントリーで「センター試験」にまつわるもろもろをまとめておいたのですが、残念ながらあまり読まれていないようです。

... because I have played them too
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20161228

他では読めないような内容、情報だと思いますので、是非一読を。
巷の「センター試験」の話って、「出題形式の変化」「平均点の上下」「素材文の総語数」「語法としての適否」位しか取り上げられませんから。英語という「ことば」のテストとしてどうなのか?どこかで本気で振り返ってみないと。ということで「総力特集 センター試験とは何だったのか」への伏線ですので、よろしくお願いします。


さて、年末の宿題を片づけておきましょう。
2016年12月23日付けのエントリーで示した4つの「英文」の種明かしです。詳しくはこちらの過去ログを再読されたし。

Did you see the light?
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20161223

a. はスピーキングの基礎力を見ることになっていると推測される「音読」の素材文。
b.とc. はどちらもリスニングによる「概要把握」の出題で用いられたスクリプトです。
d. はライティングのセクションで測る「技能統合」ということなのでしょう。「聞き取り要約」での素材文です。

2015年度の初回も、そして、2016年度の2回目でも、私以外に殆ど誰も指摘してこなかったことなので、何度でも私が言いますが、「聞き取り要約」が出来ないのは、技能統合をこの一題で済ませようという問題構成と設計に無理があることと、素材文自体の「話しが見えにくい」からなのではありませんか?

問題の構成、出題の形式を再度眺めてみると、
a. は音読の前に「黙読」が可能。つまり、読めるので楽です。
b.とc. は、リスニングのテストですから、当たり前ですが聞く段階では素材文を読むことはできません。しかしながら、設問は既に印刷されていて、選択肢も与えられているので、場面や人物の設定、名詞や動詞など、情報量の多い内容を推測するヒントとなる語句を読むことが可能です。
これら3問に対して、d の聞き取り要約だけが、「ノーヒント」で二回聞くことで概要を把握するだけでなく、内容を英語で保持し、要約することを求められています。これだけ、いきなり難し過ぎませんか?

確かに、前回EVPの分析結果を示したように、dだけ、他の英文よりも語彙レベルは低く押さえられています。ただ、語彙レベルが低ければ「技能統合」が可能なのか?ということです。
ここでは語彙レベルが低く抑えられているので、「○○レベルのリスニング力があれば、内容理解には何の問題もない」という弁別が出来るような「聞き取りの設問」が「聞くこと」のセクションにどれだけあったのか、そして、それが「ライティング」の得点とどのような相関があるかが検証されているのかどうか、現在公開されている資料からは全く解らないのです。

b.やc. のように「100語での聞くことによる内容理解」の語彙レベルがdの素材文よりも高いために、d. の聞き取り要約が出来なかった受験者が、「dと同じ語彙レベルで書かれた100語程度の英文」に基づく「聞くことによる内容理解」でどの程度正答が得られたのか、を併せて検証する必要がある。

というのが私の考えです。それを考えるためにも、問題は小問にいたるまで全て公表されてしかるべきです。

もっと突き詰めて言えば、「技能統合」で測定している技能の「下位技能」にあたるものを、単一技能の試験のそれぞれできちんと測定しておかないと、技能統合での失敗、不具合、機能不全が何によるものなのか、が全く分からないために、「対応」「対策」の施しようがない、ということになります。

ですから、以前、私が指摘したように、少なくとも「書くこと」のセクションでは、

1. 100語の英文の読み取りに基づく30語程度の要約課題

2. 50語の英文の聞き取りに基づく15語程度の要約課題

3. 4コマ漫画に基づくナラティブの描写課題

4. お題を与えての意見陳述課題

というように、複数の設問で段階的に「スキル」を問うべきだと思うのです。

技能統合にしても、「聞くこと」に基づくは内容の要約が出来ないものが、「読むこと」に基づく内容の要約ならできるかも知れないのですから。

ということを、なぜ「英語教育」の有識者たちも、現場の教員も2年にわたって指摘しないのか、本当にこの業界の危機的状態だと思っています。


「ヨンギノー」外部試験特需に浮かれる人たちからも歓迎されているのか、「英検」のライティングセクションに関わる、この情報がSNSで話題となっていました。

ライティングテストの採点に関する観点および注意点
(1級・準1級・2級)
https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/2016scoring_w_info.html

年末の12月27日に追加された資料です。

少し驚いたのは、「ライティングの指導に役に立ちます」という指導者と思しき人たちからの声がTLで散見されたこと。

この英検の資料では、「英検2級」を想定した解答例に基づき、「ダメ出し」がされているのですが、ここで指摘されていることの殆どは、私がかれこれ十年近く、巷の英語本や学参、問題集の解答例の不備として指摘し続けてきたことでもあります。

ようやく、「世間」がここまで来たのか、という溜息交じりの感想です。

こちらの過去ログなどを再読して下さい。

まだまだ改善されない「ライティング」解答例公表と過去問対策
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160224

本当に大切なことなら、それを「ことば」に
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160315

「英検」の話が出たついでに、再度この話をして終わりたいと思います。

「好きなもの、人、こと」について「理由」を論じさせる出題を止めて下さい。
好き嫌いの「感情」と「論理」とは整合性が低いのだから。
そもそも英語に限らず、「好きなもの、ひと、こと」について語るなら、「理由」を複数上げて、言いっ放しで終わるのではなく、如何に好きなのか、その主題を支持するのに一番ふさわしい個人的なエピソードなどを、的確なことばを用いて、読み手と共有できるように表現することを練習すべきでしょう。
関連する過去ログはこちら。

好きこそ、もののあはれ
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20141030

ということで、今年も「群れずに、連なれ」を心に実作に励みます。

本日のBGM: The Pact (The Divine Comedy)