なぜ Ball & Stick 体を使い続けるのか(その2)

最近は「自立した学習者」などという言葉を聞くと、「不易流行」という言葉を連想してしまいます。この写真は今から20年前の私の実践報告の抜粋。ここから数年間遡った実践を振り返ってまとめたものでした。最初の写真での「視座」の表明は今でもあまり変わらないかな。


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1997年の実践報告の2、3年前というと、当時何に影響されていたのかバレバレですね。

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これが出たのが1994年で、リチャード・スミスに勧められて読んでいたのでした。
ということで、「不易流行」なる言葉を反芻するわけです。


私は、読解系の教材研究ではノートに「手書き」をするので、ストレスが少ない筆記用具の存在は不可欠です。
10年ほど前に昔の「ペリカーノ」の鉄ニブを偶々入手し、万年筆の持つ癖と自分の持つ癖も分かってきて、新しいペンやインクも「いろいろ」試しているところです。

で、こちら。

  • Waterman Liaison Ebonite Orange

十数年の時を経て生まれ変わりました。
神戸の「ペン アンド メッセージ」の吉宗史博さんに「スタブ加工」(カリグラフィーで使うペンのように縦線が太め、横線が細めになるようにペン先を研ぐ加工)をしてもらいました。もともとはFニブ(細字)ですが、構造的にかなり「硬い」ので、なかなか思うように書けていませんでしたが、今回の加工で少し表情が出るようになったかな、という感じです。
これで、このリエゾンも普段使いのペンに復帰。喜ばしいことです。

さて、前回のエントリーに続いて、球&棒の第二弾。
今日は「手書き文字フォント」について考えてみます。

私の授業で用いる印刷媒体での基本フォントは和文は「ヒラギノ」か「メイリオ」。欧文は “Sassoon Primary Regular” となっています。(最近では、Between 3もよく使っています)

初学者や英語が苦手な学習者に配慮して、Ball & Stick体ではなく、「手書き風」のフォントを選んでいる英語の先生も多いとは思うのですが、その場合にComic Sans を選択していたりすると、ちょっと気になります。Sassoon Infant などのSassoon系のフォントと比べてもらうだけで、「風」の持つ意味を感じるのではないかと思います。


次期指導要領の先取り?先行実施?で、取り扱われるであろう小学校高学年での英語の文字指導。文科省が準備している新教材では四線の真ん中の間隔が広くなるらしい。ただ、間隔を1:1:1 ではなく1:2:1に近いくらいに拡げるという情報もあり、その「やり過ぎ」感に、ふと思いついたのでした。

1:2:1って音楽の五線譜の流用なのでは?まさか、真ん中の線を消しただけ、ってことはないですよ:ね?

私も四線を使って指導しますが、戦前から合理的配慮に基づいた指導をされていた先達に倣って4:5:4の四線で導入しています。
英国のネルソンのCopymasterの教則本だと3:4:3。マチェットが5:9:6くらいでしたかね。7:11:7という四線を薦めているものもあったはずです。でも、肝心なのは、「こういうプロポーションや字形じゃないとバツ」ではなく、個々の学習者に配慮したより適切な指導をするための工夫です。

現に、私の教室でも、高1の導入時には4:5:4ですが、2学期から5:9:6の四線も使っています。
5:9:6ってディセンダーの配分が絶妙ですよ。私がこれまで一緒に仕事をしてきた英語の先生の中で、「handwritingが綺麗だな」、と思った方たちの多くは、ディセンダーが長めでしたから、さもありなんという感じです。数字を足して20なのでエクセルでも作りやすいですし。

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まあ、ネルソンの3:4:3も足して10で切りの良い数字なので、再評価されてしかるべきですけど。

1:2:1というかなり大胆な四線の間隔は、ArialとかHelveticaなどの印刷体のフォントでのプロポーションを、そのまま手書きの四線に移行した、という可能性を指摘してくれた先生もいらっしゃいました。確かに、それもあるでしょうか。

というのも、先日紹介した、今年度オーストラリア&ニュージーランドで使われるようになった、Tight-Text が、まさに「活字」のプロポーションから四線の間隔を移したものだったからです。

情報はこちらに、実例の画像つきですのでご確認下さい。

Australian School Fonts
Tight-Text
http://www.australianschoolfonts.com.au/

このオーストラリア&ニュージーランドでの「フォント」の採択と使用に関しては、当然「当事者」にも悩みや疑問はあるわけです。サイトの中に、FAQのページがあり、様々な情報が整理されています。(http://www.australianschoolfonts.com.au/faqs/)その中からいくつかを紹介します。


I'm a parent. What regional font style do I buy?

This is a very reasonable question because, since the adoption of the Australian National Curriculum, there has been a move away from the previously strictly-enforced use of an "official" regional style for all schools across each State. Generally it is now the case that individual schools can teach any style they choose provided it is one that culminates naturally in fully cursive handwriting – these are called "Foundation" styles and include all of the current Australian modern cursive styles (NSW, VIC, QLD, SA, TAS) as well as the NZ Basic Script style, the UK Sassoon style and also the D'Nealian style widely taught in the US. Note that the old "Ball and Stick" style (widely used prior to the mid-1980s) is not a Foundation style. The move away from the statewide use of their traditional style has been most noticeable in WA – in WA some schools are still using the VIC style (the previous official style) but other schools are using the SA style and some are using the NSW style. No matter what Australian State you are in, before you purchase fonts for home use with your child it would be wise to check with your child's school to see which particular style they have decided to use.

この中の一文に注目します。

  • Note that the old "Ball and Stick" style (widely used prior to the mid-1980s) is not a Foundation style.

「球&棒は、もはや基礎書体ではない」と断言しています。


次はこちら。

Why don't you have Sassoon handwriting fonts?

The Sassoon fonts are a proprietary design whose registered trademark and copyrights are wholly owned by Dr Rosemary Sassoon & Adrian Williams Design Ltd in the UK. The only official and authorised source for Sassoon handwriting fonts globally is their official UK website www.sassoonfont.co.uk It's not entirely clear whether the use of the Sassoon fonts is approved under the current Australian National Curriculum handwriting guidelines. Certainly there is no question that the Sassoon font is a "foundation" style but as far as we are aware the National Curriculum recommends that schools should use one of the five current Australian foundation styles ie NSW Foundation, QLD Modern Cursive (QCursive), SA Modern Cursive, VIC Modern Cursive or TAS Modern Cursive. For what it's worth, most people seem to think that the SA font is the Australian style that overall most closely resembles Sassoon.

大人の事情が色々あるのかもしれませんが、最後の一文で、本当に大事なことは何なのか、分かるというものです。

豪州でさえ、「基礎書体」と認めつつ、大っぴらに「公式フォント」とするのに躊躇しているのに対して、日本では、高等学校の「英語表現 I」の教科書のメインのフォントで、Sassoon Primayが採用されています。もう一度いいます、高校の検定教科書ですよ。


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実際に、表現活動で「書く」ということへの苦手意識を持つ高校生が大多数で、語彙・構文への習熟が一層求められる時に、文字の読み書き、認識と産出での負荷を減らすという意味合いは極めて大きく、生徒同士お互いが書いた文字が読みやすい、という点で、「モデル」としての役割も果たしていると思います。書くことをきちんと捉えてシラバスと教材に位置付けている、数少ない優れた教科書の一つでしょう。著者陣の慧眼、編集部の英断に拍手をおくります。

で、採択はどうなんでしょうね?現場の先生方はこの教科書見たことありますか?中身までじっくり読んだことがありますか?もし、無いとしたら、いったい何を基準に「英語表現」の教科書を採択しているんでしょうかね?



文字指導に関連する領域で、村上加代子先生に教えていただいたこの本が、やっとのことで私の手元に。職場に届いていたのでした。一読して、これは、必読の文献だと確信。村上先生、ありがとうございます。

湯澤正通、湯澤美紀 著
日本語母語幼児における英語音声の知覚・発声と学習
(風間書房、2013年)

私の場合は、「ライティング」の指導から遡ってというか、降りていってという流れで「文字指導」に辿り着いた感じです。大学での師は竹林&吉沢で「(調音&実験)音声学」がメインだったので、そこから三十余年、文字指導での試行錯誤の中「音韻(論・意識)」に関しても学び直す機会を得ることができ、ラッキーだったと思っています。


自分の実作を少し記録に残して、本日は終わりたいと思います。
高3の読解の授業で、本日のBGMでも示した曲をちょっとだけ聴かせました。

1分57秒からの、

"I love you more each day."

で使われている比較級とeveryでの「積み重ね」「比例」「漸増」「累積」にスポットライトを当てるために、ホイットニー・ヒューストンの大ヒット曲 “I will always love you” をダシに使って。
どの程度、実感できたでしょうかね。

テキストの本文中ではこういう文で出てきました。

  • and they are using more water every year.

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次の段落のこの文の方が読み誤りやすいかな。

  • Nowadays there are about 1,000,000 more pumps being used every year.

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緩慢な行きつ戻りつを厭わずに、実作を続けるのみです。だって、「語学」って、自分のもう一つのことばを身につけようっていう大いなる旅なのですから。


本日のBGM: I love every little thing about you (Stevie Wonder)